一人で歌っている時って、客が何十人何百人いようが、一対一の感じなんですザ・スターリン以降、常にパンクという異質な存在として音楽シーンを放浪し続ける遠藤ミチロウが、これまでの音楽遍歴を集大成したDVDをリリースする。これは、昨年の11月に行われたミチロウの「55才5夜連続ライヴ」の模様をチョイスしたもので、ソロはもちろん、NOTALIN'S、M.J.Q、そして遠藤賢司とのユニット「遠藤兄弟」まで、ミチロウの現在の広範囲な活動を一気にさらけ出す内容となっている。バンドだろうがユニットだろうがソロだろうが、ミチロウの存在そのものがパンクとしかいいようがない! その孤高の佇まいを是非ともこのDVDで目撃して欲しい!(interview:加藤梅造+椎名宗之) 「アンプラグド・パンク」って勝手に言ってるんです──DVDの特典として収録されているインタビューを観ると、今回の「55才5夜連続ライヴ」は結構急に思いついたものだったんですね。 ミチロウ:誕生日に5夜連続でライヴをやろうというのは確かに思いつきだったんですが、僕がやっているM.J.Q、NOTALIN'S、TOUCH-MEなどのユニットを全部いっぺんに見せたいなという構想は以前から漠然と思っていたんです。それを、2005年の55歳の誕生日に5夜連続でやろう!と思い立って。 ──「5」という数字がビビッときたんですか? ミチロウ:僕は誕生日が1950年11月15日だし、2000年に50歳になったし、なにかと5に縁があるんですね。区切りがいいというか。 ──DVDもソロになってからの一つの区切りというか集大成的な内容になってますね。 ミチロウ:もうバンドでやっていた年数より、ソロをやっている年数のほうが長いんですね。 ──弾き語りはもちろんですが、ユニットでもミチロウさんはアコースティック・ギターにこだわってますよね。 ミチロウ:僕は「アンプラグド・パンク」って勝手に言ってるんです。別にパンクってつける必要もないんですが(笑)。アコースティックって言うと、どうしてもフォークって言われることが多くて、僕の中でフォークっていうとやっぱり70年代のイメージなんですよね。実際やろうとしていることも、アコースティックの可能性を広げたいというのをやっているから。まぁ、こういうネーミングっていうのは誤解を招くことでもあるんですが、アンプラグド・パンクっていうのは判りやすいだろうと。 ──確かに日本だと弾き語り=フォークっていうイメージが定着してますね。 ミチロウ:しかも、僕の場合「弾き叫び」だしね(笑)。 ──アコースティックでパンクを追求するっていう方向性はソロになった当初からあったんですか? ミチロウ:それはありました。 ──僕は、スターリン時代にミチロウさんがラジオでジャックスを紹介してたのをすごく憶えているんですが、ジャックス〜スターリンと聴くと、その後のミチロウさんのソロはすごく合点がいきますよね。 ミチロウ:三上 寛さんや遠藤賢司さんが70年代からやっている音楽って、いま僕がやっているアンプラグド・パンクとすごく通じると思うんですね。彼らは元祖アンプラグド・パンクだなと(笑)。 ──スターリンの時からミチロウさんの下地に三上 寛さんはあったんですか。 ミチロウ:そう。特に歌詞に関しては、スターリンでやっててもアコースティックでも変わらないんです。だから、エレキ一本でやってもいいと思うんですが、やっぱりアコースティックのほうがエレキより表現力として全然レンジが広いんですね。だからアコースティックにこだわってみようかなと。アコースティックだと強弱がそのまま出せるし、しかも歌を邪魔しないんです。ヴォーカリストとしては、バンドでやっていると歌が音に邪魔されてるという欲求不満がどんどんたまっていくのね。俺の歌が聞こえないよ!って(笑)。 ──やっぱり歌詞が自分で聴き取れたほうが気持ちいい? ミチロウ:もちろんです。アコースティックで歌詞が聴き取れなかったらやってる意味ないもんね。 ──あと、歌詞が聴き取れるのももちろんですが、アコースティックだとミチロウさんの声がすごく伝わってきますよね。囁きから、絶叫、そしてバキューム・ヴォイスまで、声色のスタイルがすごく幅広い。 ミチロウ:一番アコースティックなものってやっぱり人間の声なんだよね。声というのが歌以外にも楽器的にいろいろできるというのを追求したらああなっちゃった。だから声は僕にとって楽器だよね。あと、バンドでやる曲っていうのはテンションがずっと一定なんだけど、アコースティックだと強弱を変えたり、テンポを変えたりと、自分で起伏をつけられるじゃないですか。だから、スターリンの曲をアコースティックでやると、意外とつまんなかったりしますよね。一本調子になっちゃって。 ──ああ、だから今回収録されている「電動コケシ」はスターリンのヴァージョンと全然違うんですか? ミチロウ:ていうか、「電動コケシ」はこっちのほうが原型なんですよ。パンク・ヴァージョンにしたのがスターリンのほうで。「天ぷら」も、今回、遠藤賢司さんと一緒にやってるヴァージョンが原型で、それをパンク・ヴァージョンにしたら歌詞がどんどん削ぎ落とされて、最後に「カラッポ」だけが残ったんですね(笑)。 一人でステージに立つと、なんかストリップ・ショーをやってるような気分になる──「55才5夜連続ライヴ」のキャッチ・コピーに“遠藤ミチロウ最初で最後の全裸ショー?!”ってあるのが、すごくおもしろいと思って。ていうのは、スターリン時代は本当に全裸でステージに立っていたミチロウさんなんですが、55才になった今も、実際に脱がなくても気持ち的には全裸なのかなって。 ミチロウ:いま僕がやっていることを一部でなく全部見せるっていう意味での全裸なんだけど、でも、アコースティック・ギターを持って一人でステージに立つと、なんかストリップ・ショーをやってるような気分になるよね。バンドの場合はメンバーと一緒だから、ラインダンスみたいなもんだけど。でも実際にステージで裸になったほうが全然気が楽だよ(笑)。 ──ミチロウさんのライヴを観ていて思うのは、観てるこっちも裸になっていくような気分になるんですよ。 ミチロウ:観てるほうが裸ってどういうこと? ──たとえば歌詞の中で「オマエ!」って言われると、観ててギクっとするんです。丸裸にされていく感じですね。 ミチロウ:なんかね、一人で歌っている時って、客が何十人何百人いようが、一対一の感じなんです。想定しているのはいつも一人の客なんです。逆にバンドだと、オマエというよりはオマエラって感じになっちゃうんだけど。観てるほうもバンドの場合は一体感とかあると思うんだけど、ソロの場合はそれはないだろうね。客をどんどん孤独にしていくみたいな。 昔から地図を眺めていて飽きない人間だったんです──ソロになってからのミチロウさんは、全国をくまなくライヴしていて、常にどこかでライヴをやっているというイメージなんですが、実際、多い時は年間200本以上やってますよね。 ミチロウ:年間200本を越えると、さすがに毎日ライヴやっている感覚になるよね。その前から160本、180本とだんだん増えていったんだけど、200本を2年間続けて、とうとう胃潰瘍になりました(笑)。50才の時かな。だから今は減らして150くらいに押さえてます。 ──それでも150本ですか!! そういえば、ソロとしては毎年沖縄に行っていますよね。 ミチロウ:沖縄は返還前に一度行こうと思ったけど、当時はビザが降りなくて行けなかった。その後ずっと機会がなくて、ソロになってから初めて行ったんです。それですっかり気に入ってしまって。 ──沖縄も奄美もそうですが、日本であってどこか違う土地という感じの場所がお好きなんでしょうか? ベルリンもそうでしたが。 ミチロウ:そうかもしれないですね。当時の東ヨーロッパ、チェコとかポーランドとか、そういう暗さを持った場所と自分をどっかで結びつけていたところがありましたね。 ──ミチロウさん自身が、定住というよりは放浪する人という感じなんでしょうか? ミチロウ:そうなんですね。俺、ひょっとしたら歌が好きでツアーしているのか、ツアーが好きで歌をやっているのか、判らない時がある。旅が好きだからそのために歌っているというのがあるし。昔から地図を眺めていて飽きない人間だったんですよ。だから、歌で旅ができなかったら、何か別の仕事をして旅をするかもしれないですね(笑)。 Live info.
遠藤ミチロウDVD『Just Like a Boy』発売記念ライヴ 「Just Like a Boy」
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