──2曲目の「What Went Wrong!!!」はニューウェイヴの匂いを残したレゲエ・ソングですけど、案の定一筋縄では行かない変態レゲエになってしまうのが如何にもBANDWAGONらしいですよね。全然夏らしくないし(笑)。
──前作でTHE CLASHの「Rock The Casbah」をカヴァーして、アナログ7インチとして発表して以降、BANDWAGONの中で“フロア対応”という言葉が意外とキーワードなのかなと思うんですが。
ナベカワ:確かに、そういうのを考えながら曲を作るようになりましたね。自分の葛藤とか内なるものを表現したいというよりは、みんなで楽しめるものを作りたいと思うんです。そこでオナニーで終わってしまうのがイヤなんですよ。最近思うのは、もっともっと音楽を楽しみたいな、と。昔のパンクの本を読むと、イギリスと日本ではパンクが生まれた土壌が全く違いますよね。'70年代後半のイギリスは失業率が凄く高くて、その中で溜まったものを発散するための音楽がパンクだったわけです。そういう土壌が日本にはないぶん、今の恵まれた日本で生きている僕らなりの音楽の楽しみ方を考えるようになったんですよ。曲を作ってる時も、それがリミックスされた時のこととかをどこかで考えたりするんですよね。核となるリフがあったら、リミックスしやすいようにここには何小節必要かな、とか。それに走りすぎるとロック的な醍醐味を失ってしまう時もあるから、そこはバランスを意識しながらですけど。僕達の音楽を通じて、感情を含めた上での肉感的な発散を求めているというか。泣きながら踊らせたいんですよ。
──3曲目の「It's No Good」は、'02年に完全自主制作で発表された『the archive ep.』収録の「It's good thing」をリアレンジされたものですが、これは愛着のある埋もれた楽曲にもう一度スポットを当てたいという気持ちから?
ナベカワ:そうですね。最初は「It's good thing」を録り直したいっていう僕のゴリ押しで、今のエンジニアさんに録ってもらえれば凄く良くなるんじゃないかという確信もあって。あと、ポップであることが凄く大事だと思うようになって、ポップなイメージのあるあの曲をまたやってみたい、と。
──原曲との違いはどんな部分なんでしょう?
ナベカワ:技術的なことを言うと、原曲はキーがひとつだったのが、今回は転調が2回ないし3回はあるんです。パート、パートでどんどん変わっていくんですね。キーも変われば曲の表情も変わるので、その変化を楽しんでもらえたらな、と。リアレンジする時に一番気にするのはO?、元々の古いヴァージョンが入ってる音源を買ってくれた人達のことなんです。その人達が「曲が足りないから入れやがったんだな」って思ったとしたら、このリアレンジで驚かせたいんですよね。もっとも、『the archive ep.』は当時1,000枚しか出してないから、原曲を知ってる人なんてほとんどいないよ、って話なんですけど(笑)。
──「It's good thing」から「It's No Good」にタイトルが変わっているのも洒落が効いてますね。
ナベカワ:ええ。それもオリジナルを買ってくれた人達に対するジョークというか。
──このリアレンジ・ヴァージョンには、自分達の原点に立ち返るという意味合いもありましたか?
ナベカワ:そうですね。自分達のルーツを見つめ直すことを恥ずかしいことにしたくなかった、っていうか。一連の流れでずっとここまで来てるわけだから、そこは自信を持ってやりたかったんです。
「安住するんじゃねぇぞ!」という感覚
──BANDWAGON以前にやっていたOATMEALのコンパイル盤『THE CHRONICLE 1994-1999』が去年発表されたのも、ナベカワさんが自らのルーツを見つめ直すことに向き合えたからだと言えませんか?
ナベカワ:そうでしょうね。自分が30歳になったことがターニング・ポイントだったと思うんです。それまでは自分のやってきたことが気恥ずかしかったりもしたんですけど、30を越えた辺りからそれを含めての自分なんだと思うようになって。恥ずかしい過去を隠しちゃうこと自体がすでに恰好悪いな、と。自分達はパンクが好きだし、いわゆるメロコアと呼ばれるものもやってきて今がある、っていうのをちゃんと出したかった。守るものなんか別にないんじゃないかな? っていうか。どんどんルーツに戻ってる感じはありますね。その戻ってる過程にもいろんなものを吸収していますけど、人のリビドーを刺激する芯の部分は結局戻っちゃってるのかな、と。でも、それが最近凄く心地良くて。
──あのコンパイル盤は、OATMEALの音楽が今も鮮度を全く失っていないことを実証していますよね。
ナベカワ:まぁ、後半から段々と尾崎豊の中期〜後期ばりにカオティックになっていきますけどね(笑)。
──ははは。だけど初期のOATMEALの楽曲はどれもシンプルで美しくて、とにかく瑞々しい。
ナベカワ:そうですねぇ。ホントに「十七歳の地図」みたいですよね(笑)。
──(笑)シングルの話題に戻りまして。ボーナス・トラックとしてディスコ・ダブ系のDJとして絶大な人気を誇るALTZによる「The Eternal Allergy」のリミックスが収録されていて、ここでもBANDWAGONのフロア対応化がビルドアップされていますが。
ナベカワ:前に「Rock The Casbah」のリミックスをしてくれたL?K?Oと同じく、ALTZ氏も同じレーベルメイトで個人的にも好きなんですよ。自分達がイジられることが単純に楽しいんですよね。こちらはちゃんとやることはやっているので、その上で存分に遊んでほしいんです。自分達の世界観を壊されたくないなんて思いはさらさらなくて、むしろどんどん犯してくれ! っていう。基本的に僕らはMっ気たっぷりなんで(笑)。バンドはある程度フォーマットが限られているし、誰にだってできるものだと僕は思ってるんですけど、DJの人は何から何まで全部一人でやるじゃないですか? だから凄い才能を感じるんですよ。彼らはクレヴァーだからライヴもすべて計算づくで、盛り上げるところは絶対に外さないんだけど、それが頭でっかちにならずにちゃんと肉感的になってるのがまた凄いですよね。
──今回のシングルは、今秋リリースされるフル・アルバムのパイロット的役割を果たすものですか?
ナベカワ:次に出すアルバムは、凄くロックなものにしたいと思ってるんですよ。これまで自分達のレンジを広げてやってきたつもりでいて、今度のはそれをさらに広げるよりも、そこで一旦自分達の芯を出そう、と。ジャンルの括り云々ではなく、自分達はまず何よりもロック・バンドなんだっていうところを見直したくて。それにあたって、このシングルで自分達のレンジを一回総括しようと考えたんですね。だから今回は全く表情の違う3曲とリミックス1曲を入れることにしたんです。今まで自分が聴いてきたシングルの、遊び心に溢れたB面みたいな感じを出したかったんですよ。
──『New Music Machine Extended Play!!!』を発表した時も、「“パンクの7インチ感”を目指した」と仰ってましたよね。
ナベカワ:そうですね。だからこのシングルと次のアルバムがセットではなくて、この前のミニ・アルバムをギュッと詰め込んだのが今回のシングルなのかなと思います。1曲目の「The Eternal Allergy」でロックな自分達をまず出そう、と。2曲目の「What Went Wrong!!!」では変態っぽさを、3曲目の「It's No Good」でポップさをそれぞれ出して、4曲目の「The Eternal Allergy」のリミックスではロック以外で自分達の好きなテイストを入れてみたかったんですよ。次のアルバムはもっとnメ肉感的なものにしたいんです。それは、歳を取っていく自分自身に対するアンチテーゼでもあると思うんですよね。20代で作った曲は、20代の頃よりも荒々しく演奏したいんですよ。テクニックのこととかは一切考えずに。
──エモ、ポストロック、ニューウェイヴと、BANDWAGONの音楽を形容する時に様々なジャンルの呼称をされますけど、今はそのどの要素も貪欲に呑み込んでいるし、軽やかに飛び越えているとも言えると思うんです。
ナベカワ:そのジャンルに括られた時のメリットもあるし、デメリットもあると思うんですけど、その両方を踏まえた上で何かに囲われた時には「ふざけんな!」って思ってしまう自分がいて。その「ふざけんな!」は自分自身に向けられていて、つまり「安住するんじゃねぇぞ!」っていう感覚なんですよ。そこで居心地が良くなるとイヤになるというか、違和感を覚えてしまうんです。
──その違和感は生来の反骨精神から生まれるんでしょうか?
ナベカワ:何ですかね。やっぱりCLASHが好きだからじゃないですか? 「変わんなきゃダメだ!」っていう。何か新しいことをやるというよりも、ひとつのところにいちゃダメだ、っていうジレンマがあるんですよね。僕らが好きな考え方としてのパンクというのは、結局“道”なんじゃないかとこの頃思うんですよ。剣道や柔道、書道や華道とかと同じ“道”としてのパンクなのかな、と。自分達のことは責任を持ってやるとか。破滅志向も好きですけど、それよりはもっとあがいて“道”を探してる感じですかね。BANDWAGONとしてそれが今のところ成功しているのか失敗しているのかは判らないですけど、自分達でちゃんとケツは拭いてきている自信はありますね。ひとつひとつ納得しながら前に向かってる手応えもあります。次のアルバムはその“道”を模索しながら一本芯の通ったものにしたいですね。