常に放浪を続ける花田裕之から届いた3年ぶりの手紙
 花田裕之の音楽を聴くと、なぜか僕はいつもジャック・ケルアックの『路上』を思い出す。あの小説の中で、主人公サル・パラダイスがディーン・モリアーティに憧れて路上生活を始めたように、あるいは『路上』そのものに憧れた多くの読者が全米をヒッチハイクで横断したように、僕は花田裕之の音楽に誘われて放浪への想いを強くする。それは実際の旅のみならず、人生そのものの放浪への誘惑でもあるのだ。  昨年、ROCK'N'ROLL GYPSIESとしての1stアルバムをリリースした花田裕之が、この7月、朋友・井上富雄、椎野恭一とのトリオ形態(花田裕之BAND)による約3年ぶりのソロアルバム『NOWADAYS』をリリースする。フジロックのルースターズ・ラストライブも控え、ソロ、バンドと充実した音楽活動をする花田裕之にRooftop恒例のインタビューを敢行した。テーマは「花田裕之に見る男の美学」。いやあ、ほんと憧れます。
(INTERVIEW:加藤梅造+椎名宗之)

●『NOTHIN' ON』がなかったら、ROCK'N'ROLL GYPSIESもなかったかもしれない
──ニューアルバム『NOWADAYS』には好きな曲がたくさんあるんですが、中でもキーチューンとなっている「手紙でもくれ」がいいですね。歌詞の中の“思い出したら手紙でもくれ”ってところが、実に花田さんのファンの気持ちをそのまま歌ってるなあと。  ああ、俺に手紙書けって?
──いや、本当の手紙じゃなくて、アルバムとかライブが花田さんからの手紙ってことなんですけど。僕もそうですが花田さんのファンって、花田さんのCDを毎日聴いたり、毎日想ったりしてるわけじゃないと思うんです。でも、時々CD聴いたりライブに行ったりして、そろそろアルバム出ないかな〜って、なんとなく期待している人が多いような気がするんです。
 そうなんだ。今回もそのぐらいのタイミングで聴いてくれればいいと思います。
──でも、去年にROCK'N'ROLL GYPSIESのアルバムが出てるから、それほど間はあいてないですよね。
 この3人(花田裕之BAND)は、もう5,6年やってるんだけど、そういえばアルバム出してないってことに気づいて。まあ、うすうすは思ってたんだけど、去年GYPSIESを出した後に、じゃあこっちも取りかかろうかと。
──前回のソロ作品(『NOTHIN' ON』)では、ドラムの椎野さんと二人だけでレコーディングしてるから、今回は井上さんも入れた3人でやろうっていうのがあったんですか?
 それもちょっとは。なんとなく気になってたし(笑)
──花田さんと井上さんはデビュー以来の関係ですけど、花田さんにとって井上さんはどういう存在なんですか。
 もう、なんか演奏してて、右か左を見るとそこにいて当然というか。かといってそんな特別 親しいわけでもないし。まあ井上さんには井上さんの世界がちゃんとありますから。
──でも、なぜ『NOTHIN' ON』は3人でやらなかったんですか?
 あの時期はそういう発想はなかった。出さなくてもいいやぐらいな感じで録ったからね。録った後、やっぱり出そうってことで、後で椎野さんにドラムをダビングしてもらったから。
──じゃあ、もともとは完全なプライベート録音だったと。
 そう。
──でも、これまでの花田さんのヒストリーの中で考えると、『NOTHIN' ON』ってかなり重要な位 置にあると思うんです。
 俺も後から考えてみて、そういうアルバムだと思う、っていうか、これ出したおかげですっきりしたところがある。聴いてる人のことを考えず、一人で勝手にスタジオに入って、そこで出てきたもんだけを録っていくという、その時は、そういう感じでしかやれないような時期だったから。
──1人でやるほうが楽しかったんですか?
 いや、楽しくなかったよ。
──じゃあ、苦しかった?
 苦しくもないけど、まあ、淡々とやってたかな。
──『NOTHIN' ON』という、ある意味ものすごくパーソナルな作品を出したからこそ、その後、もろバンド形態のGYPSIESが出せたってことなんでしょうか。
 うん。あれがなかったらGYPSIESもなかったかもしれん。

●ルースターズ・ラストライブは個人的な気持ちが一番大きい
──今の花田さんは、バンドとしてのGYPSIESと、今回出したソロ(花田裕之BAND)の2つのユニットを平行してやってるんですよね。
 あと、弾き語りも。その3つがそれぞれあって、それがいま自分にちょうどいい。同じことが続くと飽きたりするから。
──結構、自由にやっている感じですね。
 そうかな。まあ、だんだんこうなったというか。ここに落ち着いたというか。
──ところでフジロック(ルースターズのラストライブ)はどういう経緯で決まったんですか? 僕的には最初知ったときかなりびっくりしたんですけど。
 それは僕的にも(笑)
──スマッシュ(フジロックの主催)から話がきて、すぐOKって感じだったんですか?
 そう、大江がああいう感じで戻ってきたんで、うん、それはもう、できたらいいなあというのがあったし、俺もルースターズでの大江との別 れはもやもやした感じだったし、それは池畑さんも井上さんも一緒だと思うけど、そういう残っている気持ちがあったと思う。それをさっぱりするって言ったらおかしいけど、一回やれば、気分的にも変わると思う。それがフジロックならなおさらいいし。
──そのもやもやした気持ちが、ライブをやってみてどうなるかなって感じなんですか?
 そうやね。終わってみないとわからないですけど、まあ一回やらなくちゃいけんやろうって。
──でもこれがルースターズのラストライブなんですよね。
 うん、だから当然観に来てくれるお客さんのためっていうのもあるけれど、一番大きいのは、やっぱり個人的な気持ちだし、今まで持ってきたもののためにやるというか、過去ずっと続いてきた気分のためにやるっていうのがあるから、やっぱりラストかなって。
──この日がくるのを待ってたという部分もあるんですか?
 いや、それは期待してなかった。むしろ、ずっとこの(もやもやした)気持ちを持ち続けるのかなって思ってたから。
──実際、僕らのようなファンにとっても、フジロックのライブは予想外のことだったんで、観た後に何かしら気持ちの変化っていうのはあると思います。ところで、花田さんは、GYPSIESはもちろんソロでもルースターズの曲をよく演奏しますよね。そのへんのこだわりみたいなのはなかったんですか?
 俺もそういうことができるようになったのはここ4,5年で、それは、ルースターズの曲が、好きな曲をカバーするみたいに思えてきて、だから今はこだわりなく普通 にやれるんですよね。
──ところで次のアルバムはGYPSIESのセカンドになるんでしょうか?
 そう。できたらレコーディングに入りたいなあと思ってる。
──メンバーが忙しそうな人ばかりで集まるのも難しんでしょうけど。井上さんも新ユニットを始めたりとか。
 でも、井上はGYPSIES辞めたんだよ。今は、奈良(敏博)さんがゲストでやってる。
──え、そうなんですか。なんで辞めたんですか。
 なんかいろいろ思うところがあったんじゃない?
──理由は訊かなかったんですか!? 「何で辞めるんだよー」とか。
 今更わざわざ訊くような間柄でもないしねえ。「ああ、そう」ってぐらいで。まあ、3人でやってる方(花田裕之BAND)もあるから。
──まあ、花田さんと井上さんぐらい長いつきあいだと、なかなか他人には理解できないものがあるんでしょうけど。ある種、男の世界というか。
 そうかなあ。
──花田さんは男の世界とかどうですか。意識します?
 任侠とか? 興味ないよ。対極にあるから(笑)
──任侠というよりは、もっとハードボイルドな感じですね。
 ゴルゴ? まあ、池畑さんはゴルゴっぽいけど(笑)
──いやもっとハンフリー・ボガートみたいな。でも、花田さんのファンって、そういう男のカッコよさを求めていると思うんですよ。実際、男のファンも多いし。だから、今後もそういう男の世界を見せて欲しいんです。
 男・・・・いやです(笑)
──そんなこと言わずにお願いします! 期待してますから(笑)


★Release

NOWADAYS

PICTUS/SWAY DLCP-2028
2,940yen(tax in)

07.28 IN STORES

★Live Info.
■花田裕之(ソロ)
7月3日(土)鹿児島T-BONE
7月4日(日)熊本BATTLE-BOX
7月15日(木)下北沢440

■花田裕之バンド <花田裕之 (g,vo), 井上富雄 (b), 椎野恭一 (ds)>
8月25日(水)下北沢CLUB Que  
w/ SYMPHONY OF DESTRUCTION <下山 淳 (g), TOKIE (b), 湊 雅史 (ds)>

花田裕之 OFFICIAL WEB SITE http://www.irc2.co.jp/hanada/