ROOF TOP2004年7月号掲載
日本のレコード文化が危ない!
レコード会社の利益保護法案をつぶせ!物語
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著作権法改正でCDの輸入が規制される!?実態を知るためのシンポジウムに参加
▲会場に入りきれない人達。
春爛漫のけだるい5月4日の火曜日の午後、『輸入盤CD規制法案に関する緊急シンポジウム』という集会が急遽ロフトプラスワンで開かれると聞いて、ちょいと覗きに行って来た。4月末に音楽評論家の高橋健太郎さんから店に突然電話が入って、「輸入盤CD規制問題のシンポジウムを開きたいので会場を貸してくれ」って要請されたそうだ。わたしゃ、もうこの何年間も洋盤CDなんぞ買ったことなんかないけれど、この法案がどういうものかを知りたくなって参加してみた。
何よりも驚いたのは、この集会の告知期間が数日しかなかったのに、プラスワンの会場は真剣な面持ちの、いわゆるこの法案上程に怒り狂っている面々が全国から押し寄せて来て、会場が瞬く間に一杯になったことだ。開演30分前には既に会場には300人(ほとんどは立ち席)あまりが入り込んでしまって、それでも後から後からやって来る無数の集会参加希望者には残念ながら引き取ってもらう結果になった。
このシンポの呼びかけ人である音楽評論家の高橋健太郎さんやピーター・バラカンさん、民主党の川内博史議員らによるこの法案の説明を聞いていて、「ふ〜ん、文化庁官僚と天下り機関・JASRAC、大手レコード会社が手を組んで、より利潤追求のために日本盤より遙かに安い洋盤CDが自由に買えなくなる法律を作った訳か? これは音楽(洋楽)ファンにとっては重大問題だな」って思いながらわたしゃ、プラスワンの控え室でテレビのモニターから流れる映像とトークを大した緊張感もなしに聞いていた。私の隣には音楽評論家の萩原健太さんが沈痛な面持ちでノートをとっている。気楽に話しかけられる雰囲気ではない。会場の空気は何か暗雲が立ちこめている雰囲気で、重々しくって実に暗い。
このシンポは、主催者が言うように「これは反対のためのシンポではない。とにかく音楽関係者やレコード会社のトップですらこの法案の重大さを理解していないので、まずはこの法案の中身をちゃんとみんなで知ろう」という説明が再三なされていた。しかし、この法案は既にほとんど審議すらされず、秘密裏に参議院をか〜るく通過していて、もうこの法案の法制化実現は時間の問題でしかなかった。これだけ情報発信が遅れてしまった音楽ジャーナリズムの責任は大きい。
▲5月4日プラスワンで急遽のシンポジウム。左から〜高見一樹(イースト・ワークス・エンタテインメント)、野田努(「REMIX」スーパーバイザー)、中原昌也(音楽家)、佐々木敦(HEADS代表)、石川真一(輸入盤ディストリビューター・「リバーブ」副社長)、スティーブ・マックルーア(ビルボード誌アジア支局長)、ピーター・バラカン、川内博史(民主党・衆議院議員)みんな真剣だ。
とにかく年間6,000万枚の並行輸入のCDが止められるっていうのは凄いことだ。全国に何万人いるか知らないけれど、世の洋楽ファン達が本当に怒って“行動”を起こしたらとてつもなく凄いことになって、毎日怒り狂った洋楽ファンが国会を10万人単位で取り巻いて“雄叫び”を上げたら絶対面白いな、国会議員の先生方はぶっ飛ぶだろうなって、私は私で何か夢見るような“騒乱幻想”を持って聞いていた。でもさ、一通りの説明があって、それから質疑応答の時にある参加者が手を挙げて「国会でどんな法律が通ろうとかまわん! でも輸入盤を愛する僕はこれだけは許せない!」という発言を聞いてわたしゃ、その意識にぶっ飛んだね。それは多分一部の人達の考えだろうけど、ちょっと私としては悲しかったな。この問題はもうちょっとグローバルな視点から捉えるべきで、この法案はまさしく「政治問題なんだ」(国家と企業の利権癒着)と捉えないとだめなんだよな〜って感じた。
このシンポは国会議員に対してのロビー活動とそれぞれが署名運動をしたりできることをしようということで無事(?)散会したが、僭越ながら、レコード・メーカーから多くの仕事をもらっている音楽評論家諸氏がここで立ち上がったということは多分今までの日本の音楽史上なかったことで、絶対凄いな!
ってこのシンポを開催した人達に敬意を思った。
ロックって時代を変えることができるのか?
ミュージシャンも含めて洋楽ファンや音楽関係者が一致団結して「体制や権力にもの申す!」っていう形で何か運動が起こったことが過去にあっただろうか? ってふっと私の脳裏をかすめた。
ストーンズのミック・ジャガーはニヒリズム的に言う。「ロックは所詮お祝い。政治を変えたり、戦争を止めたりする力はロックにはない。ただ自殺を止める力ぐらいしかない」。その言葉がいつまでも私の“ロック感”を支配していた。しかし、「ロックで自分の人生が変わった。生きる勇気や感動をもらった」って言い切る若者を私は何人も知っている。政治家や評論家がいくら演説しても、その言葉は若者には届かない。だが、音楽家が発する一言一言はまさにメッセージであり、一人一人の若者の深層まで入り込む。それほど音楽(特にロック)ってものは凄い影響力を持っているということを私は実感している。
60年代のいわゆる政治の季節には伝説の“ウッドストック”や新宿西口フォーク・ゲリラ、全共闘全盛の頃には“ロック共闘会議”なんかがベトナム反戦運動や古い既成の価値感を打破して新しい時代を作ろう! なんて立ち上がっていた以来なのか? いや、まだあるぞ! ロックが社会に衝撃を与えたことが…。70年代後半〜80年代前半には、これまでの体制内化したロックを全否定した“パンク・ムーブメント”が登場したな。テクニック不要、楽器なんて弾けなくっても良かったんだ。それは国や体制に対する反抗精神を表現したシーンだったな。不況、失業なんかが頂点に達した時のイギリスでの“セックス・ピストルズ”が代表格だった。この時代のロック(?)は私にとっても実に面白かったし、何かあのシーンは壮大な可能性を感じさせてくれたな。
あの“じゃがたら”の故・江戸アケミは早く鋭い突き刺すようなサウンドの中でロフトのステージ上から客席にヘビを数匹投げ、「商業主義ロフトを潰せ!」って絶叫していたよな! スターリンの遠藤ミチロウの激しくも情熱的な何かに取り憑かれたステージを観て「これは凄い!」と思ったのは私だけではなかったし、ひょっとしたらカウンターカルチャー(対抗文化)としてのロックは終焉してしまったけれど、新しく巻き起こったこのパンク・シーンって何かを変えられる力があるのではないだろうか? なんて思ったものだ。そんなことを思い出しながら、私は一人ポツネンとモニターに映るシンポの流れを見守っていた。
…おっと、また話が横道にそれた(笑)。
法案阻止運動は署名と抗議メールとロビ―活動だけではなかった!
▲6月13日新宿一周「輸入盤CD規制反対直接行動デモ。サウンドカーの荷台は急遽DJブースになった。スピーカーから無造作に流されるロックのリズムがいいな。
とにかくこのCD規制法案にはみんな怒り狂っているらしい。しかし、法案成立まで残された時間は一ヵ月もない。このままではまともな音楽なんて聴いたこともない無能な議員どもに軽くこの悪法は通されてしまうのだろう。全国で無名の人達によって展開された署名運動のほうも頑張った。瞬く間に約6万もの署名が全国から集まったらしい。議員先生に対してのロビー活動も音楽評論家諸氏を先頭に精力的に展開されていたが、悲しいかな、この怒りのパワーを集約する“中核的組織(?)団体、目に見える行動体”が不在だったようだ(少なくとも私にはそう見えた)。
この法案が成立すると商売として困るタワーレコードやHMV、輸入盤専門店、ブックオフなんかは運動の盛り上がりに慌てて形式的な“反対声明”を出しただけだし、法案阻止に向けて残された闘いの時間はどんどん過ぎて行き、「もうこの法案は防げないのではないか?」という絶望感が全体を支配し、私から見ればこの法案阻止運動は時間がないということを頂点に限界だらけだったように思えた。
そんな何とも言いようのない苛立ちと諦めの中、ある日私は“輸入盤CD規制に反対する有象無象の会(?)”の実行委員会に招請を受け、参加してみた。何でも彼らは、ロビー活動と署名運動だけではこの法案は阻止できないゆえ、「少人数でも断固デモをする! 抗議デモとは民主主義の最低限の我々の権利だ!」と言うのだ。この音楽好きの連中は、以前イラク戦争反対のレイブデモ(サウンドカーDJ車を先頭に踊りまくりながら“抗議”する)を行なったユニークな人達であった。
私がこの実行委員会に参加した時には詳細はもうほとんど決定していて、警察署にデモ申請手続きもしてあって、彼らのスローガンには「6月13日午後2時、新宿一周デモ。CD規制粉砕! 海賊盤熱烈歓迎! 騒乱デモ」とあった。
会議の席上、私は「この海賊盤熱烈歓迎はまずいんじゃない? 新宿騒乱を! というのもちょっと過激すぎて、まずこれでは幅広い本来の洋楽ファンの人達を取り込むことができないんじゃないか? 第一、この直接行動デモがあるっていうことをほとんどの洋楽ファンは知らないじゃないか? 情宣不足過ぎるよ」という発言をしたのだが、彼らは「いや! 2ちゃんねるでスレッドを立てられたし、一応ホームページもある。別に無理して参加者を取り込む必要がない。多分50人ぐらいのデモになるけどそれでもいいのだ!」と言う。
確かにこのとんでもない法案に対しての“抗議”の仕方はいろいろあっていいと思う。無理矢理署名運動をしている人達にすり寄って大同団結する必要はない。しかし、法案成立までいわゆる民主主義で認められた直接行動デモはこの主催者のデモしか予定されていないし、国会通過までこのデモの日から3日しかない。もう少しいろいろなところに呼びかけ、マスコミなんかにも訴えかければもっと広範な社会的に影響力のある抗議デモになっただろうに…って思って、私はちょっともったいないような気がした。それでも若い連中はそんなことは平気で断固デモを貫徹するという。何とも若いって素晴らしいと思った。
6月13日、CD規制粉砕、新宿一周デモは敢行された
▲出陣前の平野さん。羽織っているマントは全世界共通「PEACE」の連隊旗だ。ここはゲイのメッカ新宿公園、夜になると全国から集まるゲイ諸氏の「交流の場」になる。一見の価値あり。
心地よい風が吹き抜ける日曜日の昼下がり、日本のゲイのメッカ・新宿2丁目にある新宿公園には三々五々、当初の予定50名を遥かに超える200名近くがサウンドカーを先頭に集まった。勿論、労働組合や左翼の旗や幟もほとんどない。リーダーから強制するシュプレヒコールもなく、DJカーから醸し出す心地よいロックのサウンドと、ビルの影に暮れ行くコンクリ―ト・ジャングルの淡い日差しと缶ビールの軽い酔いの中で、私たちは法案粉砕の願いを込めて踊り歩いた。
デモおたくの私は、今度のデモは相当危険だと予想していた。主催者のテーマは“新宿大騒乱”なのだ。デモのチラシには「野郎ども大変だ大変だ! 我々貧乏人にとって重要な輸入盤CDが規制されるかもしれない。今の国会で著作権法が変えられる危機にあり、国内盤が出ているCDの輸入盤が禁止になってしまうという。ふざけんな! クソ高い国内盤なんか買っていられるか、ついでにその影響で輸入盤しか手に入らなかったCDも店頭に並ばなくなってしまうかもしれないのだ…我々の知らない間に国会のアホどもによって、そんなとんでもないことが決められていいのか! 新宿公園で騒ぎを起こし、どうなるか解らない物騒な雰囲気をまき散らしてやる予定。この大暴動に参加しないでどうする!」って書いてある。昨年、今年と何回かあったイラク戦争反対や自衛隊海外派兵反対の画期的な渋谷サウンド・レイヴデモの時は機動隊まで出て来て、警察のもの凄い規制があって、何人もの若者が逮捕勾留されてだ国家と警察権力が「新宿騒乱!」なんて反体制的にほざいているデモに寛容であるはずがないって思っていた。
▲海賊盤熱烈歓迎?おっと、海賊盤ってこっそり買うのが常道ではなかったっけ(笑)ハングル語で屈託がなく書かれているのもいい。公安(警察)にマークされる事もあるので参加者の顔はぼかしました。
しかし権力側はこのデモを甘く見たのか、規制に動員された警察官は交通警官と若干の公安だけであって、新宿一周の3時間あまりのデモはほとんど強制的に暴力で規制されることはなしに、一人の逮捕者も出さず、警官にぶん殴られることもなく、いわゆるDJカーから流れるサウンドに酔いしれながらの実に楽しい踊りのデモで、終わった時には私もなぜかほっとした。このサウンドデモではお馴染みの、通行人の若い子達が平気で踊りの輪の中に入って来たりして、規制に当たった警官達もロックのリズムに乗っている風にも見えた。う〜ん、偉大な音楽は政治を超えて連帯するか?(笑)
みんな心してネバーギブアップだよ!
そしてこの悪法は6月19日、関係者諸氏の努力の甲斐もなく、何の混乱もなく衆議院を全党原案賛成のまま通過した。法案の施行は来年の1月からだ。
だがしかし、私はここでみんなに言いたい。みんな絶対ここで諦めちゃだめだよ! 法案が通っても我々には“抵抗”する権利や手段はいろいろあって、みんなで頑張ればこの悪法を空洞化することはできるということだ。
音楽評論家諸氏とレコード会社のトップ、文化庁の官僚との“話し合い”も始まりそうだ。これは有事法制や住基ネット、個人情報保護法反対、イラク戦争阻止闘争をやって来た私の経験から言えば、みんなが諦めずにちゃんと奴らのやることを監視し続けてできる抵抗を一人一人がしていけば、権力もそうは勝手にこの悪法を施行できないということだ。こんな糞法案を提出した議員を選挙で落とすことや、不買運動や消費者が、それは洋盤を愛する一人一人ができることをちゃんと忘れずにするということなのだ。ロックのオピニオン・リーダーを自称する各音楽雑誌の編集者や音楽関係者が常に警笛を鳴らし続けるべきだし、何とかこの悪法を空洞化するような奇抜なアイデアを出してほしいものだが。
来月は毎年楽しみにしている自然との調和の“フジロック”だ! 晴れるといいな。何としても“大江慎也ルースターズ”の一日だけの結成は観たいな。
私も年食ったけど、まだ頑張って生き続けよう!
ロフト席亭 平野 悠
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