このバンドにしか出せない音を求めて
──通算6枚目のアルバム、バンド名をそのままタイトルにしていることからも何より自信の程が窺えると思うんですが。
鈴木 由紀子(vo, g):バンドの結成からは8年経つんですけど、今のメンバー全員が揃って活動を始めてからはまだそれほど経ってないんですよ。最初の2年は4人いたんですけど、そこから2003年に自分達でZubRockA Recordsを立ち上げるまでの間はメンバーがいつも1人足りない状態がずっと続いていて。確かにバンドではあるんだけど、そこに1人サポートが入ってる状態はやっぱり健全じゃないなと。それが、今のこの4人が揃って2年目になった去年辺りかな、自分がバンドを始めた頃に思い描いていたバンドの感触をやっと手に入れることができたんですよね。『BUGY CRAXONE』以外のタイトルも色々と考えてはみたんですけど、どれも似つかわしくなくて。収録曲のフレーズから引用するのも何か居心地が悪かったし。今さらバンド名を堂々とタイトルにするのもどこか照れくさかったんですけどね。
──でも、“今のこの4人だからこそのBUGY CRAXONE”みたいな部分を提示したかった部分もあるのでは?
笈川 司(g, cho):そうですね。今年の1月から曲作りを中心にずっとスタジオに籠もっていて、“これこそがBUGY CRAXONEだ”と思えるような曲が出来るまでは新しい音源を出すのはやめようと思ってたんです。それが嬉しいことにようやく自分達でも納得できる形として発表することができました。
鈴木:それは別に作品としてのクオリティを求めていたわけじゃないんですよ。このバンドにしか出せない音、このバンドだからこそ出し得る音をずっと探し続けてきたんです。
──ご自身が考える“BUGYらしい音”というのは?
鈴木:BUGY CRAXONEというのは、どの部類にも属せないバンドだと思ってるんです。仮に“ギター・ロック”と呼ばれても腑に落ちないし、その枠にはとても収まりきらないと思っているし。だからそれを証明するために自分達の集積を作っておくしかない、と。そういうことを考えてふと周りを見渡した時に、その曲を聴いてオイオイ泣き崩れるような聴き手の心を掻き乱す音楽と、オーディエンスをフロアで目一杯暴れさせる類の音楽という両極端の世界しかないと思ったんです。だけど私達はその真ん中に堂々と位置するような音楽を作りたいんですよ。
笈川:例えばブッチャーズやズボンズのライヴを観てると、凄まじい轟音の中に必ず心を震わせる泣きの部分があるじゃないですか。そういうバンドになりたい、ならなきゃダメだと思ったんです。メンバーはみな音楽的ルーツがバラバラだけど、この4人が揃った時にはとにかく凄いんだっていう音を目指そうと。
鈴木:バンドとして初めて出したCDが「ピストルと天使」というシングルで、それ以降「枯れた花」や「NORTHERN ROCK」など、その都度その都度節目となるような曲があったんですけど、結局私は全部同じことを言い続けてきたと思うんです。元々はユーモアの要素もあったはずなのに、私一人だったりとかその時のメンバーや出す音によって、どうしても重たいベクトルだけに進んでいたと思うんです。それが、旭君やモンチが入ってくれたことによってそのユーモアの部分が押し出されるようになって、そのバランスが自分の理想としているところにグッと近づいたと言うか。
──ベースとドラムというバンドの屋台骨を支えるパートが流動的というのは、バンドとしてはかなりの痛手でしたよね。
鈴木:思い出しただけでもうイヤです(苦笑)。メンバーが固まらないっていうのは本当に辛かったですね。
旭 司(b, cho):自分が加入する前のBUGYの音源を聴いていると少しずつ変化を遂げていて、でも根本にあるのは変わってないと思いますよ。表現の仕方が着実に幅を広げているから、由紀ちゃんが同じ言葉を発するにも説得力が格段に増しているし、理想としている高みに近づいてるんじゃないですかね。
──今の布陣が固まって、やっと「これがBUGY CRAXONEです」と胸を張って断言できるサウンドや方向性を手中に収めたからこそ完成したアルバムだと思うんですよ。バンドとしてのグルーヴと一体感は過去随一ですし。
鈴木:ただ歌を唄いたいなら一人で弾き語りをやればいいと思うし、私はどうしてもバンドをやりたくてずっと音楽を続けてきましたから。これまでは作品のコンセプトを凄く考えてきて、コンセプトがないと逆に私はアルバムが作れなかった。でも今回はそれをちょっと置いといて、一曲一曲を大切に作ったんです。自分がこれまでに書いてきた詞は割とすべてを言い切ったり、遠くから俯瞰でモノを言うようなのが多かったけど、今回は“机に足をぶつけた”とか“腹が立った”とか、もっと生活レベルのことを取り上げて唄っていきたいと思ったんですね。隣同士の曲が矛盾したって別にいい、直感で自分が感じた偽りのない気持ちだけを大事にしようって。ヘンに肩肘張るのはやめることができたし、“身体で感じる”とか“気持ちで感じる”っていうのはこういうことを言うんだろうなと思いましたね。
──「バスケットボール」という曲に今のバンドの立ち位置が巧く描かれていますよね。人生というコートの中でいろんな立場の人がいるけど、自分達はベンチに入ることなく未だ試合中だよという。
鈴木:私、学生の時にバスケ部だったんで、人生におけるいろんな場面を四角いコートに重ねることが多いんです。同じ練習量をこなして頑張ってきたはずなのに、コート内で試合に出られている人もいれば、コートの外のベンチで控えている人もいる。でもそれでも、与えられたそれぞれの場所で精一杯自分なりに戦うしかないと思うんですよ。
スタジオに10回入るよりも1本のライヴを
──BUGYらしい音の探究を突き詰めるとなると、レコーディング作業はかなり難航したんじゃないかと思うんですが。
笈川:あるレヴェルまではすぐに到達するんですよ。音を録って、今までなら「これで行こうか?」ってそこで納得したかもしれないけど、今回はもっと上を見ようとしたんです。もっともっと良くなるはずだと信じて。何度トライしてもダメなら諦めてお蔵入りにしようと思ったし、この曲を最後まで作り通したらバンドがもうひとつ上に行けるから、絶対に諦めないで行こうっていうのが何曲もありましたね。
鈴木:「太陽がいっぱい」はまさにそんな感じでした。この曲は元々Aメロがなくて、Bメロとサビだけで曲が構成されていたんです。何回アンサンブルしてもBメロとサビだけで完成されていたから、何かハミ出した部分が欲しいってずっと思っていたんですけど、何度やっても巧く行かなくて、何ヶ月も時間が掛かりましたよ。それでも絶対に諦めないと思って、試行錯誤の末に何とか形にすることができて…ホントに大変でした(苦笑)。最終的にはモンチが叩くAメロのドラムの音が決め手になって、その音を聴いた瞬間に“これだ!”ってみんな同時に思ったんです。
モンチ(ds, cho):その時、僕はインフルエンザで40℃近く熱があって、余り頭を使わずに叩いたんですよ。元々、頭で考えすぎるとダメになる人間なんで(笑)。
鈴木:どういう感じにすればいいかっていう基準が自分の中でも漠然とした印象でしかなくて、「とにかくストレートに、だけど凄く狂暴な感じにしてよ」って言ったら、モンチがあんな感じに叩いて。曲ってオイシイところがありすぎてもダメなんですよね。それぞれが食い合っちゃうって言うか。それを抜いたりずらしたりする引き算の見極めが凄く難しいんです。
笈川:そういうバンドのビルド・アップを図るためにモンチに正式加入してもらって、それ以降はスタジオに10回入るよりも1本のライヴをやったほうがいいし、ライヴを1本やるならツアーを回ったほうがいいっていう姿勢で去年から今年にかけて臨みましたね。すべてはバンドを強くするために。ライヴを精力的にこなしたことが今度のアルバムで大きく実を結んだと思ってます。
──去年から今年にかけて自主企画イヴェント“COUNTERBLOW”だけでも9回、その間に全国ツアーも相当な本数をこなしているし、さらには途中、前作『sorry, I will scream here』とライヴDVDの発表もあったわけで。
鈴木:自分達の手でZubRockA RECORDSを立ち上げて、凄く時間が大事だと思ったんです。何も考えずにただスタジオに入ってセッションしたって全く意味がない。いち早く次の目的地に到達したいと思っていたから、集中力も高まって効率も良かった気がしますね。今まで試行錯誤しながらやってきた“COUNTERBLOW”も、「あのイヴェントなら面白いんじゃないか」って期待されるようなイヴェントとしてこれからはもっと浸透させていきたいんです。BUGYだけを観たいならワンマンで済むと思うし、一緒にやるバンドのことを知らないなら是非このイヴェントを通じて知ってほしいですね。さっきも話しましたけどBUGYはどのカテゴライズにも属さないバンドだから、対バンの妙も難しいけど色々考えるのは楽しいし、焦らずにずっと長く続けていきたいです。
──考えてみれば正式にこのメンバーとなって2年弱だし、まだまだこれからですもんね。
鈴木:それなりにキャリアはありますけど、まだ駆け出しなんですよ(笑)。
モンチ:ある意味新人ですからね。余り若くはないですけど(笑)。
──ちょっと漠然とした質問かもしれませんが、数々の荒波に揉まれてもなおロックし続ける理由は?
鈴木:ただただ“バンドが好きだから”ってことしかないですね。若い頃はもっと大袈裟な理由からバンドをやっていると思っていた時期もありましたけど、今はもうそういうのは一切関係なく、純粋にバンドが好きなんです。
モンチ:BUGYに入って、自分がちゃんと音楽をやっているんだという気持ちがやっと持てたんです。それまでもバンドはやってましたけど、“このままやってていいのかな?”という中途半端な感じだったんですよ。BUGYに入らなかったら多分音楽をやめていたんじゃないかと思うし。
旭:初めてBUGYのリハに参加した時、本気の度合いが違うのがひしひしと伝わってきたんですよね。その後にライヴをやって、“自分の居場所はここだな”ってはっきりと判ったんですよ。ここなら自分のやりたいことができる、BUGYこそ自分が一番やりたいバンドだと。僕が考える理想のロック・バンド像に最も近いと思ったんです。
──じゃあやっぱり、この4人は出会うべくして出会ったんですね。
笈川:旭君は加入当初はまだ札幌からこっち(東京)へ通っていて、僕の家に居候していたんですよ。出会ってまだひと月くらいしか経っていないのに(笑)。音を出すのももちろんそうですけど、一緒にツアーを回ったり同じ時間を長く共有するとなると、人として尊敬できるところをお互いが持っていないとなかなか続かないと思いますね。
鈴木:ちょっと気持ち悪いくらいホントに仲がいいですからね。ツアー中もずっと男同士でじゃれ合ってますから(笑)。そういうバンドが楽しんでる感じっていうのは、今度のツアーでもライヴににじみ出るんじゃないかと思いますよ。
モンチ:うん。10年も20年も心に残るようなツアーになると思うので、是非足を運んでほしいですね。
旭:今までのライヴも何も纏ってない剥き出しの感じでやってきたんですけど、今度のツアーはそれ以上のものになると思ってます。剥き出そうとして剥き出してるんじゃなくて、剥き出ちゃったみたいな感じと言うか。
笈川:久しぶりにワンマンをやる所も多いから楽しみだよね。今年はライヴを我慢したところもあるから、来年は一本でも多くライヴをやりたいと思ってます。ひと回り大きくなったBUGYを是非体感してほしいですね。
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