最近のプラスワンの特撮イベントは少々違う。その界隈の住人ではなく、違う畑からの人で運営するケースが増えたことだ。その一人は、政治記者でありながら特撮好きの鈴木美潮。彼女のイベントは毎回ソールドアウトで、且つマニアからもそうでない人の双方から支持されている。その所以は政治記者で培ったバランス感覚と特撮に対する愛情の深さなのだろう。政治と特撮。現実と夢ぐらいに遠く離れた世界のような気がするが、その二つを内包できる彼女は一体どんな心の持ち主なのか。現実的なのか、夢みがちなのか。そんな謎と彼女の魅力を探るべく、何を想って特撮好きになったのか話しを聞いてみた。 (all text:斉藤友里子)

一一単刀直入に聞きますが、なぜ特撮ヒーローが好きなのか。そして仮面 ライダーに対する偏愛ぶり。いったいそれは美潮さんにとってどういうものなのでしょうか。
●好きとか嫌いとかじゃないのね。仮面ライダーは、私にとっての生き方の価値基準なの。例えば、「この話を表に出そうか出すまいか」とか微妙な時ってあるじゃない。あと、記事書くにしても片方に利益があっても、片方を傷つけることになるとか。最終的におてんと様に恥ずかしくないことをするってことなんだけど。利害関係の意識を入れるとか、物事を変にねじ曲げたりしないとか。ライダーが現れて頭をなでてくれるか、「このバカモン!」と言ってぶん殴られるか、を考える。いつかどこかで仮面 ライダーに出会った時に、恥ずかしくない自分でいたいの。
一一会ってるじゃないですか。
●それはや藤岡弘。や佐々木剛であって、本郷猛と一文字隼人じゃないでしょ?
一一そのあたりが美潮さんの希有な部分の一つだと思うんですよ。非常に現実的でありながら、夢を求め続けることができるっていう。美潮さんの職業は政治記者ですけど、その世界はギットリとした現実というか、夢という世界から極北でしょう? どう考えても仮面 ライダーはいなそうです。そんな世界になぜいるのか。もしかして美潮さんはいつか会う仮面 ライダーのため「悪と戦う」ことを目的にして、政治の世界に入ったんじゃないかって思うのですが。
●そんなキッパリ「悪と戦うためです」ってシラフで公言すること少ないけど、気持ちはそう。政治家になろうって思ってた時期もあった。でもね、ヒーローは独りでも戦えるけど、政治家は一人では戦えないの。そこは数の問題だから。ヒーローが変身して戦うのと違って、現実の政治には凄い長い時間がかかって一人が二人になってそこから十人が百人になって、というふうになってる。ある種アイドルとかのように票という人気の上に立ってる職業で。だからいくら正しいことでも人気が落ちるようなことは言えない。その人はその時点で「変身」できなくなっちゃうワケでしょう。それに、現実の世界は必ずしも善と悪とに単純に割り切れない。だから政治家は、決定的なことがなかなか言えなかったりするんだよね。
一一何人までをオルグしていくかが勝負であり、その際には変な利害関係も発生しやすい。だから、政治家にならずに政治記者になった?
●そう。
一一政治記者である時、仮面ライダーに「バカモン!」と言われてしまう具体的なことを挙げると利害関係の他にある?
●本来の自分の使命を忘れてはいけないってこと。取材目的で、政治家や人と会っているわけでしょ。深く入り込むとその人のために働きたい、かばいたいって気持ちに往々にしてなるのだけど、それは記者じゃないじゃない。相手に対して思いやりを持つことと、知った事実を書かないってことは別 モノだから。
一一己の運命を背負い、優しさを失わず、全てに公平である。うん、神の眼、第三者的な目線が全て仮面 ライダー。
●もう「神」だね。もう、宗教と言って過言ではないかも。
一一つまり大人の、いや人のかくあるべき姿が仮面ライダーであると。
●うん、うん。小学校四年生ぐらいの時に、ふと不思議に思ったことがあるの。みんな男の子も女の子もショッカーや悪の組織は敵だと思ってるでしょ。ショッカーの卑劣な作戦を見るたんびに、「許せん!」って思って仮面 ライダーを応援する訳じゃない。ところが私たちはいずれ大人になる。大人になった時に今「許せん!」って思っている人間の何人かはやっぱり殺人を犯し、何人かは暴力団に入り、何人かは経済犯罪を犯し、と。でも「みんなショッカーみたいなことをしてるんだよ」って思えばそんなことしないだろうって。でもしてしまうのは一体どうしてなんだろう? 精神、マインドがどこで歯車が狂ってしまうのかなって。
一一苦しい時に出口をどこに見ちゃうかが焦点のような気がします。
●そうかもしれない。一番苦しかった出来事に、渡米した大学時代があったんだけど。もう勉強のレベルも違う訳。そのせいもあってホームシックになっちゃってね。帰りたい帰りたいって毎日思っていて。そこで仮面 ライダー15周年を機に詩集を作るに至るのだけど。で、その時に文通していた平山亨さんにも寂しいです的なことを送ったりしたの。当時メールなんかなかったから、何十通 も書簡のやりとりがあってね。みんな「大丈夫? 頑張って。嫌だったら帰っておいで」とか慰めてくれる手紙をくれるのだけど、平山さんは違ったのね。「何をやっとる!」的なカツを入れられた。私にとって仮面 ライダーの権化でもある存在だし、第二の父親的存在でもあるのね。ダディって呼んでるくらいだから。それでハッと目が覚めて毎日12時間以上勉強しはじめたの。平山さんがいなかったら今の私もないし、ここまで仮面 ライダーを追っかけていたかわからない。
一一そうして、日本テレビ生放送で「特撮ヒーロー好きの政治記者」と紹介される程の仮面 ライダー伝道師になったと。いつか出会う日のために。
●私が死んだ時は羽の生えた仮面ライダーが迎えに来るかな。
一一来ますよ、きっと。
●そうかなぁ。来るかなぁ。
一一うん、きっと来ますよ。死ぬ瞬間ぐらいには、たぶん。

鈴木美潮プロフィール
1964年12月21日生まれ 射手座 O型

■1969年4月/1971年3月 明照幼稚園 入園/卒園 以下エレベータ式で進むエリートコースを歩むのだが、ここで終わらない。
■1971年4月/1977年3月 雙葉(ふたば)小学校 入学/卒業 “あなたは鏡の国に帰ってしまうのね さようなら”という「さようなら ミラーマン」と題した作文が小学校1年生の文集に。異彩 を放っていたであろう小学生生活が伺える。が、ミラーマンに恋していたばかりではなく、ドイツへの旅行時にはオーストリア人のクリス君に一目惚れ。その恋が成就しそのまま成長すれば、現在の美潮はなかったと推察する。
■1977年4月/1980年3月 雙葉(ふたば)中学校 入学/卒業 そのころヤクルトホールで開かれた「テレビランド祭り」にて、ライディーンの音楽に乗って登場したスカイライダーの初お披露目を目撃。 この勢いあまってか、14歳の秋に突如として東映撮影所を来訪。いきなり「平山亨プロデューサーと村上弘明さんに会わせて下さい!」と懇願。これをきっかけに平山氏と交流が始まったらしい。
■1980年4月/1983年3月 雙葉(ふたば)高等学校 入学/卒業 中学時代より突撃来訪を繰り返していたのはあながち無駄 ではなく、脚本家の曾田博久氏とは文通が続いており、同氏の作品「大戦隊ゴーグルファイブ」中に名前を使用される。その役柄は道場主の娘。
■1983年4月 法政大学 法学部 政治学科 入学 突撃癖は続く。『仮面ライダーZX』の撮影には大学を二週間休んで参加。寄居の採石場でのロケではひたすら怪人の背中のファスナー上げの係りになっていたらしい。なお、同撮影でのモブシーンで、新宿高層ビル街にて時空破断システムに消される。
■1984年   渡米
■1985年9月 ボストン大学 入学 極度の特撮欠乏症に陥り、何かせねばと仮面 ライダーに捧げる詩集を自作。仮面ライダー15周年の際に無理矢理関係者に送りつける。話題にもなり、特撮雑誌に一部報道されたらしい。これで気が済んだのか、しばらく大人しくなる。
■1987年1月〜5月 在学中に米連邦議会下院議員事務所にてインターン
■1987年5月 ボストン大学 卒業
■1987年9月 ノースウエスタン大学大学院 政治学専攻
■1988年6月 政治学修士号 取得
■1989年4月 読売新聞に入社 横浜支局へ
■1993年2月 読売新聞本社 地方部
■1994年11月 読売新聞 東京本社 政治部
■1999年 8月 読売新聞出版部ヨミウリウィークリー編集部
■2000年 『仮面ライダークウガ』製作決定のニュースが引き金となり遂に大噴火。製作発表時には並みいる特撮雑誌ライターを押しのけ一番に発言をする等、行動が活発化。この後運も手伝い『クウガ』のロケに大手町界隈で偶然遭遇し、オダギリジョー氏と出会う。こうなったら誰もとめらられない猪突猛進、鈴木美潮。記者として高寺プロデューサー、清水祐美プロデューサーにインタビューしたのがきっかけで、年齢と趣味がばっちり合致した清水氏と意気投合。この頃、清水氏に電波メールを送った音楽ライター中込智子氏とも、清水氏を介して出会う。音楽ライターと聞いて「歌舞伎みたいなメイクして皮ジャンきてジャラジャラ鎖を巻いた怖い人」と思っていた中込氏が「間逆の親しみやすい風貌に飾らない性格」ですっかり意気投合したと美潮は言っていたらしい。演歌しか聴かなかったが以後、パンクロックもたしなむように。そんなこんなで特撮の同志を求めた結果 、政治界に属する美潮は様々な世界とふれ合うようになる。
■2000年12月 日本テレビ系列『峰竜太のホンの昼メシ前』にてコメンテーター。ヨミウリウィークリー連載『男の隠し味』丸谷馨氏と出会う。清水氏の紹介で、後の特撮活動に多大な影響を及ぼす、ガオブラック酒井一圭氏と出会う。『男の隠し味』になぜか金子昇氏が登場。その後、特撮界人物が次々登場する連載となった。
■2001年12月 豊島公会堂「第一回丸谷祭」主催。このイベントのために後楽園ににて自作のチラシ1万枚を自ら配布。後に丸谷氏は「この光景は落涙を禁じえませんでした」と弁。
■2002年 中込氏を介してロフトプラスワン担当者と出会う。酒井氏のイベント「第二回しんじゅく酒井祭」に友情ゲスト出演しトークの手腕を発揮。これで味を占めたのか、担当者の薦めもあり、丸谷祭の続編を企画する。
■2003年4月 新宿ロフトプラスワン「第二回丸谷祭&340祭」主催・参加 味のないカレーという前人未踏な料理を紡ぎ出す。このイベントを契機に宍戸勝氏と出会い、その縁で阪本良介氏とも出会い、同所で「赤祭」を企画することを決意。
■2003年8月 新宿ロフトプラスワン「赤祭」主催・参加
■2003年10月 日本テレビ 生放送番組『donna』メインキャスター とまあ、才女であり、奇人であり、ビューティフルな鈴木美潮。消し去ること不可能な特撮魂(等身大に限る)を抱く異色の才色兼備(三十路過ぎ)美潮、素晴らしき様々な特撮活動を計画中だ。


★information
●鈴木美潮が出演中の、読売新聞夕刊のニュースと日本テレビの夜のお勧め番組を紹介する情報番組「donna(ドンナ)」は、月〜木までの毎日、15:50〜15:55まで日本テレビで放送中です。尚、放送終了後、番組の一部をインターネットでもご覧頂けます。
http://www.yomiuri.co.jp/fromyomi/donna.html
番組の感想を日本テレビ「〒105-7444 港区東新橋1-6-1」にお送り下さい。

●11/29(土)@ロフトプラスワン 340プレゼンツ「兄祭」【SOLD OUT】
【出演】西岡竜一朗、白川裕二郎
【司会】鈴木美潮
18:00/19:00 \2500(飲食別)