そろそろこの「おじさんの眼」も大分息切れがしてきたのかな? もう12年以上もこのコラムを書き続けている。私も65歳になった。寄る年波はどんどん身体を退化させ無気力にさせるようだ。
それにしても、プラスワンを始めとした最近のロフトトーク部門のブッキングスケジュールは素晴らしく、まさしく日本のサブカル(今や、メインカルチャーとサブカルチャーの敷居はないのかも知れないが)表現空間の最前線を構築しているように見える。
新宿の片隅・富久町に、小さくまるで隠れ家のようにして出来た世界初めての「トークライブハウス」ロフトプラスワンは、その本拠を歌舞伎町に移し、この15年、拡大再生産されながらここまで来た。現在、ロフトトーク部門の3つの空間では月間100本以上の企画を組んでいるのだ。そしてこのトークの波は、日本全国に確実に波及しつつあるようだ。
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7月3日、プラスワンでの『ザ・コーヴ』上映&公開討論会。右から篠田博之(月刊『創』編集長)、安岡卓治(映画プロデューサー)、鈴木邦男(評論家)、綿井健陽(映像作家)。上映中止騒動を巡って、客席も交え賛成・反対両派の討論が行われた
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復活!! 「平野悠の好奇心・何でも聞いてやろう」の記念すべき第1回目「新左翼って何?」。出演は私の他、よねざわいずみ(共産趣味者)、塩見孝也(元赤軍派議長)、小西誠(元反戦自衛官)、深笛義也(ライター)
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酒が入ると「予定調和」でなくなる
このところ、Twitterをはじめとするネット上のいたるところで、「トークセッション」が盛んになっているように思える。特に、最近の「ニコニコ動画」「U-stream」のライブ無料放映ブームは、実に様々な可能性と変化を呼んだ。
プラスワンができるまでは、トークの場といえば講演会形式で、ライオンズクラブとか商工会議所あたりが高額の謝礼を出して「大先生」をお呼びして上品にお聞きするのが普通だった。質疑応答で大論戦や暴力沙汰になることもなかった。
それを、私たちは「居酒屋トーク」という経営スタイルで入場料(チャージ)をもらい、さらには入場したお客さんの飲食費の合計額によってギャラが決まる、という方法を取った。すなわちお客さんが少なく、また飲食も少ないと帰りの交通費ももらえない、ということなのだ。だから、ステージと客席はいわば真剣勝負になる。トークがつまらないと、お客さんは来ないか途中で帰ってしまう。この緊張関係がたまらない。さらに、ロフトのトークライブでは、ステージでの出演者の酒は切らさない。アルコールを入れるとトークが色々すべる。思わぬ発言が出てきて、私が一番嫌う「予定調和」なトークでなくなるのが、実に面白くていいのだ。
プラスワンを始めた当初、出演交渉をすると、「酒の席で俺に喋れだと! 失礼な!」と言う知識人がたくさんいた。確かにその気持ちもわからないでもないが、「でもね、世界の大抵の革命は、貧しい炭坑街のパブ(居酒屋)とかでの、労働者が吐き出した不満から起きているんだ。形式張った書斎風な空間からは何も起こりえない」というのが、私たちロフトトーク部門の主張だった。
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7月21日にNaked Loftで行われた「オウムって何?」に登場した、元オウム真理教最高幹部の上祐史浩氏(光の輪代表)。手前はオウムを追い続けて15年の岩本太郎氏(ライター)。この日は野田成人(元オウム幹部)や広末晃敏(光の輪広報)、鈴木邦男(評論家)諸氏を交えてのトークセッションだった
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あの宗教家・上祐氏と対談してから、その衝撃の強さに私はそのオーラをどこに吸収していいのか解らず、深夜の熱帯夜をただ歩き続けた
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4万人がネット生中継に集まったのだが……
この1〜2カ月、ロフト各店のトーク部門は、ロフトプラスワン誕生15年ということもあり、とても意欲的なスケジュールが並んだ。
私好みのイベントでいえば、5月16日の「普天間移設問題と沖縄」(@Naked Loft)は、沖縄在住の岡留安則(元『噂の眞相』編集長)さんと、宮台真司・保坂展人さんをゲストに行われ、「ニコニコ動画」「U-stream」中継では、合計2万5000人のアクセスを記録した。6月3日の「幸福の科学ナイトだぜよ」(@Naked Loft)は、幸福の科学の幹部が直接出演し、そこにこの宗教団体と敵対関係にある有田芳生さんや、この日の主催である、やや日刊カルト新聞社主筆の藤倉善郎氏まで来て、激しい討論をした。はたして今話題の宗教団体が不特定多数の観客の前に出てきて討論なんてしたことが過去にあっただろうか?
6月15日の「新左翼って何」(@Naked Loft)には、私も出演した。元赤軍派議長・塩見孝也氏と、元中核派の元反戦自衛官・小西誠氏との内ゲバ総括も面白かった。7月3日には今話題の反イルカ漁映画『ザ・コーヴ』上映&公開討論会(@プラスワン)。あの『靖国』上映をめぐってのトラブルを彷彿とさせた。7月14日には、「角川春樹、我が闘争を語る!」(@プラスワン)。ホスト役は吉田豪さんとターザン山本さん。もうワケのわからんラインナップだ(笑)。でもそれがいい。
7月20日、プラスワンで行われた「『非実在青少年』とは? 『マンガの性表現規制問題徹底討論』も、今まさにと議会で争点となっている話題を、エロマンガ家、漫画評論家、雑誌編集長などが徹底討論する、珠玉な企画だった。
そして、7月21日のNaked Loft。「オウムって何?」は、今年に入って3回目の私の企画だった。ゲストはなんとあの「オウム広報部長」上祐史浩だった。この日、この番組のネット生放映は、4万人近くまでアクセスを伸ばした。
しかし、この無料放映は、我々主催者にとって多くの問題点を残した。無料放映の告知を流すと、当たり前だが確実に会場に来る有料観客が減る事態に直面するのだ。お客さんが少ないとギャラも払えない。我々がスタッフを派遣して放映して、その試聴人数がいくら増えても店には一銭のお金も入って来ない。そこがいわゆるフリーミアムの世界のジレンマなのだ。フリーミアムでは、入口は無料。+αのサービスや機能を有料として利益を得る。しかし、皆、無料の部分までは集まって来るのだが、その先まで引き寄せるのに苦労している。あの「ニコニコ動画」でさえ、4年かけて初めて黒字化したのだ。
無料ネット放映はした。動員は落ちた。映像はいたるところに流失、ギャラは払えない。これでは店の経営は成り立たないし、ゲストも来てもらえない。ネット生中継は面白い世界だし、ライブハウスがこれから当然、取り入れなければならないシステムなのだが、早急に対策を考えねばいけないと思った。
なんとも不思議な時間だった気がする。「オウムって何?」のアーカイブをパソコン上で見ながら、私はあの「ああいえば上祐」の、凄みのある「説法」に釘付けになっていた。上祐史浩氏のあの私を襲った「オーラ」の波動はなんなのか? 自己内部で消化するにはしばらくかかる。頭が混乱してきて何も考えられない状態が続いた。
上祐氏には、あのオウム真理教事件の国を挙げての大騒動から、一体何があって、どんな修行体験を積んで、今があるのか? 彼と直接会ったことで、久しぶりに、私の精神世界への意識が復活したと言える。
20数年も前、UFOを見たり気功にはまったり、精神世界の本を読みまくったりしていた時期があった。身体の隅々を、みどりの森林を突き通る風が抜けて行く神秘体験があって、心身ともに充実していた時を思い起こさせてくれた。
私は、デスクトップを眺めるのをやめて外に出た。ただ、真夜中の東京の郊外を愚直に歩き続けるしかなかった。この異常に暑い夏、私は脱力していた。そのイベントから数日が経った。アインシュタインが言う不思議な時間<光>だったような気がする。
今月の米子
今月の米子 アメショー♀5歳になりました。いつも寝ている。ネコは寝る場所にこだわる。「良くねる子=ネコ」との一説も
『ROCK IS LOFT 1976-2006』
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新宿LOFT 30th Anniversary
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ロフト席亭 平野 悠
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