昨年は、結成13年というBALZACにとって節目の年だった
──まず今回リリースされるアルバムの話の前に、昨年を少し振り返ってみたいと思ったんですが。
HIROSUKE:ミニ・アルバム『DARK-ISM』をリリース後は、国内のツアーをして、8月末から9月上旬にかけてヨーロッパで10本ほどやってきました。ヨーロッパは、2年前にリリースした『CAME OUT OF THE GRAVE』後にも一度行ったんですけど。ヨーロッパから帰ってきてからは、本作のプリプロに入って、秋にはMISFITSとのアメリカ・ツアーに1週間ほど行って、帰国してからはレコーディングにまっしぐらで。
──ヨーロッパ・ツアーでは、以前回った同じ会場でもやったんですか?
HIROSUKE:同じところもありましたけど、今回は比較的大きめなところが多かったですね。一昨年行った時は、もの凄い小さいところからもの凄い大きなところまで回ったんですよ。今回はドイツ中心に、オーストリア、ウィーンを回ったんですけど、人も入るようになって。CDを聴いて来てくれる人達も増えて。またドイツでは、日本のロック・ブームがあってその影響も少なからずあって。
──その帰国後は、9月23日、24日とシェルターで2DAYSを行なったんですよね?
HIROSUKE:そうですね。一昨年も行なったんですけど、ちょうど昨年で僕らは結成13年で、その節目で何かできることがないかなと思って。そして今までの曲を総ざらいしようということになって、2DAYSの初日は結成した'92年から'99年までの作品の中の曲だけをやって、2日目は2000年から今までの曲をやって。結局2日目の昼にもやったんで、3回ライヴやったことになりますね。結構大変でした(笑)。今のメンバーで一番新しいドラムのTAKAYUKIは、加入して5年経つんですが、'99年までのBALZACの作品ではドラムを叩いていないので初めて叩く曲が多かったですし。「BALZACのコピーです」って言いながら楽しんでましたけど。彼にしてみると「こんな曲やってたの?」「こんな感じだったんだ?」って。僕なんかは「懐メロだな〜」と思いながらやった曲もありましたし。
──新鮮だったんでしょうね。
HIROSUKE:そうですね。一番古い曲なんかは僕しか知らない曲で、他のメンバーに教えましたし。その曲は、ライヴハウスへ出演するために1992年に作ったデモテープにしか入っていない曲で。
──お客さんの反応はどうでした?
HIROSUKE:やっぱり初日のほうは、自分達もそうですけど、懐かしいっていう声もありました。当然自分達でやり続けてきて積み重ねてきて、昔よりも音楽の幅が広がった部分もあると思うんですけど、その前の段階の音楽だったんで、凄いパンク・ロックだったし、直球マシンガンみたいな感覚で作った曲もあったんで。そういうことを思い出しながらやっていましたね。ビデオで録った映像をうちのスタッフが見て「HIROSUKEさん、鬼気迫る顔をしていて、ちょっと怖かったですよ」って言ってましたけど(笑)。2日目は、逆に気が楽になって。その辺のギャップが2日の間にありましたね。
──今までの自分達を振り返るという意味でも、バンド的にはひとつの節目になったんじゃないですか?
HIROSUKE:バンドによっては古い曲はやらないとかあるとは思うんですけど、僕らはあんまりそういうのはなくて、古い曲は古い曲でいいですし、新しい曲は新しい曲でいいですし。そういう積み重ねがあって今があると思っているんです。特に海外に行くと日本よりも環境が良くない場合が多くて、自分達がこういうことをしたいというのが、物理的にできないという。PAの人は日本のライヴ、ツアーでずっと一緒に回っていただいていて、海外も同行していただいているんですけど、「今日のエフェクターはリバーヴしかないから」「そう。じゃあ、ディレイ使えないね」とか(笑)。「今日は回線がこれしかないから、声だけです」とか。根本的に純粋に演奏することだけをしっかりやるしかないというか。そこで何かを見い出せないと面白くなく、そういう会場で自分達が演奏して再確認ができたというか……。忘れかけた感覚を取り戻せた部分がありますね。日本でやり慣れた曲を海外でやっても意外と新鮮だし。いつもだったらここでディレイを掛けるところを、人力でディレイみたいなことをやってみて、「凄い原始的やな」とか思いながらやっていてもそれが良かったり。日本から運べる機材も限られていますし。海外でライヴをすると自分がバンドをやり始めた時の感覚を思い出す時もありますね。
──その後ハロウィンの時期に、MISFITSとのアメリカ・ツアーへ行かれたんですよね。
HIROSUKE:アメリカはヨーロッパに比べて気が楽なんですよ。MISFITSが全部おんぶしてくれますから。おんぶというか肩車してもらっている感じで(笑)。何もしなくてもいいというか。MISFITSのスタッフとも仲良くやってますんで、日本人の僕らが困るようなことを察知してくれて、充分にケアしてくれますし。ちょうど1週間ほどニューヨークとニュージャージー近辺を回ってまして。ニュージャージーは、MISFITSの地元ということもあって盛り上がりましたね。でもギリギリまで決まらないライヴもあって、あんまり告知がされなくて、「昨日は2,500人も入ったのに、今日は200人?」っていう日が1日だけありましたけど。余談ですけど、ライヴの前日に僕らがニューヨークに着いたんですけど、その日にMISFITSのギターのDEZがトラブルにあって今日はどうしても出演出来ないって話をツアー当日の朝に、MISFITSのツアー・マネージャーから聞かされて、「多分明日は戻ってくると思うけど、今日は病院に行っていてライヴはできないんだ」って言われて。「そんなアバウトでいいのか?」と思いつつも、彼がATSUSHIに「今日、ギター弾いてくれ」って。ATSUSHIは、「エ〜〜ッ!」って(笑)。「弾けるだろう!」って。ATSUSHIは「弾けねぇよ〜」って言いながらも、急いで10数曲練習して。BALZACのステージが終わった後、MISFITSのステージに立って弾いてましたよ(笑)。10数曲しか弾けないから、同じ曲を2回やったりしてました。「そんなライヴでいいのかMISFITS?」と思いながら見てましたけど、面白かったですよ。JERRY ONLYがこんなにデカイじゃないですか、ATSUSHIがちびっ子MISFITSみたいで。一生懸命成り切って弾いている姿を見ていて楽しかったです。
──それは、初日だけだったんですか?
HIROSUKE:次の日にはDEZが戻ってきて。
──ATSUSHIさん、貴重な体験でしたね!
HIROSUKE:いや〜、波瀾万丈なツアーでしたね。MISFITSにとってはトラブルだったと思うんですけど。僕らは親分が困った時に恩返ししたいって思いで一生懸命やってました。
──話が前後するんですけど、7月にクラブチッタ川崎でやったBAZAC主催のイヴェント〈EVILEGEND 13 VOL.4〉が開催されていましたけど、PERSONZ、メリー、ASSFORT、POTSHOTというメンツが凄いですよね。ジャンルの壁を越えていて。
HIROSUKE:海外でやってきたという影響もあるとは思うんですけど、ジャンルに関係なくいいバンドはいいなぁという。海外でも自分が聴いてきたバンドと一緒にライヴをする機会があって。MISFITSしかりDAMNEDやMAD SIN、全然違ったジャンルのバンドとかもそうなんですけど色んなバンドとライヴをやってきたのが本当に楽しかったんです。このイヴェントはいろんな意味で先輩のバンドから友達のバンドまで誘って。
──PERSONZには驚きでしたよ。
HIROSUKE:偶然、一昨年ツアーの時、名古屋のライヴの前日に同じ会場でPERSONZがライヴをしていたんですよ。イヴェンターに頼んで入れてもらって、そこで初めてお会いして、ひょんなことで連絡取り合うようになって一緒に呑んだりする機会もあって仲良くなって。僕もPERSONZ世代なんで(笑)。昔、大阪の厚生年金会館でやったPERSONZのライヴに1列目でJILLさんに握手してもらった経験もあって。この話をするとみんなに笑われるんですけど、ホントにファンで。根本的な部分で影響を受けて、自分のBALZACの音楽観が出来る前から聴いていた音楽でもあるし。そういう人達と一緒にできるのはホント凄いと思いますね。近年、そういった機会が多くて、去年の年末はBUCK-TICKのトリビュートにも参加しましたし。自分も歳を取りながらも、影響を受けて心の中に残っている部分がありますし。
吸収する間口も広がれば、形にしていく手法も広がってきてはいる
──そして、2年振りの7枚目となるアルバム『DEEP BLUE: CHAOS FROM DARKISM II』が3月8日にリリースされますが、発売日が“308”ですよね(笑)。
HIROSUKE:これは、僕のわがままです(笑)。本当は、2月下旬だったんですよ。
──本作は、過去最多となる16曲収録で1時間というヴォリュームに仕上がっていますね。
HIROSUKE:今まではシークレット・トラックを入れても13曲という曲数だったんですけど、今回作っているうちに違うかなという気になりまして。自然と曲が増えて。リミットが近づきつつある中で、メンバーもスリリングなことを味わいつつ。締め切りがないと延々にやってしまうんで、締め切りがないといけないんですけど、曲が増えたぶん、その締め切りも少し延ばしてもらって。それで16曲完成したと。
──今回も12〜13曲にして、そのぶん残った曲はストックして次回に回したほうがいいのかなと思ったりするんですけど。
HIROSUKE:そういうふうにはあんまり考えないんですよね。僕はストックしたくないタイプなんで。思った時に思ったことを記録したいと思うんですよ。前作のミニ・アルバム『DARK-ISM』もそうだったんですけど、アレはもともと3〜4曲のシングルのハズだったんですよ。曲ができて気がついたら6〜7曲になって。じゃあミニ・アルバムにしましょうということになって。行き当たりばったりというか……。今回は、トータル・タイムが1時間もあって大変だと思ったんですけど、ミックスダウンが終わって聴いてみると、「これホントに1時間もあるの?」っていう以外と短い感じがして。でも確かに時計を見ると1時間経っていると。ダラダラとしてイヤな長さだったら困ったんですけど、この16曲はこれでいいなと。自然に生まれたアルバムだと自分達では思っていますし。
──そして内容的には、ヴァラエティ豊富で幅の広がりを感じました。当然芯となる部分は普遍ではありますが、新たなBALZACを垣間見れたというか……。
HIROSUKE:自分達としては、このアルバムを作るために新しいことをしようと思ってやったことはひとつもないんですけど、最初の話にもありましたけど積み重ねてきたからこそ間口が広がってきたというのはバンドとしても当然ありますし。自分達が演奏するという立場でありながらも、人の音楽を聴いて自分の体の中で吸収して取り入れている部分もありますしね。それが何かの形で出ていることもありますし、吸収する間口も広がれば、形にしていく手法も広がってきてはいると思います。以前よりも自分達の持っている引き出しを自由に引き出せるようになってきたことが、新しいヴァリエーションが増えたと人に捉われているのかなと思うんです。最初スタッフに聴かせた時も同じような感想を言われたんですけど、自分達は「そう?」って。「そう言われたらそうかなぁ〜」みたいな。自分達が意図してそう見せようと思ってやっていなくても、結果的にこのアルバムがそう思われるということは本当にそうだとは思います。自分達はひとつの記録としての作品を残しているわけなんですけれど、聴く人にとって何か新しいものだと感じてもらえるのはそれはそれで正解だと思いますし。
──すでにいろいろな人から質問されているかとは思いますが、DAVID BOWIEの「ZIGGY STARDUST」のカヴァーはどういった経緯で収録することになったんですか?
HIROSUKE:これはただ僕が好きだったという(笑)。「ZIGGY STARDUST」はロックの教科書的な曲で自分も中学生の頃に初めて聴いたんですけど、去年久し振りに聴きたいなと思って、持っていたアナログで聴いてかっこいいと思って、普段聴けるようにCDを買ったんですよ。CDで聴いたらさらにいいなと思って。「これ自分達でもやってみたいな」ってメンバーに話して、メンバーも「いいですね」と。BAUHAUSもカヴァーしているんですけど、そのカヴァーヴァージョンもいいんですよ。原曲に忠実なんですけど、BAUHAUSのカラーが凄い出ているというか、BAUHAUSの曲だって言っても過言ではないアレンジになっていて、その辺の曲の持っている魅力に惹かれてやってみたいなと。ギターのATSUSHIはDAVID BOWIEが大好きなんで、MICK RONSONばりに成り切って。忠実にMICK RONSONのフレーズを入れながらも、自分の考えたフレーズを入れたりして。僕らは、トリビュートも含めてカヴァーする機会が多かったんですけど、カヴァーする時は曲をこねくり回して別のモノにしようというアレンジはしないで、原曲に忠実にいい部分はいい部分として演奏するということでカヴァーとして成立すると思ってやってきたんですよ。あんまり原曲とかけ離れたものにはならないという。「これコピー?」と思われてもいいかなと。原曲には勝てないと思うし、自分がカヴァーする曲はいい曲だからこそ選ぶわけですし。カヴァーする人間としては、その原曲から受けた衝撃だけは超えられないですから。そこでいいものはいいとした上で、表現できることを表現するという解釈でカヴァーしています。この曲もコピーって思われてもいいですし。この曲をカヴァーすることで一番不安だったのは、このアルバムの中で1曲だけ突出して見えたりしないかなということだったんですけど、意外とすんなり聴けて。自分達でも入れて良かったと思いましたね。
常に突っ走って、自分のやりたいことをやってきた
──本作は、通算7枚目のアルバムになりますが、周りのバンドでこんなに枚数をリリースしているバンドっていないですよね。BALZACならではというか。
HIROSUKE:ミニ・アルバムとか海外でのリリースを含めると結構なタイトル出しているなと(笑)。いい話ではないですけど、近年僕らの友達のバンドも解散することが多くて……。解散しそびれたバンドとしては、まだまだ頑張ろうかと(笑)。僕らはそういうことに対しても何も考えていないというか。積み重ねてきたものが歴史として当然あるだろうし、近年海外に行くことでバンドに活性化を与えましたし。そういうことが繋がっているかと。昨年結成13年だったんですけど、なるようにしかならないなということが大きくて。常に突っ走って、自分のやりたいことをやってきたんです。でもそこで手を抜いてやってこなかったからこそ、いろいろな人に巡り会えたり、海外進出ができたり、自分がロックに目覚めて影響を受けたバンドと出会えたり、MISFITSしかり、THE DAMNEDしかり、THE WILLARDしかり、BUCK-TICKしかり……。自分達で一生懸命やってきたらいいこともあるんだなって、自分で証明できたからだと思うんで。好きなことを諦めずにやってきたというか。好きなことに純粋に向かえる環境ができたというのが、僕らにとって一番恵まれたことではあるんですけど。ひとつやったことでさらに繋がったこともありますし。例えばMISFITSと知り合えたことで、RANCIDと知り合えたり。THE DAMNEDと知り合ったから、DAMNEDのメンバーともメールのやり取とりができて、イヴェント〈EVILEGEND 13 VOL.4〉にシークレットでCAPTAINが歌ってくれたり。ちょっとしたことですけど、そのちょっとしたことをやってきたからちゃんと後に繋がったというのが自分自身の中で実証できたと思うんで。そういうやり方が自分にとって一番いいんだろうなと思えるようになって。
──自信にも繋がったんではないですか?
HIROSUKE:そうですね。僕は自信満々でイケイケっていうタイプではなく、どちらかという小心者で石橋を叩いて渡るタイプだと思うんです。そういうのが意外と良かったのかなぁと。いろいろなバンドと出会えて、一緒にいいライヴをやったり、リアルなところでいい影響を受け合ってきましたから。そういうことが恵まれていると思います。実はあまり次の戦略とかを考えながらやってきてはいないし。やりたいことをひとつずつ一生懸命やっていくと、それが次に繋がってくると思いますし。今のBALZACはそんな感じですね。
──最後になりますが、アルバム・リリース後は4月から全国15カ所ツアーですね。
HIROSUKE:ツアー最終日が渋谷クラブクアトロで。その後、下北沢屋根裏と難波ベアーズでもライヴをやります。東京で初めてのライヴが'94年の下北沢屋根裏だったんですよ。難波ベアーズはBALZACで初めてやったところですし。高校の頃から出ていたところでもあるんですけど。ちょっと前にベアーズの店長さんと会った時に話をしまして。
──限定138人とのことですけど(笑)。
HIROSUKE:どちらも100人超えると苦しくなるとは思いますけど、数字にかこつけてやるのが僕らのやり方だから(笑)。スタッフはみんなやや反対気味でしたけど(笑)。でも、うちのPAの人は「おまえらは海外でとことんヒドイところでやってきたから、どこでやっても楽しみ方は判っているだろうし、全然どこでもできるよ」って言ってくれて。お客さんへのチケットの問題はあるのかもしれないですけど、自分達が楽しめないとお客さんも楽しめないと思いますし。
──きっとステージに行くまでが大変ですよね。お客さんの中を掻き分けて(笑)。
HIROSUKE:プロレス入場で(笑)。僕はあんまり大きい会場は好きではなくて、小さい会場が好きだったりもするんで。音の善し悪しとか言い出したら、いろいろあるとは思うんですけど、やっぱりライヴって音だけではないじゃないですか。目や耳や感覚の全てで体感するのがライヴですし。手を伸ばせばお客さんにとどくところがいいですよね。
|