「1曲の一瞬でも、ヤバイものがあるものに惹かれる」(クボ)
──今回は“ロック”というお題のもと、対談を行ないたいと思います。早速、持参してくれたロックを感じるCD3枚について、各1枚ずつコメントを添えて紹介して頂きたいです。
クボ「まず僕は、メレンゲが影響を受けたウィーザー。これはね、泣きのロックです。日本人にも通
じるメロディを持った曲をやっているなぁと」
──ウィーザーのどんな作品ですか?
クボ「これはこのバンドのファーストなんですけど。これはね、とにかくよく聴いていたので持ってきました」
──これを手にしたきっかけは何だったの?
クボ「当時、UKロックが流行っていた頃で。アメリカのバンドなんだけど、UKモノにも通
じるところもあって。 ジャケ買いしたんだけど、これはもう名盤中の名盤」
志村「メレンゲとちょっと通じるものがありますよね」 クボ「ウィーザーを聴くと“あ〜好きなんだなぁ”って判ると思いますよ」
──では、志村君の1枚は?
志村「荒井由実の『ひこうき雲』です」
──これはいつ頃手にしたの?
志村「2〜3年前です。比較的最近なんですよ。曲が良いのはもちろんなんですけど、バックの演奏とか凄いんですよね〜」
クボ「何気に凄いよね」
志村「バックがティン・パン・アレーなんですよね。凄いファンキーなんです。あと、少女が思ったことを真剣にやっている気がして。そういうの凄い好きだなぁって」
クボ「女の子しか判らない世界っていいよね」
──では、2枚目を紹介して下さい。
クボ「これは10代の頃に唯一聴いたメタル・バンド、アングラです(笑)。ブラジルの人なんですけど、もうね、びっくりするくらいの泣きメロで。ブラジルの人って独自のポップ・センスを持っているから、とにかく何でもいろんな音を詰め込んでいるんです。影響を受けたというよりかは、笑っちゃうくらい“すげぇ〜”って思った」
志村「文化的背景も関係するんだろうね」
クボ「季節感とかも凄く関係していると思うよ。イギリスはずっと天気が曇りがちだから、やっぱり抑揚がサビになっても来ないとか…。アメリカはカラッとしているから、カラっとした抜けた感じの音だったり。日本には四季があるから、侘び寂があるというか。気候が音楽に影響しているんじゃないかなって」
──志村君の2枚目は?
志村「フジファブリックからもブラジルのものを1枚挙げます。これはエドゥ・ロボっていう人の作品です。アルバム・タイトルも『エドゥ・ロボ』。この人はブラジル界のボサノヴァを作ったような人。これを聴くと凄い頭がおかしくなりますね。普通
のボサノヴァじゃない。僕はボサノヴァが好きなんですけど、ブラジル人がやるポップ・ミュージックが凄く大好きです」
──では、クボ君の3枚目は?
クボ「エルヴィス・コステロの『BRUTAL YOUTH』です。コステロのなかでもシュールなアルバム。歌詞も皮肉なことばかり唄っているけど、曲だけ聴くとめちゃくちゃキラキラしている。でもリズムの変わり方や楽器の使い方が凄い変態チックで。エルヴィス・コステロは、僕のなかで“メロディが良い”という印象があるけど、これを聴いて凄いロックだなぁと感じました。激しいだけがロックじゃないというのをコステロから教わりました」
──志村君の3枚目は?
志村「レッド・ツェッペリンの『PHYSICAL GRAFFITI』です。ツェッペリンの作品だったら何でも良かったんですけど。僕のなかのロック・スターというか、ロックはこうあるべきと教えてくれたのがツェッペリンなんですよ。こうして3枚並べてみると、聴くと頭をどこかへ連れていってくれるかのような音楽やバンドが好きですね」
クボ「うん、1曲の一瞬でも、ヤバイものがあるものに惹かれるよね」
「音楽は辞められないと感じられたことがロックだな、と」(志村)
──ロックを感じるCDを挙げてもらいましたが、例えば自分のなかでロックを感じる人っている?
志村「一杯いますよ」
クボ「僕はね、エレカシの宮本(浩次)さん。オーラが出ている」
志村「自分の生き様、人生を懸けて何かをやる、みたいな…」
クボ「次、生まれ変わったらああいう人になれたらなって思う」
──ちなみにエレカシは聴いていたの?
クボ「初期とか、特に聴いていました」
志村「エレカシは、クボさんに教えてもらって聴くようになった。エレカシは100%本当のことしか唄わないじゃないですか?
どんな姿でも、本当の自分を出さなきゃいられない、みたいな。そんなところがロックな人だなぁと。出さなきゃ死んでしまう、みたいな」
クボ「今年の初めに観に行ったエレカシの宮本さんの弾き語りライヴが凄かった。エレキで弾き語りしていたから。ロックだなぁと。歌詞とかも強烈だし。嘘がないよね」
──志村君は?
志村「僕は原 辰徳です。ジャイアンツの枠のなかで4番のプレッシャーだったりとか、伝統ある球団のなかで葛藤があって。4番らしくいろいろと頑張るんですけど、引退試合にホームランを打って終わるという原
辰徳は伝説の人だなぁと。伝説と言えば長嶋(茂雄)さんかと思うんですけど、庶民派の僕としてはやはり原
辰徳かな、と(笑)」
クボ「あとね、僕は田代まさしはロックだなぁって思いますよ(笑)」
志村「あの人はロックですね〜(笑)」
クボ「懲りない人ってロックだと思うんですよ。あれだけ捕まってもね、またやるから。普通
の人だったら懲りるでしょ? だからよくできるなぁって(笑)」
志村「サッカーの中田(英寿)もロックだなって感じるんですよね。やっぱり自分で新しいところに切り口を入れようとする人ってロックだなって感じるんですよ。発進力とか凄くて、ロックだなって感じますね」
──日々生きてて、自分自身が“ロックだな〜”って感じる瞬間ってある?
志村「学生の頃は冴えなくて、引きの感じなんですよ。いろんな人に憧れてばかりで。でも、僕はバンドをやり始めて、曲を作っていく上で“いい”って言ってくれる人がいて、プラス思考になって。それで、音楽は辞められないなって思った。自分のなかでそういったことを感じられたことがロックだなって。音楽人生、みたいな」
クボ「恰好良くないことだけど、僕、凄く金遣いが荒いなって思うことがある。例えば楽器や機材とか、後先考えずに買ってしまったりとか。スロットとかでお金を使ってしまったり。気付いたら“どうしよう〜”みたいな(笑)」
志村「そういうの重要ですよ。思い込んだら突っ走る、みたいな」
クボ「悪ノリができる人っていいよね。音楽もそういったノリでやっているものに惹かれるなぁ…」
志村「凄い優等生がやっている音楽と、どうしようもない人生を送っている人がやる音楽とでは、どうしようもないほうに惹かれるよね」
クボ「そうだね。何か判るんだよね、ライヴを観ていると。普通に良い音楽をやっていても、“コイツ絶対ヤバイわ…”とか」
志村「自分が曲を作っていても、自分が騒ぎ出してないものはやらないですもん」
クボ「あとね、NATSUMENのASEさんもロックを感じるね。普段、なよなよ喋っていても、ステージに立った瞬間にスイッチを変えられる」
志村「うん、ASEさんは類い稀なロッカーだと思う」
クボ「だって、本当にステージに立った瞬間何するか判らないからね(笑)」
志村「演奏していて、ギターのストラップが首に絡まって終了とか(笑)、ステージ上でビールこぼして、感電して終了とか(笑)」
クボ「でも普段は照れ屋でね。“えっ? 何であんなに変われるのかな!?”って。それに凄い憧れます」
志村「ステージに立った瞬間に何か“ボン”と出るものがあって。いつもは出ない何かが出るものがあって。観る人はそういった人に興味ありますね」
──最近、同世代でそこまでの凄さを持ったロックの人って思えば少ないよね。
クボ「突出したものは少ないのかな? って思うことはあるよね」
志村「同世代だとアナログフィッシュとか」
クボ「そうだね、凄いものを感じる」
──若い世代だと、そこまでスイッチが入る人が少ない分、親しみやすさが全面
に出ている人が多いよね。
クボ「女性だったら誰かな?」
志村「女性だったら、戸川 純さんとか…」
クボ「そう言えば、志村君はAMADORI好きだよね?」
志村「あの人は凄いです。ヒリヒリしますね。初めて聴いた時はびっくりしました」
クボ「でも普段は、わりと普通なんだよね」
2人の出会いの掛け橋は新宿ロフト
──あと、これはロフト発刊のフリーペーパーなんで、ちょこっとロフトの話題にも触れたいと思います。2人にとって、数々ロフトに出演したなかで一番印象に残った出来事を聞かせて下さい。
クボ「ロフトの市松模様のステージは有名だったから、初めてあのステージに上がれた時は凄い感動しましたけどね」
志村「僕もそうですね。ロフトに初めて出る時は“ロフトかぁ…”っていうのはありました。今でもやっぱり、ロフトはちょっと気合い入りますね。そんなロフトで取材を受けたり、自主企画をやれたことは光栄だなぁって」
クボ「レーベルでも2人ともお世話になったし、温かい場所だなって。ロフトのことも判っているし。…ロフト・ラーメンとか(笑)」
──あと、何せこの2人の出会いの掛け橋は新宿ロフトだもんね。
志村「ロフトで対バンした時に、意識して。2度目の対バンの時に喋って仲良くなった。クボさんだけですよ、飯喰いに行ったりするのは」
──あと、メレンゲは新作『初恋サンセット』をリリースしたばかりですが、フジファブリックはファースト・アルバム『フジファブリック』をリリースするんだよね。お互い作品は聴いた?
クボ・志村「聴きました」
──ミュージシャンの観点からお互いの作品の感想を教えて下さい。
クボ「凄い作品だなぁと。全部、聴いたよ」
志村「昔のメレンゲの良いところが伸ばされたような作品ですよね。それとボリュームがあるなぁと。歌詞もクボさんのまんまで。僕の立場から言わせてもらうと、自分ができないことばかりやっているので凄く羨ましいです。打ち込みとか、バンド・サウンドのキラキラした感じとか。歌詞、見ているだけでもクボさんだって判る」
クボ「フジの『陽炎』とか『赤黄色の金木犀』とか、表現の方法は違うけど見ている世界は一緒なんだなって思った。サビの部分とか。メレンゲって良くも悪くもルーツ・ロックっていうのがないんですよ。でも、フジファブリックはあるんです。ルーツのままで終わってないから、メレンゲにとっては羨ましいですね」
──では、最後にコメントをお願いします。
志村「ロフトから育った2アーティストということで、メレンゲだけとは言わず、是非フジファブリックも聴いて下さい」
クボ「5年後もこうしたことをやれるといいね」
──ありがとうございました。
|