連帯を求めて孤立を恐れ うん、なんともこういったコアな政治本?にしては新しい体裁のソフトカバー本だな。鈴木成一デザイン室の装丁と江頭徹さん(講談社写真部)のセンスが光り輝いている。かの漫画本で大もうけしていた天下の講談社もコミックものもあまり売れなくなってきていて、さすが大名商売をやってきた大手出版社もこういった斬新なアイデアが必要とされているのが現実的に解ってきたみたいだな。・・・とまずは講談社らしからぬ装丁を手がけた、編集者、及びこの本に関わったスタッフを誉めあげたいな。 さて、この三人の筆者は私が大好きな人達だし、これに宮崎学、塩見孝也が入れば、私は全くのファンで、ほとんど無条件で買っているし読んでいるし、彼らのいろんなおもしろフレーズは私自身ネットなんかで無断使用させて貰っている。まず、この3人は初めに「レッテルを貼られる事」に非常に怒っている。「マルクスすら読んだことがないのになぜ私は左翼なんだ!」(斎藤貴男)。「僕は思想信条から自由でありたいというか、むしろ特定の思想・信条にどうしても埋没出来ない」(森達也)。「そう、そう言う理想がどんどん消えて、内ゲバのような悪い部分が伝えられている。だから昔のような右翼や左翼はなくなっちゃった様な気がする」(鈴木邦男)と言い切るところから「異端児を抹殺するな」「テキ屋が天皇を守りたがる理由」「転向者はより過激になる」等々、26ものキーワード(サブタイトル)があって、そのテーマに従って3人が討論してゆくのだ。その中でも一番面白かったのは「カメラは見ている、密告の街・自由より安全と言う名の監視を選ぶ人々」と「国家を離脱せよ」だったな。森達也は「組織は嫌いだけど連帯はしたい。連帯を求めて孤立を恐れず」と言い切ったのが、ロフトプラスワンを作った時のメインテーマだったしこんなフレーズもう古いかも知れないがシンパシーを感じられたな。最後の10ページに渡る人名・事件・用語事典は実に気が利いていて勉強になる。だから政治的音痴の人でもとてもリラックスして一気に読み切る事が出来る珠玉の対談本である。 (平野 悠)
平山の夏、コンボでドドド! 文に映像に百面百臂、ブログもチェケ! 昨今のJホラー、実録怪談ブームのおかげで、季節を問わず怖い本が書店に並ぶ嬉しい時代に。とはいえ、やっぱオンシーズンは真夏ですよ! われらがゴミ鍋マスター平山夢明先生、今夏はマジで大ブレイクしております! まずブログがまとまった「日々狂々、怪談日和。超怖ドキミオン」(竹書房文庫、580円。ドキミオンは随筆の意)。あんな狂った怖い世界ばかり書き続ける平山さんの日常は…やっぱりぼっがりと異界が口を開けているのでした。ゴミ鍋イベントでお話しされる以上の濃ゆ〜い体験談、夢などが淡々と綴られております。それと、現世最大の恐怖、「締切」と言うものの精神衛生に与える重圧もよーく判る…現在朝4時、折角の夏休みを1日削っても全く書けず、あと3時間以内にこの書評を上げなくてはならない私にもよく染みるのであります… そしてストーカー系実話を綴った狂人譚「つきあってはいけない」に続くポップティーン連載をまとめ、今度は心霊譚を集めた「ふりむいてはいけない」。「鳥肌口碑」も宝島社文庫から再刊。また「小説すばる」には引きこもりの息子と家族の葛藤をグログロに描く短編『倅解体』、『幽』3号にも実録怪談『顳かみ草紙』の三回目…と、書店のあちこちで平山恐怖が楽しめます。その上初の商業映画監督作品「深夜ノ墜落」もネット配信中! この号が出る頃には真打ち『「超」怖い話Z』も発売! 文字どおりの八面六臂、いや百面百臂の大活躍です! ずらり並べた中でも穴場的に注目なのは「ふりむいてはいけない」。実は告白いたしますと、連載を時々拝見して、正直「…れれ?」と思ったんですよ。あんまりいつもの平山さんらしくない、わりと普通の怪談かな…なんて。でも杞憂でした! 単行本の後ろ半分は書き下ろし。前書きによると、「連載時には平易で入りやすい形を模索、書き下ろしでは枷を取っ払っ」たそうです。ティーン向け雑誌での体験談連載には色々難しい点もあるのでしょうね…これは良かった。後半の書き下ろし部分、凄いです。ただ怖いだけでなく、泣かせる話も含まれ、堪能できます。恐らく他の本に較べ、ちょっと書店で見かけづらい版元だと思うので、見かけ次第ゲットしておくのがいいと思います。いつまでもあると思うな怪談本。夏になると溢れるけれど、却っていったん書店で見かけなくなった後は入手しづらいんだよー。 さて。今夏は日本怪談本業界において、大きな出来事がありました。今の実話怪談本の隆盛を導いてきた嚆矢、『新耳袋』の最終刊第十夜が遂に出たのです。この事への平山さんの送る言葉がブログ6/17の日記で読めます(http://blog.livedoor.jp/hirayama6/archives/2005-06.html)。今回一番紹介したいのは実はこの文章…「地獄の黙示録」にからめ、ここ数年、実録怪談の2大巨頭として毎夏をリードしてきた一方の雄から、先にゴールした偉大なる先達に向けた真摯な言葉… しんみりします。ぜひ一読を! そして新耳なき今後、果して平山さんがどのように恐怖を今後も綴っていかれるのか、ますます注目されるのであります。 (尾崎未央)