曲作り期間+レコーディング=綱渡りの日々?
──まず、バンド結成の経緯から聞かせて下さい。
武田信幸(g):千葉出身なんですけど、楠本(構造:g)とは小学校くらいから知ってて、山本(晃紀:ds)とは一緒にバンドをやってたんです。でもそれを一新して新しいことをやりたいと思って、「とりあえず東京だろ?」ってことで上京してきたんですよ。いろんな井の中の蛙的な衝撃を受けて音楽性が変わっていきつつ、メンバーも出たり入ったりして、最後に井澤(惇:b)が入ってきて今に至るって感じですね。
──最初からインスト志向だったんですか?
武田:最初はインストって感じではなく、最終的に歌が入るって前提で曲を作ってたんですよ。その歌が個人的な事情で練習に参加できなかったりして、結局楽曲中心の曲を作らざるを得ない状況になったんです。
──ということは、元々はヴォーカルがいたと?
武田:いましたね。ちなみに、俺も歌ってました(笑)。ただ、それも楽曲があっての歌というか、歌メインのものでなくて、楽曲に入るものとして歌を入れてた感じなんです。
──最初はどんな方向性のバンドをやろうとしたんですか?
武田:千葉にいた時にやろうとしたのは、とりあえず感覚だけで「これ新しいんじゃねーの?」っていう音楽を持ったバンドを目指してましたね。それで自信を持って東京へ出てきたんですが、東京には普通にそういうシーンがあって、ショックを受けて…。それまではインストのバンドといったらカシオペアとT-SQUAREしかいないと思ってましたから(笑)。そしたら凄いインストのバンドが他にもたくさんいて、そこから影響を受けたことは大きいですね。
──今回のアルバムは前作のミニ・アルバム『LITE』(2005年7月発表)の延長線上にあると思うんですが、収録された曲はライヴではお馴染みの曲が多いんですか?
楠本構造(g):いや、そうでもないですね。
──デモCD-Rに入っていた曲(「Re」「spiral gate」)もありますね。
井澤 惇(b):その2曲が元からあった曲で、あとは全部アルバム用に作ったんです。最初のミニ・アルバムの時にライヴでもやって慣れてる曲を入れて、アルバムを作るって話になった時にはもう残りがその2曲しかなかったと(笑)。それで曲数が足りなくて急遽作ることになって、残りの曲はアルバムを想定して作った感じですね。
──じゃあ、8曲は一から曲を作ったってことですね。結構苦労されたんじゃないですか?
井澤:もう、ノイローゼになりそうでしたね(笑)。
武田:思い出したくないって感じです(笑)。
楠本:約2ヶ月、ずっと一緒にいた感じがしますからね。
井澤:バイト中も曲のことを考えたりしてね。
山本晃紀(ds):ツアーの空き日もスタジオに入ったりしたし。
武田:逆に地方でスタジオに入ると、それはそれで凄く刺激があって良い曲ができたりしましたけどね。
──ツアー中に曲を作ると、いろんな影響を受けたりするんじゃないですか?
井澤:テンションが上がるとか、そういう部分ではあるかもしれないですね。
山本:ツアーの相乗効果っていうのもあるかもしれないし、ツアーで行った先のスタジオの音環境によってもその場でしかできない曲ができたりとか。
──曲を覚えるのは大変じゃないですか? 構成も複雑ですし。
武田:曲作りをしてる最中はループでやってるんですよ。だから自然に練習をしてる感じなんです。
井澤:今回はホント、レコーディングを始める前日まで曲作りをしてたんですよ。
──綱渡りしてますねぇ(笑)。
井澤:だからそれまでずっと練習だった感じですね。
山本:武田がフレーズを持ってくる時って、変なのを持ってくるんですよ。「これ、大丈夫なの?」って思っちゃうようなフレーズを。それで自然に出てくるのが変拍子だったりして、そういうのは合わせるのに苦労しますね。
武田:苦労話かよ(笑)。
山本:でも、それが曲になると超恰好いいという。
武田:そこが重要だよ(笑)。
変拍子のダンス・ミュージックの素=リズム遊び
──“変拍子のダンス・ミュージック”という言葉はLITEの音楽を端的に表していますけど、“変拍子”ってバンドのキーワードなのかなって気がしますね。
武田:山本の中では“変なフレーズ”ってことですよ(笑)。
──その変なフレーズ(笑)はごく自然に出てくるんですか?
武田:自然に、って言ったら恰好良すぎるんですが、単純なフレーズよりもちょっと捻ってあるフレーズのほうがインパクトっていう部分でも耳に引っ掛かるし、何か新しい感じがして恰好いいかなと。
井澤:曲作りで5拍子をやってると、それに慣れちゃって4拍子が弾けなくなったりするんですよね(笑)。
山本:逆に普通に4拍子で弾かれると、今度はリズム隊が3拍子で攻めていったりとか、そういうことをしたくなりますね。
井澤:そう、みんなリズム遊びが好きなんですよね。
──そんな遊びの延長線上で曲が生まれていったjいりとか?
武田:そうかもしれないですね。ホント、リズムにないところにみんな入れたがる。ここにギターが入ったら、その間にまたギターを入れたがる、みたいな。そうやって遊んでいたらインパクトのある曲ができるんですよ。
──全曲1発録りっていうのも、相当テクニックがないとできないことだと思うんですけど。
井澤:逆に1人ずつ録ったほうが時間が掛かりますよ。普段からバンド・アンサンブルを聴いて練習してるから、1人でやると間違えたりして、そこでまたやり直したり。
楠本:あと、ダイナミズム的なところに全体の比重を置いているので、たとえ演奏を間違えても敢えてそのままにしているんですよ、それはそれで良しとして。
山本:勢いのあるテイクを選んだりするんで。
──激しさと繊細さのバランスが絶妙で、ヘッドフォンで聴くと凄くリアリティが際立つアルバムだと思うんですけど、ライヴでは激しさがこの5割増くらいにはなりますよね。
武田:どうですかねぇ。井澤の動き的にはそうかな(笑)。
井澤:俺は10割増くらいですよ(笑)。
山本:汗の飛び具合とか?(笑)
──セルフ・プロデュースというのもやはり拘りなんですか?
武田:いや、これは元々曲作りの段階でヴィジョンが確実にあったというだけで。「この曲はこういう曲で、この次にこの曲が来て…」って感じで全体像まで考えていたから、特に誰かにプロデュースしてもらう必要がなかったんですよ。エンジニアさんとかにアドバイスを貰ったりはしましたけど、基本的にはみんなで話し合った上で作っていきました。
井澤:聞いた話ですけど、50曲くらい作ってからプロデューサーがどういうふうに作るかを決めるバンドもいるそうで、俺達にはそんなに曲がないですから(笑)。アルバムを1枚作るための曲しか作ってないんで。
楠本:ホントはもう1曲あったんですけど、それすらも完成できなかったという(笑)。
武田:すいません、できませんでした!(笑)
──セルフ・プロデュースなのは、音作りの極々細かいところにまでバンドの意志を宿したいからなのかと思ったんですよね。
武田:ドラムの音作りをちょっといじくったり、ギターのアンプを変えたりとか、前作よりは細かいところまで拘りましたけど、あとは「こうしたい」って部分があった上でそのためにどうしたらいいかをエンジニアさんに相談した程度ですね。
楠本:ミニ・アルバムを作った時に、音の細かい部分が詰めきれなかったのをあとで後悔したんですよね。だから今回は楽曲を作る段階で4人で随時話し合ってましたね。
山本:ドラムの音の乗せ方も、1曲1曲もの凄く考えましたからね。
偶然性から必然性へ
──LITEの楽曲はいつもどのように生まれるんですか?
武田:基本的にはジャムっていってひとつのフレーズが生まれて、その核心となるソロのフレーズからジャムりで引っ張るっていう。
──個々人がそれぞれパーツを持ち寄って、それを合わせてみるわけではないんですね。
武田:そこはケース・バイ・ケースですね。持ち寄ったフレーズをスタジオ内で試してみて、ドラムとギターが凄くハマって「これイケんなぁ!」っていうケースもあるし、ごく自然に「今のもう1回やってみて」って感じでできる時もあるし。
井澤:MDで録ってみて、あとから聴いて「良かったんだ」って確認する時もあるし。
──じゃあ、スタジオに入る前にある程度曲の構成を固めるわけではないんですね。
武田:ええ。そういうのは全然ないですね。
──普段のオムニバス・ライヴでは、短い時間の中でどの曲をやるか結構悩むんじゃないですか?
楠本:今まではライヴはいつも同じような曲順で、「この流れが気持ち良かったかな」っていうのが大抵決まってたんですよ、1〜2曲替える程度で。逆に今はライヴをやってる時に悩んで、それが面白いのかなって。
武田:まぁ、持ち時間は30分くらいなので、最近の傾向としてはやっぱり大人しい曲は入れないですね。
楠本:全部押せ押せな感じで。
──ライヴになるといわゆるインプロヴィゼーションというか、1曲の演奏をどんどん長くしたくなりませんか?
武田:まず楽曲ありきというのが根底にあって、その楽曲の前に4人のフレーズの“絡み”がないと楽曲は成り立たないんですよ。その“絡み”を聴かせるための楽曲であって、楽曲の中でみんなが個人個人バラバラにやっちゃうと“絡み”が全く聴こえなくなるからインプロはやらない状態ですね。
井澤:これから先は全然判らないですけどね。コンパクトにまとめるのがLITEの音楽ってわけでもないんですよ。ただ今はそれが気持ちいいからそういったものを作っているというだけで、武田が言った“絡み”をずっと聴かせて、そのループが凄く気持ち良ければそんな曲も作ってるかもしれないですね。
武田:“絡み”を活かすためのインプロだったら問題ないですけどね。でも、インプロだけの曲になることは確実にないでしょうね。
jい ──4人の絡んだ瞬間が一番スリリングですからね。
武田:「dead leaf」という曲も、自分達が作ってきた曲の中ではまるで方向性の違う楽曲なんですけど、俺達3人のギターとベースが有機的に絡むところでバンドの中では新しいと思うし。
──アルバムのコンセプトはありますか? 朝起きてから夜になるまでの1日の流れみたいな物語性を感じるんですけど。
楠本:閃きだよね。
武田:最初からそういうことは考えて作ってないですけど…。一番最初の雑音とかも、あったらいいなぁと思ってやってみたらハマった感じで。全体の流れがあるっていうところで、人生のとある1日みたいになるのかな?
──あと、曲のタイトルがすべて英語なのも何か意図が?
井澤:武田が高校の英語教師の資格を持ってるんですよ。
武田:いや、ただそれだけなんですけどね(笑)。
──曲のタイトルは、音を聴いてふと浮かぶものなんですか? 1曲目の「I walk」も確かに歩いている感じのする曲調で。
武田:実際に歩いて録ってるんですよ、いろんなところでマイク持って(笑)。
井澤:すげぇ怪しい人じゃん(笑)。
武田:自由が丘と渋谷でね。そういう偶然性っていうのがホント好きなんですよ。前作の「the end of abstract」も、最初は「曲名決まんないね」って言ってて、「仮で『ab』にしよう」ってことになってたんです。それが最後に「あと1分で曲名を決めろ」ってスタッフに言われて、「じゃ、『abstract』で」って決めたんですよ(笑)。パッと出てきたものにあとから意味をこじつけることは多いですね。このアルバムの2曲目にある「contemporary disease」も最初は「cd」だったし。
──じゃあ、曲作りもインスピレーションに委ねる部分が多いですか?
武田:そうですね。頭で作りすぎてると、意外とちっちゃくまとまるケースが多いんで。偶発的なものが好きですね。
井澤:偶然が必然なのかもしれませんね。ほとんどMDで録ってるんですけど、あとで聴くと自分が弾いてるベースのフレーズとか全然判んないし(笑)。
武田:その時にしかできないことだし、やっぱりそこを重要視したいんですよ。
山本:「on the gloomy evening」という曲はハードコア的なことをそれぞれがやっていて、僕もドラムを目一杯叩いて凄くハードコア寄りな曲になるかと思いきや、4人合わさったら意外と鋭くてタイトで刺すような曲になったんです。それも全くの偶然だし。
──たとえばグレイトフル・デッドみたいに延々とジャムを繰り返すのは偶発性の極致だと思うんですけど、LITEの場合はそこをタイトに削ぎ落とすから、より難易度が高い気がするんですよ。
武田:グレイトフル・デッドはインスピレーションの偶発性を大事にしてそのままにしてますけど、その偶発性を磨くこともしたいんですよね。
井澤:まぁ、曲作りの段階はグレイトフル・デッドかもしれませんけどね(笑)。
楠本:確かに、録ったMDを聴き直すと痛いもんね。1曲20分とかひたすらやってて。
今後の展望──世界を見据えて
──今回のジャケットは中山美六堂ことナカヤマシンペイさん(ストレイテナー)が描かれていますが、以前から交流があったんですか?
井澤:ここ最近ですね、仲良くしてもらってるのは。前回のレコ発の時に遊びに来てくれて。元々はカメラマンの(橋本)塁さん繋がりで、そこからお世話になっている感じですね。
──このイラストは、ナカヤマ画伯が皆さんの音楽からインスパイアされて描いたものですか?
井澤:完全にそういう感じですね。LITE側からの要求は「ミニ・アルバムの頃よりも生々しく生きてる感じにしてほしい」ってことくらいで、あとは画伯にお任せしました。
──「自分達の音楽を具象化するとこうなるのか?」っていう感じですか?
井澤:そういう刺激もありつつ、自分達でも恰好いいなと自慢できるものだったので。
武田:これがみんなの手元に出回るものだと考えて、こういう観られ方も新しいなと。前回と今回のジャケはビルの部分で繋がってて、そういう流れでLITEらしさを完全に失わないような感じにしたかったんですよ。
楠本:そう、前のミニ・アルバムからの繋がりが欲しかったんですよね。
──現段階で歌を乗せたい気持ちはありますか?
武田:今のところ頭にはないですね。
井澤:ホントに今、現時点でそういうのじゃないLITEは楽しくやってますけど、どんな作品作りをしていきたいのかとか、今後音楽性をどういうふうに変えていきたいのかとか、ヴィジョンがないんですよね。でも、自分達が変化の節目を迎える時に、ヴォーカルを入れるのがイヤだとか拒否はしないですけどね。今はいないですけど。
──必要性を感じるなら歌を入れることもある?
井澤:ええ、それが良ければ。
武田:さっきも話した通り、一番大事な“絡み”がないとLITEじゃないと思jいっているので、その“絡み”を活かすための何かであれば何でもいいんですよね。それは今後色々と考えていくんじゃないんですかね。
──じゃあ例えば、ゲスト・ヴォーカルを実験的に入れたりとか?
楠本:この4人の中で誰かが唄うことはないと思いますよ。みんな声がイケてないんで(笑)。
井澤:俺、歌った覚えないんだけど。
武田:判るっちゅうに(笑)。
──日本語で唄うバンドが海外でも高い評価を得る昨今ですけど、LITEはヴォーカルがないぶんダイレクトに音だけで浸透しやすいと思うんです。向こうで認知されたい気持ちはありますか?
武田:むしろそのことを今目まぐるしく考えてますね。
井澤:今年中には海外でリリースの予定があるんですよ。
楠本:イギリスで前回のミニ・アルバムをまず出して、今回のアルバムも出してからツアーを回ろうかと思ってます。
──では、海外を拠点に活動する可能性も?
武田:そうですね。
井澤:イギリスに限らず、それ以外の国にももっとLITEの音楽を広めたいし、いろんな国へ行ってみて音楽の幅をどんどん広げたいですね。
──今回、レコ発ツアーは?
武田:ありますね。
──ワンマンはまだ経験されてないですか?
井澤:心当たりはあるんですけどね、微妙なのが。カメラマンの塁さんの写真展の時に、昼の部、夜の部をやって。
楠本:あれは、自分達も出展品みたいなものだったから(笑)。
井澤:そうかもしれないね。500円で観られる動く出展品みたいな。
──いざワンマンをやるとなると、それはそれで選曲に悩みそうですね。
井澤:まぁ、全曲やるのは間違いないでしょうけどね(笑)。
楠本:曲がないからしょうがないよね(笑)。
武田:今年は曲を早めに作って、次作に向けて早めに動き出したいですね。
──じゃあ、またスタジオに籠ってジャムらないと。
井澤:昨日も3時間ジャムり地獄だったんですよ(笑)。
武田:とにかく今はライヴを観に来てほしいですね。CDで感じるLITEとライヴで感じるLITEはまた違うと思うので、そのギャップを楽しんでくれればいいかなと。
山本:そうだね。ライヴは集中してやってるし、息の詰まるライヴ、酸欠状態でやってるくらい良いライヴをやろうと思ってますから。
楠本:プレイはもちろんですけど、武田のMCにも注目です(笑)。
井澤:あのMCは重要ですよ。あれでいつも癒されるんで(笑)。
山本:この間のロフトの時(3月17日、REDЯUMとDURGAのレコ発)なんて凄かったですよ。
武田:「どうも、変態です」って言った途端、客席がシーンとなって(笑)。
──来たるべき海外進出に向けて、今から英語でMCをするのはどうですか?
武田:それ新しいですね。やろうかな。「Hi! I'm fool」みたいに?
井澤:武田は顔の彫りが深いから、ホントに外人だと思われるんじゃない?(笑)
武田:片言の日本語でやろうかな? 「ドウモコンバンハ」とか。
楠本:……というくらい注目ですね(笑)。
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