メンバー・チェンジのピンチをチャンスとして捉えてみた
──前作『CINQ (four+one)』では松田さん主導による企画性の強いユニットという印象だったCGFですが、今回リリースされた『SEEDY』ではグルーヴ感が増して、よりバンド感が前面
に出ていますね。
「『CINQ (four+one)』に収めたのは元々あった曲だったり、カヴァーもあったし、CUBISMO
GRAFICO(松田氏のソロ名義)として打ち込みでやっていた曲をバンドに置き換えてみたものがあったり、あの時のメンバーで作った曲は3曲だけだったんです。今回のアルバムは一からみんなで曲を作っていったので、自ずとバンド・サウンドになったっていうか。メンバー個々のやりたいことを1枚のアルバムとして一箇所に投げ込めたんですよね。前はコードなりメロディなりが初めにありきでしたから。だからこのアルバムでようやくひとつの“バンド”になれたかなって思ってます」
──『CINQ (four+one)』リリース後に行われたライヴを通じて、松田さんのなかで感じたバンドとしての手応えもあったでしょうし。
「そうですね。このバンドはやっていて凄く楽しいんですよ。いい意味での緊張感もたまにあるけど、かと言ってヒリヒリするようなものでもない。とにかく一緒に音を出していて楽しい面
子なんですね。CDをリリースしてもしなくても、バンド名を変えてでも、何らかの形で続けていきたいとはずっと思っていて。この顔ぶれでまたライヴをやる口実としては、新しい作品を作るのが一番だと思ったし(笑)、そうしないとみんなもフレッシュな気持ちにならないんじゃないかと。丁度いいタイミングで新しいアルバムを作る機会にも恵まれたのでラッキーでしたね」
──第2期CGFではDOPING PANDAの古川(裕)さんが“卒業”、ベースの330さんがギターに“席替え”。新たにクリンゴンのサポート等で知られる村田シゲさんがベーシストとして“入学”されて。そんな新たな血の導入もバンドが活性化した原因のひとつなのかなと。
「それもありますね。シゲは一緒に何かやってみたいリストのなかにずっと入ってたんです。古川はドーパンが忙しくてスケジュール的に無理だなぁと思ってた時に、ギターを探すよりもまず最初に頭に浮かんだのがシゲだったんですよ。古川が入る前には元々330君にギターをやってもらってたので、今回は戻ってもらう形にして。ある意味ピンチだったんですよ、このメンバーの変動に関しては」
──そのピンチを逆手に取って、結果バンドとしての勢いが増したわけですね。
「そうなんです。このタイミングでのメンバー・チェンジをいい機会として捉えようと思ったんですよ。億万長者の人が“ピンチをチャンスに変えろ!”って言うことの200分の1くらいは今回理解できましたね(笑)」
──『SEEDY』に収録されたのはどれもCGFのために書き下ろされた曲ですか?
「そうです。メンバー全員で一から作り上げました。“こういうコードでこんな感じの曲をやりたいんだ”って伝えて、みんなでワイワイやりながらまとめていったり、田上君がギターを持って“ちょっとこういうのやってみない?”ってフレーズの出し合いっこをしてみたり。9月の頭からスタジオに入ったんですけど、シゲがバンドに入るのを決めたのは8月の末だったんですよ(笑)。うまく行くかどうかは正直不安なところもあったんですけど、スタジオで顔を合わせた初日に“これは行ける!”って思えたんですよね。みんなで演奏して夢中になれたんです」
──松田さんもバンドの“one of them”であり、5人がCGFのなかで対等な関係を築けたからこその一体感なんでしょうね。
「僕はちょっとしたきっかけの一言を言うくらいで、あとはメンバーがどんどん転がしてアレンジを作っていったりしてましたから。僕自身、堀江(博久)さんと2人でニール&イライザをやってみたり、1人でCUBISMO
GRAFICOをやったりしてたくらいで、バンド・アレンジに関してはまだ経験が浅いんですよ。だからCGFでは凄く勉強になるんです。何から何まで全部自分で細かく決めちゃうと箱庭っぽくなるっていうか、自分の知ってることしかできないじゃないですか。いわゆる手癖の範囲で僕ができることしかやらなくなる。それがCGFのように他のメンバーからどんどん意見が出てくると、僕のなかでは出てこなかったアイディアが次々と生まれてくるから新鮮なんですよ」
──曲の骨組みは6〜7割を松田さんが作って、あとは現場でメンバーに振るという感じですか?
「いや、1割とかじゃないですかね。コードを2つばかり持っていって、“雰囲気はこうしたい”って伝える程度ですよ。そうすると“じゃあそこにもう1つコードを入れようか?”とか意見がすぐに返って来るんです。田上君が小学5年生の時に作った曲(『SNOWDOME』)や2曲目の『SOUND
BWOYS FIRE!!!』は田上君が骨組みを持ってきたパターンですね」
──ただ、バンドのメンバーを適材適所に配置するセンスというか、DJとしても活躍されている松田さんの優れた編集者的資質をやはり随所に感じるんですよね。
「僕自身、作曲家やメロディ・メーカーではないと思ってるんですよ。やっぱり、トラックを作るDJ的な発想に近いんですよね。CGFでの活動を通
じて、バンドとして曲を作るってことが最近やっと判ってきた感じなんです」
鴨がグルーヴ背負ってやって来た
──今度の『SEEDY』はタイトルも曲名もすべて“S”から始まる英単語で統一されていてユニークですね。
「半ば強引なんですけどね(笑)。曲の練習をする時とかにいつも仮タイトルを付けるんですよ。今度のアルバムの曲がだいぶ出揃った時に仮タイトルを並べてみたら、たまたま頭文字が“S”の曲が半分くらいあったんです。それじゃ中途半端で気持ち悪いなと思ったので、いっそのこと全部“S”で始まる曲で統一しようってことになりまして。シゲ(SHIGE)っていうベーシストも入ったことだし、“S”で繋がる縁も感じていたし」
──アルバムの印象も“sweet”で“soulful”、“stylish”に“swing”していて…と、“S”の形容詞がうまくハマりますよね。日本語で言えば“sawayaka”(笑)、ジャケットの女性は“slender”(笑)。
「お上手ですね(笑)。“sexy”な要素もありますよ(笑)。1曲目が『CINQ
(four+one)』の曲をコラージュした『SKIT SKIT!!』っていうイントロ曲なんですけど、最初はイントロを付ける必要もないかなと思ってたんです。でも、『SKIT
SKIT!!』っていうタイトルを付けたいが為に敢えてイントロを作ったんですよ(笑)」
──前作ではBooker T&The MG'sの「JAMAICA SONG」をカヴァーされていましたが、今作ではヴァネッサ・パラディの「SUNDAY
MONDAYS」(当時ヴァネッサと恋仲にあったレニー・クラヴィッツが作曲)がチョイスされていて意外でした。
「昔、ヴァネッサ・パラディが凄く好きだったんですよ。この曲をカヴァーしたのは結構古くて、'98年くらいにCGFがまだ余興バンドだった頃から取り上げていたんです。この曲も、偶然にも頭文字が“S”だったんですね(笑)。今回はカヴァー曲を入れるつもりはなかったんですけど、スタッフから“ライヴでもずっとやってる曲だから、アルバムに入れたらライヴに来てくれたお客さんも喜ぶよ”って言われて。レニーの一般
的なイメージとはまた違った、甘くて切ない凄くいい曲ですよね。このアルバムの印税の一部がレニー・クラヴィッツに行くって考えると、何だか自分では面
白いですね(笑)」
──4曲目の「SWEEP TIMES」や6曲目の「SNOWDOME」といった曲に顕著ですが、アンサンブル感が前作に比べてより強く出ていますね。各人が元々凄腕のミュージシャンだけに演奏力は確かですし。
「そうしたアンサンブル感みたいなものは、シゲが持ってきてくれた部分だと思いますね。鴨がグルーヴ背負ってやって来た、っていうか(笑)。グルーヴ感のあるものとか、ソウルフルな感じとか、みんなやっぱり好きなんですよね。田上君も恒ちゃんも凄いソウル・フリークですし。基本的には横のノリなんだけど、と同時に歪んでもいる…そんなところを今回は出したかったんですよ。『CINQ
(four+one)』の時は、前へ前へと突っ込んでいく形を優先してやりたかった時期だったんですよね」
──今回のアルバムでも「SOUND BWOYS FIRE!!!」や「STUPID IN LOVE」のようにドタバタしたやんちゃなパンク・チューンは健在ですね。
「はい。CGFでは、ああいった歪んだギターのパンク・ロックがやりたかったんですよ。コードもほとんど2つしか使ってないような曲を」
──ESCALATOR RECORDSでの松田さんのお洒落なイメージしか知らない人は度肝を抜かれますよね(笑)。
「でしょうねぇ。お洒落なイメージで語られることに何も抵抗はないんですけど、自分のなかではルーツとしてパンクの存在が凄く大きいし、今でも大好きなんですよ。2
MANY DJSっていう、SOULWAXのメンバーがやってるDJチームがありまして、彼らはガレージ・パンクと打ち込みという相反するものをうまく共存させているんですよね。そういうバランスの音楽を僕もずっとやりたかったんです。ファンの立場としてライヴを観続けてきたバンドの人達と一緒に」
──それこそ恒岡さんのHi-STANDARDであったり、田上さんのSCAFULL KINGであったり…。
「そうですね。凄く楽しそうにライヴをやってる彼らの姿が羨ましくて。こっちはDJとして独りでやってるから寂しいなぁって思ってましたし(笑)。バンドは独りじゃないから色々と大変だろうけど、それも踏まえた上でやっぱり楽しいですよ」
──そもそも、三十路を過ぎてバンド初期衝動が沸々と湧き上がるケースも珍しいですよね(笑)。
「僕は30になるまでギターの弦を自分で張れなかったし、チューニングもできなかったんですよ(笑)。チューニング・メーターがあるにも関わらず、どこがEなのかも全然判らなかったですから(笑)」
──これまではご自身のヴォーカルに今ひとつ自信が持てなかったと伺いましたが。
「ええ。自分の声に対してコンプレックスが常にありますからね。田上君はもの凄く優秀なソウル・ヴォーカリストじゃないですか。そんな人が後ろにいるから“しっかりしなきゃ”っていつも思ってますよ。まぁ、今はライヴでも割と開き直ってやってますけどね(笑)。最近は自分のキーに合わせて作ってるので、だいぶやりやすくなってきてますし」
──ソロの場合は全部の責任を自分が一身に背負わなければなりませんけど、こうしてバンドをやる際には責任も等分ってことになりませんか?
「いや、だからこそ余計しっかりやらなきゃと思いますね。オケが出来上がった時に、それを生かすも殺すも歌だなと思うんです。だからオケが出来上がっていく段階でだんだんと食事がノドを通
らなくなって、つい現実逃避で酒ばかり呑んじゃうんですよ(苦笑)。ただ、歌入れの時に田上君が的確なアドバイスをしてくれるので、そこには勇気づけられてますね」
──じゃあ、ヴォーカリストとして非常に勉強になった作品でもあるわけですね。
「はい。まだまだ勉強中の身ですけどね。もっと歌を頑張りたいとは思ってますよ。もう少し巧くできるはずですし。まぁ、僕がそんな気張って唄い上げてもしょうがないんですけどね(笑)。一介のミュージシャンとしては、上達過程にあるというのは幸せなことなんです。目の前にハードルがあるほうが頑張れるからいいんですよ」
僕のなかでCGFのテーマは“出会い”なんです
──松田さんは自分の内面を赤裸々に吐露するタイプのアーティストではないと思うんですが、このアルバムには「I'll
become honest with true myself/いつも本当の自分に正直にいよう」(「SURPRISE
DISENCHANTED」)、「EVERY TIME WE COULD BE SATISFIED/いつだって満足できるんだよ」(「SUNWORSHIP」)といった歌詞にご自身のテーマみたいなものがまぶされているように思えたんですけれども。
「そうですね。今回はその時々に思った気持ちを素直に出しちゃおうと思ったんですよ。歌詞を書くのは意外に好きなんですけど…そうですね、今回は結構ストレートに出してるかもしれないですね。こういうバンドだからこそ、酔っ払ってグダグダ考えてるようなことをそのまま書いちゃおうと。英語なのであからさますぎないですしね。日本語だと恥ずかしくて唄えないんですよ(笑)。それはそれで良しとしてもらおうと最近は思ってます」
──ブックレットにある歌詞はよく読んだほうがいいですよね。
「SKANK BOOPS」という曲の最後、「I would be bought a drink if ms. Gomes
comes ya!」という歌詞の訳は“中込さんが来たら、一杯おごってもらおうぜ!”ですから(笑)。音楽ライターの中込智子さんが“ms.
Gomes”という(笑)。 「田上君と恒ちゃんと中込さんと4人で呑む機会がありまして、最終的に朝の4時くらいまで僕の家で呑むことになって(笑)。勿論、中込さんの文章は読んだこともありましたけど、今までの僕の音楽人生ではなかなか交わることのないライターさんだったんですよね。それがお会いする機会を得て、自分のことを知ってもらえたのが嬉しかったんですよ。で、こんなジョークもアリかなと思いまして(笑)。“中込”って英語で言いにくかったから、“Gomes”でも意外とアリかな、なんて(笑)。まぁ、前のアルバムには敢えて歌詞を載せなかったので、今度のはじっくり読んでほしいですね」
──この作品にテーマがあるとするならば、「SUNWORSHIP」の歌詞にもありますが“部屋に閉じこもってないで町へ出ておいでよ”っていう部分でしょうか。
「うん、そうですね。僕自身、いろんな所に出向いて、いろんな人達と知り合えて今の自分があるんです。そういう“出会い”が凄く大事だなと今になって改めて思うんですよ。僕のなかでCGFのテーマとしてずっとあるのは“出会い”なんですよね。今の顔ぶれでこのバンドをやれる“出会い”には感謝しているし、単純に凄いことだと思うんですよ。人生においてつまらない“出会い”はないと思うし、だからこそ部屋にこもってちゃダメだっていうか。外に出れば楽しいことが色々とあるじゃないですか。表に一歩踏み出さなければ何も始まらないよ、っていう」
──松田さんの音楽人生においても、この『SEEDY』はとても重要な作品ですよね。
「ええ、間違いなく。色々と試行錯誤して、ここ何年かやってきたことの集大成ではあるのかもしれませんね。到達点では全くないですけど。前のアルバムより自信もありますし…自信があるというよりは、このメンバーで凄くいい作品が出来たことが単純に嬉しいんです。今の顔ぶれが集ったこと自体、僕にしてみれば奇跡みたいなことなんですよ。ずっと一緒にプレイしてみたかった人達と音を出せるなんて、幸せすぎちゃうっていうか。レコーディングの時とかも、やってて感動しちゃうんですよね(笑)。このメンバーがみんな“いいものが出来たね”って思えたっていうのが凄い収穫ですよ」
──CUBISMO GRAFICOとして“FIVE”“TRIO”“SOLO”の3本柱で活動していくのは今後も変わらないですか?
「はい。ただ、このアルバムが出来た時は“当分ソロは作らなくてもいいかな”なんて思ったりもしたんです。というか、考えられなかったですね。でも、DJとしてのライフワーク的なものがあるんで、その現場で“こういうオケを作ってこんな場所でかけたい”とか欲求は常にあるから、また作るとは思いますけどね。とにかく、このバンドでここまでできたんで、また曲を持ち寄ったりできればいいなと思ってます」
──『SEEDY』のリミックス集を出す構想もあるそうですね。
「そうなんです。『SEEDY』の曲を再構築したいと思ってるんですよ。例えばアルバムのオケをそのまま使って、僕の歌の代わりにラッパーを入れてみたりとか。別
曲として聴かせられるだけのクオリティが出来るメドが立ったら、一気に取り組んでみたいと思ってます。そもそもリミックス盤を出したいと思ったのは、このジャケのヴァリエーションを作りたいと考えたからなんですよ」
──スレンダーな女性と松田さんのギターが象徴的に配された、妙にエロティックなジャケットですよね(笑)。
「そう、ギターと女の子を組み合わせたジャケっていうのは何だか妙にそそるものがありますよね(笑)。90年代の初期にはピチカート・ファイヴとか、この手のジャケがよくあったんですよ。最近はグラフィック・デザインが多いし、こういう写
真1枚で見せるジャケをやりたいと思ったんです。これだけ充実した中身に見合うだけのジャケを作らないとダメだって思って。見ず知らずの人にも手に取ってもらいたいですからね」
──この強力な面子が一堂に会すところを生で観たいと思うのが人情というものですが、来たる1月28日、29日の両日にわたり下北沢シェルターにてワンマンが控えております。偶然にもシェルターも頭文字“S”ですね(笑)。
「確かに(笑)。ワンマンに向けては目下練習中です。2日間あるので色々とメニューも考えてますよ。一見、僕とシェルターのイメージが重なり合わないって思う人がいるかもしれませんけど、シェルターへはSCAFULL
KINGやドーパンが自主企画をやってたのを観に行ってたので、足を運ぶという意味ではもの凄く身近なんですよ。うまく言えないけど、好きなライヴハウスのひとつなんです。語弊があるかもしれないですけど、シェルターは気持ちが重くなくてもライヴに取り組めるっていうか、今自分達ができることを背伸びせずにしっかりやれるっていうイメージがありますね」
──正装して決め込むのではなく、割と普段着感覚でいられるというか。
「そうですね。お客さんもそんな感じで今度のワンマンを楽しんでもらえたらいいなと。必ず底抜けに楽しいライヴになるはずですから。まぁ、CGFのメンバー各人は凄い人達ですけど、バンドとしてはメンバーも替わってまだまだ1年生みたいなものなので、足元を見ながらしっかりとやっていきたいですね」
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