生々しさとファンタジーが同居してるのがいい ──堀内さんの音楽的なルーツは、どの辺りなんですか? 「えーと、僕は姉が16歳上で、兄貴が17歳上なんですけど、ザ・タイガースを生で観てたりする世代なので、その辺の影響は強いと思います。ビートルズとかストーンズも自然と耳に入ってきてたし。それとは別 に『ザ・ベストテン』とかも見てましたけど、僕が“サザン(・オールスターズ)が好き”って言うと、姉が“じゃあ、これも聴いてみたら?”ってリトル・フィートとかジョー・コッカーを教えてくれて。まぁ、子供の時はあんまりわかんなかったですけどね(笑)。高校くらいからは60年代のブリティッシュ・ビートにずっぽりハマってました。そこから広がっていく感じで、とにかく60年代、70年代の音楽──アメリカでもイギリスでも日本でも──はめちゃくちゃ好き。それ以外は、まあちょっとずつ好きって感じかな。特に好きなのは、キンクス、ビーチ・ボーイズ、ニール・ヤング、ジェイムス・テイラーですね」 ──そういう音楽の要素は『パラレル』にも色濃く出てますよね。 「はい」 ──その一方で、“生活”から生まれるリアルな感情や息づかいが感じられて。そこが面 白いなって思いました。 「うん、なんかね、いまの日本の音楽の在り方っていうか、もの凄くコマーシャリズムに乗った感じのものと、もの凄く生々しいものとに分かれてる気がするんですよ。ドキュメントとファンタジーのどっちかに寄ってるっていうのが凄いイヤなんです、映画でも音楽でも。生々しさとファンタジーが同居してるのがいいなって思う。サラッと聴いて“いいな”って思えて、かつ、ヘッドフォンで聴いてもグッとくるものを作りたいんですよね。自分の作った音楽を聴いてくれる人がいて、しかも救われた感じになってくれたり、楽しい気持ちになったり……それは凄いことなので。僕はまだまだなんですけど、少しずつそうなっていけたらいいなって思いますね」 ──その考え方を集約したのが、「ミュージック」という曲の「損得は いつだって 気になる/問題は それプラス ファンタジー」っていうフレーズなのかも。 「そうっすね。損得は大事だと思うので、やっぱり」 ──大事ですよねぇ(笑)。特にオトナになると。 「ギブ・アンド・テイクっていうか、お金の話だけではなくて、人とのつながりってことだと思うんですよ。お金の貸し借りはそれほど気にならないんだけど(笑)、精神的な貸し借りは凄く気になる。『これだけのことをやってもらったんだから、こっちも返さなくちゃ』っていう。そういう性格の人って、イヤなことも忘れないんですけど(笑)」 ──しつこいんだ?(笑) 「そう。僕は青森、津軽地方の出身なんですけど、青森県人のしつこさみたいなものは自分のなかにもありますね。ウチのほうの人って、そういう人が多いんですよ。太宰 治、寺山修司とか棟方志功もそうだと思うけど」 ──このアルバムにおける“リアルな生活感”は、その辺りに起因してるのかもしれないですね。でも、「食いつなぐ事も/支払いもローンも/全部ノドで片づけばいい/それで済むのなら」(「多分多分」)なんて、めちゃくちゃ強烈ですよねぇ。 「いまはまだいいんですよ、お金をもらえる算段がついてるから(笑)。何もしてない時なんて、ひどかったから。水道を止められて、公園に水を汲みに行ったりしてましたから」 ──すっごいなあ、それ。あの…「何もしてない時」って、どういう状況だったの? 「99年にバンド(バブルバス)を解散してから、2年ぐらいは何もしてなかったんです。まったくやる気がしなくて、『(音楽を)やめようかな、どうしようかな』って思ってる感じがずっとあって。大変っちゃあ大変だったけど、普通 にバイトとかして悩んでるのは、いま思うといい体験だったと思いますよ。とことん落ちると、そのなかにもいいことがあったりするし。まぁ、『ちょっと良くなったかな?』って思うと、いきなりイヤなことが起こったりするんですけど(笑)。その繰り返しですよね、いまも結局は」 ──そういう生活のなかでも、“ファンタジー”が必要だと思ってるわけですね? 「そうですね。ちょっとしたファンタジー……たとえば、寝る前に曲順のことを考えてたら、なんだかわかんないけど、いつの間にか海のことを思い浮かべてたりするんですよ。多分どこかでつながってるんだと思うけど、そういうことでもいいと思うんです。この『らんぶる』(取材が行われた新宿の喫茶店。昭和25年開業当時のインテリアをそのまま使っている)もかなりファンタジーですよね。携帯もつながらないし」 ──そうですね(笑)。 「“ファンタジー”は、もともと、デザイナーの小田島 等君がドイツに行った時の話から来てるんですよ。向こうでいろんな人と話してるうちに、『自分にとって大事なものは何だ?』っていう話題になって、ある日本人が『正直言って、お金が大事』って言ったりしてたらしくて。で、小田島君は『ファンタジー』って答えたらしいんですよ。それが面 白いなって思って」 ──堀内さんなら、何て答えるの? 「僕は……音楽とか歌ってことではないですね」 ──あ、そうなんだ。 「うん。何だろう……自分のエゴみたいなことじゃないかなぁ。まぁ、言ってしまえば『自分が一番大事』ってことなんだろうけど。自分が良くなれば、他の人もちょっとは幸せにできるかもしれないし」
自分のことを好きになれるのは歌う時くらい ──じゃあ、音楽を作る動機って、どんなところにあるんですか? 「あのね、世の中にあるいろんな行動のなかで、たとえば美味しいものを食べたり、お酒を飲んだり、セックスしたり……ほら、いろんなことがあるじゃないですか」 ──楽しいことが。 「いろんな楽しいことがあると思うんですけど、曲ができた時の感動は、それを上回るものがあって。『助かった!』って気分があるというか。まず、自分を救おうと思ってやってる部分があるんですよね。それが人にもいい影響を与えられたらいいなって。まぁ、快楽みたいなことなんでしょうけどね、簡単に言うと」 ──どんなにヘビィな感情であっても、最終的には快楽的なポップにしたいってことかもしれないですね。このアルバムも、ポップスの範疇に入るものだと思うし。 「あ、それは凄い嬉しいですね」 ──やっぱり、明るい音楽のほうがいいわけでしょ? 「そっちに向かって自分を掻き立ててるって感じですね。マイナー・キーの曲だったら、何十曲も作れると思うんですよ、僕は。だけど、明るい曲を作りたいなって気持ちも凄くある。その辺は戦ってるところですね」 ──参加メンバーの演奏も、“ポップ”ってことを意識してるような気がします。みんな、以前からの知り合いだったりするんですか? 「そうっすね。一番付き合いが長いのは石垣君なんですけど、隈倉君と小寺君もかなり前から知ってて。杉浦君とは、わりと新しいですね。隈倉君と石垣君が田辺マモルさんのバックをやった時に鍵盤を弾いてたのが、杉浦君なんですよ。で、僕が『レコーディングするんだけど、誰か鍵盤やってくれないかな?』って言ったら、紹介してくれて」 ──アレンジに関しては、細かくチェックするの? 「ある程度は言いますけど、あんまりカチッと決めることはしないですね。その人のフルを出してほしいっていうか、“その人が演奏してる”っていうのが見えてくるようにしたいので。適当に上手い演奏でごまかされるのだけはイヤなんですよ。あと、『どうして、そういうフレーズになるのか?』ってことは気になりますね。本人がホントにかっこいいと思ってやってるかどうか、っていうか。気持ちの持ち方で説得力も変わってくると思うし」 ──単に演奏が上手ければいいってことではない、ってことですね。 「それが最近、やっとわかってきて。たとえば誰かができない時に他の人に頼んだりもするんですけど、やっぱり、感情のやりとりってところまで行かないとイヤなんですよね。今の面 子はみんな、ある程度楽器で会話ができる人たちなので、そこは大事にしたいですね。一応ソロってことでやってるんですが、実際には凄くバンドに近い。それぞれが寄り添いつつ戦ってる感じは、出てると思います。まぁ、いろいろ大変ですけどね。みんな忙しくなってきてるからスケジュール調整もめんどくさいし(笑)。音楽的にも葛藤することが多いんですよ。本当はそんなこと思ってないけど(笑)。なんか雰囲気的に、ガーッとやっても若い子にはかなわない、変に作り込んでもオッサンにはかなわないって感じがあるし。その両方がぶつかり合いつつ存在してるのが、『パラレル』たる所以(ゆえん)なんですけど」 ──自分の歌については、どうですか? 声をまっすぐに出す、日本語が日本語としてはっきり聞こえる歌い方だと思いますが。 「それもね、自分のなかの気持ちよさ、なんだと思います。バーンと歌わないとイヤっていうか、行ける音域までは行かないと気持ちよくない。体調によっては『しんどいなぁ』って思う曲もあるんですけど、歌ってる時の楽しさを追求すると、どうしてもそうなる。自分のことを好きになれるのは、その時(歌ってる時)くらいですからね」 ──なるほど。でも、いいアルバムなので、たくさんの人が聴いてくれるといいっすね。単純な言い方ですが。 「や、でも、ホントにそうですよ。いまは機材も発達してて、ひとりである程度何でもできちゃうでしょ。そういう世の中で、バンドでスタジオに入って、エンジニアと一緒にレコーディングするっていうのは凄く贅沢なことなので。そういう部分は、凄く感謝してます。自分にお金をかけてもらってるっていう意識もあるので、頑張っていきたいですね。“目指せ、スティーリー・ダン”で。そんな好きじゃないけど、とりあえず形態だけは似てるので(笑)」
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