何の期待に応えるつもりないからやってる様なもんだから、
何時に来るかも分かんないと思って来てほしいんだよね(笑)
──リリーさんには現在、年に3〜4回のペースでプラスワンで「スナック・リリー」を開催してもらってますが。
「オレって、イベント1回やると10時間近くやるでしょ? だから凄い体力はいるよね。でも、プラスワンなんて100パー仕事だと思ってないから(笑)、やってるうちにそこで知り合った人も沢山いるし、変に仕事とかで知り合う人よりもプラスワンで知り合った人の方が付き合いは長いね」
──-何か印象に残ってるエピソードとかありますか?
「イベントやってたら上から水が降ってきた時」(※1)
──(笑)イベントの最中に上の階のギャバクラの水道管が破裂して、天井全体から水が降ってきて、会場が全部水浸しになったんですよね、あれは驚きました(笑) でも、お客さん達は毎回行き当たりばったりで、何が起こるか分からない「スナック・リリー」に何かしらのハプニングを期待して来てる気もしますけど。
「期待して来られるのは困るね。オレに何かのイメージを持って、期待して来てる人はその場で帰ってほしい。何の期待にも応えるつもりないからやってる様なもんだし。だから、何時に来るかも分かんないと思って来てほしいんだよね(笑) すでに7時に来る事さえ期待しないでほしい」
──(笑)オレが居なくてもやれと?
「スナックって、常連の人が勝手にカウンターとか入って、水割り作ってたりするじゃん?その為に常連を作ってるんだからさ。だからオレが居なくても山田(※2)が活弁やってたり、清水(※3)がフリチンになったりしてればいいんだよ」
──そういつも言いながらも、どんどん超満員になってきて、女のコのお客さんもどんどん増えてきましたもんね。
「初めて来るっていう女のコが増えるのも良くない。一見客が増えるってのはいいスナックじゃないんだよ。スナックって、もっと永遠に常連さんばっか毎回ダラダラ集まってきて、いつまで経っても何の発展性も何の期待も未来も無いような方がいいんだよ。女のコが興味持ちはじめるとか、そういう状況って、とにかくいつもやめたくなる」(※4)
──集まって来る自分のファン達に別にプレッシャーとか責任みたいなものも感じない?
「ない、まるでない。つうか、1回でもプラスワンに足を踏み入れたコとか、プラスワンの存在を知ってるだけでも特殊な人間なんだから、日本の中央にまずいない人間だから(笑) でも、そんな事言ってるとよく、“ああ、この人又無責任な事言って...”とか言う人いるけど、そんなもん無責任な事しか言える訳ないじゃん。何か書いたり喋ったりする時には無責任って事をあからさまにする事が最低限のマナーだよ。もし責任を感じるとしたら、もっといいとこあるよ、って他を紹介してあげる事だよね。“こんなとこにいちゃいけない!!”って(笑)」
おでんくんは自分以外の人を助ける事しか出来ないんだよ。
──それで、今月出たリリーさんの最新刊『おでんくん』についてもお聞きしたいんですけど、何と絵本なんですが、なぜ急に絵本を?
「まず第一に、今までのオレの本を読んで面白いって思ってた人達に、なんでこんな子供騙しな事をやるのかと軽蔑されたかったのと、単純に今一番自分のやりたい事が、子供が読めるものが自分に書けるのか、って事だった」
──軽蔑されたかったってのはなぜ?
「オレは近親憎悪でものを書いてるのに、一番憎むべきタイプの人間がオレの本とか読んで、“ああ、こういう変な人もいるんだな、じゃあ私も平気だな”っていう風にオレの本を読んで安心したっていう一番悪い効果を生んだんで、それは良くないと思って、そういう人達が絶対に手に取らない様な本を作ろうと思ったんだよ。だから絵本にすればそういう人達が、急にさむい事始めたな、と絶対思うだろうし、それでいいと思うし、そういう人達って結局オレが一生チンポとかウンコの話書いて、自分のコンプレックスをずっと刺激し続けてくれると思ってるんだろうけど、そういう事を思うヤツと一生付き合ってくつもりはサラサラないんだよオレは。変わらないものを求める気持ちはないし、変わらないものって信用出来ないんだよ」
──でも、いきなり絵本っていう、リリーさんにとっては全く新たなる試みで、苦労した点とか、意識した事もあったかと思うんですが。
「今回初めての書き下ろしで、サラッと書けるつもりだったけど、凄い絵にこだわったんで、それはめちゃくちゃ時間かかって大変だった。でも意外と絵にこだわって、一枚の絵を何日もかけて書いてると楽しかったね、人に会わなくてもすむし。それと、今までのオレの本はこれを読んだらみんな何て言うだろうってのが想像出来て出してたけど、今回はオレの事なんか何も知らない子供達が読んで面白いと思うかどうかだった。でも、今の子供の事は分からないから、小学生の時の自分が読んで面白いと思うかどうか、っていうのは意識したね。それで出来上がりを見て、自分が子供の頃にこの本読んだら面白いと思うだろうなと思える本が出来た」
──最近、大人達にガンガン売れてる絵本とかありますが、「おでんくん」はそういうのではなく、ターゲットはあくまでも子供な訳ですね?
「今のそういう絵本って、絵もすかすかで、ストーリーらしいストーリーも無いのに、何か疲れた大人が読んで癒されて、人生を考えさせられた、とか言うけど、オレああいうの意味が無いと思うんだよね。ああいうの書いてる人達って、多分子供に読んでほしいと思わないからああいう本作るんだよ。で、オレは、ストーリーはカッチリしてて、想像するとか、何かをイメージして下さい、みたいな部分は一切排除して、このストーリーしかないっていう、自分が子供の時読んでた様な、桃太郎みたいな絵本を作りたかったんだよ。桃太郎読んで「人生の色々な疲れが癒えた」みたいな事言う子供居ないでしょ」
──(笑)、確かにいませんね。でも、やはり大人のオレが『おでんくん』読んでも、その中にはリリーさんからのとても大切なメッセージみたいなものがちゃんと込められてるなあ、と思ってやはり感動してしまいましたけど。
「おでんくんは、“みんななんでも知ってるつもりでも、知らない事はいっぱいあるんだよ”って冒頭の文章で始まるんだけど、それはおでんくんの中のメッセージで、今インターネットとかの時代で情報過多で虚も実もなくて、全部鵜呑みにして信用して何でも分った様な気持ちになってるけど、お前の知らない事なんか死ぬ程あるんだぞってのは言いたかった。それと、脈々と人間が思ってなきゃいけないものは、それはやっぱり愛だったり、平和だったりって事で、その事に否定的になって考えたら、何も生まれない。おでんくんは自分以外の人を助ける事しか出来ないんだよ。自分の為に他人を使えなくて、人の為にしか何も出来ない、なのにおでんくんが人の為にあれだけ献身的になってる姿っていうのは憧れのスタイルだよね」
※1・実話で、実際天井から水がガンガン降ってきてイベントは深夜1時という一番中途半端な時間に中止になってしまい。その後、帰れなくなった人はなぜかハウス加賀谷くんの誘導で新宿ロフトに避難して夜をあかした。
※2・日本で唯一人の映画監督にして活弁士。毎回スナック・リリーで自分の新作活弁自主映画作品を発表している声と肌の綺麗な男。
※3・同じく自主映画監督で、作品はほとんど1分内。スナック・リリーの時はなぜか絶えず全裸で会場を徘徊している天才肌の男。
※4・実際リリーさんは10回目で一度スナック・リリーを辞めた。が、急に「やろっか」と連絡をもらい復活したが、今は後悔しているそうだ。
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