第三者のエンジニアに委ねた“今までとは違う音”
──シングル「let's dance」の時に感じた印象と、アルバムを聴いてみての感触がけっこう違いまして。
yukihiro:あ、そうですか?
──ええ。もっと即効性の高いものになるかと思ってたんですけど、もっとグルーヴィでメロディアスで。いわゆるインダストリアルの様式からは遠ざかっているような。
yukihiro:そうですね。たぶん打ち込みの比率なのかなぁ。今まで……まぁ、そんなに作品を出してないですけど、今までよりは今回(打ち込み比率が)低いですね。
──そうなったのはなぜでしょうか。
yukihiro:うーんと……ぶっちゃけて言うと時間のかけ方の差、みたいな気もするけど。今回のほうが短いんですね。
──時間が長いほど、インダストリアルっぽくなるということ?
yukihiro:うん。やっぱり(インダストリアルは)アレンジのひとつの要素だと思うんで、どれだけ時間をかけるか、っていう差はあると思いますね。
──もうちょっと時間があったら変わっていたんですかね。
yukihiro:うーん、でも曲が呼ぶものもあると思うんで。そうなり得た曲もある、っていうくらいで。
──でも結果的にyukihiroさんはこれで良しとしたわけで。気持ち的に、インダストリアルへのこだわりが薄れているとか?
yukihiro:うーん、いや、こだわりは逆にあるって言えばあって。要素が少なくなったぶん、確実に入れてはおきたいよな、っていうものになってる。
──この中ではっきりインダストリアルだと言えるのは「let's dance」と「daze」、あと「egotistic ideal」くらいで。
yukihiro:うん、そこはその狙いでやってますね。
──それ以外の曲ではどういう狙いがあったんですか。
yukihiro:曲単位の話になっていきますけど、まぁ重い曲は重く、変な曲は変に、っていう感じですね。綺麗な曲は綺麗に。
──全体に、いわゆるヘヴィ・ロックの方向性が強まってますよね。
yukihiro:それは……そうですね。そこまで僕は意識してないんですけど、出てきた音はそう感じるものになってるかもしれないですね。たぶん、要因はエンジニアさんじゃないかな。一番そこが強調されたミックスになってるかなぁって思いますけど。
──インダストリアルってタテでザクザク刻むギターがメインですけど、今回はもっとレイヤーな感じで。
yukihiro:たぶんそれもね、僕が思うにミックスの違いだと思うんですよ。今までも凄い音は重ねてるんで。ただその、僕の趣味でミックスしていくとわりとタテに割れていく感じが強くなる、一つ一つの音が重く残るっていうミックスになるんですけど、今回はわりと曲としてのミックスというか、全体が一つになってる感じなんですね。僕はどうしてもひとつひとつの音に凄くこだわって、凄い時間がかかっちゃうんですけど、やっぱりプロの人のミックスはまとめるのが上手いよなぁって。
──なんで今回は外部に委ねたんでしょうか。
yukihiro:僕が、それを聴いてみたかったんですね。僕がミックスする音っていうのは、自分で想像できるから。そうじゃない音を聴いてみたかった。今までとは違うacid androidを聴いてみたい、そのために第三者のエンジニアに委ねたわけで。
──いざ聴いてみて、どう感じましたか。
yukihiro:……最初は全然馴染めなかった(笑)。
──そうですか(笑)。それでもその手法を選択したってことは、yukihiroさんの中に、acid androidを違う境地に進ませたいっていう意識があったから?
yukihiro:違う境地、っていうのは全然ないです。さらに進化させたいっていうのは ──まぁどんな人もあるでしょうけど、普通にありましたね。ただ、これまで来た道を曲げようとか、そういうのは全然ないです。だから変化っていうのも人に言われて「そうなんだ?」って思うくらいで。「劇的に変わりましたね」とか言われると逆に戸惑っちゃうんですね。
いくら編集しても生演奏の匂いは消えない
──劇的かは判らないけど、インダストリアルをやってるacid android、というイメージはこの作品で崩れますよ。
yukihiro:あぁ……やっぱりそうかなぁ?(一同笑) ……まぁでも、インダストリアルをやってるacid android、っていうのも、そんなに頑なものではないんですよね。インダストリアルしかやらない、っていう意識はなかったし。
──ただ、こだわりは相当強かったですよね。
yukihiro:うん、こだわりはいっぱいありますよ。それはでもインダストリアルだけじゃなくて、マイブラみたいなシューゲイザー系のこだわりもあるし、あとゴスのこだわりもあるし、そういうこだわりも同じくらいある、っていうことなんですね。
──周囲が思うほどには、インダストリアルやってるぜという意識ではなかっ?るたと。
yukihiro:そうですね。ただインダストリアル大好きです、っていう公言はしてましたけど(笑)。でもacid androidはインダストリアルやるんです、っていう存在ではない。そう自分では思ってましたけど。
──なるほど。あと変化で言えば、音がバンド・サウンドになったっていう変化も大きいですよね。
yukihiro:まぁ、やっぱりそうですね。制作の仕方が全然違うんで。いわゆるバンド・サウンドって言われてるものが多いですよね。ドラムも生ドラムで。そこが一番大きいんじゃないですかね。
──バンド・サウンドになって、yukihiroさんの中から出てくるものは変わったりしますか?
yukihiro:うーん……いや、そうでもないですね。バンド・サウンドにしたかったわけでもないんで、実際は。
──あれ? そうですか。
yukihiro:うん。ベースは全部シン(セ・)ベ(ース)だし。逆にあんまりそういうふうに言われると、バンド・サウンドって何すかね? っていうことになるし。
──今までだと、最終的に一人でもできちゃう音楽だったと思うんです。でも今回はドラム ベース ギター ヴォーカルっていう、少なくともその4つがないと始まらない音楽になってる。
yukihiro:なるほど………………そうだね。
──(笑)それこそがバンド・サウンドだって言いたくなる所以なんですけど、そういう方向になった理由って何か思い当たりませんか?
yukihiro:いや、一番は制作の違いですよね。今までも生ドラムありきではやってたんですけど、実際は打ち込みのドラムで生ドラムのパートをやらせてる、って感じだったから。でもそこを本当の生ドラムに変えてみて、肌触りとしてはバンド・サウンドっぽくなったって……言われるのも無理もない、って感じかなぁ。
──バンドっぽく見られるのはそんなに不本意ですか(笑)。
yukihiro:あんまりそこを目指してないですからね。僕はacid androidは構築美だと思っているんで、それ以外、別にバンド・サウンドにしたいとか、そういうのは全然ないんですね。
──バンドって「せーの」で出すダイナミズムとか、ズレちゃってもいいから気持ち優先、みたいな方向に進みがちだけど、それはacid androidで目指すべきものではないと。
yukihiro:うん、ガンガン編集してますからね。拍に合わせて強制的に、ドラムにしろギターにしろ編集してますよ。ただ、それでもやっぱり打ち込みで作るスクエアなドラムとは違うし、いくら編集しても生演奏の匂いは消えないもんで。
──なるほど。ではヴォーカルについてはどうでしょう。よりメロディアスになってますけど。
yukihiro:そこは意識しましたね。もうちょっとメロディに対して考えようと。もうちょっと耳に残るようなメロディ・ラインを考えたし。それまでって、別に喋ってるだけでもいいや、っていう捉え方だったんで。
──音のひとつでしかなかった。
yukihiro:うん。曲のパートの構成として必要なもの。これがAパート、Bパートです、くらいの捉え方だったんだけど。でも今回はもうちょっとメロディってものを意識して。
──メロディにyukihiroさんの癖みたいなのが強く出てますよね。ダークだけどどっか綺麗というか。
yukihiro:そういうふうに思ってもらえてるなら凄い嬉しいですね。そういうものが好き、っていうだけなんですけど。どうしてもハッピーな方向には行かないから。でもそういうふうに聴かれてるなら嬉しいかな。
いろんなものから浄化されたいという憧れ
──アルバムを通してストーリー性も感じますけど、それは考えましたか。
yukihiro:ストーリーとかはね……意識してないんですけど、でも曲順を並べるにあたって考えるから、必然的に意識したってことになっちゃうのか。ただ、曲作りの段階からそれを意識することはないですね。
──タイトルを並べるだけで意味が生まれるし、ストーリーが見えてきますけどね。これは結果論なんですか。
yukihiro:そうですね。
──『purification』っていうアルバム・タイトルはどういうところから?
yukihiro:えっと、9曲目の曲のタイトルを決めてる時に、この曲だけ最後までタイトルが決まんなくて、何かいい言葉がないかなと思って翻訳ソフトにいろんな言葉を入れてたんですよ。この曲から感じるイメージとか言葉とかをいろいろ入れてみて。そしたら……何の言葉を入れたのか判んないんですけど『purification』って言葉が出てきて、その意味をまた調べたら“浄化”だと。あ、この言葉はいいなぁと思って。この“浄化”っていう言葉が、この曲だけじゃなくて今回のアルバムにも合ってる気がして。それで付けましたね。
──実際、何かから浄化されたような感覚があるんですか。
yukihiro:浄化され?るたいんですね、いろんなものから(笑)。でも詞とかを考えてる時、結末としてキレイになってたい、って思うことがなんか僕は多いんですよ。真っ白になってたい、無になってたい、洗い流されていたい……っていうか。だから、なんていい言葉が見つかったんだろうと思って(笑)。
──綺麗な流れですよね。ダークなところから始まり、幻覚や螺旋を通って、最後に浄化されて、静けさに辿り着くっていう。
yukihiro:僕、曲順決める時にいつも、DJするならどうやってかけるか、っていう考え方で決めるんですよ。一晩踊って朝方に終わるっていう流れですね。最初はまぁ、acid androidとしてこのエンディングはどうなんだろうって考えましたけど。あまりにもこう、予定調和ではないかって(苦笑)。
──いやいや。でも、言葉にすると安いけど、ラストの曲調や歌詞に希望みたいなものを感じます。
yukihiro:うん……。その歌詞が一番“浄化”っていう言葉に合ってる気がしますね。
──この作品を通して浄化されてるところもあったり?
yukihiro:うーん……作品を作って浄化されることはあんまりないですね。わりとそのへんは現実的ですよ。どうやったって“うーん”ってなるんで(笑)。
──だけど、その境地を求めてる自分っていうのは確実にいると。
yukihiro:そうですね。それはあります。そんなことあるわけないじゃん、って思いつつ。そんな真っ白になれたりするわけねーじゃん、無になれるわけねーじゃん、って思いながら、でもそれに憧れるっていうのはありますね。
──一般的にヘヴィな音楽やってるミュージシャンって、ドロドロしたものや苦しみを吐き出して、それによって浄化されるっていう人が多いんですよ。yukihiroさんにそういう感覚はありませんか。
yukihiro:僕はあんま、そういうのは出さないですね。そこまで追いつめられてないですからね。そういう意見って主にアメリカのヘヴィな音を出してる人に多いと思うんだけど、そこまで追いつめられる環境っていうのは……なかなかないっすよね、日本だと。まぁ、たとえば……虐待を受けたとかそういうのもあるかもしれないけど、そういう人達がミュージシャンとして成功するかっていうと、日本だとちょっと考えづらい。そんな生々しいことを日本語で歌ったら……イタいっつうか、あんまり共感されないよねぇ? って思う。ちょっと醒めて見られちゃうんじゃないかな。
リアリティよりも純粋に音で感動したい
──凄い冷静な意見ですけど、でも確かにそうかもしれない。
yukihiro:アメリカだと、たぶんもっとリアリティがあるんだと思う。日本より。だからそういうことを吐き出しても受け入れられる土壌があるし、共感もされるだろうし。ドロドロしたものを吐き出すっていうのは、ナイン・インチ・ネイルズとかもそうだと思うんだけど、ただ、それだけがそこまで音に出てるのか? って言えば、そうでもないよなって思うことが僕は多いんですね。
──確かに。イタいだけじゃないですよね。ヘヴィ=生々しい感情、だけじゃない。
yukihiro:うん。それはもう単純に趣向の問題だと思うんですけど、僕自身、詞のリアリティじゃなくて、もっと音自体を重視したいっていうのもあるんですね。もちろん音楽に対して感情がないわけじゃないですよ。ただ、もっと純粋に音で感動したい。
──自分語りのリアリティは必要ではないと。
yukihiro:あんまり生々しくはしたくないですね。もうちょっと抽象的で、聴き手にイメージさせるもの。そっちのほうが好きですね。
──感情を出すっていうこと自体をあまり目指してないんですね。
yukihiro:そう。それよりは、相手がどう感じるかっていうことに興味があるかなぁ。自分の感情を吐き出すために音楽をやってるっていう感覚は薄いですね。もちろん自分が気持ち良くなりたいっていうのは多々ありますけど。
──ただ、今までのacid androidが感情論を切り離したところにあったとして、今回は少し違いませんか。タイトルとか最後の曲の歌詞も含めて、自分のリアルな感情に踏み込んだのかなぁって思うんですよ。
yukihiro:うん……そうですね。そうかも。リアルな出来事が元になって書いた詞もあるし。そういうものだとやっぱり感情も入りますよね。ファーストとかは、感情じゃない部分、ほんと感じる部分だけで書いてたから。でも今回の何曲かは、リアルな感情っていうか、こういう感情になった、っていうところまで書いてる。
──それは、踏み込んだ、という言い方でいいでしょうか。
yukihiro:うん……最初は時間がなくて。追い込まれて書かなきゃいけなくて、もう実体験から書くしかねぇ! みたいな(笑)。でも、そういう意味で踏み込んだって言えますよね。こういう歌詞を書いてもいいかな、って思えた。
──初めて、と言っちゃナン?るですけど、人間らしいyukihiroさんが見えてきたアルバムだなぁって思いますよ。
yukihiro:そうなんですよね。それが、僕の今の判断だと、プラスなのかマイナスなのか判んないんですよ。微妙ですよね。そういう(人間らしい)ものを切り離したカッコよさをacid androidでやろうとしてた気もするし。でもacid androidで進化していけば別の要素が入ってくるのも当然だし。でもこれがプラス方向なのかマイナス方向なのか、ちょっと判断できない。
──そういう意味で過渡期かもしれませんよね。今までの機械的なところと、今回見えてきた人間的な、生々しいところ。
yukihiro:僕、acid androidでは極端なものをやりたいんですよ。なのでもっと尖ってたいわけなんです。中途半端なところにあんまりacid androidを置きたくないんですよね。でも……中途半端っていう言葉が悪いだけで、極端じゃないっていうのは決して悪いものでもないと思うんですよ。より普遍性があるというか。だからこれは、作品としてひとつの完成形だと思いますよ。もっともこれとは別に、自分でミックスしたものも聴いてみたいとは思いますけど。
──判りました。今後は長いツアーが控えてますけど、何か意気込みはありますか。
yukihiro:意気込みはですね……ツアー長いんで、まぁ長さは関係ないけど(笑)、とにかくやるだけですね。ライヴハウスのツアーなんで、特別なセットとかもあるわけじゃないから、行って、カッコいい演奏をするだけ、ですね。
|