ナツメ球のオレンジ色と夕暮れのイメージが重なった
──ずいぶん春らしい雰囲気の3曲が揃ったシングルですね。もともとこういうコンセプトでいこうと?
大久保:いえ、実はタイトル曲の『ナツメ』は去年の5月に録り終わってて、ずっとあたためてた曲なんです。『逢いたい』はアルバムに収録してたものをシングル用にミックスし直したもので、『卒業』は今回のために書き下ろしました
──じゃあ、リリースする時期を待ってたと。
藤井:待ってたというか、こういう落ち着いた感じの曲はアルバムを出してからの方がいいかなと思って。最初はね、やっぱり勢いのいい感じで打ち出したかったんで
──たとえば卒業とか桜とか、春の普遍的なテーマを歌ったものはありました?
藤井:いや、ここまではっきりしてるのはなかったですね
──そういうモチーフって、変な言い方ですけど照れとかないですか?
藤井:最近は何にも照れないですね(笑)。若い頃って結構照れ臭いことって多いけど、年を重ねていくごとに図々しくなっていくっていうか、冷静に受け止められるんですよね。客観的に見れる
大久保:だって実際に“卒業”とかしたのってもうずいぶん前だしね
藤井:たとえば今回の『卒業』って曲なんかは、漠然と中高生ぐらいのイメージで書いたんですけど、実際にその渦中にいたら感じられないことなんですよ。今になって思うっていうか。卒業なんて一生のうち数回しかないのに、もっと噛みしめとけばよかったなっていう。実際、ふざけてるからね。自分の卒業式とか(笑)
大久保:ちょっとでも目立ちたいとかね(笑)。だから素直にそういう感情になるのが恥ずかしいんですよ、きっと
──今になって思う。そういう立ち位置だからこそ、「卒業」や「逢いたい」なんかは歌詞もダイレクトになるんでしょうね。その点、「ナツメ」は言葉の奥にあるものが語りかけてくるような曲で。
藤井:“ナツメ”って蛍光灯の豆電球のことなんですけど、ある時それが切れて電気屋さんに買いに行った時に初めてナツメ球って名前を知ったんですよ。で、そのオレンジ色の光と夕暮れのイメージ、小っちゃいときに夜は怖くてそれを点けて寝てたなんて懐かしい記憶が全部重なったんですよ。それが、もともと浮かんでた<僕らは何も知らないままに/大人になっていく>というフレーズとも重なって、そこから広げていったんです
──ナツメって名称、ここで知る人も多いでしょうね。
藤井:そうですね。僕のイメージとしては、小っちゃいころの夏休みとかにおばあちゃんちにとかに遊びに行って、座敷にみんなで布団並べて寝てた時に点いてたあの感じなんですよね
大久保:あぁ、僕も親戚の家とかで点いてたのをすごい思い出しますね。ぼんやり部屋の中が見えたりするから逆に怖かった記憶がありますけど
──単語だけ見ると女性の名前のようでもありますね。
大久保:…僕、最初“夏目雅子”だと思った
藤井:古いな〜(笑)。でも雰囲気的にないわけじゃないね。懐かしい感じが。僕ら、リアルタイムの三蔵法師(笑)
大久保:三蔵法師!!(笑)
──えー、いろんな意味でノスタルジアを感じさせるというまとめでいいでしょうか(笑)。
大久保:ありがとうございます(笑)
──でもこの曲はアコギ一本でも充分伝わる力を持った歌だろうなと思いました。今回はストリングスのアレンジで壮大な感じに仕上がってますけど。
大久保:最初は弾き語りしてるの聴いて、いいなあって思ったんですよ
藤井:何気にプレゼンしてたんです(笑)。誰か気付いて食い付いてこないかな〜って(笑)
大久保:で、ディレクターが“お! 何それ。いいじゃん”ってパターンが多いよね(笑)
──そんなに気を遣いながら曲持ってくるんですか!?
藤井:だいたいそんな感じですねぇ(笑)。あと、ライヴのリハーサルで何気に歌って聴かせる、みたいな(笑)
──そうやってそっとプレゼンされた曲ですが、完成形では思いっきりストリングスまで入ってますね。
大久保:実はこれ、レコーディングの当日に決まったんですよ。本当は僕ら3人だけのアレンジで詰めてプリプロやってたんですけど、なんかイマイチよくなくて
藤井:そこで急遽アレンジ変えて。結局歌詞も、間奏の<さよならを繰り返す/長い夏が終わりを告げる>ってとこは歌ってるうちに出てきたんでそこも変えて
大久保:結局、ストリングスは八重奏になりましたね
藤井:もともと好きなんですよ。ギター・バンドに弦が入るって。だからずっとやってみたかったんですよね
──アレンジの面でも細かく指示されたんですか?
藤井:“竜巻が起こって上に行ってウワーッてなくなる!みたいな感じで”とかは言いました(笑)
大久保:それでも一応、伝わってはいたけど…
藤井:再現不可能です、と(笑)。それでなにか処理をしてやってもらったんですけど、やっぱりこういうのは機会があったらいろいろやってみたいですね。弦以外でも
ライヴ1本1本と音源1枚1枚を大事にしたい
──ストリングスが入ってる「ナツメ」と「逢いたい」のレコーディングは去年ですから、この2曲に関しては菅原さんがドラムを叩いてらっしゃるんですね?
藤井:そうですね
──去年の年末のライヴで脱退されたということで。
大久保:あの時はほんとにすごくいいライヴで。楽しかったよね?
藤井:なんかすごく盛り上がってたし。あのステージからの光景は忘れられないですねぇ
──その後、サポートのドラムの方を迎えて「卒業」がレコーディングされたと。
藤井:はい。その日に初めて合わせて、その日にレコーディングしました(笑)。結構ロックな感じの子なので、一緒にやってると自然とロックな気分になるんですよ。それが化学反応っていうんでしょうね。やっぱりタケちゃんのドラムとは違うノリなので、たぶんライヴとかになるとさらに面白くなりそうな気がしますよ
大久保:3月25日のSHIBUYA-AXで初めてやるんですけど、今はそれに向けて準備期間という感じですね。そこからまた自然と(作品の部分でも)変わっていくんでしょうけど、あんまり“変えていかなきゃ”とか思っちゃうと逆に変な方向になるような気がするので、自然となればいいなと思いますね
藤井:あんまり考えすぎないようにしないと
大久保:うん、いいものは作れないからね
──この作品から2006年がスタートするわけですが、リリースやライヴなど、今年はどういう感じでやっていきたいと考えてますか?
藤井:夏フェスに出てみたいですね。去年はひとつも出てないので、今年こそは
大久保:その時期、ずっとレコーディングしてましたからね
藤井:野外でやりたい
大久保:あとはバランスですね。去年はプロモーションとライヴの時期が重なったりしていっぱいいっぱいだったんですよ。だから今年はバランスとって、ライヴの1本1本、音源の1枚1枚を大事にやっていきたいなって
藤井:でも去年は“勢い”ですから。1stアルバムも時間をかけてゆっくり作り込んだって感じではないけど、それは1年目のテンションをそのままつめこんだっていう。だから2年目の今年は、ちょっと時間かけて作りたいなと
大久保:僕らなりのマイペースでやっていきたいですね。で、夏フェスに出ると(笑)
藤井:夏フェスね。僕も若い頃は行きましたけど、最近はすっかり行けてないんですよ。やっぱりね、若いうちにいろいろ行っといた方がいいと思いますよ。刺激受けるし
──若い頃って(笑)。じゃあ現在、お二人に刺激を与えているのはどういうものですか?
大久保:うーん、やっぱりカッコいい音楽だと思うけど、最近なかなかないんですよ。ウワーッ!て鳥肌が立つような音楽が
藤井:そういうのがないから、自分らで作ろうかなっていうところなんだと思うよ
大久保:あぁ、それは前から言ってたね
藤井:俺はファミコンのサントラにはまってるけど(笑)。すんごいメロディーがいいんですよ。たまにね、全然違うジャンルの音楽を聴くと面白い。昨日もね…(しばしゲームのサントラ談義)
大久保:あ、気がつくといつもオタクみたいな話してるんでスミマセン(笑)
──いえいえ。いろんな刺激を受けてぜひ、これからもいい曲をお願いします(笑)。
藤井:あ〜、最近よく思うんですけど、僕らの音楽を待ってくれてる人がいると思うと、意味もなく“いい曲書きたい!”って言ってるんだよね(笑)
大久保:それひとりで言ってんの!? アブなくない?(笑)
藤井:アブなくないよ!いい曲届けたいなっていうね、気持ちがさ。その欲が前より全然高まってるんですよね
──その欲が、1年目の勢いとは別の形で出てくるんでしょうね。
藤井:そう、ライヴでみんなが見てくれてる姿を想像しながら曲書いてるんですよ。以前はほんとに自己完結な感じだったんで、最近ちょっと外に向かい始めてるなって思うし。そのぐらいライヴが楽しくなってきたってことなんだろうね?
大久保:うん。まぁこれからも自分たちのペースを崩さないで、面白いことやっていけたらなって思ってます
|