僕ら2人がしっかりしなきゃ
―――1月11日にアルバム『How Are You?』をリリースされるんですが、前回のシングル『Believer』後にベースが脱退されてから初の作品となりますが、制作はけっこう大変でした?
伊藤:そんな大変じゃなかったですよ。デモ段階では僕が拙いながらもベースを弾きましたし。サポートで弾いてもらった方もライブで弾いてくれている菊池君と前回のワンマンでお手伝いしていただいた笠原さんだったので問題なくレコーディングできました。クボタさん(BEAT CRUSADERS)はレコーディングまで忙しくてあわせる機会がなかったんですけど、もともとSPORTSを聞いていてくれてたのでやりやすかったです。
―――正式メンバーに迎えようというのは考えてないんですか?
伊藤:ベースが抜けてるのは2回目なんで、わりと慎重に(笑)。いい人がいたら一緒にやりたいなという気持ちではずっとやってるんですけど。
―――今はサポートでまわりから支えてもらっている状態が一番いいという。
2人 そうですね。はい。
―――でも、いろんな人にサポートで参加してもらうと自分達の刺激にもなりますね。
伊藤:僕ら2人がしっかりしなきゃっていうのが第一にありましたね。前のベースがワンマンの1週間前に出られないってなって、急いでベーシスト探して地獄のような練習をしたんですけど、ワンマンの時はしっかりやれたんで自信になってますね。
大石:あれは一番大変だったよね。
伊藤:ベーシストさんがよかったのと2人でも基礎がしっかりしてたので、それが自信になり今回のレコーディングもそのままいけたし、ベースは曲ごとでいろんな音になりましたけど、基礎となるSPORTSの部分は変わらずに楽しめたな。
―――アルバムが出来上がった手応えはどうですか?
大石:愛着はすごくありますね。納得できた。毎回そうなんですけど、今回特に思い入れが強くなりそうだな、個人的には。
―――お客さんの反応は?
伊藤:どうなんだろうね。ノリやすい曲ではあると思うので、自然に聞いてもらえるのかなと。
2人でここまでやれた自信
―――じゃあこのゴキゲンなアルバムタイトル『How Are You?』にしたのは?
伊藤:辞書を使わずわかりやすい言葉がいいなというのが前提にあって。ふと歌詞を読み直していたときに『Xanadu』の中に「How Are You?」っていうのがあって、口に出したらみんないいんじゃないかなと。『Xanadu』は僕ら2人でプレイしている曲なんですけど、わりと広い世界観の曲を作れて基礎ができてきたと実感したんです。それで、「How Are You?」と言う余裕というか、2人でここまでやれるんだよっていう自信。
―――その『Xanadu』は詩を読むとちょっと切ない曲ですよね。
伊藤:これは僕なりの恋愛観ですね。自分以外の物って絵空事なんじゃないかって。人がどう思ってるかというのは自分のことのようにはわからないし、恋愛の対象として誰かいたとしてもその人の事がわからなくなるっていうことがありますよね。恋愛って幻みたいだな…。
大石:確かに。
伊藤:相手と離れているときの心境なんですけど、その人と同じ時間を共有しているのかって不安になることってありますよね。遠く離れているとそう思っちゃうんです。そういう事を確認できるのってメールとか電話じゃなくても、同じ空を見てるみたいな感じが…。
大石:俺はこの曲聞いて泣きました。家でヘッドフォンで聞いてたらもってかれちゃって…。
伊藤:ここで「♪キャンディー愛してるぜぃ〜!」(いきなり歌い出す)って言ってもあんまり響いて来ないでしょ。
―――キャンディーって!(笑)
伊藤:キャンディーなんてそんな女の人いねえだろっていうのはありますね。
大石:でも男の人の歌って特定の名前出たりとか、昔付き合ってた人の名前とか多いよね。
伊藤:過去の恋愛対象が霞がかって見えるんですよね。桃源郷(Xanadu)のように。
―――昔を思い出して「君は何してる?」ってしんみりしちゃうっていう。
伊藤:自分なりに自分を皮肉っているってのはありますね。自分なりのアイラブユーってのは「How Are You?」みたいな感覚だったりするんです。「君は何してるんだ?俺は今こういうことしてるよ。」っていうやりとりが自分の中の愛情表現だったりするんですよ。そういうのを歌詞にして。離れてれば離れてるほどいいのかなとは思いますね。前向きにね。…変なこと言ってない?
大石:(苦笑)…キャンディーぐらいだね。
―――『Smile』はどうなんでしょ。『Xanadu』の切ない感じとは反対のイメージでしたが。
伊藤:サウンド的にイメージしたのは夏。そもそも自分がやってることの意味、大きなテーマってなんだろうって思うと、『Smile』っていう言葉に行き当たるんですよ。歌詞見ると煮え切らない感じというか、たまに何が楽しくて生きてるんだろうって思うんです。でも楽しい瞬間があって、僕は人の笑ってる瞬間とか自分が笑える瞬間が印象に残ってると言うか、それはデビューシングルの『Sports Wear』でも言っているんですけど、最後は笑顔でいようぜって。ポジティブな気持ちがないとやってる意味がないし、「♪この世は絶望だらけ〜」(再び歌い出す)とか歌っててもそんなことは生きててわかってるんだよ!って思っちゃうから(笑)。少しでも希望がある歌を歌いたいなと思って作ったんです。生きてることの意味って難しく考え始めると際限ないし、結局答えが見つからないじゃないですか。でも簡単に考えると楽になるというか、俺はそう思うんですよ。(隣の大石君に向かって)ダメですか?
大石:いいですよ。でも、俺は悲しさを感じる曲だなと思ってた。
伊藤:「塵になって また消えて それでもいいな」って詩はね、親が見たら悲しみますよね(笑)。
―――せっかく育てたのに塵になって消えていいって言われてもね(笑)。でもこういうモードの時ってありますよ。では、伊藤さんが書かれる「君」って言うのは特定の一人を想像したり仮定して書かれるんですか?
伊藤:今回は自分ではない誰かをと思って書きましたね。
―――曲を書く人ってその人の今の心境がすごくわかる詩ってあるじゃないですか。
伊藤:僕は思い出すことが多いので、リアルタイムではないです。リアルタイムで出すのってきつくないですか?生々しいというか、ある程度のエッジが取れないと振り返れないんですよ。
―――つらいばっかりになっちゃう。
伊藤:そうそう(笑)。
―――『Believe Me』は?これは詩を読むと「不思議の国のアリス」をイメージさせるんですけど。
伊藤:僕は作者のルイス・キャロルが好き。その辺からイメージを。
―――そういえば『Believer』(2005年5月リリースのシングル)でインタビューをした時自分を信じられないって言ってましたね。
伊藤:最低な奴ですね(笑)。でも、『Believer』を出したことによって自分に自信がついたところがあって、初めて『Believe Me』と言えるようになったんですよ。『Believer』の時は自分を信じてくれとは言えなかったんですよ。メッセージ的には『Believer』は投げっぱなしってところがあったんですけど、今回初めて余裕が持てたというか、そういうのを歌詞にしたかったですね。
―――ようやく信じれるようになって、こういう歌詞が書けて。
伊藤:僕と一緒にがんばろうよみたいな。言葉にするとチープですがそういうメッセージを。
―――半年ぐらいですごく変わりましたね。自分も信じられなかった人が俺を信じろと。
伊藤:歌詞って決まっちゃってますけど、『Believer』って今歌うと歌詞を変えたくなっちゃうんですよ。だからそこから一歩進んだ曲を作ろうと思って作ったんです。曲調は全然違いますけどね。
―――今は自分は信じれるようになりました?
伊藤:そうですね。前向きにやってます(へへへ)。
お前誰の胸に抱かれてるんだよ!
―――『Movin'n on』の言葉遊び的なものもありましたが。
伊藤:語感で遊ぶ、リズミカルに。これはライブで盛り上がったらいいなって書いた曲なんです。ステージの上から言いたくなるんですよね。「お前誰の胸に抱かれてるんだよ!」って。
全員 (照笑)
伊藤:そういうのが直接的に伝わってくれればいいなって。
―――ストレートですね。
伊藤:やりたいことがあったら動いて欲しいという、わりとそういうメッセージですね。自分が押さえつけられてるような感覚がすごくあってそこから解き放されたいっていう思いがすごくあるんですよ。それが『Animal』とかにもあると思うんですけどライブで気持ちよくなりたいっていうのもあるし、そういうことを打破することによって何か楽しいことだったり素敵なことがあるんじゃないかなっていうのがありますね。
―――ステージの上が自分を一番さらけ出せる場所でもあるし、伝えたいことを伝えられる場所でもある。
伊藤:最近ライブやってて、そう思うことが増えてきた。僕たちが演奏していてそれを見て何か感じる人がいて、こういうことを歌いたかったんです。僕はその曲が一番好きです。今までの自分にあまりなかった曲なので、ロックでこういう音楽ができることを聞いて欲しかったしライブでやるのを楽しみにしています。
―――歌詞もロックっぽいですもんね。今回の作品の詩って男っぽいですよね。「俺についてこい」っていう詩になってる気がする。
伊藤:今までは引っ込み思案な感じだったんで。ずっとそうしていたいと思っていたわけではなくライブやることによってだとか、大石君とやることによっていろいろ自信がついてきた部分をみてもらいたいなっていう欲が出てきたというか、男っぽいモードになってるんじゃないんですかね。
―――じゃあさっきお話に出た『Animal』なんですけど。
伊藤:この曲もライブを意識して作って歌詞を書きましたね。ライブやる前って作戦を練ったりするんですけど、いざ始まると関係なくなっちゃってすごく動物的で野性的になってしまうんです。でもその瞬間が最高だったりするんですよね。
―――もしステージ上の伊藤さんを客席からもう一人の自分が見てたらどう思うと思います?
伊藤:恥ずかしいんじゃないですかね(笑)。でも、お客さんもそうであってほしい。あとで思い出してたら恥ずかしいみたいな。
―――詩の中の「胸を見たい」というのは?これも動物の本能という感じがしますが…。
伊藤:はい。そのままですよ。ぜひライブは薄着で参加してください(ニヤケ気味)。というのは嘘なんですけど、内心さらけ出すようなかんじで。みんな我を忘れるぐらいに楽しみたいな。今までそういうことを歌詞で書いたことがなかったんで、ライブで歌いがいがありますね。
―――お客さんに伝えたいことをそのまま歌ってますしね。ダンスナンバー調でノリも良くて。
伊藤:大石君がダンスナンバー調にしちゃいました。
大石:最近踊らせたいなと思うようになったんですよ。『Believer』から思ってたんですけど、もっと踊らせたいなと思ってしまって。
“音”“応答”“嘔吐”
―――『Believer』は完全に踊れる曲でしたもんね。最後に収録されている『Washing Machine』はインディーの時に出されていた作品ですね。
伊藤:その曲はインディーズの頃にリリースしている『キリン出現-This Here Giraffe-』(1st mini album、2002年リリース)で1回出してまして…。別に出来に不満があったとかではなくて、その時は満足してやってたんですけど、今回ミニアルバムを出すに当たって、シングルほど曲数が少なくないし、フルアルバムほど濃厚ではないのでタイミング的にはいいかな。再録って一度やってみたかったんです。ライブではずっとやってる曲で、あの曲はなんの曲だろうって思ってるお客さんもいたかもしれないし、これからももっともっとたくさんの人に聞いて欲しかったので。この曲は肌で感じて欲しいというか、何も考えずに楽しめる音楽というかロックだと思うので、自分達としても不思議なパワーを持った曲ではありますね。
―――インディーの時に比べるとアレンジはかなり変えてます?
伊藤:基本的にはそんなに変えてないですね。インディーズの時は一発録りでライブ感のあるテイクだったのですが、今回はレコーディングという形で個人的には緻密に作りました。ただ、勢いのある曲なので装飾だらけにならないように気を付けましたよ。
―――この曲もそうですけど、伊藤さんが作る言葉遊びはオモシロイですよね。
伊藤:聞くっていうのは音的な作業じゃないですか。だからCD買ってくれて歌詞カード見る楽しさがあってもいいかなって。いつもその辺は凝ってるつもりなんですけどね。耳で聞いてわからなかったことが見てわかったりすると別の楽しみがあるんじゃないかなと。
―――わかる!今回、最初は曲だけ聞いてて、英語っぽく聞こえるからなんて言ってるんだろうっていうところが多かったんだけど、後で歌詞読んだときに、こういうこと言ってたんだっていう発見もあっておもしろかったですよ。あと“音”と“応答”と“嘔吐”の3つを並べるって思いつかないですよ。
伊藤:ラッキーでした(笑)。これはライブ感とういか、自分が音楽をやっていて、ひとつ僕らが発信するじゃないですか。そういうのは“音”という形であって、それを聞いて何か感じた人達からのオーディエンスの“応答”であって、そこから吐き出されるものが“嘔吐”かな。それを洗濯機がゴボゴボ言ってるシチュエーションで思ったんです。これは洗濯機とかかるんじゃないか。洗濯機のように自分も静かに淡々と、でも熱く燃えたぎるものがほしいと思ったんですよね。自分達がここで地に足つけて音を出してこだまさせてみんなに届いて欲しくて、その辺のメッセージを。夜の洗濯と自分がリンクしたわけです。
―――洗濯機の中を覗いてると自分も洗われている気がしますよね。
伊藤:カオスな感じが好きなんですよ。あれはロックだな。
―――ビートも刻んでますしね。あと、3年前の曲だから最近ファンになったお客さんとしてもリリースしてくれるのは嬉しいと思いますよ。でも、『キリン出現』ってすごいタイトルだったんですね。
伊藤:その時賛否両論あったんですけどゴリ押しで。
―――インパクトあるタイトル付けますよね。『Believer』の時も、Believe旋風巻き起こしたいって言ってましたし。Believe旋風て!って思いましたけど(笑)。
伊藤:あんまり巻き起こらなかったですね。でも今回も『Believe Me』があるし、まだBelieve旋風終わってないです(笑)。
―――…巻き起こるかなぁ。
伊藤:巻き起こりますよ。
ライブはAnimalになりたい
―――お客さんからもいい反応もらってたくさんの人が聞いてくれたらいいなと思いますね。そしてアルバムリリースしてワンマンも行われますが。
伊藤:3月5日に大阪アメリカ村DROPに、3月9日に下北沢CLUB Queであります。
―――今回ワンマンはどうするんですか?まだまだ先ですけど。
伊藤:このアルバムからの曲を全体的に散りばめながら、リリースからちょっと経ってるんでまたちょっと新しいものを感じてもらって帰って欲しいというのはあるので、CD以上のものを………どうしよ。言ったはいいけどまだ全然考えてないや。今回は何かしら…。できるといいな。
―――前回のワンマンの時はベースの脱退とかバタバタしていたので、今回はかなり気持ち的にも余裕があるんじゃないですか?
伊藤:そうですね。余裕持ってますね。
―――普段はどんなライブを心掛けてます?
大石:やっぱり『Animal』になりたいなと。あと、その場の空気を楽しみたいですね。
伊藤:たぶんなんとなく僕たちの空気があると思うので、それはサウンドだったりMCだったり、あとは目に見えるものだったりすると思うんですけど、存分に吸って楽しんでもらえればなと思ってますね。
―――じゃあ『Animal』にかけて、大石さんから見た伊藤さんは動物に例えるとなんだと思います?
大石:草食動物の皮をかぶった肉食動物的な。具体的になんだろう。
伊藤:普段アライグマっぽいって言われるよ。
大石:たぶんその皮の中には牙向いたすごいのがいる。
伊藤:ハイエナみたいな。
―――見た目やさしそうで近づいてみると実はすごいのが出てきそう。大石さんはどうでしょう。
伊藤:大石君は、、、ライオンのオスかな。
大石:えーーー!!! マジで?何それ?
伊藤:ライオンってメスが凶暴で子供の世話して餌獲りに行くじゃないですか。オスはそこでずっしりと構えてたまにガオーって言って。頼りがいがあるんですよ。…ダメだった?もっとかっこいいやつがいい?
大石:ライオンなれるようにがんばるわ(笑)。
伊藤:大石君はライブとけっこう違うんで。ライブ中はライオンのメスになってるんです(笑)。普段はオス的な感じで。
―――(笑)。ライブは、本当に野性の臭いがしそうですね…。では最後にRooftop読者に一言。
大石:やっぱりライブを見に来てもらいたいです。楽しませたいなと日々思っているんで遊びにきてください。
伊藤:今までSPORTSっていう名前を聞いたことあるかもしれないけど、シングルじゃ物足りないし、フルアルバムだといっぱいあってボリューミーすぎると思ってた人にも最適だし、僕たちの事を知ってもらうのにすごくいいアルバムになったと思います。但し一回入るとなかなか抜け出れない罠が仕掛けられてますが、このアルバムを通じてもっとたくさんの人に聞いてもらってハマってもらえたらなと思うので興味がある方はぜひ買って聞いて下さい。
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