人間が進化するには独りになるしかない
──まずは新曲の話から聞かせて下さい。セカンド・アルバム『SELL OUR SOUL』をリリースして以降、シングル『未来は俺等の手の中』、サントラ『HEAT
−灼熱−』もそれぞれある意味テーマありきだったのかな、と。今回の新曲『ROADS
OF THE UNDERGROUND』はザ ブルーハーブの今がものすごく出たものなんだろうと。この曲を今、出そうとしたのは?
ILL-BOSSTINO:やっぱり今年で終わらせるのがでかいね。今年で終わらせるから、終わらせる為の曲。今回は終わらせることが大前提にあったから。
──'05年はライブを一切やらずに音源制作に専念するっていうのを決めたのはいつ頃?
ILL-BOSSTINO:今年の夏頃だね。
──それは何か理由があって?
ILL-BOSSTINO:サード・アルバムを作ることが俺の頭にはあって。オレにとって次のアルバムのタイムリミットは'06年なんだ。ライブをやりながらアルバムを作るつもりでいたんだけど、やっぱりライブやホームページであったり発言の場所があると、考えてることがどんどん出ていくんだよね。溜まっていかないんだ。シングルは作れても、オレがいつも喋ってることをアルバムで聴いても新鮮味がないわけさ。成長や進化を見せないと、良いアルバムを作れないと思ったから。
──セカンド・アルバムを作った時も、「その時までのすべてを出し切った」と言ってたでしょ。「そこから人間的な成長がなかったら次のアルバムは作れない」って言ってたのを覚えてますよ。
ILL-BOSSTINO:そうなんさ。他のミュージシャンのことはよく判らないけど、オレ等は契約もしてないしさ。全部自分で決めなきゃだし、出すスパンもそう。そうなると(アルバムは)自分の人生の節目節目のものなんだよ。ライブをやってると、オレ自身が成長する時間がなくて。ブルーハーブはいくらでも成長するのさ、ライブアクトとしてのブルーハーブはね。有り得ないぐらい進化してるしさ。でも、やっぱり.....、人間が進化するには独りにならなきゃダメだし、そういうものから離れなきゃダメだと思うんだ、オレは。
──今回のシングルでも「独りにならなきゃ」ってことは言ってますね。ブルーハーブのライブは、以前に比べると今すごい完成されたものになってると思うし、それは間違いなくこの3年間で積み重ねてきた結果
だとも思う。
ILL-BOSSTINO:そうだね。'02年からオレとDYEの進化はスタートしてるんだけど、どんどん研ぎすまされていって。隙間埋めて、隙間埋めて、挙げ句は一度も目を合わせなくてもライブ出来るようになって、さらにそこからまだ隙間探していって。これはもう死ぬ
寸前、破滅するぐらいまで行くか、ライブを一度止めるしかないと、今年の8月ぐらいに思ったんだ。ライブを止めて作品作りに入るか、ライブを続けていくかだと。ライブは作っては壊しの繰り返しだから、そんなのずっとやってるとブルーハーブを殺さなきゃいけないんじゃないかとまで思ったんだよね。ザ
ブルーハーブ イズ デッドさ。それぐらい極限まで行っちゃうんじゃないかって思ったのさ。8月の段階ではオレにとってはどっちかだった。両方を平行するのは無理だと判ってたから、どっちかを選択しなきゃという所に来たんだ。それでどっちを取るかを考えてたんだけど、やっぱり次のサード・アルバムを作ることを選んで。ブルーハーブの世界観はもっと洗練されると思うし、オレのリリックもO・N・Oの音ももっと進化する余地があると思うから。8月の段階で分かれ道が見えたけど、オレはもっと作ってみたい、セカンド・アルバムを越えるものを作ってみたい、その気持ちが少しだけ勝ったんだ。それに、すべては繰り返すんだよ。またオレが'99年に『時代は変わる』を出した時のフィーリングになった訳よ。セカンド・アルバム出した時、それまでのオレ達に比べたら有り得ない枚数が売れた。その後、ハイプも増えたし噂も増えた、イメージも増えた。その時思ってたのは、これから3年くらいかけて1人1人にライブでその曲を表現して、オレがどういう人間なのかを表現すること。相変わらずライブに来ない奴とか、イメージしか知らない奴っていうのは沢山いると思うよ。でも、オレ等の音楽を好きで聴いてくれてる人達には、小さい街までは行けてないからさ、全員とは言えないけど、ほぼライブやってる時のエネルギーっていうのは伝えれたんじゃないかと思った。それで落し前つけて、終わろうと思ったんだよね。
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協力:M's disk mastering
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お前等1人1人の為にライブをしてる
──言ってることはすごく判る。セカンド・アルバムはギリギリまで自分を出して作ったアルバム、で、それが歪曲して伝わるのが嫌だから、ライブで各地を廻って。それで正確に伝わったっていう手ごたえがあったから、次のステップに行こうと思ったわけでしょ。
ILL-BOSSTINO:そうなんだよね。それがさぁ、オレ等のことを名前だけ知ってる奴とか、ちょっとだけ聴いたことあるなんて奴含めたら、まだまだかもしれない。それこそホールツアーぐらいのことやんないとカバーできないかもしれない。けど、オレ等のコミュニケーションは、聴きたいと思ってくれてる人達で充分なんだよ。それがオレ等の立ってる場所だと思うし、それがアンダーグラウンドだと思ってるんだ。「誰なのボスって?」という人達の中でライブをするんじゃなく、見てる人達も実物のオレから何かを見たいとか、実物のボスはどういう奴なんだと知りたい人達が存在するからこそ、ライブを見せたいオレもいてさ。オレにとっては200人くらいの箱もでかいと思うけど、ホールと比べてそんなにデッカイ規模ではないわけよ。ただ、そういう場所をここ3年間でずっと廻ってきたからさ。色んな所でオレを待っててくれる人達がいてさ。この3年間で色んなコミュニケーションができたんだ。
──ライブでもよく「お前等1人1人の為にライブをしてる」と言うしね。見てる人も「自分の為にライブやってる」と思うだろうし、ライブ見てても自分の為にやってると思うもん。
ILL-BOSSTINO:それが一番大事なんだよ。そのマジックがすべてでさ、ホールクラスのデカい箱でやると、やっぱりね....、オレにはまだ難しいんだ。1000人が限界で、エネルギーを1000分割が限界で、それ以上だとちょっと薄くなっちゃうから。あとはひたすら数を廻るしかなくて、バンドの人達に比べたら廻ってないわけでさ。色んな街に行っても、皆リリック聴いて待っててくれるし。「よく来てくれた」って感じで迎えてくれて。それで、そいつらが思っている以上のライブを披露すると、それが本当にずっと続くと、最後には「ありがとう、ありがとう」ばっか言ってる自分がいて。「やばい、曲作んなきゃ、こいつらを次来た時に殺す曲を作ろう」って。それで作品作りのほうに目が行ったっていうのもあるから。
──ライブでは、まさしく自分達の極限の状態を見せ続けているしね。
ILL-BOSSTINO:間違いなく、それは見せてる。オレ自身登りきってるからさ。まさに“ライブ”だよね。ライブのみ。今、バンドとかラッパーもそうだけど、世の中にすげぇいるわけよ、同業者って。みんな色んなことして自分のこと知ってもらおうとしてるのさ。オレ達みたいにライブやり続ける奴もいれば、TVに出たりする奴もいるし。今、ブルーハーブはどこの街でも熱狂的に迎え入れてもらえている。オレは1回1回のマブいライブで“お客を殺す”って思ってて、その熱狂をライブだけで増やしている自信もある。オレはそれをカッコイイと思うんだ。どんなにバス走らせようが、ラジオでヘビープレイしようが、オレ等に勝てないと思う。こっちに大義がある。ライブがマブいってのには絶対かなわないんだ。......ライブなんだよ、これぞ“ROADS
OF THE UNDERGROUND”。雑誌もTVも噂もイメージもさ、かなわないわけよ。そんなものは、希薄なコミュニケーションっていうかさ。そんなんでお互いなんて知れるはずないんだよ、せいぜい名前や曲名しか知れっこないんだよ。そこの場所で何が行われているかまでは知れるはずないんだよ、そこにいないと。“ライブがすべて”っていうのをやっと知ったね、ライブをやりながら。オレが今までライブをやってて、すげぇ瞬間が多いんだ。お客さんと本当にいいコミュニケーションとれたっていうね。ほんと、「ライブに遊びに来い」って、そう言いたいね。
──今回のシングル『ROADS OF THE UNDERGROUND』は、ライブで廻ってて出来ていった曲だと?
ILL-BOSSTINO:まさにそうだね。リリースの度に、ささやかながらこういう感じでインタビューも出るしさ。あと、セカンドの時はすごい数のインタビュー受けたし。でも、それはただのインフォメーションでしかないんだよ。
──言い方悪いかもしれないけど、人を介して伝わるものだろうから。
ILL-BOSSTINO:そうそう。本質ではないんだ。それは、ライブなんだよ。そうやって広がっていくことこそ、本当にそれがアンダーグラウンドだ、って。俺は今、すごい人数に支持されてるし、昔に比べたらお金もあるわけよ。それにリリースしたら、すごい数が売れるんだ。この3つってさ、オレが昔知ってたアンダーグラウンドから言うと、もはやアンダーグラウンドではないんだよ。人気があって、金があって、すげぇ数が売れるっていうのは、その3つとも持ってなかった時のオレから見たら、それはもうアンダーグラウンドではないんだ。それはもう、メジャーの域に入ってしまうんじゃないか?
って所に今オレ自身いる訳よ。それでも、オレが何で自分のことを大義名分でアンダーグラウンドって言えるかって言ったら、そのライブをやってるからなんだよね。そのライブで奇跡を起こしている、初めて会った人達と感動を共有しているって手ごたえは、どの街のライブでもあるんだ。これが、アンダーグラウンドだぜっていうのをすごい感じたんだよね。
──でも、その3つを持つ前と持った今でも、変わってない部分っていうのがあると思うんだ。頑なにこだわってることがあるからこそ、自分のことをアンダーグラウンドだと言えると思うんだよね。変わってない部分ってどこだと思う?
ILL-BOSSTINO:ずっと札幌にいるのも大きいと思うんだ。どんなに大きいライブをやっても札幌に帰るしさ。札幌に帰ったら、昨日までの喧噪が嘘のように静かな毎日だしさ。そういうのが強いと思うんだけど。変わってないのは、オレはまだ上を見てるのかもしれないね。まだ実は満たされてないんだよね。昔のオレからすれば、すごいものを手にしてるはずなのに。あと、オレ等のことを認めない奴等がいることがね、オレにとっては変わってないんだと思う。そういう人達が沢山いるから変わってないんだと思う。オレ、ずっとそうだもん。オレ達のことを認めない奴等に、オレ達を認めさせる為の戦いで始めたのがブルーハーブだからさ。たぶん、それだよ。
ロフトは絶対譲れない砦だと思ってる
──あとは、ハ−ベスト ムーンでの活動もブルーハーブにある種の影響はあっただろうと。前はライブがもっと殺伐としてた感じがあったけど、今はもっと....、何か包み込むような感じを受けるようになったから。
ILL-BOSSTINO:あるね。オレから出てるものだからね、それは絶対に否定できないね。昔はもっとカッチリ分けようと思ってたんだ。でも、さっき言ったみたいにね、戦うとか倒すことでオレはずっとやってて、やり続けてきたつもりなんだけど。なんて言えばいいのかな.....、結局ね、最後は愛なのよ。それは、セカンドから始まった3年間の最後に愛を見い出した、ってことでもあるし。もっとミニマムなことで言うと、1時間のライブの中で、最後の15分間でそこを見い出すか見い出さないかの狭間で、結局見い出せて、やったっていうので終わるっていう。たぶん、人生がそうなのよ。ガキの頃からあって、死ぬ
時の最後で結局愛を見い出すっていうかさ。全部に当てはまることなのかもしれない。最後はきっと愛なのかもしれない、っていうのはさ。ザ
ブルーハーブって長い歴史で見ると'97年から始めて今'04年で、今、オレはこの歴史の中でどこにいるのか判らないわけよ。これが'06年で終わるんであれば、もう愛なんだよね。あと15年とかブルーハーブが続くんであれば、まだそこには辿り着いてはないんだ。まだ、先にあるわけだからさ。オレは今、何を書こうとしてるのかをさ、ペンに任せることが強くてね。腹立つことも多いし、オレのことをキャンキャンほざく奴等もまだいるし、それに対して腹立ってるオレもいるしさ。それと同時にオレ等に対して支持してくれる人の愛に対して、オレも返す、っていうさ。混在してるんだ。サード・アルバムは、本当の意味でマイルストーンになりそうなんだ。さっき道が2つに分かれてて、作品作りのほうを取った話をしたけど、ここでもまた分かれてるんだよね。ファーストの後、セカンド作る前に「あのアルバム越えなきゃだね」ってO・N・Oと話したんだ。はっきり言って越えれると思わなかったんだよ。あんなの2度と作れねぇと思ってたから。そして、結局次の年、旅した1年間でさ、ゆっくり削っていくように作っていったんだ。何度もやり直しを繰り返しながらね。少しずつ曲が出来てきて、ああいうアルバムを作ろうと思って作った訳じゃなく、気付いたらアルバムが出来てた。3枚目は、全く同じことになると思う。来年1年間で、オレがDEADを選ぶのか?
LIVEを選ぶのか? 今自分がザ ブルーハーブの歴史の中で、中盤戦にいるのか後半戦にいるのかっていうのは、3枚目のアルバムを作り終えた時にハッキリしてると思う。
──ではシングル『ROADS OF THE UNDERGROUND』も収録された今回のコンピレーションについて聞きたいのですが、まず今回タイトルが『ONLY
FOR THE MIND STRONG』VOL.2じゃなくて、『ONLY FOR THE MIND STONE LONG』にしたのは?
ILL-BOSSTINO:降りてきたね、ヒントが。瞬間的に“コレだな”って。もちろん、今回も第2期を締めくくる意味でこのタイミングでのリリースだった。第1期を締めくくる時に1枚目のコンピを出したからね。繰り返すね、すべては繰り返す。全員がこれから登るから、ブルーハーブは3枚目があるし、シュレン、NAOHITO
UCHIYAMA、O・N・Oのソロ、ハーベスト ムーンそれぞれの2枚目があるからね。その前に、最後の顔合わせ。ここで顔合わせて皆、それぞれ分かれていく。
──この第2期はレーベルとしても大きくなったよね。色んなタイプの音があることを見せれてたと思うし。
ILL-BOSSTINO:世界中の人達が、“あの日本のレーベルはドープ”って思うようにしたくてさ。命削って音楽作ってねぇ奴は、オレのレーベルに1人もいらないって気持ちにある時なったんだよ。それからだね、このレーベルを本気で最強軍団にしたいと思ったのは。数は少ないけど、全員恐ろしい才能と気迫で音楽作ってくるような無敵の軍団にしたいってね。そういう思いもこのコンピには入ってるから。
──レーベルの仲間だけど、それぞれがそれぞれ独立してて、群れない感じはすごくあると思うけど。
ILL-BOSSTINO:そうだね。集団活動なんて誰もしないしさ。期日までに曲を持ってくればいいって制約しかないから。ただ、その制約しかない代わりに、コンピの敷居は思いっきり高く設定したんだ。
──最後に、ロフトというライブハウスについては?
ILL-BOSSTINO:やっぱロフトは、すげぇ歴史あってすげぇ人達がここでライブやってたんだろうし、この場所で奇跡的な夜が沢山あったんだろう。だけど、オレ自身は残念ながら歴史ってものにクソを塗る存在でしかないから、オレはオレでしかないと思ってやってるね。ロフト....、はっきり言ってオレはホームだと思ってやってるから、勝手に。オレの場所だと思ってやってる。ここで何が行われていたのかとかは、昔のロフトのフリーペーパーとか読むとオレの憧れだったミュージシャンが出ていて皆すごいことやっていたんだと思うけど、オレがライブやる時のロフトでは、それは関係ないって思うね。勝手に言わしてもらうけど、ザ
ブルーハーブが新宿歌舞伎町に築き上げた砦だね。そこでオレ、色んなもの守ってる、そう思ってる。絶対譲れない砦、勝手にそこまで思ってるよ。
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