愛情ないと相手をこき下ろせない
──西田さん(ぼんちゃん)は鮮烈なことを水野晴郎さんにぶつけますよね。でもそのおかげで観てる側も、笑いたいところで笑えるようになっているという。
●だって愛情ないと相手をこき下ろせないじゃないですか。まぁ水野がそれを受け止めてくれるのは、一つに守るものがなくなっちゃったからでしょうね。キー局でゴールデンタイムをやってる人っていうのはやっぱりその定説を守らなくちゃいけないじゃないですか。でもそれが終わった時点で切れちゃったんでしょうね。多分年齢的なこともあるだろうし。70歳超えちゃうとなんでも許せちゃう心になるかも。でもこれはホモより愛でしょ? 僕と水野の間は。もう肉親。親父であって子供であって、で師匠であって弟子であるっていう。
水野晴郎の偉大さ
──そういう西田さんがいらっしゃらなかったらシベ超は出来てないんじゃないでしょうか?
●それはないと思う。僕がいなくても『2』はあったように。ただ、微妙な関係なんですよね。うん、あの多分水野は一人でもちゃんとやれる方なんですよ。でも僕はサムシングなんですよね、水野先生の。
──サムシング?
●クエスチョンマークなんですよ。常に。水野晴郎の横にいるのは誰?っていう。世間からするとクエスチョンなんですね、僕はね。水野と一緒に出ることにおいて、水野はマイナスでもあったわけです。僕が出ることにおいて。何あれ、あれがついてこないとダメなのって意味で。それでも水野は使い続けてくれたんです、僕のこと。水野晴郎の偉大さって継続なんですよ。シベ超もそうでしょ?
守るための番犬から相方へ
──シベ超を作る以前と以後っていうのは、西田さんの中の水野晴郎観て変わりましたか?
●水野晴郎事務所っていうのが昔、株式会社だった頃。僕はやっぱりいい番犬だったでしょうね。番犬、水野を守るための番犬。うん、あの番犬ってわかるかな、トップにはなれない人間なんですけどね。あの常に忠実な部下であるというところでしょうね。で、ある時に吹っ切れちゃったんでしょうね。どっかで、番犬がご主人の出すエサを匂うようになっちゃったんですね。この人大丈夫かなっていうね。すごいパワーを持っている人ですから、いろんな映画を買ってきたりとか、いろいろやってたんですけど、ある時僕はいろんな事件があって、辞めたんです。その時、「どうやったって水野晴郎事務所って株式会社にしたって水野晴郎じゃないですか。先生の顔でやってるんだから個人でいいじゃないですか。好きなことやりましょう、先生。あと、もう何年しかないんですよ」ってはっきり言っちゃったんですよ。そのときは水野もそんなこと僕がいうと思わなかったんじゃないですか。「こいつ何、失礼なこと言ってるんだろうと。でもこれ本音じゃないですか。シベリア超特急を撮り始めてから水野先生と本音で話しできるようになりましたね。実は今やってる会話って事務所でやってる会話とほとんど変わらないんですよ。ほんとに水野先生起こす時に耳引っ張って、「先生起きてください、あと2、3年経ったらゆっくり寝られますから」っていうと本人飛び起きるんですから。「なんてこというんだお前は」っつって。怒るんですから。失礼なって(笑)。笑ってますけどね、本人は。その裏には長く生きてくださいよっていう意味があるんですよ、僕に。それがなければ師匠に対して失礼な話ですよね。まして僕は映画評論家にもなりたくないと思ったし。うん、映画評論家いらないもん、今。おすぎとピーコが幅きかせてる以上は。あ、これ、書いてね。もういらないんだから、そういうのは。時代が批評家を欲してない。だから先生もう辞めなさいよと、もうだって映画は自分で作るしかないじゃないじゃないですかと言ったら。出来たよね、シベ超が。驚いたよ、俺も。あれが出来たとき。なんだろうと思ったんですよ。
本音でぶつからないと
一一西田さんと対立することもあるんですか?
●いやぁー、大喧嘩未だにつかみ合い大喧嘩がありますよ。「殴れるもんなら殴ってみろ」って先生言いますもんね、僕に。殴れないの知っててね。なんだこのやろーなんて言ってね、つかみかかって、ぶん殴ってきますもん。それぐらいまでいかないと愛情も生まれないし、泣けないし、笑えないし、怒れない。本音でぶつからないと。いつも笑顔で「いや、映画ってほんとにいいものですね」ってにっこりしている水野さんしかイメージしか、みんなないでしょう? でも笑い転げてさ、何も喋れなくなっちゃう水野晴郎なんて今日初めてでしょ、見たの。ギャグを言おうと思って、そのギャグに自分で吹いちゃって。で、喋ったらつまんねーのそのギャグが。ね。そういう水野っていうのは多分、魅力的ですよね。うん、最高の歳のとり方じゃないかな、多分映画作り続けなかったら死んじゃうでしょう? 水野の命でしょうね、シベ超はね。本人はいろんなこといいますけど。もし、あなたの活字が絵になったり、描いたものが動いたら……驚きってありません?
おもちゃをはじめて手にした70歳
──ありますね。
●ね、みなさんね、これを読んでいるかたがもしね、自分が描いたものが絵になっちゃって動いちゃった、その驚き。それを70過ぎて始めて味わったわけですから。そりゃ大変ですよ。もうおもちゃですよね。
──3次元のおもちゃですもんね。
●で、なおかつ何万本っていう映画を自分で見てしまっているから、もうこんがらがっているんでしょうね、頭の中で。で、普通
の映画人だったらまず考えないことをやっちゃいますもんね、長回しとか。でもこれは市川昆さんがきっかけかもしれない。『1』の時に「映画は模倣からはじまるんだよ」っておっしゃったんですが、水野はこれでパカーンといっちゃったんだと思いますよ。
(ここで、閣下登場。「帰るよ」とぼんちゃんを迎えに来てくれるも、「先、行って下さい。あ、でも帰る金がないのでお金下さい」とぼんちゃんは言い放つ。しぶしぶ閣下は年金から5千円を工面
……ポツリ「返せよ」と言って閣下はお帰りに)
ゼロに戻れることができる人間
●一万円しかない水野なんていうのは、あなた始めてみたでしょ。いつも財布の中に何十万入れてた水野さんが今一万円しかないんです。その年金から5千円を私が半分持っていくっていうね。これを出す水野さんもすごいですけど。
──ちょっとほほえましかったですよ(笑)。
●ないんだよ俺もなんてね。帰るんだったら置いていきなさい、5千円という。
──(笑)。いやだけど、不遜な言い方になってしまうのかも知れないんですけど、お二人とも歳を取られているのにも関わらず、高校生くらいの友達の感覚があっていいなぁと思うと同時に、映画評論家としてあれだけの地位
を築いた人が、サイフに五千円という一種ゼロに戻れることができるというのは凄い。
●努力家で、秀才肌だけどもとの性格は天然で不器用なんでしょうね。だからあんな映画ができちゃうんですよ。深作欣二さんが『シベ超3』を観に来てくれたのですが、付き添いの人に「やっぱり天然にはかなわないね」って言ったって。別
にけなしたわけでもない、負けるんです、天然には。あの人も狂った映画作りたかった訳ですよ。『バトルロワイアル2』を作ってますよ、もう命からがらで。でも、自分の作品を断ってなんで水野の作品に出るかって気になりません? なんで俺の作品は断ってさ、三田佳子は出たんだって思って。
──気になりますね(笑)。
●それで観たら天然だった。何も言えないよね。
俺は天然ではないかもしれないけど、
やれるとこまでとことんやってやる
一一西田さんのお話を伺っていると憧れと同時に憎しみに似たものも感じてしまっているのですが。
●ありますよ。20年以上、一緒にいますからね。嫌なところもたくさんみてますし。それに、負けてられるか、って今は思ってますね。こんな思い切ったことを70歳にやられてますからね。俺負けてんぞ、という励みにもなりますよ。俺は天然ではないかもしれないけど、やれるとこまでとことんやってやるぜ、みたいなね。
『シベリア超特急3』1/2(木)〜シアターアプルにて公開。
『シベリア超特急4』1/18(土)シアターアプルにて一夜限りの舞台(舞台はSOLD
OUT)
なんとシアターアプルに300人の水野晴郎
1/2〜の上映中、客席には300体の水野晴郎人形が座る! あなたも閣下と一緒に映画を観よう! ところどころに淀川先生やおぼちゃまもいるらしい。
新宿駅前、シベ超現る
すでにコマ壁面を旋風しているが、それに加え、新宿駅前、映画看板の中にシベ超が参戦予定。ハリーポッターらと並ぶ、その度量
感は圧巻を覚えるだろう。この号がでるくらいにお目見えするらしい。
1/26.トーク+生演奏+α @ロフトプラスワン
舞台を盛り上げる津軽三味線と和太鼓の響き 『Bachi』による特別生演奏がロフトプラスワンでも。もちろん閣下とぼんちゃんのフリートークもあるよ。聞けない話満載。
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Bachi…大野敬正<津軽三味線>と一色洋輔<和太鼓・パーカッション・シンセサイザー・コンピューター>による新邦楽ユニット |
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