今までのベスト盤みたいなものを作りたかった
──久々だよね。実は。
藤井:意外と久しぶりに会った気がする。えっと…5月ぐらいかな?
──いや、それは遡り過ぎだわ。
藤井:夏前だった気はするんだけど。
大久保:SONG-CRUX祭りの時以来じゃないすか?
菅原:少年隊とかね(笑)かけてましたもんね。
──ああ、あの俺が酷いDJで参戦した時以来か(笑)。
藤井:ロフトのバーホールで絡まれた記憶がある(笑)。
大久保:俺も絡まれた。
──いや、それ嘘だし(笑)。確かに酔ってはいたけど。全然覚えてないや。
大久保:じゃあ酔っぱらっていたんじゃないすか(笑)。
──かもしれない(笑)。って、そんな話はもういいよ! んで、あっという間にファースト・アルバムの話なんですけどね。いやはや、早い展開ですなぁ。
大久保:6日間で録り終わったんすよ。TDまで終わらせましたから。
──えらい早いよ、それは。
藤井:期間決められるとね。ついついやっちゃうんですよ。
──ああ、なるほどね。でもさ、アルバム自体はけっこう前から取りかかってたんじゃないの?
大久保:全然。
藤井:なぁ。
──あ、そうなの。
大久保:8月ですよ。
藤井:それだけだよな。8月の中盤ぐらい。1曲目と最後の曲は自宅でやりましたもん(笑)。
──じゃあ、アルバムに関しても「こんな作品にしたい」とか考える暇もなく?
藤井:いや、もともとそういうのはありましたよ。結成当初から今までのベスト盤みたいなのが作りたいなっていうのはあって。出来たから良かったなって。
──ああ、それはそうだね。これ聴くとすっごいよく判るんだけど、音速ラインってバンドはイメージとしてやっぱりギター・バンドっていうのがあると思うんですよね。
藤井:そうですね。
──でも、そういうわけでもないんだなっていうのがよく理解出来るんだよね。このアルバム聴くと。実は色んな音楽性の元に成り立っているというか。
藤井:そうですよね。やっぱりね、固定されたイメージを作るのが嫌だから。シングルは判りやすく、こういう感じで出して、アルバムでは色んなことを試したいって思いは最初からありましたね。
──そうか、そうか。その思いは確実に形になってるんじゃないの?
大久保:そう思います。
──「逢いたい」とかはその代表格な出来だと思うなぁ。ライヴで何度か観てた曲だけど、えらいゴージャスな出来になってて(笑)。
藤井:生弦入れたからねぇ。
──印象、えらい変わったよ。
藤井:ゴージャスって言われたのは初めてだなぁ(笑)。
──いや、いい出来だしさ(笑)。
藤井:確かにね(笑)。ワナダイスとか好きなんで、生の弦を入れるのは昔から憧れてたんですよ。で、この曲が出来た時も生弦のイメージは最初からあったんですけど。ビートルズとかもそうじゃないですか?
──そうだね。中期以降は。
藤井:やっぱいい感じですもんね。オアシスとかもそうだし。で、とりあえずディレクターに相談してみたら「入れりゃいいじゃん」と(笑)。
大久保:それで入れたんです。
──あ、そう。なんて美しいエピソードなんだろ(笑)。ちなみに俺は今回、アルバムの中ですっごい気に入った曲が2曲あってね。その中の1曲ですよ。
藤井:あ、そうなんだ。それは嬉しい。ちなみにもう1曲は何ですか?
──「流星ライン」だね。
藤井:やっぱり。
──多いんじゃないかな、この曲好きな人は。
藤井:取材で会う人とか、みんなそうですね。
──なんつったって、この2曲でしょ。
藤井:なんかね、昨日別なライターさんには「この曲、光GENJIに唄わせたい」って言われた。
──なるほどね。俺はどっちかっつうとKinki Kidsなんだけど。
藤井:ああ。そういうカラーもあるよね。でも、どっちにしろあの辺に唄わせたら絶対にはまると思う。
──だって完璧に歌謡ロックじゃない。
藤井:そうですよね。
──少なくとも俺にとっては音速ラインの曲の中で最高峰かな。
菅原:究極に切ない部分が入ってますからね。
──そうだよね。それはある。
大久保:どんなところが気に入ったんですか?
──なんつったって、こぶしでしょ。
藤井:ははは(笑)。
──いや、間違いない。
藤井:みんな敬遠してやんないとこでしょうね。
大久保:うん。絶対にやんない。
──そうなんだよ。でもそこがいい。だってほら、歌詞見てよ(と、スズキ、メンバーに自分でこぶしの部分にしるしをつけてるところを見せびらかす。意味不明)。ここまで聴き込みましたよ!
藤井:はははは(笑)。
大久保:偉そうだな、スズキさん(笑)。
藤井:のど自慢大会の審査員みたいだな(笑)。
──それだけ気に入ったんだよ! この曲を。
藤井:ありがとうございます(笑)。でも、こういうのもアリなんだよってところを見せていきたかったんですよね。
──でもさ、俺なんかはこの曲聴いて今後の音速ラインの方向性ってこういうことなんじゃないの? って思ったりしたんですけど。
大久保:かもしれないですね。
藤井:うん。
大久保:でも、次のシングルはもっといいですよ。
藤井:そうだな。
──あ、もう出来てるんだ?
藤井:はい。
──いっつもそうだね。早いって(笑)。
藤井:はははは(笑)。
──いつもそうじゃん。出来上がったものに対してどうっていうよりも、「次のほうがいいっすよ」って軽く言うじゃん(笑)。
藤井:ははは(笑)、確かにそうだね。
菅原:でも、とりあえず録ってある曲はあるってことです(笑)。
大久保:そうだね。
人生の中で出会っておいて損はないアルバム
──判ったよ、もう(笑)。で、アルバムの話を突っ込んでいきたいなと思うんですけど。2曲目の「our song」。これはまさに求められてる音速ラインの姿がばっちり出ている曲だなぁ、って思ったんですけど。ある意味予想通りというか。
藤井:入り口は綺麗にやりたかったのね。1曲目があって、この曲みたいな短かめの曲があって、「さぁ始まりますよ」っていうね。
大久保:その辺の曲間っていうか、つなぎも聴いて欲しいんですよ。
藤井:凄いよね。この短さ。
大久保:ライヴのセットリストみたいな決め方したんですよ。曲を並べて…そしたらライヴの曲決めやってるような感覚になってきちゃって(笑)。おかげで35分切りましたけど(笑)。
──そうだよねぇ。すっげえ短かった(笑)。
大久保:でも、そこに意味がある気はしてるんですよ。聴いてて飽きないし。
菅原:終わって、もう一回聴きたくなる感じ。
──確かに。12曲収録されてるから、もう少しヴォリューム感があると思ってたんだけどね(笑)。異常にコンパクトなね。
藤井:人間、お腹いっぱいにならないほうがいいんですよ、たぶん。結果的に無駄な部分を削っていくとこんな感じになっちゃうんですよね。インディーズ時代にCD-Rで出した『風景描写』ってアルバムも、こないだ久しぶりに見たら35分切ってたもんね。不思議だなぁと思って。
大久保:集中力がないんだよな、きっと(笑)。
──40分以上は続かないと(笑)。
藤井:かもしれない(笑)。でも人間の集中力なんて30分がいいとこだよね。
──この曲聴いて思ったのは、藤井君のハード・ロック指向が出てる曲だなって感心してたんだけど。
藤井:感心はしなくていいんですけど(笑)。2コードで押してく感じで作ってるしね。そういう雰囲気はあるかもね。最初作った時はSE用に作った曲だったんですよ。で、いいの出来たなって思って色んな人に聴かせたら「SEにはもったいない」って話になりまして。結局SEには使わず…バンドでやってみたらはまってしまったと。
大久保:セッションしながら決めていったんですよ。「あ、藤井さん。そのリフいいですよね」なんて話しながら(笑)。
──でもさ、そんなバンド感ってアルバム前半にはかなり感じることが出来るよね。インディー時代の代表曲の「冬の空」なんか聴くとホントそう思う。
藤井:録り直したら、適度に重くなったもんね。
──キメの感じとか、かなりハード・ロック指向がにじみ出てるよね(笑)。
藤井:それはね(笑)、出ちゃうんですよ。
──好きなんだろうな、ハード・ロック。って思いながら前半は聴いてましたよ。
藤井:好きっていうか…ホント、そこから(音楽に)入っていったようなもんだからね。自然とにじみ出ちゃうんですよね、きっと(笑)。
──そういう意味ではさ、よく言われていることだと思うけど、音速ラインの歌謡性なんかはまさにそういうことだよね? だから今回のアルバムって素直に(メンバーの中から)出てきたものが形になったんだなって印象がすごく強いんですよね。
藤井:うん。そうですね。計算は何もないですね。
──ないでしょ。計算は。
藤井:自分が好きなものを演った結果というか。
──そうだよね。
藤井:計算してるとしたら(アルバム全体の)流れぐらい?
大久保:そう。流れはそうだね。
──そっか。
大久保:録る曲自体も大体は決まっていたんですけど、細かくは決まってなくて。録りながら、これやろう、あれやろうと決めていったというか。「冬の空」とかもギリギリになってやることになったもんね。
──ギリギリになってやろうと思った理由は?
藤井:やっぱ外せないなぁって思って。
大久保:ベストっぽくやるんなら、なおさらね。
──ライヴでも定番だもんね。
藤井:そう。定番だから。
──「スローライフ」と並んでね。
藤井:「スローライフ」なんかはウチらの原点みたいなもんだし。
大久保:そうだね。
藤井:この曲から始まったようなもんだから、外せないし。うーんとね…このアルバムから入る人っていると思うんだけど、今までインディーから応援してくれた人も含めて、みんなが納得するようなアルバムにはしたいと思っていたんですよ。だから昔の曲はそのまま入れることも出来たんだけど、全部新録にしたし。んで、シングル3枚のカップリングは絶対入れないということも実現出来たし。
菅原:僕らが希望するイメージ通りの作品には仕上がったかなと思います。
藤井:そう。僕らが欲しいと思えるアルバムね。願望が形になったというか。
──どの一枚を聴けって言われたら、迷わずこのアルバムって感じの作品になったんじゃないの? 文字通り代表作というか。
藤井:10年に一枚出るか出ないかっていう作品じゃないかな…はははは(笑)。
大久保:すっごい表現(笑)。
──おいおい(笑)。んじゃ、しばらく出ないんだ(笑)。
藤井:今後10年はお休みみたいな(笑)。次にアルバム録るのは42歳になってからで(笑)。ウソです。
──気の長い話だね。頑張ってくれ(笑)。
藤井:冗談は置いておいて…でも、ホントにいいアルバムに巡り合える確率ってそんなもんだと思うんですよね。
──まぁね。
藤井:長く聴けるっていうのもそうないと思うし。大抵は飽きちゃったりするじゃないですか。そういうのは今回のアルバムではないと思ってるんですよ。長く聴けるし、人生の中で出会っておいて損はないアルバムだと思います。
初めて東京で書いた曲「逢瀬川」
──なるほど。ちなみに3人にとってそんな作品ってあるのかな? 自分の作品を除いて。
大久保:僕、ユニコーンのベストです。
──ほぉ。
大久保:僕、それしかないですね。ちゃんと通して聴けるのは。浅く広く聴いていくほうなんですけど、ユニコーンぐらいです。深く聴いていたのは。
藤井:俺はワナダイズとポージーズだな。10年前のアルバムを今でも聴いてるもん。
大久保:俺、13歳の時だ。
──それは関係ない。
大久保:また「黙れ」って言われるのかと思った(笑)。
菅原:僕はユーミンですね。小学校3年ん時から聴いてます。
──あ、意外な答え。どのアルバム?
菅原:「恋人がサンタクロース」が入ってるやつですね。
──程よくバラけてるんだね(笑)、3人とも。
大久保:またそこがいいんですよ。
──ねぇ(笑)。で、そういやこの曲の話も訊かなきゃって思ってたんだけど。リード・シングルにもなった「逢瀬川」。これってあの川なんだよね?
藤井:スズキさん、知ってます?
──知ってるよ。郡山在住だったし。汚い川だったんだよね、当時は。
藤井:今、浄化されて綺麗ですよ。一人の老人が一念発起してゴミ拾いして綺麗にしたらしいですよ。
──へぇ。そうなんだ。
藤井:名前がいいなぁってずっと思ってたんですよ。逢瀬川っていうね。車でよく通ったりするんですけど、その度にそんなことを考えてて。で、今回はタイトルからこの曲を作っていったんですよ。いつもは逆だったりするんだけど。逢瀬川って名前から天の河を連想してみたりね。たぶん、逢うっていう字からだとは思うんだけど。
──あ、そうだね。
藤井:それでいて、川でしょ? もし逢えなくても、巡り巡って来世でも逢える、みたいな。そんな歌にしようかって。
──なるほどね。
藤井:まずは逢瀬川っていうキーワードがあったんですよね。割と長いこと頭の中にあったんですけど。で、シングル作る時になって、タイトルから決めることになって(笑)。だからいつもと作る過程が全然違って、新鮮でしたよ。
──タイトル見て、一体どんな曲なんだろう? って思ったけどね。
藤井:みんなバラードっぽいものを想像してたみたいですよね。
──正直、そう思った。
藤井:でも聴いたら激しいもんね。
──だから、安心しつつもありね(笑)。
藤井:でもレコーディングに入った段階で未完成だったんですよ。大サビがサビだったんです。で、なんか違うなぁって思って。レコーディング入ってから作っていったんですよ。だから初めて東京で書いた曲なんです。
──ついにやったか。
藤井:はい。東京に居つつ、頭の中に川のイメージとか膨らませて。だから田舎で書くよりも、逆に風景がキラキラしてて。
──頭の中で思い描く風景がね。
藤井:たぶんホント帰りたかったんじゃないかなぁ。
大久保:美化されてるんだよ。
──想像で書くからこそ、いい具合にフィクションが入り込んだんだろうね。
藤井:うん。そういうのがサビの広がりに出てるんでしょうね。でもホント難産でしたよ。田舎だと15秒ぐらいで出てくるものが、東京で作ると出てこないんですよ。
──あ、そんなに。
藤井:たぶん(東京だと)自然体で作れないんでしょうね。3日徹夜みたいな状態での作業でしたから。
大久保:キーもコード進行も色々変化しましたからね。
藤井:一番、この2人が振り回されたんじゃないかな(笑)。
──じゃあ、一番苦労したのがこの曲なんだ。俺、よっぽど「流星ライン」とかのほうが難産っぽいイメージがあるけどね。
藤井:いや、あっという間です。
──俺、この曲は音速ラインの美味しい部分がぎゅっと凝縮された曲なんだと思うのね。だからこそ、大変だったんじゃないかと。
藤井:それがねぇ。そうじゃないんだなぁ。
大久保:「逢瀬川」に比べれば(笑)。
──なるほどね。で、今回のアルバムの全体的な話をそろそろしたいなと思うんだけど、聴いてみて大きく変わった点があったのね。今までって、どっか3人横並びってイメージはあったんですよ。少なくとも俺の中ではね。核はあくまで藤井君の曲というか。ここが活きなきゃドラムもベースも活きないと思うんです。今回の作品でね、そこがちゃんと踏まえられてるからこそ、ソングライターとしての藤井君の個性が、浮き彫りになった気がすごいしてて。
大久保:そう。逆に楽なんですよね。藤井さんの曲を演れば何演っても音速ラインの曲になるんで。逃げてるわけじゃないけど。
──うん。判る。
菅原:何処を見て演奏してればいいかが明確ですよね。
──そうだね。「リンカラン」って曲があるでしょ? これが入ることでそこが伝わりやすくなった気がしてるんですよ。
藤井:実はね、これバンド・ヴァージョンもあるんですよ。でもアルバムの中休み、やっぱ欲しいなぁと(笑)思って、今回はアコースティックな感じにしてみました。色んな要素を詰め込んでおきたかったっていうのもあったしね。
──でもこうやって話を訊きながら思ったけど、ホントにベスト盤っぽいヴァラエティに富んだ作りになってるよねぇ。
大久保:そういう意味では自分たちのイメージ通りに作れましたね。
菅原:そうだね。それはある。
藤井:ホントね、色んな人に薦めたいもん。いいアルバムだよって(笑)。
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