【2016/10/01】SHINJUKU LOFT 40TH ANNIVERSARY『ROCK OF AGES 2016 〜big beat together with spirits, stay alive〜』

40年にわたりロックの今と未来、伝統と革新をつないできた新宿ロフトの祝宴
スペシャル・レポート


SHINJUKU LOFT 40TH ANNIVERSARY
ROCK OF AGES 2016 〜big beat together with spirits, stay alive〜
2016年10月1日(土)中野サンプラザ
【ACT】菊 ft.鮎川誠 シーナ&ロケッツ/TH eROCKERS/ROCK'N'ROLL GYPSIES/JUDE[浅井健一(vo, g)・渡辺圭一(b)・池畑潤二(ds)] 【SESSION GUEST】仲野茂/イマイアキノブ/チバユウスケ/石橋凌 【SESSION HOST BAND】池畑潤二(ds)/隅倉弘至(b)/ヤマジカズヒデ(g)/百々和宏(g)/細海魚(key) 【MC】スマイリー原島



血湧き肉躍る不滅のロック・クラシックス

 1976年10月1日、西新宿の小滝橋通りの一角に65坪、キャパシティ300人という本格的なライブハウスとして新宿ロフトがオープンしてから丸40年。この大いなる節目の日に、ザ・ルースターズのオリジナル・メンバーとして知られる池畑潤二と新宿ロフトの共同プロデュースで中野サンプラザにて開催された『ROCK OF AGES 2016』。「新宿ロフトのイベントなのに、随分と博多のミュージシャンに偏ったキャスティング」とこの日のMCでザ・ロッカーズの陣内孝則が語っていたが、往時の新宿ロフトを知る者なら誰しも納得するラインナップだろうし、新宿ロフトのオープン40周年を祝うスペシャル・イベントとしてこれ以上相応しい面子はいないだろう。
 MCのスマイリー原島の呼び込みで一面市松模様のステージに現れたトップバッターは、ベンジーこと浅井健一率いるユダ。「カリブの海賊の宴会」を披露した後の「レッツ・パーティー!」という掛け声と共に盛大な祝宴が本格的に幕を開ける。「チェリオメアリー」の後、ベンジーが「この3人でやるのは30年ぶり? 15年ぶりかな?」とおどけてみせたが、池畑潤二の50歳記念のイベント以来8年ぶりとなる一夜限りの復活だ。渡辺圭一と池畑潤二の生み出すうねりのあるリズムとビートに身を任せ、ベンジーがしゃにむにギターをかき鳴らしながら艶のある歌声を振り絞る。3ピースならではの無駄のないタイトかつソリッドなアンサブルは健在だ。



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 池畑潤二、隅倉弘至、ヤマジカズヒデ、百々和宏、細海魚という巧者揃いの“big beat band”がゲスト・ボーカルを迎えてこの日限りのセッションを繰り広げるというのも、こうした祝宴にはうってつけの趣向である。イマイアキノブとチバユウスケが参加した《ROLL OVER session》では、血湧き肉躍る不滅のロック・クラシックスを披露。ヴェルヴェッツの「Waiting For The Man」とプレスリーの「Hound Dog」で客席を大いに沸かせたイマイは弾いていたギターを置き、ハンドマイクでキングスメンの「Louie Louie」をテンション高く熱唱した。


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 イマイと入れ替わる形で現れた、ハットも衣装も黒づくめのチバは、ラックス・インテリアを彷彿とさせるシャウトを交えながら唄うクランプスの「Cramp Stomp」でいきなりの独擅場。譜面台から歌詞カードが何度も落ちるハプニングをものともせず、我流に咀嚼したゼムの「Baby Please Don't Go」とダムドの「New Rose」を見事に唄い上げた。



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ロッカーズとジプシーズの対照的な演目と佇まい

 24時間テレビとタイアップしたチャリティ・ライブ(1981年8月22日〜23日)や映画『爆裂都市 BURST CITY』の公開記念オールナイト・ライブ(1982年2月19日)、解散ライブ(1982年6月2日)など、主戦場は常に新宿ロフトだったザ・ロッカーズは、「ハレルヤ(Hallelujah)」のSEが流れるや万雷の拍手で迎えられた。船越祥一、穴井仁吉、角英明、澄田健、そして陣内孝則という2016年型ロッカーズにとって、今年は結成40周年、谷信雄の死去から20年、穴井に次いでベースを担った橋本潤の3回忌となる節目の年。めんたいロックと呼ばれるカテゴライズのなかでもカラフルでプラスチック感のある持ち味は相変わらずで、スピード感溢れる「非常線をぶち破れ」やアップテンポのラブ・ソング「涙のモーターウェイ」など緩急のついたセットリストを矢継ぎ早に連射。もはや伝統芸と言うべき陣内の身のこなしとスタンドさばきは堂に入ったものだし、「可愛いアノ娘」を始めレパートリーは紛うことなき名曲ばかりだ。「僕らは気まぐれなもので、もしかしたら今日のライブが最後になるかもしれない」などと言わず、谷と橋本の遺志を引き継いでキレとコクのあるパフォーマンスをまたぜひ魅せていただきたい。



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 そのロッカーズと当時人気を二分したルースターズの主要メンバーから成るロックンロール・ジプシーズは、「Love Hurt」と「渇く夜」を除いてすべて最新作『ROCK'N'ROLL GYPSIES IV』からのナンバーを披露するという攻めのセットリスト。こうした場なら間違いなく盛り上がるはずのルースターズの楽曲は皆無。祝祭的なイベントだからと言って媚を売ることなく、重厚でブルージーなロックを普段通りに淡々とプレイするスタンスがいかにも彼ららしい。花田裕之と下山淳のギターの掛け合いは武骨ながらもうっとりとする瞬間が多々あり、互いの音を補完し合い増幅する様は実にスリリングだ。



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歌の底力をまざまざと見せつけた仲野茂と石橋凌

 祝宴ははまだまだ続く。再び“big beat band”が登場し、新宿ロフトと縁深い二人の名ボーカリストを招聘する。まず現れたのは、アナーキー時代と同様にナッパ服を着た仲野茂だ。日本の象徴を揶揄して放送禁止となった「東京イズバーニング」をオリジナルの歌詞で唄い、オーディエンスの度肝を抜く。クラッシュを手本にしたこの「東京イズバーニング」も、続いて日本語で唄われたピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」も替え歌と言えばそれまでだが、鋭い批評性と大衆性を兼ね備えている点で仲野茂という唄い手の本質と特性をよく表していた。アナーキー中期の名曲「デラシネ」で“big beat band”のヤマジと百々に駆け寄ってプレイを煽る様もショーマンシップに溢れる彼らしいパフォーマンスだった。



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 続く石橋凌は円熟味のある良質なソロ作品を近年発表し続けているが、この日はいきなり性急に畳みかける「R&R AIR MAIL」、小滝橋通りの新宿ロフトに出演していた頃の主要レパートリーだった「ダディーズ・シューズ」、そして時代を超えた不朽の名曲「AFTER '45」と、珠玉のARBナンバーばかりをまさかの三連発。自身のキャリアのなかでいまがピークではないかと思えるほどの艶と張りのある歌声は絶品だった。白眉は「AFTER '45」で、「試される 2016/瓦礫を乗り越え/手を伸ばしてみる未来へ」と最後の歌詞を変えて唄い上げたところにこの曲が持つ普遍性、円熟の境地に達しても決して先鋭性を失わない石橋凌の歌の醍醐味を見た。また、「ロフト40周年おめでとうございます」というMCの後に少しあいてから発せられた「…感謝してます」の一言には、揺籃の時代を共に駆け抜けた新宿ロフトへの深い愛情の念を感じずにはいられなかった。



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柴山俊之と鮎川誠が放つキャリア46年の凄み

 大トリはこの人たちを置いて他に誰がいるだろう、めんたいロックの総本山であり日本のロックの始祖的存在である菊 ft.鮎川誠 シーナ&ロケッツだ。今年の6月9日に発売された菊こと柴山俊之の生誕69年記念ソロ・アルバム『ROCK'N ROLL MUSE』(鮎川誠プロデュース)のために集まったバンドだが、いまのロケッツのリズム隊は言うまでもなく奈良敏博と川嶋一秀なので、これは実質的に2016年型サンハウスである。1曲目こそ王道中の王道ナンバー「キングスネークブルース」だったが、山口冨士夫に捧げられた「魔性の剣」や「世界中の俺の女に捧げます」と言って披露された「ガール・ガール・ガール」など『ROCK'N ROLL MUSE』からの新曲をメインに据えた懐古趣味ゼロのセットリスト。「キングスネークブルース」は『ROCK'N ROLL MUSE』でもセルフカバーされていたし、本編で披露された純然たるサンハウスの楽曲は「もしも」だけという徹底ぶりだった。
 人間離れした淫力魔人の如き絢爛とした佇まいでドスの利いた歌声を放つ菊も、黒いレスポール・カスタムで鋭角的なギター・サウンドを自在に奏でる鮎川も、共に70歳を目前に控えているとは到底思えぬほどに若い。奈良も川嶋も含め、4人ともまるで昨日今日楽器を覚えてバンドをやるのがとにかく楽しくて仕方ないと言わんばかりの溌剌さと瑞々しさだ。この尋常ならざる圧倒的な現役感、やはり只者ではない。アンコールで披露された定番中の定番曲である「レモンティー」もなかなか終わらせないエンドレス仕様で、レジェンドの称号などどこ吹く風、むしろ押しつけられた窮屈な鋳型を自らぶち壊さんとするパンキッシュなアティテュードと凄みに満ちていた。また、彼らの演奏が終わるたびに舞台袖から拍手喝采を送っていた池畑潤二と仲野茂の姿は、サンハウスが切り拓いた豊潤な音楽の地層が積み重なり、下の世代へ着実に伝承されているのを改めて強く感じさせた。



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ずっとロフトでロックの音がつながるように

 5時間近くに及んだ一大ロック絵巻然とした祝祭はこれにて終演。最後はストーンズの「Wild Horses」が場内で静かに流れるなか、バックヤードに残っていた出演者たちが登壇。代表して鮎川誠が挨拶し、「ずっとロフトでロックの音がつながるように応援してね!」と満場のオーディエンスに語りかけた。
 40年間にわたりロックの音をつないできた新宿ロフトと、常にロックの最前線で活動を続けてきたこの日の出演バンドマンたち。菊 ft.鮎川誠 シーナ&ロケッツとロックンロール・ジプシーズの新曲で固めたセットリストが象徴的だが、彼らは過去の名声に胡座をかくことなく新たな表現の在り方を絶えず模索している。「変わり続けるからこそ、変わらずに生きてきた」というニール・ヤングの名言そのままのスタンスなのだ。たとえば、これまで幾度となく演奏されてきた「可愛いアノ娘」や「レモンティー」といったクラシック・ナンバーでも同じ演奏は二度とないし、あえて違うアプローチをすることでその曲の別の側面を見いだそうとする。そもそもロックとはいまこの瞬間に湧き上がる感情を音として解放するものであり、ひとたび鳴らされた音は宙に消えてなくなる。その刹那の数珠つなぎこそロックであり、絶え間ない革新の連続がやがて伝統として結実するのだ。今よりもっともっと面白いことができるんじゃないか、まだまだすごい曲を作れるんじゃないか……そんな意欲が尽きないからこそ才気溢れるバンドマンは変化を厭わず、前進し続ける。そうした一期一会の表現に場を提供するのがライブハウスだ。その先駆者の使命として、新宿ロフトはこの先もずっと先鋭的な表現者に対して門戸を開き、彼らと共にロックの新たな時代を築き上げていくことだろう。お楽しみはこれからだ。(text:椎名宗之 / photo:SHIGEO KIKUCHI, HISATO O-MI, YUKARI MORISHITA)


JUDE
01. カリブの海賊の宴会
02. Lovely
03. Joey In My Pocket
04. チェリオメアリー
05. サニーのチョコレート
06. 白雪姫
07. Devil

“ROLL OVER” session《イマイアキノブ》
01. I'm Waiting For The Man(The Velvet Underground & Nico)
02. Hound Dog(Elvis Presley)
03. Louie Louie(The Kingsmen)

“ROLL OVER” session《チバユウスケ》
01. Cramp Stomp(The Cramps)
02. Baby Please Don't Go(Them)
03. New Rose(The Damned)

TH eROCKERS
01. 聖者が街にやってくる(When The Saints Go Marching In)
02. プライベートタイム
03. ハリケーン娘
04. 非常線をぶち破れ
05. 恋の病
06. 涙のモーターウェイ
07. ロックンロールレコード
08. 可愛いアノ娘
09. ショック・ゲーム

ROCK'N'ROLL GYPSIES
01. Love Hurt
02. 空っぽの街から
03. 渇く夜
04. あきれるぐらい
05. You won't be my friend
06. 危険な日常

“OUR SOUL” session《仲野茂》
01. 東京イズバーニング
02. アナーキー・イン・ザ・U.K.
03. デラシネ

“OUR SOUL” session《石橋凌》
01. R&R AIR MAIL
02. ダディーズ・シューズ
03. AFTER '45

菊 ft.鮎川誠 シーナ&ロケッツ
01. キングスネークブルース
02. レジェンダリー・ラヴァー
03. ロックンロール・ミューズ
04. 魔性の剣
05. 歓喜の海
06. ガール・ガール・ガール
07. もしも
08. 犯罪レベル
─encore─
09. レモンティー


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