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これは大阪でほんとつい先日撮ってきたやつですけど、豆腐屋さんなんですよ。……柔らかくないんですよね、もう。柔らかそうに見えて角があるんですね |
看板の写真を撮るということが俺が生きるということ
──B級路上観察ライターという肩書きですが、なんで“B級”なんですか?
「基本的にB級人間なんですよ(笑)。駄菓子が好きで、しょうもない看板が好きで、おしゃれな街が苦手で。代官山行ったら5分で息が出来なくなる」
──あ、それ分かる気がします(笑)。では、好きな街というと?
「やっぱり猥雑な、東京やったら高円寺・荻窪・西荻窪・新宿。小岩・新小岩・亀戸……」
──あんまり行かないそうなとこも出てきましたね。
「そうですね、(※新宿起点で)上に行くと赤羽とか、千葉に行ったら船橋、下の方に行くと鶴見とか川崎とか。清濁併せ飲む街が好きですね。ただA級な街
の裏側にB級な街もあるので油断はならないんですけど。でも下町が好きかっていうとそんなことないんですよ。根津とか千駄
木とかあの辺は下町保全地区 で、下町を残そうとして頑張ってる。そんな街じゃないんですよね、もっと生活感のある、ヤクザもおればベビーカートを押してるお母さんもいるみたいな。
それで大阪から出てきたところもありますからね。大阪はすごい再開発が多くて、もう路上観察するなら東京しかないと」
──まだ制覇してない街もあるんですか?
「ありますあります。(おもむろに関東の路線図を取り出して)東京だと東部伊勢崎線は行ってないんですよ。今、必死で押さえているのが京急なんですけ
ど、でも京急の大師線とか空港線とかはまだですね。最近目覚めたのは鶴見線! ここはもう爆発してましたね。小田急線は打率めっちゃ低いねんけど、ダイナマイトが何個かあるんですよ」
──路線図を見てかなりアツくなってますね(笑)。もう各駅停車の旅。
「そうですね、パスネットとか。都電荒川線みたいに一日乗り放題があると大体2日で全部回れる。“面
白い看板を見つけるコツは?”って聞かれることがあ るんですけど、昔は地図上でピンク色になっている商業地域が狙い目です、とか日曜日になると快速が止まらないような駅が狙い目です、とか言ってたんです
よ。でもほんまのこと言うとそんな法則ないんですよ。足が棒になるまで歩いて、“もうこれ以上歩かれへん、もう無理や”っと思ったらその先に絶対あるん
です」
──持久力との戦いですね。
「そう、どれだけ歩けんねんっていうことでしかないですね」
──そもそも吉村さんが路上観察に興味を持たれたきっかけは何だったんですか?
「高校生の時、8ミリ映画少年だったんですよ。それで、ロケーションハンティングっていう作業があって。で、ずっと街を彷徨って写
真を撮っているうち に、面白い看板が結構あるんですね。そんなんで、ロケハンそっちのけで写
真を撮り歩いていたら結構集まって。で、“撮ってるけどどうすんねん”と。そこ
にたまたま宝島の【VOW】が始まったんですよ。VOWって今でこそ面白い街の風景とか誤植とかを紹介するような趣旨のものですけど、元々それは1コー
ナーで、写真が2点くらいしか載らなくてあとは全部情報コーナー。そこに送ったら写
真が載って。それが宝島に投稿し始めた最初ですね。高校時代からス タートして現在に至る(笑)って現在は投稿はしてないですけど」
──今では吉村さんが編集されているVOWもありますからね。
「全然飽きずに未だにやっている感じですね。VOWの誤植とか新聞記事とかあるじゃないですか、僕、あんなんよう見つけへんのですよ。ストリート派とい
うか……【ストリートスライダー】なんですよ。スライドで上映するし。ほんま【前略道の上から】ですよ(笑)。
──ちょっとかっこいいこと言わしてもら うとね、なんでこんなに飽きひんのかな?と。高校時代に看板の写
真を偶然に撮って、そこから今に至って。しかも雑誌のコンテンツとしては絶対メインにも
お金にもならへん、仕事になんかならへんワケですよ。じゃ趣味として割り切れるのかというと、趣味と言うにはあまりにも仕事にリンクしている。これはど
ういうことなんだろうと最近思うて。“そうか!看板の写真を撮るということが俺が生きるということなんや”と」
──生き甲斐、ですか?
「生き甲斐というか生きる目的ですよね、もう。最初ね【VOWの吉村ちゃん】って編プロ務めしても、テレビの仕事しても言われるからいい加減イヤで、俺
はそれだけじゃない!って思うて、一生懸命テレビ作ったり、音楽批評みたいに固い仕事もやったけど、やっぱりこの仕事(路上観察)に引き戻されるんです
ね。で、最近の担当編集とかに話聞くと、当時の投稿を見て、名前を覚えてて、今、原稿依頼が来ているんですよ。僕らと同世代だった人が何らかの媒体に携
わって、仕事発注出来る立場になってVOWの吉村ちゃんに原稿依頼、みたいな。一巡してるんです。これは死ぬ
までやっとんのやろうなと思うて。で、なん でやってんのかなって思ったら、これ別
におもろい看板見つけて、バカにしたいワケじゃないんですよ。【供養】してるんちゃうかなと思うてね。というのも
ね、看板ってすごい寿命短いんですよ。大阪にいて痛感したのが、街の再開発がめっちゃ多くて。大阪って土建屋の街ですから、すぐに街を新しくしちゃうん
です。東京より都会っぽいねんけど、悪い意味でダサい。小綺麗にして、駅前の商店街つぶしてコミュニティ広場作って、じゃ誰がコミュニティしてんねんっ
て言ったら鳩しか歩いてないっていう、そんな広場作ってね。結局土建屋が儲かってるだけなんですよ。で、看板の寿命がめっちゃ短いから、遺影っていう
か、生前の写真を撮り歩いているんやろうなっていう気しますね」
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これね……律儀な犬ですよね。荷物がベチャってならないようにちょっと浮かしているくらいの距離で、ご主人が帰ってくるまで見張ってるんですね。撮っ
た時キッとこっちを睨んでましたからね。使命感に溢れてますよ |
VOWマシーン登場!で路上観察人口(女子)増加中!
──今WEBでは【日刊 耳カキ】と【excite ブログ】と【街のヘンなモノ!VOW(携帯サイト)】の三つサイトをやられていますよね。
「携帯は僕の作品じゃなくて一般からの投稿なんですけど、このIT革命がVOWにめちゃくちゃ影響しているんですよ。exciteblog一日のアクセ
ス数は5000ですよ。なんで今頃流行っとんねん、って思いますけど(笑)。とにかくね、カメラ付き携帯の普及ってすごいんですよ。今までVOWって男
社会やったんですよ、カメラを持ち歩くなんてね。で、こんだけ日本中の街を掘り起こして、もうネタないでと思ったら、カメラ付き携帯が出来てから女性の
投稿が増えたんですよ。今、半分以上女性ですよ。デジカメですらまだ男社会やったのに。例えば自分の家の近所に面
白い看板があったとしても、女性ってわ ざわざカメラ持ち歩いてそんな写真撮ったりしないじゃないですか。ところがカメラ付き携帯だと撮るんですね。しかもすごいのは、写
真撮るじゃないです か、もういきなり携帯の文字でキャプションを書けるんですよ。で、送信! VOWマシーンですよ、これ」
──確かに(笑)。でも携帯サイトってことは月額費用もかかるんですよね?
「最初この企画を始めた時に“今単行本しかないVOWに誰も送ってきぃへんで”言うて、仕込み入れなあきませんねって言ってたら、全然そんなことなく
て。もう泣く泣くボツにする作品とか出てくるんですよ。ここに来て路上観察の人口が一気に増えているんです。またそれをネットにアップできるじゃないで
すか」
──そうすると同業者が増えてしまいますよ(笑)。
「もう大歓迎ですよ! だって日本中行けませんからね」
──あぁ! 逆に各地に特派員がいると思えば。
「そうなんです。それにね、これが腹が立つのが東京からの応募がすごい少ないんです。東京ってVOWの宝庫なんですよ! なのに東京からの応募が少な
い。なんでかっていうと、東京の人らってやっぱり傍観者なんですね。“まぁ笑わしてもらおうじゃないの”みたいな。いや、そんなことないねん、東京に
いっぱいあるねんて。っていうこともイベントで訴えたいんですよ。東京こそですよ、ほんま。こんなに商業地域があってね。よく“大阪の看板は面
白いです ね、やっぱり大阪の庶民の笑いでおかみに対しての反骨精神みたいなのが看板に現れているんですかね”って感じで、インタビューを受けるんですよ。あほな
こというな、東京がめちゃめちゃ多いんや!って。東京の一駅一駅全部歩いてみてください。ほんまにすごいですから。東京って頭おかしいですよ。それを訴
えたいですね、イベントで」
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これアパートですよ。アパートの郵便ウケ(個人用)。これどこやったか忘れたんですけどね、アパートの入り口に各自の専用のポストがないんですね |
──東京は頭おかしいぞ、と。
「頭おかしいと書いて【東京】と読むくらいの」
──ちなみにストックとかどれくらいになるんですか?
「ストックは──おもろいかおもんないかは別にして、1万はあるでしょうね。大体年間100枚が及第点。そこから更に次回のイベントにも使えるものと
言ったら10枚くらいですね。だからイベントをやるたびに新ネタやるねんけど、やっぱり旧作とリンクしていく写
真が多くて、前のイベントでやった写真も いっぱい残るんですよ。そうするとなんかウナギ屋が戦前からのタレを継ぎ足し継ぎ足しやっているみたいで(笑)、どんどんイベントをやる度に濃くなって
いくんですよ」
──じゃイベントに向けて言っておきたいこの一言、ありますか?
「僕だけじゃないんですよ。まったく無名のカメラマンで屯田(名人)っていう元蟻地獄のメンバーが動物面
白写真をものすごく持っているんですよ。で、生 きているものでもVOWがあるっていうのを楽しんでもらえるんじゃないかなと。だから動物好きな人が笑えるコーナーもあります。あとコメンテーターがほ
とんどモダンチョキチョキズのメンバーなので、モダチョキのファンも楽しいんじゃないかなと思います。フィリップくんとか、結構久々にステージに上がる
んで。そういう楽しみもあったりしますから。あと写真を持ってきてくれたらステージに上がってもらって」
──お! 持参コーナーありですか。
「アリです。あと初めての試みとしては、今まで映写
機でやってたんですが、さっきITの話もしましたが、今回初めてパワーポイントでやるんで、今までと
違って近づいたりとか、並べたりとか出来るんで、見せ方もちょっと工夫を。看板の写
真を撮り歩くっていうアナログな行為とITがリンクしているというの を、実践してみたいなと。大失敗したらどうしよ。パソコンでの上映ってやったことないんですよ、一回も(苦笑)。でもほんまにパソコンとか進化してか
ら、こっち関係の呼び声がものすごい増えた。一時期自分の中でも“VOWとかもうええで、ダサいで”って思っていたんだけど、そんなことはなくて、IT
のソフトとして十分。もう楽天が球団作るくらいだから、もう一回VOWでもう一周してみようかなと思って」
■イベント情報
日刊耳カキPresents
「おもしろ路上観察トークライブ 『吉村智樹のひとりVOW! 〜街がいさがし〜』」
10月16日(土) 新宿ロフトプラスワン
出演:吉村智樹、フィリップくん(ex.モダンチョキチョキズ)、磯田オサム(ex.
モダンチョキチョキズ)、ハセベノヴコ(ex.モダンチョキチョキズ)、屯田(名
人)ほか
OPEN 18:30 / START 19:30
PRICE:1,000yen(飲食別)
※前売券はありませんので当日直接ご来場下さい。
【日刊 耳カキ】 http://www.mimi33.com/
【excite ブログ】 http://blog.excite.co.jp/yoshimura/
【街のヘンなモノ!VOW(携帯サイト)】 http://www.vow.tv/
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