飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさに今のサンボマスターのことを云うのだろう。昨年末にファースト・アルバム『新しき日本語ロックの道と光』を発表し、都内のCDショップ・チャート上位 を席巻、リード・チューンの「そのぬくもりに用がある」がJ-WAVEのチャートで最高3位 にまで昇り詰め、フジテレビの『ELVIS』では異例の生中継ライヴを敢行、ツアー・ファイナルの下北沢SHELTERワンマンはチケット即日完売、新宿LOFTでの追加公演が急遽決定…と、その一挙手一投足が俄然熱い注目を浴びている。なぜ彼らがこれほどまでに圧倒的な支持を受けているのか、一度でも彼らの音楽に触れたならきっと判ってもらえる筈だ。魂を振り絞りその全身全霊を音に封じ込めるサンボマスターの純度の高い音楽は、聴く者の心を瞬時に捉え、大きく揺さぶり続けて離さないのだ。(interview:椎名宗之)

 

その瞬間瞬間に思ったことを歌にしていく
──今年に入ってから凄まじく注目を浴びる状況が続いていますが、実感としてどうですか?
山口 隆 (g, vo) 有り難いことだと思ってますよ。でも、経済的な状況は一切変わってないですけどね(笑)。状況が変わったってねぇ、ダメなバンドはどんどんダメになっちゃうんですから。ちょっと前まで青春パンクを語ってた連中が今はギター・ロックだぁエモだぁなんて調子のいいこと言いやがって、うるせェこの野郎! と思うわけですよ。何を言っとるか君らは! と。今こそ青春パンクを名乗りたまえよ! と。もうね、そういうのは一人残らず探し出して蹴り倒してやりたいですよ、ええ。
──お気持ちよく判ります(笑)。それにしても、『新しき日本語ロックの道と光』のレコ発ツアーがファイナルのSHELTERまで実に56本。その合間を縫ってレコーディングを強行したり、コザック前田と泉谷しげるのバックバンドを務めたり、こうして取材攻勢までこなし…と、とにかく殺人的なスケジュールじゃないですか。
山口 たまたま今は忙しいってだけで。音楽に費やす充分な時間がなくならない限りは、それはそれでいいかと。
木内泰史 (ds) 初めて行く地方でもたくさんのお客さんが観に来てくれてるから、手応えも感じてますし。
山口 まぁね、お客さんが僕らのライヴを観てどう思うかっていうのは判りませんからね。今でも15、16歳の女の子は僕らのライヴが始まると帰っちゃうんですから。それでいいと思うんですよ、昔からそうですし。僕らを観に来るよりは進研ゼミみたいなところへ行って勉強したほうがいいに決まってるんですから。
近藤洋一 (b) 僕らの音楽に興味を持ったのがきっかけで、初めてライヴハウスに足を運んだという年輩の方がけっこう多いんですよ。農作業を終えてライヴに来たとか。そういうのは嬉しいですね。
山口 農作業を終えて来たっていうのは美しいね! トルストイの世界だね、もうそうなると。
──僕自身がそうなんですが、オーバー30の男衆にこそ深く訴えかける音楽だと思うんです、サンボマスターは。
山口 確かに年上の方からの熱いメールが多いんですよ。「君達はポリスを観たことがあるか!? 僕は中野サンプラザで観たことがあるけど、君達はポリス以来の存在だ!」とか(笑)。僕は嬉しいですけどね。やっぱり、“人生にはどうにもならないことがあるんだ”っていうことを身をもって経験した人にこそ僕らの音楽を聴いてほしいっていうのがあるわけですよ。だから本当は年上だろうが年下だろうが関係ないんです。ただ声を大にして言いたいのは、僕らのCDを買ったヤツはセンスがいい! と(笑)。
──『ELVIS』の生中継をたまたま見ていたんですが、最後までずっと他のチャンネルに変えられなかったんですよね、余りにも衝撃的で。“なんじゃこれは!?”っていう後頭部をガツンッとブン殴られたような感覚がずっとあって。
山口 僕もテレビで初めてDMBQを観た時は“なんじゃこれは!?”って思いましたよ(笑)。昨日も“SET YOU FREE”の千葉さんと話してたんですけど、ライヴは客が多い少ないは関係ないんですよ。もちろんお客さんが入ったら有り難いとは思いますけど、それよりも“こいつはナンナンダッ!?”っていうウワー! っとしたあの感じ、それが一番大事なんですよね。それはロックだろうとソウルだろうと何だろうと関係ない。明日まで寝れねぇみたいなね。そういうのが好きですね僕は。
──僕がサンボマスターに一番ロックを感じるのは“ウッ!”“ヘッ!”“イェイイェイイェイ!”とか、曲間に山口さんが発する叫びなんですよ。あと、ライヴの度に違うであろうセリフの部分にもグッときますね。
山口 僕らは特殊な方式を採ってましてね、自分が唄った歌詞はマネージャーに書き起こす作業をしてもらってるんです。元の歌詞は8割方あるんですけど、その瞬間瞬間に思ったことを歌にするわけです。やっぱりその場で思ったことが重要なんじゃないかって。気持ちが違っちゃってんのにねぇ、額面 通りの歌詞を唄うのはやめようと。

ワンテイク一発で録り切った「美しき人間の日々」
──そんな過密スケジュールの最中に、我がスタジオインパクト下井草でマキシ・シングル「美しき人間の日々」をレコーディングされて。タイトル・ナンバーはもともとオナニーマシーンとのスプリット・アルバムに収録されていた曲のリメイクですが、より切迫感の増したヴァージョンに仕上がりましたね。
山口 ありがとうございます。『新しき日本語ロックの道と光』が思いのほか高い評価を受けまして、この「美しき人間の日々」をちゃんとした形で世に出してなかったのが自分のなかでずっと葛藤としてありまして。みんなが「あの曲はいい!」って言ってくれればくれるほどそう感じて。とにかくこの曲を出すことによってようやく次に行けるみたいなところがあるんですよね。『新しき日本語ロックの道と光』の時よりももっと悪い音質で、しかもこのマキシに収められた曲はどれも完全にワンテイクで録り切ったんです。一発全部ワンテイク。
──それは何か理由が?
山口 もちろん歌にもよると思うんですけど、今の時期ならワンテイクだろうと。僕はあっち(海外)のスタッフという素晴らしいバンドのキレイな音も大好きですけど、今はロックをやってるわけですからね。それにジャパニーズ・ハードコアというジャンルが凄い好きなところがあって、ガーゼとか強面 の人達はたぶんワンテイク一発だったと思うんですよね。だからこそ燃えるんじゃないかって思うんですよ。僕がそういうバンド名を挙げるのもおこがましいですけどね。
木内 “この一回しかない!”って思うとやれることをすべて出し切るしかないから、今回はそれが一番いいんじゃないかと思ったんです。
山口 それとレコーディングの時にエンジニアの(杉山)オサムさんには、スタイル・カウンシルをやってたポール・ウェラーが「こんなのダメだ! もう一回ザ・ジャムをやるんだ!」っていうような、そんな音にしたいって言ってたんですよ。俺はもう一回MC5から始めるんだ! みたいなね。あとですね、余り難しい話をするのもナンですけど、ソニーのスタジオでマスタリングした時に「マイルス・デイヴィスの『SORCERER』みたいなベースにしてくれ」ってエンジニアの人に頼んだんです。ロン・カーターみたいなベースで、って。ちょうどあの時期のマイルスのアルバムはソニーから出てるんです。だからエンジニアの人も「『SORCERER』はよく聴いてたんで判りますよ」って、その通 り見事にやってくれましたよ。僕らは『SORCERER』のベースの音に近づけたいわけじゃなくて、あのアルバムのまるで軟体動物みたいなベースの動きが絶対に必要だったからお願いしたんです。近藤君のベースにはすでにロン・カーターの要素が内包されていたので、それをマスタリングという作業によって巧く引き出して下さいってことなんですよ。
──矢継ぎ早に出てくるミュージシャンの羅列を聞くと、やはり音楽に対する造詣がかなり深いとお見受けしますが。
山口 そんなことないですよ。ただ例えばジミ・ヘンドリックスだったら何も文句は言えないとかですね、アホなこと言うんじゃない! って話なわけですよ。ジミヘンを良くないって言ったって別にいいじゃないかと思うんですよね。ジミヘンの『ELECTRIC LADYLAND』とかビートルズの『REVOLVER』ってアルバムが挙がった瞬間に音楽ライターの人の思考が止まるのが僕は許せないんですよ。それと、ビートルズの『LIVE AT THE BBC』のほうが岡林信康の『狂い咲き』よりも上だという先入観も僕はイヤなんです。
──ああ、なるほど。自戒し精進いたします(笑)。
山口 「サンボマスターは他のバンドよりも音楽の好き度が高い」とかよく言われますけどそんなことないでしょ、他のバンドの人達だって僕ら以上に音楽が好きだと思うんですけどねぇ。僕は嘘くさいものが異様に嫌いなだけなんですよ。嘘くさいってどういうことなんだろうって考えるとですね、それはつまり様式美ってことなんですよ。そこでまた様式美って何だろうって考えると、例えば小洒落た古着とかを着たネェちゃんなんかに僕らの音楽は一切受けなくていいと思ってるところはありますね。「ああいう叫ぶ系はちょっと…」とか抜かしてるような。
──古着のネェちゃんはともかくとして(笑)、例えば山口さんが敬愛するカーティス・メイフィールドやダニー・ハサウェイが遺したアルバムのような、いつまでも聴き継がれる作品を世に出していきたい気持ちはありますよね?
山口 ええ。でもその反面、いつまでも残りたいという心自体が卑しいんじゃねぇかみたいなのもありますね。そういうことを考えてる時点で美しくないんじゃないかって。
──それよりも一瞬一瞬を燃焼していたいというか。
山口 いや、それも恰好良すぎますね。そんな大した男じゃないんですから。何て言うんですかね、世界で最高のロックのひとつを今日本でやってるんだ! っていう、僕達はただそういうことをやっていきたいだけなんです。音楽がそれを望んでるかどうかがすべての基準であって、とにかく音楽が絶対の存在なんですよ。


◆LIVE
<ACOM GET A LIVE『新しき日本語ロックの道と光』ツアー FINAL!>
2004年3月12日(金)下北沢SHELTER

OPEN 19:00 / START 19:30
PRICE 2,000yen(1DRINK代別\500)
【info.】HOT STUFF: 03-5720-9999

<ACOM GET A LIVE『新しき日本語ロックの道と光』ツアー 追加公演>
2004年3月23日(月)新宿LOFT

OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE 2,000yen(1DRINK代別\500)
【info.】HOT STUFF: 03-5720-9999

◆RELEASE
新しき日本語ロックの道と光
MASTERSIX FOUNDATION
SRCL-5632 2,520yen (tax in) / IN STORES NOW

美しき人間の日々
MASTERSIX FOUNDATION
SRCL-5713 1,260yen (tax in) / 2004.4.7 IN STORES


◆サンボマスター 公式ウェブサイト http://sambomaster.com/