アウトロー万年東一の圧倒的な生きざま う〜ん、面白い。なんで「ヤクザ」や「愚連隊」って基本的には社会のクズなのに、その多分一人一人の生き様を見たり読んだりすると私たちまで「血沸き肉躍る」になってしまうのだろうか? それは諸外国での全て隠密に行動する「マフィア」なんかとは性格も姿形も「社会の生き血を吸って棲息している」のは同じとしても、何かまるっきり違うのである。まさにこの作品は宮崎学が演出する「アウトローロマン」の宮崎初の長編傑作小説である。まるで以前の宮崎学大ヒット作「突破者」を読んでいる感覚にとらわれたのは私だけだろうか? 万年東一とは、あの「愚連隊」のスター、横井英樹銃撃事件で有名な安藤昇の兄貴分だった男だ。万年東一は生涯組織を作りもせず、属しもしなかった。そして最後の舎弟であった宮崎学はこの万年東一を兄貴分として尊敬をしているのだ。昭和13年、社会大衆党党首安部磯雄を襲撃した万年東一は、右翼からもヤクザからも神格化され、中国に渡り大陸のならず者と命をかけてわたり合う。下巻ではあの勝新太郎の映画ヒット作「兵隊ヤクザ」のモデルがこの万年東一だという。とにかく人間のスケールは日本のヤクザ史の3本の指に入るという。 万年は1908年に生まれ、1985年に没している。この万年東一という男を一言で語るのは難しい。とにかく人間のスケールが破格なのである。こんな所は現在の筆者・宮崎学に何かそっくりなのだ。良家の出でありながら、生まれついての喧嘩好き、瞬く間に東京中の不良の頂点に立ち、「新宿のヤクザの親分で万年に脅されたことのない者は皆無」といわしめ、国士でもあった。不良少年の心性を死ぬ まで持ち続け、弱者を虐める事は絶無、たえず強者に逆らい、誰をも恐れない。そして誰よりモダンでダンディで、インテリでもあり、ものの筋目やけじめを重んじる折り目正しい人物であったという。ロックが不良の音楽と思っている向きのロッカーは断固読むべきである。次から出す音やメッセージは必ずや、どこか変化しているはずだ。 (平野 悠)
スペースシャトルは巨大な失敗作だった! 少し前だが、日本人の榎本大輔氏が、史上3人目の宇宙観光客としてロシアの宇宙船ソユーズに乗るというニュースが流れた。搭乗費用は約20億円!! 一般 の人がおいそれと払える金額ではないが、今の時代、とりあえず20億円出せば宇宙旅行ができるのだ。しかし、なんでロシアのソユーズなんだ? 宇宙旅行の期待の星、スペースシャトルはどうしたんだ? 周知の通り、スペースシャトルは2003年のコロンビア爆発事故のため、2年以上打ち上げが中止されたままだ(今年5月に再開すると言われていたが、7月に延期された)。ちなみにスペースシャトルは1986年のチャレンジャー爆発事故と合わせ過去2回致命的な事故を起こし、2機の機体と14人の乗務員の命を失っている。1981年にスペースシャトルが初飛行を成功させた時、世間では「近い将来誰でも宇宙に行けるようになる」と騒がれたものだが、2005年現在、宇宙旅行を(とりあえず)実現しているのは、1967年に初飛行したソ連(現ロシア)の旧式のカプセル型宇宙船ソユーズだけなのだ。 そんな折り、ノンフィクションライター松浦晋也の本書をたまたま読み、まさに目からウロコが落ちた。タイトルがずばり「スペースシャトルの落日」で、ここには、スペースシャトルが宇宙船として巨大な失敗作だということが実に明解に書かれているのだ。「えっ!宇宙技術が結集された、あのNASAが誇るスペースシャトルがまさか失敗作だなんて…」と思われる方も多いと思うが(僕もそうだった)、それはNASAの誇大宣伝をみんながなんとなく信じているからで、実際113回飛行して2回も大事故を起こしてる(確率56分の1)わけだから失敗と言う理由はたしかにある。 本書ではまずスペースシャトルの主な構造を説明し、そしてチャレンジャーとコロンビア、2つの事故の原因を解説している。ここまで読んだだけでスペースシャトルの運行がいかに大変かがわかるが、その次に本書は、スペースシャトルは設計コンセプトそのものが間違っていたことを説明している。特に驚いたのが、あのスペースシャトルの象徴ともいうべき巨大な翼が実際にはほとんど役にたっていないどころか、かえって事故の原因になっているという指摘だ。なんじゃそりゃ。 なぜスペースシャトルは失敗してしまったのか。その原因の一つを松浦は、アポロ計画後のアメリカ航空宇宙産業界が、アポロ計画並に巨額の開発(つまりは官需)を望んだからだと指摘する。メーカーにとってスペースシャトルはなによりも「たくさんお金を使う巨大計画」でなくてはならなかった。つまり「技術開発に、公共投資のような政治的な発想が入り込んでくると大抵ろくなことはならない」のだ。(余談だが、日本の原発産業事情とよく似ているなあと僕は思った) まあ、ここまでならアメリカのお家事情だが、実はスペースシャトル計画の失敗によって、世界中が様々な迷惑を被っていることも詳しく記述されている。そして日本は今もこの被害から抜け出せていないのだ。 人間は技術を追求する生き物だが、その際何を一番大切にしなければいけないのか? 本書から学ぶことは実に大きいだろう。 (加藤梅造)