言論統制列島 日本の右翼と左翼  BOOK
鈴木邦男・森達也・斎藤貴男 (講談社)1500円+税

連帯を求めて孤立を恐れ
 うん、なんともこういったコアな政治本?にしては新しい体裁のソフトカバー本だな。鈴木成一デザイン室の装丁と江頭徹さん(講談社写真部)のセンスが光り輝いている。かの漫画本で大もうけしていた天下の講談社もコミックものもあまり売れなくなってきていて、さすが大名商売をやってきた大手出版社もこういった斬新なアイデアが必要とされているのが現実的に解ってきたみたいだな。・・・とまずは講談社らしからぬ装丁を手がけた、編集者、及びこの本に関わったスタッフを誉めあげたいな。
 さて、この三人の筆者は私が大好きな人達だし、これに宮崎学、塩見孝也が入れば、私は全くのファンで、ほとんど無条件で買っているし読んでいるし、彼らのいろんなおもしろフレーズは私自身ネットなんかで無断使用させて貰っている。まず、この3人は初めに「レッテルを貼られる事」に非常に怒っている。「マルクスすら読んだことがないのになぜ私は左翼なんだ!」(斎藤貴男)。「僕は思想信条から自由でありたいというか、むしろ特定の思想・信条にどうしても埋没出来ない」(森達也)。「そう、そう言う理想がどんどん消えて、内ゲバのような悪い部分が伝えられている。だから昔のような右翼や左翼はなくなっちゃった様な気がする」(鈴木邦男)と言い切るところから「異端児を抹殺するな」「テキ屋が天皇を守りたがる理由」「転向者はより過激になる」等々、26ものキーワード(サブタイトル)があって、そのテーマに従って3人が討論してゆくのだ。その中でも一番面白かったのは「カメラは見ている、密告の街・自由より安全と言う名の監視を選ぶ人々」と「国家を離脱せよ」だったな。森達也は「組織は嫌いだけど連帯はしたい。連帯を求めて孤立を恐れず」と言い切ったのが、ロフトプラスワンを作った時のメインテーマだったしこんなフレーズもう古いかも知れないがシンパシーを感じられたな。最後の10ページに渡る人名・事件・用語事典は実に気が利いていて勉強になる。だから政治的音痴の人でもとてもリラックスして一気に読み切る事が出来る珠玉の対談本である。 (平野 悠)

オキナワ宿の夜はふけて  BOOK
カベルナリア吉田 (東京書籍)1600円+税
沖縄旅は、なりゆきまかせ、宿まかせ
 初めて泊まった民宿は、どうぞと案内された部屋に先客が。エッと驚くひまもなく、彼からオリオンビールを勧められた。晩飯は庭先で、月夜の下で泡盛の宴。周りはみんな、数時間前にあったばかりの見知らぬ旅人だけだった。そこからカベルナリアさんはオキナワ宿にズブズブとはまってしまう。
 この本に登場する33軒のオキナワ宿はスゴイ。いろいろ案内してくれるからスタッフかと思ったら常連客だったり。宿主がいないので(でも鍵は開いてる)電話してみたら、「勝手に上がってくつろいで」。ほとんど弾けないのに、オバちゃん達のスパルタ三線教室に参加して冷や汗をかきまくり(屋我地島)、親戚一同からドトーのカメーカメー攻撃で胃が破裂するほど食わされ(伊是名島)、子守りまでしてしまったアットホーム宿でくつろぎ過ぎて宿代を払い忘れ(宮古島)、晩飯のバーベキューには気が付けば客の三倍もの人間が……(西表島)。  もちろん静かに、のんびりゆったり過ごす夜もある。それに、これはある日のある沖縄宿での出来事。頼まれるとイヤと言えない、飲みっぷり食いっぷりのいいフリーライター(40歳独身。嫁受入れ体勢は万全!)が出会った一夜に過ぎないから、「ここに行けば必ずこうなる」ってことでもない。宿の楽しさは、客のメンツによっても左右されるし、どの宿を居心地よいと感じるかは結局その人次第だ。でも、それでいいんじゃないか。なりゆきまかせ、宿まかせだ。
 連日連夜のオリオンビールと泡盛三昧。そんなこんなですっかり「原稿遅蔵」と化してしまったカベルナリアさんですが、何とか本は夏休みに間に合いました。そして8/11(木)には、Naked Loftのトークショーで、本には書かなかった(書けなかった?)お蔵出しネタを開陳してくれます(詳しくは55頁)。(今田 壮)
ふりむいてはいけない  BOOK
平山夢明 (ハルキ・ホラー文庫)609円

平山の夏、コンボでドドド! 文に映像に百面百臂、ブログもチェケ!
 昨今のJホラー、実録怪談ブームのおかげで、季節を問わず怖い本が書店に並ぶ嬉しい時代に。とはいえ、やっぱオンシーズンは真夏ですよ!  われらがゴミ鍋マスター平山夢明先生、今夏はマジで大ブレイクしております! まずブログがまとまった「日々狂々、怪談日和。超怖ドキミオン」(竹書房文庫、580円。ドキミオンは随筆の意)。あんな狂った怖い世界ばかり書き続ける平山さんの日常は…やっぱりぼっがりと異界が口を開けているのでした。ゴミ鍋イベントでお話しされる以上の濃ゆ〜い体験談、夢などが淡々と綴られております。それと、現世最大の恐怖、「締切」と言うものの精神衛生に与える重圧もよーく判る…現在朝4時、折角の夏休みを1日削っても全く書けず、あと3時間以内にこの書評を上げなくてはならない私にもよく染みるのであります…
 そしてストーカー系実話を綴った狂人譚「つきあってはいけない」に続くポップティーン連載をまとめ、今度は心霊譚を集めた「ふりむいてはいけない」。「鳥肌口碑」も宝島社文庫から再刊。また「小説すばる」には引きこもりの息子と家族の葛藤をグログロに描く短編『倅解体』、『幽』3号にも実録怪談『顳かみ草紙』の三回目…と、書店のあちこちで平山恐怖が楽しめます。その上初の商業映画監督作品「深夜ノ墜落」もネット配信中! この号が出る頃には真打ち『「超」怖い話Z』も発売! 文字どおりの八面六臂、いや百面百臂の大活躍です!  ずらり並べた中でも穴場的に注目なのは「ふりむいてはいけない」。実は告白いたしますと、連載を時々拝見して、正直「…れれ?」と思ったんですよ。あんまりいつもの平山さんらしくない、わりと普通の怪談かな…なんて。でも杞憂でした! 単行本の後ろ半分は書き下ろし。前書きによると、「連載時には平易で入りやすい形を模索、書き下ろしでは枷を取っ払っ」たそうです。ティーン向け雑誌での体験談連載には色々難しい点もあるのでしょうね…これは良かった。後半の書き下ろし部分、凄いです。ただ怖いだけでなく、泣かせる話も含まれ、堪能できます。恐らく他の本に較べ、ちょっと書店で見かけづらい版元だと思うので、見かけ次第ゲットしておくのがいいと思います。いつまでもあると思うな怪談本。夏になると溢れるけれど、却っていったん書店で見かけなくなった後は入手しづらいんだよー。
 さて。今夏は日本怪談本業界において、大きな出来事がありました。今の実話怪談本の隆盛を導いてきた嚆矢、『新耳袋』の最終刊第十夜が遂に出たのです。この事への平山さんの送る言葉がブログ6/17の日記で読めます(http://blog.livedoor.jp/hirayama6/archives/2005-06.html)。今回一番紹介したいのは実はこの文章…「地獄の黙示録」にからめ、ここ数年、実録怪談の2大巨頭として毎夏をリードしてきた一方の雄から、先にゴールした偉大なる先達に向けた真摯な言葉… しんみりします。ぜひ一読を! そして新耳なき今後、果して平山さんがどのように恐怖を今後も綴っていかれるのか、ますます注目されるのであります。 (尾崎未央)

黒い夏  BOOK
J・ケッチャム (扶桑社ミステリー)980円
マンソン尊師の大いなる御手はこんな所にも波及していた!
 本が売れない、という現状打破のために最近では「カリスマ書店員オススメ」なる基準があるようだ。とは言えほとんどは「泣ける!」「純愛!」とかの類が多いようであるが。そんな折、ある文庫の帯に気になるものを見つけた。「危険!覚悟しろ!」といった脅し文句のみが並べ立ててかなりなネガティヴキャンペーンぶり。これは珍しいかも、と思って手にとってみたその『隣の家の少女』は本当に「読まなきゃよかった…」と思わせるような本だった。純真な少女を性的に汚れていると決めつけ、実子達を先導して彼女にありとあらゆる虐待を加える里親…。何をトチ狂ったのか旅先のイイ雰囲気の旅館で読了した僕はその残りの旅行をイヤな気持ちで過ごさなければならなかったくらいである(一時期プラスワンの新入りの強制課題図書にもなってましたが)。「もう2度とこの作家の本は読むまい」とその時は思ったものだったが、「虫歯が痛い時人は痛いと判っていてもついつい舌先で探ってしまう」の言葉通り、その後刊行される筆者、J・ケッチャムの作品は刊行されたら即読むようになってしまっていた。父から息子への性的幼児虐待とその連鎖を描いた『オンリー・チャイルド』、唯一の心の支えだった愛犬をブチ殺された老人がガキ共を皆殺しにする『老人と犬』、現代に生き残っていた食人族!『オフシーズン』とどの作品も見たくもないものを見せつけてきて、「ああ、また読んじゃった」と思いつつも止められない、まるでクサヤ味のかっぱえびせんのような唯一無二のフレーバーなのであります。普通の小説、映画ならば何かしらのカタルシスや救い、勧善懲悪的なものを用意する所をケッチャムはせせら笑うように拒み、描写したくないような人間の闇、そこから出る凄惨な現実をもたんたんと描き込んでいく。しっかりとした語り口があるからこそ「よくこんなの書くよ」と思うようなイヤな話であってもグイグイ読まされてしまうのであろうよ。困ったものです。登場人物の心の動きや痛みには細心の気配りをしながら、でも非情なる俯瞰、という基本は決して外さない、このスタイルがあればこそなのでしょう。
 そんなケッチャムの最新邦訳、『黒い夏』なんですけど、今までの彼の作品の多くが地下室に代表される閉鎖、密室状況での極限状況であったのとは少し異なる。60年代末、少女ライフル惨殺事件の犯人と目される少年、彼をクロだと睨む警官の執念の捜査によって少年は徐々に追い詰 †められていく…。日常生活の中でギリギリと引き絞られ、あるきっかけでプツンと切れてしまう、そんな日常の狂気を描いた作品だった。…しかしそのきっかけがチャールズ・マンソン尊師のシャロン・テート殺害事件とは! ヘルタースケルター! おみそれ致しました! (多田遠志)
ジャカランダ  COMIC
しりあがり寿 (青林工藝舎)1800円+税
破壊と再生──つながった世界
 ロックバンドJAGATARAのベストアルバム『西暦2000年分の反省』には、曲間にボーカル・江戸アケミの生前の肉声が挿入されている。その中にこんなフレーズが出てくる。「地球がね、ここまでめちゃくちゃになったんだよ。(中略)もうヤバイぜ、あと10年後は。ノストラダムスの予言は外れると思うけど……。地球人そのものがヤバイ。それからどうするかってことだよ」  1980年代後半、バブル真っ只中の経済大国日本にあって、江戸アケミは事ある毎に「地球」「都市」というキーワードを使っていた。環境問題や南北問題に対する意識の高まりによってこうした問題に取り組むミュージシャンは沢山いたが、それとは全く別の次元で、江戸アケミは動物的な「カン」で地球人の危機を感じとっていたのだ。
 しりあがり寿の新作『ジャカランダ』は、人間の文明=都市に対して、地球=自然が圧倒的な暴力で襲い掛かるという物語だ。物語といっても複雑なものではなく「なんのストーリー的な工夫もなければ人間のドラマもないただのシチュエーションの描写、言ってみれば四コママンガを300頁にのばしたようなもの(あとがきより)」だ。ある日、東京の住宅地の道路に熱帯植物ジャカランダの芽が生える。そしてジャカランダは一夜のうちに急成長を遂げ、東京を壊滅させるほどの猛威を振るう。東京は火の海で、逃げまどう人々は次々と死んでいく。ハリウッド映画のように不屈のヒーローが人類を救うなんてことは当然なく、その圧倒的な暴力の前で人間は何もできない。地球の怒りが収まるのをただ待つしかないのだ。
 しりあがりは、このマンガを描くきっかけを「ボクのアタマに一夜にして東京を破滅させる巨大な木のイメージがうかび、それが300頁のマンガを描かせるほどに強かった」と書いている。江戸アケミ同様、理屈ではなく動物的なカンがこの大作を生み出したのだろう。かつて「方舟」で人類の静かな終末を描 †いたしりあがり寿が、2005年現在に破壊と再生の物語を描いた意味を考えながら、何度も読み返したい作品だ。 (加藤梅造)
ジャカランダ  COMIC
しりあがり寿 (青林工藝舎)1800円+税
夏目房之介流、極私的おじさん実践論
 「おじさん」とは、自然に「在る」ものではなく、自ら「なる」ものなのだ。と、なんか実存主義っぽく書き出してみたものの、ようやく三十路の仲間入りをはたしたばかりのぼくにとっては、まだまだ想像するしかない世界であります。「『若い者とは、おじさんの未完成版』なのだった」とはオビの糸井重里氏の弁。夏目さんも糸井さんも、若い頃から自分なりのスタンスをはっきりと持った人だった(と客観的には見える)。なんとなーく年をとってゆくだけで、自然と「おじさん」になれるってわけではない、気がする。  この本はいわば、夏目さんの実践的おじさん論だ。4〜5頁の読みきりエッセイが50本近く詰まっている。五十肩や胃弱に悩む。太極拳や水泳にはまる。行きつけの喫茶店の常連達と、書や扇子絵の会を開く。  おじさんになると無理がきかなくなってくる。にもかかわらず、老人の達観の境地に到ることもできずじたばたしている。タイトル通り、そんなおじさんの処世術を学べる本かと思いきや、後半部では、マンガ国際化の現場を語り、漱石を祖父に持つ自分の青春期以来の葛藤を自分の息子との関係を重ね合わせつつ振り返り、さらにさらに、何と30年来連れ添って来た妻との離婚話まで飛び出す。気が付けば、なぜかエッセイの形を借りた夏目さんの私小説になっている。『おじさん入門』じゃないじゃん、と軽く突っ込みを入れつつ、実はこのあたりが、個人的には一番面白かった。  数十年前までは、「年相応」の生き方をするのが当たり前だった。でも今や、おじさんだってロックフェスにも行けば、マンガだって読む。オタクはオタクのまま年をとっちゃえばいい。夏目さんの「おじさん化」は、一見極めて「年相応」に見える。でも実は、無理がきかなくなってくる自分と折り合いをつけつつ、自分の興味の趣くままに生きている。ぼくもまだまだじたばたできるんだ、と思うと勇気がわいてきます。9/5(月)、Naked Loftで南伸坊さんとの発刊記念トークショーあり(詳しくは54頁)。 (今田 壮)
宇宙戦争 MOVIE
(配給:UIP映画)全国洋画系で公開中
残酷大将スピルバーグの面目躍如! 天晴!
 今さら判り切った話であろうが、スピルバーグの映画の魅力はその徹底した非人道的描写にある。『激突』、『ジョーズ』はもとより、インディジョーンズ2作目でのモンド風残酷ショー(猿の脳味噌のシャーベット!)、『プライベート・ライアン』の冒頭10分のノルマンディー上陸作戦再現大殺戮ライドショー(実際の作戦に参加した元兵士はフラッシュバックしてしまったそうです)、「感動の」なんて枕詞で売られている彼の作品だって『A.I』はアンドロ少年のグロテスクさが際立ち、『シンドラーのリスト』でもナチによるユダヤ人大虐殺シーンを延々と嬉々として描いている(スピ公自身ユダヤ系なのに!倒錯してる!)。ヒューマニズムを隠れ蓑にして趣味を全開にしている、まことにうらやましい御仁である。
 「電車男」や「EP3」に隠れてあまり評判を聞かない宇宙戦争。でも言わせてもらえばこれこそスピ公の会心の作と言える出来なんですよ。世間ではやれ人間がやられっぱなしだとか宇宙人の動機が不明だとか細かい事をゴチャゴチャうるさいんですが、人の卑小なる身には歯がたたぬ相手なのは明白だし、コミュニケーションとれないのも当たり前でしょう、戦争なんだし。未知の存在が意味の判らぬ事をやってくるのが恐怖なんでしょうが。この映画には日本のお家芸である怪獣モノの、畏怖するように仰ぎ見る人間からの視点、これを徹底している、この事こそが最重要ポイントなのであります。平成ガメラとかもそれやってはいるけど、徹底してないよねぇこの作品ほどには。ある日いきなり大いなる未知の生命体が現れて大量殺戮を繰り広げ、人々はただ逃げまどうしかない…冒頭の、敵の怪光線で一瞬にして粉々になった人々の灰にまみれて真っ白けで逃げ回るトム公を観るまでもなく、この映画は9.11のメタファーに満たされている。タコ型宇宙人にカモフラして同時多発テロの再現とは…恐れ入ります。宇宙人は無慈悲に地球を蹂躙し、人間は立ち向かうどころか勝手に自分達で殺しあいを始め、天才子役はギャーギャー泣きわめいて失禁しトムクルオロオロ…。ここまでの「滅びかけた世界」を大画面で見せてくれるというのに、何で文句いうの! 前三部作とのつじつま合わせに終止して、チャンバラ以外は学芸会みたいな某完結編なんかよりは断然こっちでしょ! 未見の人はさっさと行きましょう。僕もまた見に行きます。あ、あと、「宇宙戦争なのに宇宙行かないジャン」とかいう文句は一切受け付けません。だって原作がそうなんだから! 面白いからってアンタらはドカベンが野球の道を捨てて、大食いチャンプになる話を見たいのか? という話ですよ。どうしてもって人は死んで霊界で原作者のH.G.ウェルズにでも文句言って下さい。(多田遠志)
SIN CITY  MOVIE
(配給:ギャガ・コミュニケーションズ)
今秋 全国松竹・東急系ロードショー
汚れた街の騎士
「前代未聞の“刺激世界”が日本を吹っ飛ばす!!」という大々的な触れ込みで、全米NO.1ヒットを放った話題作が今秋、日本公開される。ブルース・ウィリス、ミッキー・ローク、クライヴ・オーウェンの3人がそれぞれ主役を張り、「デスペラード」「スパイキッズ」のロバート・ロドリゲスと原作者のフランク・ミラーが共同で監督を務め、さらにゲスト監督としてクエンティン・タランティーノの名前もクレジットされている(なんでも、タランティーノは朋友ロドリゲスのためにギャラ1ドルで参加したらしい)。
 前述した共同監督の一人、「SIN CITY」作者のフランク・ミラーはアメリカン・コミックの世界では最重要人物で、日本でも発売された「バットマン:ダークナイト・リターンズ」の作者でもある。初老になってもなお戦いの場に復帰するバットマンを描いた同作は、柳下毅一郎氏によると“ミラーは悪徳の街ゴッサム・シティで孤高の戦いを続けるバットマンに「汚れた街の騎士」、すなわちハードボイルド・ミステリーの主人公である探偵たちの姿を見出した”作品で、これは「SIN CITY」の世界観とも通底している。
 映画「SIN CITY」では、“罪の街”シン・シティを舞台に3つのストーリーがモザイク状に併走していく。幼い少女ナンシーの命と引き換えに無実の罪を被り、8年後再びナンシーのために命を懸けて戦う老刑事ハーティガン(ブルース・ウィルス)、一夜を過ごした天使のような女ゴールディの仇を討つため、全てを捨てて犯人を追う不屈の前科者マーヴ(ミッキー・ローク)、昔の恋人であり娼婦街オールドタウンのリーダー・ゲイルが起こしたトラブルを解決するためギャングと戦うドワイト(クライヴ・オーウェン)、この3人の男達は、それぞれに愛する女を守るため、巨大な悪の権力を相手にボロボロになりながらも孤高の戦いを挑む。主人公達のあまりに完璧な男の美学に観客はおのずとシンパシーを感じるだろう。特に、ゴリラのような醜い顔をしたマーヴが、たった一晩寝た女の仇をとるため、国家の闇の権力者のアジトに一人で乗り込む姿を見たら、男なら誰しも己の襟を正すはずだ。
 こうした古典的ともいえるハードボイルド・ストーリーに深い陰影を与えているのが、カメラマンで視覚効果スーパーバイザーでもある監督ロドリゲスの映像手法だ。原作の持つ影を多様したモノトーンの世界観を、最新映像技術により完璧に映画化することに成功している。当初映画化を断ったミラーも、ロドリゲスの映像世界を見てOKを出したそうだ。それは、モノクロ映像にパートカラーが挿入されたオープニングシーンを見るだけで、その見たこともない映像美に息を飲むだろう。
 とにかくカッコいい男とカッコいい女が見たければ迷わず映画館に行くべきだ。 (加藤梅造)
魁!!クロマティ高校 THE MOVIE  MOVIE
(配給:メディア・スーツ)
シネセゾン渋谷、シネ・リーブル池袋ほかにて上映中
ウォーレンにも見習ってほしい
 人並みはずれたクロマティ高校生を演じるは一一須賀貴匡、板尾創路、虎牙光揮、山本浩司、渡辺裕之、高山善廣、金子昇、武田真治、ロバート、増本庄一郎、阿藤快(先生)。
 これが皆ハマっていた。須賀貴匡は、超バカ高校・クロマティ高校を更正させたいと奮闘する優等生・神山を演じているのだが、これがビジュアルを含めて神山。強固な信念を持っているのに、それがどうしてか明後日の方向に行ってしまう真面目トンチキぶりは、気持ちがよかった。イケメンねぇ……といぶかしんで、ごめんなさい!
 そんな神山を囲む人外キャラクターたち。マスク・ド・竹之内演じる板尾創路はいわもずがな気品漂う程に素敵であり、渡辺裕之演じる髭でマッチョで上半身裸にサスペンダーのフレディはたまらないものがあった。阿藤快は阿藤快が炸裂してそれだけで人外の域に達していた。そして見る前は、金髪は剃らないのか…(原作はスキンヘッド)と竹之内役の高山をみて少し残念に思ったが、あの顔はやっぱり反則! 鮮やかなキャラクターたちが動き回るのは爽快で目を奪われる。
 『手鼻三吉』。そうえいば、この作品も同じことを思った。初めてみた山口雄大作品だったが、何故か鼻水をとばす手鼻の男がかっこよくみえてしまい、「この手鼻男を撮ったのは山口雄大さんというのか……」と記憶に残った。手鼻なのに、鼻水なのに、かっこいい。というか手鼻をするということはかっこいいのかもしれないと思う程に。途方もないくだらなさをスピードでくらわせて、艶やかに登場人物が目の中に飛び込んでくる。能書きたれる前に笑わせるという男らしさ、『手鼻三吉』同様、『クロマティ高校』でも十分に堪能した。この男らしさは、ウォーレンにも見習ってほしいものだ。 (斉藤友里子)
あなんじゅぱす、2つのライブ   LIVE
9/1(木)・9/2(金)open/19:30 start/20:00 MANDA-LA2 (吉祥寺)
現代詩を歌うバンドの言葉をめぐる2つの旅
 正岡子規から谷川俊太郎まで100年の言葉を歌うバンド「あなんじゅぱす」の公演が開催される。ボーカル・ピアノ・作曲を務めるひらたよーこは、劇団「青年団」(平田オリザ主宰)の女優でもあり、「詩と旋律の必然性」から生まれたその独特の世界観は、音楽、演劇、短歌、現代詩など国内外の様々な分野で高い評価を得ている。  今回は、ホームグラウンドであるこまばアゴラ劇場を離れ、吉祥寺MANDA-LA2での2デイズ公演。日数が少ないので予約をしたほうがよいでしょう。以下それぞれの公演内容です。

●9/1(木)
『ことばをうたう〜詩と旋律の必然性』
出演:ひらたよーこ(歌、ピアノ)只野展也(キーボード)サイトウミノル(ギター)
 イタリアライブで好評を博した只野・ミノル・よーこトリオの成熟したアンサンブルをお楽しみください。正岡子規の短歌から谷川俊太郎の現代詩まで、日本の近代から現代まで100年の言葉を歌うあなんじゅぱすの代表作。2002年MANDA-LA2初演は後にCDになり、芸術新潮など各誌で高く評価されました。

●9/2(金)
『フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ』
出演:ひらたよーこ(歌、ピアノ)清野美土(ハモニカ)谷太一(ギター)石田玄一郎(パーカッション)
 ピアノ、ハモニカ、ギターといった素朴なアコースティックサウンドにより紡ぎ出される歌の時間。ぬくもりと前衛を両立させたあなんじゅぱすの最新作!この秋から2年間フランスへ国費留学するハモニカ奏者、清野美土を招いての若々しいアンサンブルにご期待ください。

チケット:予約・前売り・当日共 各2,000円+ドリンク代
通し券(前売り・予約のみ)3,000円+ドリンク代
前売り・電話予約:青年団 03-3469-9107
オンライン予約:http://www.seinendan.org/
会場・チケット店頭発売:MANDA-LA2

速報!! 男の墓場プロ 新作製作発表会
『股旅の墓場』『ママ、俺も男だ!』
 昨年、杉作J太郎が立ち上げた映画制作プロダクション「男の墓場プロ」。善悪の区別さえつかなくなった現在社会に喝を入れるべく、「真の男とは?」をこれでもかと世に提示していく映画を制作することを目的とした映画会社だ。第1作『任侠秘録・人間狩り』、第2作『怪奇!幽霊スナック殴り込み』の劇場公開を秋に控えているが、早くも次回作品の制作発表会が、7月7日阿佐ヶ谷「よるのひるね」にて開催された。
 『湘南ボイルド ママ、俺も男だ!』では、ROOFTOP連載でもお馴染み、我らが怒髪天・増子直純兄貴が主演決定! そしてヒロインには弱冠16歳の新人女優・希和ちゃんが第3期墓場プロ・ニューフェイスとして登場する。増子氏は熱狂的な東映映画ファンとして知られるが、この作品でも『不良番長』や『トラック野郎』のような、笑いあり涙ありの痛快爆笑映画を目指したいそうだ。ちなみに主題歌も怒髪天が担当するとのことで、東映映画ファンのみならず、ロックファンも注目すべき作品となるだろう。
 同時上映作品『股旅の墓場』では、『キル・ビル』への出演&殺陣指導で有名な島口哲郎氏が主演を務め、島口率いる殺陣集団・剱伎衆かむゐも出演する。適役として墓場プロのスター俳優・飯島洋一氏(『実録たまご運搬人 警視庁殴りこみ』『戦争の犬たち』他)を迎え、本格現代チャンバラ活劇が実現するようだ。
 どちらも男の美学を徹底的に追求した作品であることは間違いない。第1作、第2作同様、一刻も早い上映が待たれる期待作だ。