この3人にしかできないことがまだ一杯ある
──前作の『flood』から1年4ヵ月振りの新作となるわけですが、レコーディングは断続的に続けられてたんですか?
ATSUO 曲が出来た時期は『flood』とそんなに変わらないんです。『HEAVY
ROCKS』に入れた曲は、ライヴでもやってましたし。
──今回のアルバムは、コンセプトみたいなものはあるんですか?
ATSUO “HEAVY ROCKS”というタイトル通りのものですかね。『flood』は最初、ロック・サイドとパワー・アンビエント・サイドの2枚組で出そうと思ってたんですよ。それがちょっと時期が遅れて、そのロック・サイドが今回出るという感じです。今回は、ロックな記号としてはかなりベタベタなことをやってると思いますよ。
──BORISが放つ音の塊は文字通り“HEAVY ROCKS”で、アートワークやノベルティはそれに相反するようにとことんポップでスタイリッシュですよね。このバランスが絶妙だなと。
TAKESHI 何も考えてないんですけどね(笑)。『HEAVY ROCKS』も『flood』も、自分たちのなかで同時に在るものなんで、分けて難しく考えられちゃうと困るんですけど。
──『HEAVY ROCKS』と『flood』はコインの裏表なんですか?
TAKESHI 表裏っていうか、こう、同じ円形のなかで端と端が対になって回っているような感じです。
──今回は、MAD3のEddieさんやABNORMALSのKomiさん、MERZBOWの秋田昌美さんなど、多彩
なゲストとコラボレーションをされてますね。
ATSUO 初めての試みで、パワーを貰うこともありました。僕らでないと揃わない面
子だとも思いますし。どの人もロックという文脈で活躍されてるので、その括りでの統一感はあると思います。
──以前ライヴ盤を一緒に出した灰野敬二さんも、スタンスはロックですもんね。
ATSUO うん、灰野さんはロックですよ!
──今後コラボレートしてみたいミュージシャンはいますか?
ATSUO …ニール・ヤング(笑)。
TAKESHI スタジオにフラッと来て、サラッと弾いてパッと帰るのがいい。俺らニール・ヤングのパートには音被せないんだろうね。そこだけ残しても入れちゃうんだろうね。
ATSUO 適当に録って、ニール・ヤングの歌だけでっかく入ってたりして。
──ニール・ヤングだとどの辺の時期が好きですか? TAKESHI いわゆる爆音期と呼ばれてる頃。アルバムだと、『ZUMA』とかあの辺りですね。
ATSUO 僕は『DEAD MAN』という映画のサントラは凄いなと思ってたんですが、スタジオ盤とか全然聴けなくて。でも、クレイジー・ホースとやってた頃のブート盤をTAKESHIに借りたら、これが凄い良かったんですよ。
TAKESHI 同じ頃の公式ライヴ盤(『WELD』)が出てるじゃないですか。あれよりも全然いいんですよ。
──アルバムの終わりが「1970」という曲で締め括られてますが、これは皆さんの生まれた年ですか?
ATSUO 僕とTAKESHIが生まれた年なんです。
──1970年というと、英米ロックの変革期ですよね。ビートルズが事実上解散して、入れ替わるようにレッド・ツェッペリンが台頭してきたり。
ATSUO そうなんですよ。そこがミソなんです! サイケが終わってドラッグ・カルチャーの終焉とかもあって、何か新しいものを生み出さないといけない時期だったと思うんです。終わりと始まりが同時にあったような年代というか。僕ら自身も前へ進んでいきたいというテーマもあって、歌詞のコンセプトにもそういう部分を採り入れて。“HEAVY
ROCKS”というのも、70年前後…サイケからハード・ロック、プログレの間という中途半端な感じを、1970年という年が象徴してるんじゃないかと。それが同時に僕らのスタイルというか、アティチュードまでをも象徴してると……
TAKESHI アティチュードっ!?(笑)
──(笑)トリオ編成という最小限の構成で、これだけの圧倒的な音を鳴らすのが驚異的ですよね。
ATSUO 僕らが追い求めるバンドの理想像って、ただ3人が佇んでるだけで視覚的に恰好いいとか、音の作りも、曲間が如何にロックかってところなんですよ。行間を読むというか。
TAKESHI 音は弾けば出ますからね。
ATSUO 間とか行間にロックが宿るんですよ。もっとトータルに言えば、生き方自体、立ち位
置がロックでありたいですね。 TAKESHI 別段ロックな恰好をしていなくても、姿勢はロックという…。
ATSUO 3人編成だとできないことも一杯あるけど、逆にこの3人でしかできないこともまだ一杯ありますからね。まだまだ可能性が残ってる段階なんで。
“マッチの物真似をする鶴太郎の真似”みたいな回りくどさ
──皆さんが“HEAVY ROCKS”と聞いて思い浮かべるバンドは? 僕は月並ですが初期ブラック・サバスとかなんですけど。
ATSUO よくそう言われますけど、僕自身は全然知らなかったんですよ。周りから「サバスっぽい」って言われるようになってからやっと聴いてみたくらいで。2人は当然知ってたでしょ?
WATA 私は高校生の時にハマりました。
TAKESHI 何年か前にサバスのベスト盤をATSUOに貸したら、全然興味を示さなかった(笑)。ATSUOとは音楽的嗜好がまるっきり違って、お互いジャンルの端と端から段々と近づいてきて真ん中で出会ったという。だから、人に言われるほど僕らはサバスっぽい感じではないんですよ。
──元々、皆さんのストライク・ゾーンのバンドってどの辺なんですか?
TAKESHI 僕はニュー・ウェイヴから入って、もろにハードコア・パンクですね。
WATA 私はサイケから70年代のちょっと古いロックが好きです。
ATSUO 僕は基本的にいいものなら何でも聴くというスタイルを貫いてます。客観的に見ると、一定のジャンルに属してない、中途半端なバンドが好きですね。何か行き場がないような。
──そもそもBORIS自体がカテゴライズの難しいバンドですよね。
TAKESHI CD屋だとどう置かれてるの?
WATA “ラウド・ロック”のコーナーにBAREBONESが入ってて、ウチらはどこかなと探したら、“J-POP”の棚に入ってた(笑)。
ATSUO そこでも僕らは行き場がない(笑)。
──確かに他にないですもんね。曲も恐ろしく構成が複雑だし。
ATSUO 譜面上は凄く簡単なことしかやってないんですけどね。ただ、リハではかなり作り込みはしてます。
TAKESHI 譜面的な作り込みっていうよりは、どう唄い廻していくかとか、“節”の部分には時間をかけますね。
WATA “間”とか、溜め具合とかね。
──皆さんが影響を受けたフェイヴァリットなミュージシャンは?
WATA フェイヴァリット…う〜んと、名前を覚えるのは余り得意じゃないんですけど、ピンク・フロイドの……
──デイヴ・ギルモア?
WATA そう。あと、プリティ・シングスの……
──ブライアン・ペンドルトン?
WATA そう。あと、ファンカデリックの初期の……
TAKESHI エディ・ヘイゼル?
WATA そう(笑)。というか、「Maggot Brain」しか聴いたことないんですけどね(笑)。CDはジャケ買いしてよく失敗するんですけど、たまにいい曲と出会っても、曲名もアルバムのタイトル名も覚えられないんです(笑)。
──ATSUOさんは?
ATSUO メルヴィンズが大好きなんで、デイル・クローヴァーは本当に凄いなと。ドラム・スタイルは全然違うんですけどね。僕、ツェッペリンもよく知らないんですよ。たまに「ボンゾっぽい」とか言われるんですけど、絶対聴かないようにしてます。
──TAKESHIさんはどうですか?
TAKESHI 僕、殆どギターなんですよ。最近やっとベースに目覚めたというか…。最初にベーシストでいいなと思ったのは、『ウッドストック』でジミヘンのバックで弾いてたビリー・コックスかな。あとはやっぱりジョン・エントウィッスル(ザ・フー)ですね。モーターヘッドのレミーも恰好いいけど、“ベーシスト”というよりは“レミー”だから(笑)。
──ジャック・ブルース(クリーム)なんかはどうですか?
TAKESHI あの人はインテリな感じがしてダメですね。もっと壊れてるほうが面
白い。
──『HEAVY ROCKS』と同じ日に、MERZBOWとの共作アルバム『megatone』もリリースされますね。
ATSUO いわゆるアンビエントと呼ばれるようなものもやってます。これとは別
に、MERZBOWの音源をリミックスするアルバムが海外から出るんですけど、それにも参加してます。『megatone』には、ビートルズの「I
Am The Warlus」をカヴァーしたスプーキー・トゥースのカヴァーなんかもやってます。
──(笑)最高ですね、そのねじれ具合。
TAKESHI マッチ(近藤真彦)の物真似をする片岡鶴太郎の真似、みたいな。非常に回りくどい(笑)。
WATA スプーキー・トゥースの「I Am The Warlus」は恰好いいですよね。原曲を聴くと凄く軽く感じる。
──5月19日には新宿ロフトで『HEAVY ROCKS』のリリース・パーティーが馴染みの深い豪華な面
子と盛大に開かれますね。
TAKESHI “ヘヴィ・ロック・フェスティヴァル”ですね。ロフトはフー・マンチュのサポート以来です。よろしくお願いします!
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