自分達の経験したことが自然と滲み出ている
──去年の7月に発表した3rdアルバム『triangle to square』が未だに息の長いセールスを記録しているそうですね。
野田剛史(b, vo):『Rooftop』で取り上げて頂いたお陰ですよ(笑)。
──いやいや(笑)。作品が本当に素晴らしかったので、いいものがちゃんと評価されて何よりです。
楠 誠一(ds, cho):それだけ受け入れられてる実感はないんですけどね。ただ、そのレコ発のツアー・ファイナル('05年9月3日、渋谷O-WEST)はあれだけの大バコで、しかもワンマンでお客さんがたくさん来てくれて、あの時は凄く実感がありましたね。
──個人的に『triangle〜』を今も愛聴しているせいもあるのか、作品の鮮度が未だに落ちていないので、今回のミニ・アルバム発表が思いのほか早かった気がしますね。
楠:僕らもビックリしております(笑)。
野田:その前は2年半空いてましたからね。適度なスパンでコンスタントに作品を出せたら…という理想がずっとあったんですけど、実現するまで腰が上がらない面があって。今回はその重すぎる腰を上げてみた感じでしょうか。
──今回も曲作りの集中強化合宿はされたんですか?
野田:はい。合宿に2回行って、スタジオに3日籠もりました。正味1週間あるかないかで。
──早ッ!(笑)
野田:いや、合宿はホントのベーシックな部分だけですから。この作品の完成度でいくと2割程度しかその時点ではできてませんでした。レコーディングまでに6割やって、レコーディングで頑張って4割上げた感じです(笑)。
──前回のツアーの手応えが音作りにも作用したんじゃないかと思うんですが。
野田:狙ってるわけではないですけど、自分達の経験してきたこと、身に染みてきたことがどこかに盛り込まれてるとは思いたいですね。それが自然に出ていればいいと思いますけど。
──『fate effects the surface』というタイトルにはどんな意味が込められているんですか?
楠:毎回コンセプトがあってアルバムを作るわけではないので、このタイトルも全体がそうだというわけじゃないんですけど、水面に水滴がポトンと落ちて波紋が広がるように、小さな出来事が次第に大きく広がっていく…というような漠然としたイメージですね。何となく意味が深いようには見えるんですけど(笑)。
──最初からミニ・アルバムで行こうと?
野田:そうですね、サイズは決めてました。シングルはどうもな…っていうのがあったんで、ミニ・アルバムで行きたいね、と思ってました。行きたいね、の段階で頑張ってたんですけど、一応それを強引に実現させた感じですね。
──基本的には前作の延長線上にあると思いますが、「tiny」のようにバンドの初期を思わせる激しいナンバーもありますね。
野田:要素として元々あったものですからね。ちょっと浮く感じはあるかもしれないですけど、昔から聴いてくれてる人や作品を全部持ってる人は違和感ないと思いますよ。僕らの持ってる要素の一部ですから。ベーシックは仰る通り前作の延長線上にはありますけど、その中でも多少広がりを持たせたものにはできたと思ってます。
──前作では、各人が持ち寄ったネタの広げ方に苦戦したと仰ってましたが、今回はどうでしたか?
野田:ギターに寄せるアレンジはギターに一任して。前回はスタジオに入る前に7〜8割方固めてからグッと詰めていったんですけど、今回は凄く試行錯誤があった作品だと思います。作曲者は苦労したと思いますよ。
──ベーシックな曲作りは菊川さんと大西さんが?
大西俊也(g, vo):コードなりメロディなりができてからバンドで固めていく、って感じですね。
菊川正一(g, vo):僕がメインで書いたのは「tiny」「thinking aloud」「cheating others」の3曲で、1曲目の「frame's laid out」に関してはトシとの合作なんです。お互いが作ってきた曲を重ねたのは全くの初めてで。やりたい曲の雰囲気が似てたんですよね。トシの曲にはサビがなかったり、僕の曲はAメロが弱かったり、お互いに弱点があった。そこでそれぞれのいいところを合わせてみたんです。
楠:曲の頭数が必要だった時期に2曲がくっついて1曲になったからちょっと大変だな、とは思いましたけど(笑)。でも、結果的に凄くいい曲ができたと思うし、曲を作る新しいアプローチを経験できて良かったですね。
──恒例のインストのタイトルは、今回「36」や「45」といった秒数ではなく(笑)、「h.i.g」という表記ですが、これは何の略なんでしょう? アコギのメロウなナンバーだから“激しく(h)・いかない(i)・ギター(g)”とか?(笑)
楠:それは新しい意見だなぁ(笑)。
野田:ご想像にお任せします(笑)。凄いくだらない略なんですけど、曲の感じからはそんなくだらなさは一切伝わってこないと思いM?ます。人間ってそうじゃないですか? フタを開けたら意外とくだらないもんじゃないですか?(笑)
──長谷川京子好きな野田さんだけに、“ハセキョー(h)・イズ(i)・グッド(g)”だったり?(笑)
野田:ははははは。それいいですね。そっちにしとこうかな?(笑)
──この曲は最初からインストにしようと?
野田:元々バンド・サウンドでやろうって話してたんですが、曲を詰めきれなくてインストに移行したんです。インストとしてアレンジも考え直して。この形でこの位置に収めることでいいアクセントにもなってるし、結果的には凄く良かったと思いますね。
枝豆のようなバンドになりたい(笑)
──6曲あって20分で聴けてしまうっていうのがまたいいですよね。何度でも聴ける内容だし。
野田:通してサラッと聴けるのがいいなと思ったんですよ。何回も何回も聴いてもらいたいし、スルメ的な感じに仕上がってると思いますよ。聴けば聴くほど味が出てくるはずだし、途中で味も変わってくると思うんです。あれ、マヨネーズ付いたか? みたいな(笑)。そういうテイストで楽しんでもらえると思うし。曲によって全然雰囲気も違うから。
──いろんなタイプの曲をやれるのがこうしたミニ・アルバムの強みですよね。
野田:ええ。シングルじゃそういうことができないし、バンドの全体像とか雰囲気を伝えられるのはこのサイズからだと思うんですよね。今回はスパンが短かったっていうのが逆に良かったと思うんですよ。僕らの場合、曲はよく練ったほうがいいとは思ってるんですけど、このミニ・アルバムでは余り考えすぎずにやったところが功を奏した気がしてます。何とかまた重い腰を上げて(笑)、来年くらいにはフル・アルバムを出せたらなとは漠然と思ってますね。
──今回のツアー・ファイナルも渋谷O-WESTですけど、現状の動員力を考えるともう少し広いキャパシティの会場でも良かったんじゃないですか?
野田:んー、それは次のアルバムでできたらいいなという程度で。そこまでこう、大きいハコでやりたいっていうのもないんですよ。やれたらいいな、くらいで。
──相変わらずガツガツしてませんねぇ(笑)。
野田:僕らが凄いガツガツしてたら気持ち悪いですよね。ツアー中に美味しいものをたくさん食べたいっていう欲はありますけど(笑)。山口ではフグを食べたいし。梅雨時ではありますけど、新鮮なものがその土地土地にあるんじゃないかと。基本的に肉だったら時期は関係ないですよね。幸いなことに肉で攻められる所が何ヵ所かあるので(笑)。岐阜の飛騨牛や宮崎の地鶏、鹿児島の黒豚とか。
──そういうところはガツガツ行くわけですね(笑)。
野田:そこは行かせてほしいですね(笑)。まぁ、楽しく回れることは見えてるので。たくさん刺激をくれるバンドと一緒に回れるのは凄く幸せなことだと思ってます。
菊川:まずはアルバムを聴いてもらって、ツアーとツアー・ファイナルに足を運んでほしいですね。
──結成から7年、そろそろ周りに影響を与えてる側になってきたんじゃないですか?
野田:いや、まだまだですよ。そこまで意識してないですね。刺激を受けてくれるバンドがいるなら純粋に嬉しいですけど、人の心配してる場合じゃないですから(笑)。
──漠然と次作の構想は………あるわけないですね(笑)。
野田:全くと言ってないですね(笑)。録ってる途中にすらないですから。
楠:まぁ、毎回新しいことをやろうとはしてるんで、次もまた新たなチャレンジはすると思いますけど。曲を作ってくる2人(菊川、大西)にまた頑張ってもらって、俺達はサポートに回って支えて。…って、それじゃいつもと変わらないか(笑)。
野田:ベーシックなものは絶対に変わらないと思います。いいものを作り続けていきたいというのはずっと変わらず考えていることなので。それありきで、また違ったものがその都度打ち出せると思ってますから。
──発表までに2年半が費やされた3rdアルバムが長く熟成期間を置いたワインだとすると、今度のミニ・アルバムは量販店で売ってるような500円くらいのワインみたいな印象があるんですよ。安っぽくなったという意味ではなくて、味はもちろん折紙付きなんだけど、消費者が手を伸ばしやすい手頃さがあるというか。
野田:なるほど(笑)。ああいうワインは何回でも呑めますからね。つまみに喩えるなら、ビールといえば枝豆じゃないですか? 冷や奴って人もいるでしょうけど。そういうとりあえずのお通しみたいなバンドでいたいと思ってるんですよね。ビールだとメインになっちゃうんだけど、それに必ず付いてくるもの。みんな絶対に頼むし、美味いし、飽きが来ない。バンドとしてはそんな立ち位置がいいんですよ。聴いてくれる人の気持ちの中に長くいられるような音楽を作りたいんです。飽きられたらオシマイだし、そのためにはずっと同じことを繰り返しているようじゃダメだし。だから究極としては、M?枝豆になりたい(笑)。
──じゃあ、前回のレコ発ツアー千秋楽のワンマンは、そんなお通しを食べたい人が多数詰めかけた、ってことですか?(笑)
野田:そうですね。有り難いことに、枝豆を好きな人があんなにいたということです(笑)。
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