ライヴを通じて曲の在るべき姿を捉えることができた
──『I.D.[Illustrators' Decoration]』のレコ発ツアー“S.O.I.D TOUR”も佳境に突入しましたが、手応えとしてはどうですか?
SOTA(vo, g):このツアーに出るにあたって気合いは充分だったし、ライヴを重ねていくうちに見る見る良くなってきているのを肌で感じますね。もちろん今までも一生懸命ライヴをやってきましたけど、実力と言うか安定感が以前に比べて凄く増してきたんじゃないかなと。
MORO(g, cho):基本的にセットリストがガラッと変わったのが大きいですね。“これしかないだろ!”的なセットリストで回れているのが今回は凄くデカいですよ。それまでは、アルバムのリリースまでライヴでやるのを我慢してた曲も結構ありましたからね。今はそういう曲を思う存分にやれてるし、セットリストは日々変わるよね?
SOTA:変わるねぇ。
MORO:同じ曲をやるにも“もっとこうしたらいいんだな”とか“こういう部分が反応いいんだな”とか色々と判ってきたし、ライヴごとに曲が練れてきている感じなんで、凄く有意義ですね。
SHITTY(b, cho):確かに、30分という限られた枠の中でURCHIN FARMというバンドをきっちり見(魅)せ切る形ができてきたと思います。今はライヴの最後に「Shooting Star」をやることが多いんですけど、それをやることで“伝わった感”を確信できると最近のライヴをやっていて思いますね。
MORO:そう、2番目に出るライヴでも、ちゃんと“クライマックス感”を出せるようになりましたね。
──3番目に出るバンドに対して軽く嫌がらせをするような?(笑)
MORO:そうですね(笑)。「Shooting Star」は元々そういう締めに相応しい曲でしたけど、フェイドアウト感を持ちながらもっと熱くワイルドにライヴでできるかっていうのをずっと試行錯誤してきて、それが最近、ワンマンに向けてやっと手応えを感じているところです。
──『I.D.[Illustrators' Decoration]』をリリースしてから、オーディエンスの反応もだいぶ変わってきたんじゃないですか?
MORO:凄く変わりましたねぇ。僕が一番驚いたのは、「ARKANOID」とか「Knight」とか、アルバムに入っている結構マニアックな曲がライヴでかなり反応がいいことですね。
SOTA:あと、「『Me Need More Need』が一番良かったです」とか意外なことを言われたり(笑)。
MORO:自分達が“アルバムの中ではMAXこれでしょ!?”って思ってる曲よりも、もっとスパイシーな部分にウケがいいって言うか(笑)。
SOTA:それはあるだろうね。「MONOchrome」や「Clover」のようなシングル・タイプの曲には凄く安定感があって、それで一仕事を終わらせた上でスパイシーな部分がちゃんと乗っかってるから、そこが逆に際立っちゃうんじゃないかな。CDでは「9 o'clock」とかがやっぱり評判いいですけどね。
MORO:ライヴをやることで判った曲の新たな発見もあるんですよ。ずっと繊細な曲だと思っていた「ARKANOID」はライヴでやるともの凄くパンチがあったりとか、CDでは柔らかい音作りをした「Knight」が実はドライヴ感のある熱い曲だったり。
──アルバムがリリースされて2ヶ月ちょっとが経って、曲も少しずつ成長しているんでしょうね。
MORO:そうですね。音源でどう録ろうかっていう自分達の方向性はあらかじめ見えていたんですけど、ライヴをやることで曲の在るべき姿を本当の意味で捉えることができたような気がします。
──そんなツアーの最中に、また如何にもURCHIN FARMらしい極上のクリスマス・ソング「One minute SNOW」が発表されますが。
MORO:この曲は「MONOchrome」とかと同じ時期にできたんですけど、シングル用にわざと残したんですよ。アルバムに入れることもできたんですけど、僕はこの曲が本当に好きで、どうしてもアルバムとは分けてクリスマス・シングルとして発表したかったんです。
──“1分間だけ降った雪”をテーマにした切ない世界観にSOTA君のトロットロに甘いキャンディ・ヴォイス(笑)が相俟って、絶妙なバランスのクリスマス・ソングに仕上がっていますよね。
SOTA:「トロットロにしよう」っていう指令がプロデューサーの佐久間(正英)さんから下りたので(笑)、もう“やれるところまでやったろやないかい!”っていう感じで。佐久間さん自ら鈴の音をシャンシャン鳴らして(笑)。
MORO:思い描いていたイメージ以上の仕上がりになったと思ってますね。元はもっと難解な曲だったんですけど、そこを佐久間さんの手腕でより聴きやすくしてもらって。意外とテンションの高い曲で、割とビートものになった気がしてます。実はクソ暑い真夏の時期にライヴでやったことがあるんですよ。クリスマス・ソングだろうがいい曲なんだから季節は関係ない! と思って、MCで「一足早いクリスマスを皆さんに…」って始めて…。
──早すぎるよ! って(笑)。一方、カップリング曲であるマライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」をカヴァーしたのは?
MORO:元々僕が大好きな曲なんですよ。もう、ホントそれだけの理由で(笑)。クリスマス・シングルを作ろうと思い立った時に、明と暗のコントラストが大事かなと思って。「One minute SNOW」の切なさと対照的に、このカヴァー曲ではコーラスを付け加えたりして明るいパーティー・チューンに仕上げたかったんです。だから原曲よりもペースを早くして、みんなで唄えるっていうコンセプトにしました。
バンドとしての完成型を目指していきたい
──こういうポピュラー・ソングをロック・バンドがカヴァーすると、原曲を倍速にしてパンキッシュに仕上げるのが常ですけど、このカヴァーは割とソウル風な味付けもされていて新鮮でしたよ。
MORO:パンク・テイストのアレンジにするのが一番の禁止事項だったんです。ありがちなことをやっても面白くないですからね。僕の中では、『天使にラブソングを』っていう映画の中でシスターがみんなでゴスペルを唄う、あのシーンのイメージなんですよ。
──アルバム同様、歌入れには相当苦労したと聞きましたが。
SOTA:この曲はサビもワン・パターンだし、キーもほとんど変わらないんですけど、唄うのは本当に難しいと実感しましたね。ちょっと今までにないくらい悩みました。まず英語を覚えた上でそれを咀嚼して、自分の言葉としてハートで唄わないといけないですから。これまでの経験上、考えすぎずに開き直るといいテイクが録れることが多かったんですけど、今回は開き直ったらどんどんダメになっていって(苦笑)。改めてマライア・キャリーの凄さが判ったし、シンガーとしてのその表現力の高さには脱帽しましたね。
──そんな苦労の跡を微塵も感じさせない堂々とした唄いっぷりや確かな演奏を聴くと、ファースト・シングルの「MONOchrome」以降、着実にバンドが力を付けているのが窺えますね。
MORO:まだまだですけどね。ただ、この「One minute SNOW」に関しては余り気負わず、フラットな気持ちでレコーディングに臨めたんですよ。いいものが100%できるっていう自信もあったし、クリスマス・シングルとしてのコンセプトや音の作り方、佐久間さんとのやり取りとかも含めて、自分達のやりたいことが事前にかなり明確でしたからね。
──雪の結晶をつかもうとする女性の手の美麗なジャケットも印象的ですね。
MORO:SOTAにどんな内容の歌詞なのか訊いて、そこからみんなでイメージを膨らませたんです。
SOTA:実は「One minute SNOW」の歌詞は僕の実体験をベースに書いたんですよ。だから結構スルスルスル…と書き上げることができましたね。数年前、クリスマスの夜に新宿の街を歩いていた時に僅かな時間だったけど本当に雪が降ったんですよ。
──このシングル曲が今度のワンマン・ライヴで核となるナンバーになることは間違いないですね。
MORO:そうですね。『I.D.[Illustrators' Decoration]』のツアー・ファイナルでもあり、この「One minute SNOW」発表に伴うツアーの始まりでもあるワンマンですからね。今度のワンマン以降のツアーは全く違うバンドの姿を見せることになると思いますよ。「これ、ホントにURCHIN FARMなの!?」って言われるくらいの。
──ワンマンでは、終演後に『I.D.[Illustrators' Decoration]』のジャケットそのままのポーズで記念写真を撮るという公約を果たしますか?
SOTA:もちろんです! 髪の毛の色まで忠実に再現しますから(笑)。
MORO:TETSUYAはぼちぼち髪を青くして、SHITTYは黄色に染めて分度器みたいな髪型にしないと(笑)。当日は面白い仕掛けも企んでいるので、とにかくワンマンは是非楽しみにしていてほしいですね。これからのURCHIN FARMは本当にガラッと変わるつもりでいますから。今までのライヴとは全くの別物になるし、このワンマンがその始まりなんです。
──来年2月の“BEATSONIGHT!”まで、またぶっ通しでツアーに出ずっぱりですからね。
MORO:今はとにかくライヴをやりたいんですよ。僕達の曲は、ライヴをたくさんやるといろんな面が出てきていいんだなっていうことがよく判ったんです。だから手持ちの曲が増えたぶん、ライヴ向きじゃない曲も含めてライヴでいっぱい試したいと思ってるんですよね。ライヴをやり続けることでそこを突き詰めたいんですよ。来年はURCHIN FARMとしてやりたいことが山ほどあって、それにはこの4人の結束が今まで以上に重要だし、4人でやらなければならない課題もまだまだ残っているんです。そこをクリアにしないと次のステップには行けないから、とにかく今は一本でも多くライヴをやりたいんですよ。
──今のURCHIN FARMは吸収と消化のペースが活発でかなりいい状態にあるから、どのライヴを観てもハズレはないと思いますが。
MORO:ライヴばっかりやっているので、一本一本のライヴに対する集中力がこれまでとは全然違うんですよ。ステージで起こるかなり細かい部分まですべて鮮明に覚えてますからね。
SHITTY:これまでにやってないことを今後形にしていくためにも今のライヴがあるし、早く新しいURCHIN FARMを提示していきたいですね。
TETSUYA(ds, cho):これからのことも確かに大事ですけど、まずはとにかく今目の前にあることに向き合うことがもっと大事なんじゃないかと思いますね。どんなことにも対応できる力を今のうちに付けておくと言うか。
SOTA:自分自身の課題としては、歌の表現にもっと自分の意志を込めるということですね。『I.D.[Illustrators' Decoration]』は凄くいいアルバムだと自負してますけど、悲しさや切ない部分がちょっと多かったかなとも思うんです。これからはもう少し明るく映える感じの曲を増やしていきたいし、そういうタイプの曲をちゃんと唄いこなせるだけの歌唱力を身に付けたいですね。
MORO:今まで色々と模索しながら実験的にやってきた部分を踏まえて、来年はバンドとしての完成型を目指していきたいんです。URCHIN FARMというバンドの在り方を変えたいし、「これこそがURCHIN FARMなんだ!」と呼べる曲のスタイルやバンドの姿勢を確立したいんですよ。守りに入らず、常に他とは違った新しいことを追求していきたいですね。
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