photo by Shigeo "Jones" Kikuchi 人間の弱さを唄う手段としてのハードコア昨年末にSHIBUYA-AXで行なわれたライヴで11年振りに活動を再開させた新生BEYONDSが、待望の初音源『シルトの岸辺で』を発表する。このシングルに収められた曲はいずれも、かつて在ったBEYONDSというバンドの意義と存在の重さを継承しつつも全く新しい地平を往く意欲的なものばかりだ。伝説の封印を自ら軽やかに解き放ち、臆することなく復活の狼煙を上げた彼らの意志がこの瑞々しい楽曲群に確かに込められている。BEYONDSという名の“遅れてきた青年”は、脆弱さを曝け出すことで恐ろしく発露する狂暴なハードコアを内包しながら、時間と空間を超えて悠然と我々の目前に佇んでいる。(interview:椎名宗之) バンドの在り方をシルトになぞらえた──まず、年末のSHIBUYA-AXでの復活ライヴ、2月の代官山UNITでの自主企画2デイズを行なっての手応えからお伺いしたいのですが。 谷口健(vo, g):バンドとしてのまとまりもだいぶ出てきましたし、やってる側としては自分達が思っていた以上にやれてる気がしてますね。 岡崎善郎(g):うん。着実にスキルアップしてるなという手応えはあるよね。 ──UNITの初日を拝見したんですけど、対バンだった銀杏BOYZやlostageの若いファンもBEYONDSのステージにグイグイ引き込まれていたのが印象的でした。 岡崎:2日目は逆に昔のファンとか、メンバーがそれぞれやってたバンドのファンが多かったんだけどね。空気としては2日とも違ったんだけど、ホームでもアウェイでもなく、どちらも楽しめるなっていう感じだったね。その与えられた空間の中で如何に楽しんで演奏できるかっていうのは、ステージ上の4人が凄く意識しているところだから。 ──古くからのファンとしては、BEYONDSで健さんがギターを抱えて唄う姿がやはり衝撃的だったんじゃないかと思うんですけれども(笑)。 谷口:AXで、客席から「ギター弾くな〜ッ!」って喚声が飛んだくらいですからね(笑)。 岡崎:俺はあの言葉をバンドへの愛情と捉えたんだけどね。決して罵声ではなかったから、笑うしかなかった(笑)。ギターを持つ・持たないっていうのは、見え方ばかりじゃなくて根本的に違うバンドになると思うんだけど、新しいBEYONDSではその二面性があっていいんじゃないかと。ツイン・ギターの曲と、ギター1本で健ちゃんがヴォーカリストに徹する曲と2パターンあっても。 谷口:未だに恥ずかしいんですよね、ギターを持ち替えたりするのが。持つならずっと持ちたいんです。それを今、自分の中では自然にやっていこうと思ってるんですよね。 ──でも、かつてのようにマイクだけでライヴをやり通すのも物足りなさを感じるんですよね? 谷口:いや、そんなこともないんです。それはそれで極めたいと思ってるんですよ。EVIL SCHOOLをやっていた時もその過程だったような気がしてますから。マイクに専念している時とギターを持って唄っている時とでは、全く違う緊張感が生まれるんですよ。ギターを持って唄うようになったfOULの時は、いい意味で凄い重荷があったんですよね。こうしてまたBEYONDSを始めることになって、それがやっと解かれたと思ったんですけど…。 岡崎:甘かったね(笑)。でも、俺も今までツイン・ギターでバンドをやったことがなかったし、スタジオに入るとやっぱり面白いんだよね。ギター2本でやろうって言い出しちゃったから、もう後には引けないよね(笑)。 谷口:まぁ、2本のギターが絡んだアンサンブルは凄く新鮮で、純粋に楽しいんですけどね。先々は、この4人で楽器だけのアンサンブルをメインにした長い曲とかも作ってみたいですし。 ──そして遂に待望の音源が発表されるわけですが、活動再開後初の本誌でのインタビュー('05年12月号掲載)で健さんが語っていた「郷愁の念みたいなものは2割くらい、後の8割はリニューアルされたBEYONDS」という言葉通りの仕上がりになりましたね。 岡崎:“こういう音源になるだろうな”っていうかっちりした青写真まではなかったけど、今回のシングルに関してはイメージ通りか、それ以上のものになったと思ってるね。 谷口:この4人で新しいBEYONDSをスタートさせましたという挨拶状になる音源を早く出したかったので、作る過程が急ぎすぎたかな? という気が自分の中ではしてるんです。だから次に出す作品では、4人全員のセンスをもっと引き出したものをゆっくりとしたペースで作りたいと思ってるんですけどね。 ──往年のファンは“日本語詞のBEYONDSの新曲”にまず面食らうと思うのですが、'94年3月の解散直前には「新曲は日本語で行こう」というプランが既にあったそうですね。 岡崎:そう。ライヴ盤(『940312』)だけに入ってる「SUPER NOVA」っていう曲があって、日本語でやってみようと。ちょうど健ちゃんが日本語モードになりかけた時だったよね。 谷口:そうそう。まさにこれから挑戦しようっていう時期。 岡崎:今回、俺としては用意されていた道があったとしたら、日本語だろうなとまず思ったんだよ。新しい曲は絶対に日本語だろうな、と。だから健ちゃんから歌詞を受け取った時はごく当然のことのように思ったね。 ──基本的な曲作りは健さんが? 谷口:いや、半分は善郎が持ってきたものです。 岡崎:後はスタジオで断片を合わせて、セッションして固めていったり。「シルトの岸辺で」は健ちゃんがきっかけとなる部分を持ってきて、スタジオで4人でどんどん拡げていった。あの曲の中間の面白い部分はテッキン(b)とアヒト(・イナザワ/ds)君のアイディアだしね。健ちゃんの“チャラーン”っていうコードが始まったら、2人が“ドットゥッ、ドットゥッ”ってリズムを刻んだりして。 ──「シルトの岸辺で」というタイトルは、フランスの作家、ジュリアン・グラックの長編小説『シルトの岸辺』からの引用ですよね。 谷口:そうです。“シルト”っていうのは、てっきりヨーロッパの地名かと思ったらそうじゃなくて、砂と粘土の中間を行く砕屑〈さいせつ〉物を意味するんですよ。シルトが潮流に運ばれて、ある一角にあった砂浜が日々刻々と場所が変わっていく。あくる日にはそれが普通の湖面になっていたりするんです。 ──そんなシルトにバンドの姿をなぞらえたわけですね。 谷口:はい、そうしたかったんです。11年間のスパンはあるけれども、BEYONDSは時間や空間を超えた存在としてずっとそこに在ったという。向こうにひとつのBEYONDSが過去あったのに、気が付けばここにまた新しいBEYONDSが存在していた、というように。シルトを通じてその時間なり空間なりを繋げたかったんですよ。過去には色々とあったけど、自分達はどっこい生きていましたよ、というか。 BEYONDSという名を背負っていく意義──そこへ更にテッキンとアヒトさんという鉄壁のリズム隊2人まで加わって。 谷口:そうですね。僕達がテッキンとアヒト君に恋焦がれたというのは、つまりは彼らの人間性に惹かれたんですよね。BEYONDSはどちらかと言えばハードコアのテイストが強かったかもしれないけれど、肉体言語で吹っ飛ばしていくとかよりはもっと内省的な部分が多かったし、人間の弱さを唄うのにハードコアというものが重要な手段のひとつだったというだけであって。BEYONDSというバンド特有の人間的な弱さの部分を持っていたのがテッキンとアヒト君だったんですね。それが今とても良かったと思ってます。 岡崎:あの2人の人選については、絶対に間違ってなかったと思うしね。その人間性にしても、プレイの面にしても。 ──ステージ上でも、健さんと岡崎さんに臆することなく堂々と己のプレイを貫いていますし。 谷口:うん。それが僕は最初のAXのステージで安心したんですよね。むしろ僕達2人を凌駕するだけの勢いがあって、そこを僕は期待していたところもあったし、終わってから心底「ありがとう」って思いましたね。 岡崎:ライヴにしろリハーサルにしろ、この4人だと常に小気味良い緊張感があるんだよね。 谷口:そう、爽快な緊張感がね。 岡崎:ライヴでもリハと違うアドリブがそれぞれ出てきたりするし、そのスリル感がライヴでは楽しいね。対等である部分をもっと超えてる関係に今はなってきたから。 ──懐古主義など微塵もない、2006年の今に充分訴えかけるだけの至極今日的なロックがこの『シルトの岸辺で』には通底していると思うんです。「FEDDISH THINGS」の再録+SHAKKAZOMBIEのツッチーさんによるリミックスがなければ、いっそのことBEYONDSという名前を使わなくてもいいんじゃないか? とすら思うほどで。 岡崎:そう言って貰えると凄く嬉しいね。いきなりこれだけバラバラな4曲を並べたのも、自分達の中で自信があったからこそだしね。「FEDDISH THINGS」はほとんどライヴ一発録りで、その音をツッチーにポーンと投げただけなんだよ。 ──昔の曲を再録しようという構想は最初からあったんですか? 谷口:シングルとしてのヴォリューム的なこともあったし、BEYONDSとしてやるからには純然たる新曲だけで固めるのもどうかな? と思ったんですね。前のBEYONDSを引きずっていることは僕の中では隠しようのない事実ですし、それが懐かしい感覚ばかりじゃなく、今のBEYONDSは昔の曲をやっても自分達の気持ちをそのまま出せるんだということを臆することなくやりたいわけですよ。そういう意味を込めて、昔の曲を入れるのはいいことだと思ったんです。たかだか3年半のBEYONDSの活動を引きずるというのも、男の情けないロマンを僕は感じるんですよ。そういうのは人間としてあって然るべきものだと思うんです。 ──「FEDDISH THINGS」は、'02年にリリースされたBEYONDSのトリビュート盤『WE HAD BEEN THERE 〜A tribute to BEYONDS〜』でfOULがカヴァーしていましたけど、この選曲も健さんのこだわりですか? 谷口:いや、善郎が「やりたい」っていう。 岡崎:どちらかと言えば、健ちゃん以外の俺達3人。リハで一番ジャストにグルーヴが取れるのが「FEDDISH THINGS」だった。何よりもやってて心地好かったしね。さっき言われたように、「違うバンド名でも良かったんじゃないか?」という意見も確かに一理あるのかもしれないけど、そこを敢えてBEYONDSという名前を背負っていこうってところがあるんだよ。BEYONDSという名前を冠したことによって、自分達にとっても表現する場所としてチャレンジしていきたいっていうか。 ──ちなみに、リミックスをツッチーさんにお願いしようというアイディアは誰が? 岡崎:テッキンだね。すぐに名前が挙がった。もっとヒップホップ的要素の強いものに仕上がってくるかと思ったんだけど、全く逆だった。あの軽さが凄くいいと思う。 ──そう、何というかその小気味良いしなやかさというかスタンスの軽さが、今回の音源にも今のライヴにもあると思うんですよね。そこが新生BEYONDSの大きな持ち味のひとつなんじゃないかと。 岡崎:そうなんだよ。今の活動の在り方自体そうかもしれないし、BEYONDSという重い名前を背負っているにも関わらず、軽いスタンスでシャキッと行進している感じというか、そういうのが今はあるかもしれない。当時言われていたようなバンドとしての重さや精神論みたいなものはいずれ出していけばいいし、自ずと出てくると思うし。 谷口:うん。始まりは軽快な感じで行きたいし、自分達で自分達を束縛するような形にはしたくないですね。BEYONDSはもっとオープンなもので在りたいんですよ。 ──今回のレコ発ツアーですが、12年前のラスト・ツアーでも行動を共にしたbloodthirsty butchersとまた東名阪を廻るというのが地続きの物語のようで面白いですね。 谷口:ヨウちゃん(吉村秀樹)がまた当時のことをよく覚えているんですよね。「あの時のこと覚えてるか!? 名古屋はカプセル・ホテルに泊まったんだぞ!」とか(笑)。 岡崎:今回の対バンも、なるべくしてなった感じだよね。ブッチャーズもアルバムごとにどんどん変わっていったり進化し続けているバンドだし、常にリスペクトしてるからね。 ──年内にはフル・アルバム発表も期待して良さそうですか? 谷口:気持ちとしてはそうですね。アルバムはちゃんと時間を掛けたいんです。たとえば12曲くらい入れるならば、3〜4曲出来るごとに逐一確認していって、最終的には統一感のあるものにしたいと思ってます。 岡崎:やりたいことが一杯あるから困っちゃうよね。ロフトでもまた是非ライヴをやりたいし。2nd(『The World, Changed Into Sunday Afternoon』)のレコ発は旧ロフトだったし、今のロフトにも凄く愛着があるからね。とにかくBEYONDSがこれからどうなっていくのか、自分達自身が一番楽しみだね。 Live info.
Touring Infernos 2006 「シルトの岸辺で」
WONDER RELEASE RECORDS UKWR-009 【amazonで購入】BEYONDS OFFICIAL WEB SITE http://www.beyonds.jp/
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