キーボード導入により再構築されたバンドの在り方
──本題に入る前に、サポート・メンバーとしてキーボード&コーラス(YOSSY)を入れた経緯を改めて訊かせて下さい。もうどれくらいになりますか?
SHITTY(b, cho):去年のワンマンの時(S.O.I.D TOUR FINAL/11月12日、渋谷CYCLONE)からだから、もう半年になりますね。
MORO(g, cho):この4人だけでずっとやってきたんですけど、徐々にピアノだとかピコピコ鳴った音をバンド・サウンドに採り入れたいと思うようになったんです。実際、『I.D.[Illustrators' Decoration]』の時はそんな音を少しだけプロデューサーの佐久間(正英)さんに入れてもらったんですけど、自分の中でそれが少しずつバンド・サウンドの理想形に近づいてきたんですよね。初めはストリングスやピアノだけでバラードみたいな曲をちょこっとやる程度のつもりだったのに。まぁ、僕が元々ピコピコ系というか、キーボードの入った音楽が好きだったというのが理由としては一番大きいと思いますね。
──実際にキーボードが入って、やはり手応えは大きかったですか?
MORO:曲の作り方自体が変わってきたし、バンドとしてやれることがグッと増えたぶん、逆にそれで悩むことも最初は正直ありましたけどね。各楽器にとっては試練だったと思いますよ。楽器の音が多くなっただけ押し引きの問題もあるし、周りが引いている中で音を押してるヤツは、ちゃんと責任を持って鳴らさないと成り立たなくなりますから。
──バンドとしての自由度が増えたぶん、取り組む難易度もまた増したわけですね。
MORO:そうですね。各メンバーの責任感が今まで以上に増しましたね。SOTAもギターを弾かないパートが多くなったことで歌に専念するようになって、ヴォーカリストとしての芯がより強く、太くなったと思うし。
SOTA(vo, g):4人だけでやっていた時はギターを弾きながら唄うのが当たり前で、キーボードが入って僕がギターを弾かないで唄うスタイルに最初は凄く悩んだんですよ。この手持ちぶさた感、どうしてくれようか? と(笑)。その時に、ギターを持たないで唄うバンドを色々とビデオとかで観て自分なりに研究して、ヴォーカリズムを大事にしてさえいればギターを持たなくても別に違和感はないんだな、ってやっと理解できたんですよね。トライアルに近いとは最初思ってたんですけど、歌に集中する時間が増えたぶん、どういうふうに魅せるかをちゃんと考えるようになりましたね。昔はただ漠然と顔だけで唄っていたというか、今はたとえば手の動きを絡めることで歌にどう響いてくるかとか、そんなことにまで気を留めるようになったんですよ。歌のもっと奥の部分にまで潜れるようになったのが一番の変化ですね。
──昨年11月に発表したシングル『One minute SNOW』を発表して以降、バンドの在り方自体が根底から大きく変化したということですね。
MORO:ええ。『One minute SNOW』までの曲作りはキーボード主体ではなく、作った曲にスパイスとしてキーボードを入れる感覚でやっていたんです。そこから一度すべての曲を洗い直してみた、というか。これまでの曲にただキーボードを重ねてみただけなら、単に音の潰し合いにしかなりませんからね。だから各パートの比重を見直して、キーボードとギターのバランスを取ってみたり、SOTAがギターを弾かずに歌に徹したりしてみたんです。全員が弾いた時にリズム隊がもっとしっかりしないとダメだとも思ったし。
──とリーダーが仰っていますが、ボトムを支えるリズム隊お2人としては?
SHITTY:今回のミニ・アルバムで言えば「On SHOWTIME」とかにはキーボードが曲作りから参加していて、楽曲の一部としてキーボードが加わった初めての曲で。全部の楽器がせめぎ合ってる曲だし、シビアだけどシビアなところでしか出せない新しい領域に行けたと思ってますね。それはライヴでもレコーディングでも感じてます。
TETSUYA(ds, cho):単純に自分が支えるべきパートがもうひとつ増えて、最初は確かに戸惑いもありましたよね。他の楽器を邪魔しちゃいけないっていうのはもちろんあるんですけど、自分の仕事はあくまで支えることなんだということがより明確になったと思いますね。余り細かいことをやってしまうと、グチャッと崩れちゃうんですよ。単純なようでいて凄く難しいんです。
変態的な要素を織り交ぜつつ如何に判りやすく伝えるか
──今回のミニ・アルバム『オレマニア』は、1曲目の「On SHOWTIME」からアーチン・サウンドの余りの突然変異っぷりにまず度肝を抜かれますね。
MORO:この「On SHOWTIME」を作った時には、ネッチョリとしてベッタリとしたインパクトが凄く強かったし、僕達の言葉で言うと“エモい”っていうか、なんて言うのかなぁ…ネチョッとした熱帯夜みたいなアルバムのスタートにしたかったんですよ。バンドとしての真新しい曲で幕を開けたかったというよりも、凄くいい曲が出来たと思ってるし、それをアルバムのトップに持ってきて「聴いてよ!」っていう、極々自然な感じなんですよね。
──ひねくれるにも程がある極めて変態度の高い曲ですが(笑)、アーチン一流のポップ・センスがちゃんと貫かれているのは流石だな、と思いましたが。
MORO:僕達の根底にあるのは、まずメロディが良くて、自分達が気に入っているテイストであればそれでヨシ! っていう感覚なんです。みんないろんなジャンルの音楽が好きですし。その曲がイヤイヤ作ったものでなければ、自分達が作った作品として堂々と胸を張れますしね。仮にバラードを作ろうというのであれば、至極のバラードを作らないとダメだと思ってるし、変態度が高くてオリジナリティに溢れた曲を作ろうと思ったら、ポップでキャッチーな曲が作れるという自分達の強みがあるぶん、そこに変態的な要素を織り交ぜつつも如何に恰好いいものに仕上げて判りやすく伝えるか、ということに対して一切の妥協はしないんです。基本的に何でもアリだと思ってるんですよ。
SOTA:まぁ確かに、「On SHOWTIME」は「これ、ホントにアーチンですか!?」って言われることが多い曲ではありますね(笑)。
──でも、“ミニモニ”という仮タイトルから「Me Need More Need」を作ったりする遊び心や、「ARKANOID」のような実験的なナンバーを生み出す意欲的なところも『I.D.[Illustrators' Decoration]』の頃からすでにあったわけで、「On SHOWTIME」みたいな曲がいつ生まれてもおかしくはなかったですよね。
MORO:そうなんですよ。僕達の中に元々あったヘンな部分をどこまで振り切れるかが今回の課題だったんです。ただ、それも自慰的なものにはしたくなかった。ポップでキャッチーな音楽がやっぱり好きだから、自分達だけにしか判らない音楽をやるのは恰好悪いよな、と思っていて。そんなメンタリティの中で、どこまで自分達にしか出せないオリジナリティを封じ込めるかに挑戦したというか。ここまで行ったら誰も付いて来れなくなるけど、それをちょっと下回るくらいまでなら自分達の我を出しても受け入れてくれるかな? みたいな。
──そう、だから新機軸を打ち出しても聴き手を突き放すことは決してしていないし、アーチン独自のポップさ、大衆性の高さはこれまで通り見事に保たれているんですよね。アルバムの最後を飾る「Sympathy」は従来のアーチン節炸裂の大名曲だと思うし。
MORO:ええ。「On SHOWTIME」のサビも、聴いてもらえればヘンでも何でもないと思うし、仰る通り「Sympathy」のような大直球ナンバーも今度のミニには入ってますからね。
──プロデューサーの佐久間正英さんは、テクノ・ポップを反映させた先鋭的なサウンドで名を馳せたPLASTICSのメンバーでもあったし、「On SHOWTIME」のような曲を共に練り上げるにはまさに適任だったんじゃないですか?
MORO:そうなんです。でも、だからこそ逆にキツかったんですよ(笑)。佐久間さんなら勝手も知ってそうだし、僕達としては早くレコーディングが済むだろうって甘く考えてたんですけど、音へのこだわりが凄く強くて。熱く語ることはないんですけど、「ここ、どうなの?」とか「これじゃヘンなノリは出せてないよ」って後からジワジワと来るんですよ(笑)。だから、「On SHOWTIME」は音質を決めるのに凄く時間が掛かったんですよね。今回は佐久間さんではなくYOSSYがキーボードを全編弾いてくれたという中で、結構佐久間さんが投げっぱなしだった感じもあるんです。「こんな感じにしたくて、でも抜けが悪いんですけどどうしたらいいですか?」って訊くと、その都度的確にアドバイスはしてくれましたけど、基本的にバンドを尊重して、サポート側に回ってくれた部分が多かったですね。
──1stシングルの『MONOchrome』、1stフル・アルバムの『I.D.[Illustrators' Decoration]』、2ndシングルの『One minute SNOW』、そして今回の2ndミニ・アルバム『オレマニア』と、佐久間さんとタッグを組むのもかれこれ4作目、やり取りも阿吽の呼吸でしょうし。
MORO:まぁ、「オマエらなぁ……」って叱られてばっかりですけどね(苦笑)。佐久間さんの仕事は凄く緻密だし、日本でトップクラスのサウンド・メイキングをする方だから、こっちの実力がそれなりに伴ってこないと最高の音は絶対に作れないんですよ。4作ずっと佐久間さんと一緒にやってきて、確かに以前に比べてテクニックや知識は格段に増してると思いますけど、佐久間さんが求めるサウンドを出すのはやっぱりなかなか難しいんです。僕達が理想としているサウンドが最高のものだと思われてないっていう部分もあるのかもしれないけど、そのヘンな感じのぶつかり合いが凄く刺激になっているんですよね。とにかく、毎回ヒーヒー言いながらやってますよ(笑)。
──『オレマニア』の収録曲を最初に佐久間さんに聴かせた時の反応はどうでしたか?
MORO:「MONOchrome」とか、シングルとして切る曲に対しては「聴きやすくしなければいけない」っていつも言われますけど、基本的に“ザ・バンド!”みたいなメンバー全員で作り込む曲に関しては結構こっちにお任せなんですよね。「On SHOWTIME」の場合も最初はそんな感じで。ただ、録りがうまく行くにつれて佐久間さんの注文がどんどん増えていったりして。それはやっぱり、いいものが出来上がってる空気と手応えが佐久間さんの中にあったからこそですよね。
──「On SHOWTIME」は特に、音を如何に詰め込むかよりも引き算のバランスが難しい曲ですよね。
MORO:そうですね。音の要素は選びに選んで作りましたからね。「この部分は要らないよね?」って話もみんなで徹底的にしたし。ホントに苦労した曲なんですよ。リズム録りも凄くキツかったし…。
TETSUYA:もう、毎晩泣いてましたね(笑)。
SHITTY:毎晩失禁してましたしね(笑)。
全員でどう伝えるかを考え抜いた歌詞のアプローチの変化
──『オレマニア』のレコーディングには、今回収録された5曲で最初から臨んだんですか?
MORO:そうですね。候補曲は割と決め打ちに近かったですよ。やっぱり僕の中では「On SHOWTIME」をすべての基準に置いていたので、曲作りの段階からピコピコしていてポップな曲主体で行こうと考えてましたね。アレンジを固める前にはもう「On SHOWTIME」っていう曲はあったので、これを軸にアレンジや音作りを寄せていく作り方をしたんです。
──曲作りは、まず第一にキーボードありきの発想ですよね。
MORO:ええ。そこからすべて作っていく感じです。“キーボードのリードがここに入る、そこには入らない”っていうところまで考えた上でネタを作ったりして。半年前と今とでは、キーボードに対する考え方が大きく変わってるんですよ。初めのうちは、エアーを良くするために部分的に凄く頼っていたんですけど、今はそれをひとつの武器として考えてるというか、キーボードも含めて如何に気持ちいいエアーを出せるかが課題なんです。だから曲作り自体がまるっきり変わりましたよね。
──ただ、今作からキーボードが全面に押し出されてはいても、最終的にはひとつの“いい歌”を作るところに集約されるのがアーチンらしい不変的な部分だと思うんですよね。
MORO:キーボードの導入はあくまで歌を大事にした上でのことだし、そこはずっとこだわってやってますからね。ただ、何だか得体の知れない勢い、パワーっていうのがバンドにとっては絶対に大事だと思うんですよ。バンドを始めた当初は今よりもっと音作りのことなんて判らないし、むしろグッチャグチャなんだけど、闇雲なパワーがそこから発せられていて、そこが凄く恰好良かったりするじゃないですか? だから僕達は今回、そんな洗練されていない恰好良さを体現したかったんですよね。洗練されたつまらなさよりも。キーボードとギターが衝突しちゃってるところも今回は面白くできたと自分達としては思ってるので。
──味付けとしてのキーボードという意味では、個人的には2曲目の「CROSS OVER」が絶妙なサジ加減だと感じましたが。
MORO:ああ、なるほど。ピアノをちょっと歪ませた感じで、アタック楽器的役割というか。ギターでやんちゃさや明るい部分を敢えて出さないパートを作って、キーボードで騒音さを出したかったんですね。僕としてはギターとピアノっていう、ジャンルで言えばロックとクラシックの相反する狭間で自分達がやれることをアレンジ的に最大限までやってみたかったんです。
──しかもこの「CROSS OVER」、MOROさんが初めて作詞に取り組んだ記念すべき曲ですね。
MORO:そうなんです。初作詞だったんですよ。
SOTA:バンドとしての歌詞のアプローチが変わったんですよね。『I.D.[Illustrators' Decoration]』の時は、僕が歌詞をダーッと書いてみんなに見せて「いいんじゃない?」みたいな感じで、歌詞の内容にこだわってなかったわけではないんですけど、僕以外の3人はどちらかと言えばサウンド面を優先していたんです。それが今回からは、曲全体で見てどう届けていけばいいのかということを重視するようになったんですね。僕の書く歌詞に対して3人が凄くよく意見をくれるようにもなって。「CROSS OVER」も最初はいつも通り僕が詞を書いていたんですけど、なかなかうまく馴染まなくて、そんな時にMOROが「こんなのはどう?」と逆に提示をしてくれたんです。じゃあそのパターンで一回やってみようか、っていうことになりまして。
──『I.D.[Illustrators' Decoration]』でも、「Me Need More Need」と「Knight」をSHITTYさんが、「BACK BORN」をTETSUYAさんがそれぞれ作詞を担当されていましたよね。
SOTA:そうですね。僕だけが作詞をするなんてルールも別になかったですし、MOROという作曲者の書く歌詞が一体どんなものなのか興味があったから、凄く新鮮でしたよね。実際、面白い感じに仕上がっていると思うし。
──「On SHOWTIME」「CROSS OVER」「C.E.K.G.」の3曲は、独特な言葉遣いの面白さが顕著ですね。
MORO:「On SHOWTIME」はSHITTYが書いてるんです。結構お得意路線になりつつあるんですけど。
──一見、意味がないようであるような、でもやっぱりないような掴み所のなさというか(笑)。
MORO:そうそう(笑)。そんなよく判らない感じがまた良くて。ちゃんとしたSHITTY節なんですよね。
SHITTY:書くのに凄く苦労しましたけど、決して僕一人の力じゃないですね。曲のテーマから始まって「こういうことが言いたい」っていう細部に至るまでバンド内でよく話し合って、MOROの家に行って2人でああでもない、こうでもないと言いながら書き進めて。最後はリポDとか飲んで死にそうになりながら徹夜して何とか完成させたんですけど、そういう訳の判らないトランス状態が少なからず歌詞にも反映されてるんじゃないですかね?(笑)
MORO:今回はそうやって歌詞もみんなで意見を出し合うところがあったぶん、ライヴでも表現の説得力が全然違ってきましたね。今まではSOTAが書いてきた歌詞に対して共感できたり、時にはできなかったりした部分も人間だから確かにあったんですけど、最近はそれが全くなくなってきたんです。今回は、「この曲はこういうコンセプトだから、こんなふうに思ってもらえるようにしよう」とか逐一話し合いつつ理解した上でメンバー全員で考えたし、ライヴでそんな曲をやると、今まで感じたことのない気持ちいい返り…共感されている感じがあるっていうか。
SHITTY:コール&レスポンスじゃないけどね。
MORO:そういう具体的な感じもあるし、もっと感覚的なのもあったり。バンドとしても一遍に“ここだ!”っていうところが歌詞の流れでハマってきたりもしたし、そういう部分でもちょっとずつ変わってきてると思いますね。
『オレマニア』=自分自身に対する信頼感
──「ベイリービーズ」と「Sympathy」はアーチン本来のストロング・スタイルな極上のラヴ・ソングで、まさにバンドとしての真骨頂と言えますね。
MORO:ホントはこの辺の曲が核となってアルバムを作っても自分達っぽいと思うんですけど、今回は「On SHOWTIME」という曲がまずありましたから。「ベイリービーズ」も「Sympathy」もアーチン節だと思ってるし、こういう曲はやっぱり大好きだし、音作りもこだわって妥協せずにやりましたね。SOTAも歌詞を何回もトライして、自分達が思っていることをそのままうまい感じで言ってくれてると思うし。この2曲は特に、かなり納得が行ってるんですよ。SOTAが歌詞を書いて僕達がアレンジして、曲調はメロディックで、コードも切ない感じで…やっぱりそういうのが他でもないアーチン節なんですよね。
──胸を締め付けるメロディにコーラスが“BOY'S IN LOVE”(「ベイリービーズ」)ですからねぇ。そりゃ問答無用に胸がキュンとしちゃいますよ(笑)。
SOTA:ははは。今回は作曲者の意見というのをかなり積極的に歌詞に採り入れたんですよ。前は僕がメロディから受けた印象やその日の思い付き、自分の直感をまずダイレクトに出していたんです。今回はそれをやると「違う! 俺はこういうことが今言いたいんだ!」と(笑)。各人そんなディスカッションが頻繁にあって、「ベイリービーズ」も「Sympathy」もそれぞれ5回ずつくらい書き直しましたね。練りに練ってまた練って、“これならもう大丈夫だろう!”ってところまで持っていくことができたし、自分でも凄くいい感じに仕上がったと思ってます。
──歌詞の推敲は、今までそれほどなかったんですか?
SOTA:そうですね。歌詞が完成したらみんなに確認を取って、後は自分が唄う段階で少し変えたりする程度で。『I.D.[Illustrators' Decoration]』の時はミラクルが起きた部分があって、一発OKみたいな曲もあったんです。でも今回は自分の中で余り自信がなくて、要するに歌詞の神様が降りて来なかったんですよ(笑)。だったらみんなでグニャグニャやりながらいいものを練り出していこう、と。それが最後はムニュッとうまい具合に出てきたんで、“なんだ、できるじゃん”と(笑)。今までと180度異なるアプローチで書いて、それでもまとめきれたというのが今回は凄く大きな自信に繋がったんですよね。
──殊更ミラクル待ちをしなくても、左差し、右おっつけで寄り切る自信がついた、と(笑)。
MORO:だからヘンな話、よりバンドっぽくなったっていうか。全員が全員でいろんなことに携わってバンドを突き動かしていく、みたいな。僕はそういうバンドがやりたかったんですよ。アーティスト写真で喩えると、一人だけドーンと前にいて、他のメンバーが後ろのほうで小さく佇んでいるようなバンドはイヤなんです。全員がいろんな物事に対して対等に意見し合えるバンドが自分の理想だったし、今まではそれをやろうとしても役割分担をちゃんとしないとなかなかうまく回らなかったんですよ。それが今はSHITTYやTETSUYAも歌詞を書くようにもなったし、ライヴに関しても「ここはもっとこんな表情で、大きくアクションしてみようよ」とか積極的にみんなで意見を言い合えるようになった。だから、この『オレマニア』でようやく理想とするバンド像に一歩近付けた気がしてます。
──「C.E.K.G.」っていう曲のタイトルは何の略なんですか?
SOTA:Aメロを縦読みすれば判りますよ。
──…ああ、“チョー・イー・カン・ジー”だ(笑)。
MORO:そうです(笑)。最後の「一回くぐれたら感じなくなるヤジ」も、“イー・カン・ジー”っていう隠しワードが入ってるんです。
SOTA:迷った時に、とりあえず無意味な言葉を叫んでみたら自分の世界が変わるよ、っていう曲なんですよね。
──そもそもこの『オレマニア』というタイトルにはどんな意味が込められているんですか?
MORO:ひとつには、単純に言葉の響きの良さですね。ちょっと違う意味で言うとナルシストというか、“自分がいいと思ってるモノなら何でもいいでしょ!?”っていう自信。僕のイメージでは、自分自身に対する信頼感、というか。『オレマニア』を作っていた頃、自分の中でああでもない、こうでもないと、いろんな面でゴチャゴチャゴチャゴチャしてたんですよ。一本筋がバーンと通ってない気持ち悪さもあった。そこをなんで乗り越えられたのかなと今考えてみると、自分がいいと思うモノに対して胸を張って「いいでしょ!?」と思えるところに筋が一本クッキリと通っていたんですよね。そこが自分の中では『オレマニア』っていう感じなんですよ。
──タイトル同様、非常にインパクトの強いジャケットは、群馬発の音楽情報フリーペーパー『CoLoR』の表紙イラストでも知られるBiondy Chopperさんの手によるものですね。
MORO:ええ。元々『CoLoR』の表紙が個人的に凄く好きで、イヴェントを通じてChopperさんと知り合いになったんですよ。今までのジャケに使ってきたイラストはちょっとファンシーで可愛らしいところがあったんですけど、今回は「On SHOWTIME」という曲のイメージに合うような、ちょっとベットリとしたテイストのイラストがいいなと思って。
──ちょっと毒のある感じ?
MORO:そうですね。そういうポイズン的なものが良かった(笑)。
──まぁしかし、『I.D.[Illustrators' Decoration]』といい、この『オレマニア』といい、自分達をイラストにして登場させるのがつくづく好きなバンドですよね(笑)。
MORO:ははは。なんせ『オレマニア』ですから(笑)。
最終的にはギュッと“歌”に集約されていく
──こうしたアートワークひとつを取って見ても、バンドの著しい変化を感じさせますね。
MORO:これまでリリースしてきたアルバムの流れも大切にはするんですけど、その作品ごとに凄いこだわりがあったりするから、「このアルバムのこの曲だったらこれだろ!?」みたいなところでアートワークの方向性をその都度決めてるんですよ。次にまたこのテイストで行くかどうかまだ全然決めてないし、次の作品で自分達がどういう感じかってところで決めるでしょうしね。ただ、今度のジャケットに対しても凄く愛着があるんですよ。
SOTA:毒のあるポップ感っていうか。
MORO:そうだね、ホント。言うなれば“ポイズン・ポップ”かな(笑)。
SHITTY:略して“P.P.”ですかね(笑)。
──ははは。でも、そもそもURCHIN FARMの音楽性自体が凄く中毒性の高いものですよね。一見敷居が低くて親しみやすいんだけど、実は凄まじい猛毒を孕んでいるというか。
MORO:そうですね。自分達では猛毒バンドだと思ってますよ(笑)。ただ、今まではそれが喰らってみて初めて毒だと判るようなやり方だったんですけど、今は完全に「これ、猛毒ですから!」ってあらかじめ提示してるようなやり方に変わってきたと思ってるんです。
──グリコ・森永事件の「どくいり きけん たべたら しぬで」的な? …って古いか(笑)。
MORO:ははは。でも、そんな感じですよ。「冗談だろ?」と思って飲んでみたらホントに毒だった、っていうくらいの猛毒を発してると思ってます。この『オレマニア』をきっかけとしてバンドがまた変わって、僕達の中で作品の影響力も凄く大きくて。最初は「On SHOWTIME」という曲に対して“判りづらい”っていうイメージが自分達の中でも正直あったし、だから“ちょっとマニアックなんだよ”とか“判りづらいんだよ”っていうアプローチでライヴにも臨んでいたんですよ。でも、それだとやっぱりお客さんとの距離感が生じてしまって、それは違うな、と思って。「判りづらいだろうけど凄くいいんだから、これが理解できないヤツは置いていくよ」みたいに独善に陥るのではなく、正面から判り合ってコミュニケーションしていくのがバンド本来のコンセプトだったはずなんです。「これ、実はウンとポップな曲なんだよ!」とか「楽しい曲だからみんなで盛り上がろうよ!」とか、そういうライヴにしていこうよ、っていう話をみんなでして、アクションやアプローチの仕方だったりを考え直して改めてライヴに臨んだら、全ッ然お客さんの反応が変わってきたんですよね。
──あからさまに良くなってきたわけですね。
MORO:ええ。今までのライヴは内に篭るものだったと思うんです。自分達の曲をただ演奏することでコミュニケーションは成立すると傲慢にも思ってたし、ライヴってそういうもんじゃないよな、と考え始めたんですよね。そこから他の曲も練り直してみたり、繋ぎのリズムで手拍子して煽ってみたら反応が全然変わってきて、自ずとライヴのスタイルまで変わってきた。それが自分達にとっても凄く面白く思えてきたんですね。SOTAがボディ・アクションとかで煽ってみたりすれば、やったぶんだけ跳ね返りがちゃんとある。今までのアーチンを“静”か“動”かで言えば、“静の中の動”みたいな感じだったと思うんですよ。それが今は、ステージ上でガーッと激しく迸っているものが外側に向かって“動”になれている手応えがあるんです。だから最近、ライヴがもの凄く楽しいんですよね。
──SOTAさんは今年に入ってからソロでアコースティック・ライヴを精力的に敢行していて、歌と向き合う行為がより濃密になってきたんじゃないですか?
SOTA:そうですね。有り難いことにいつもメンバーがみんな観に来てくれて、毎回ハンパないダメ出しをしてくれますしね(笑)。自分の中の評価と対外的なそれとはやっぱり開きがあるし、それは徐々に埋めていけばいいと思って。バンドのほうが少しずつギターを弾かなくなるっていうアプローチで、ソロの場合はあくまで歌を主軸に置きつつも、ギター一本でどこまで何ができるのか、っていうのが自分の中で課題なんです。弾き語りライヴを何度も重ねて思ったのは、何をやろうと最終的にはやっぱり“歌”というものにギュッと集約されるってことですね。いい歌を伝えるという意味では、ソロもバンドも何ら変わることはないんだな、って。
──SOTAさんのソロ・ライヴを観ていつも思うのは、アコースティック・スタイルだとURCHIN FARMの楽曲の核が剥き出しになって、どの曲も凄まじくポップでスタンダード性の高いものばかりだということなんです。
SOTA:ええ。一人で練習してる時に“なんていい曲なんだろう”って自分でも改めてよく思うんですよ。ソロ・ライヴをやることによってそういうことも再確認できたし、メンバーからは自分がどう見えているのかもよく判ったし、いろんなことが明確になってきましたね。単に歌がうまいだけのお兄ちゃんっていうのは卒業して、ちゃんと伝わっていく歌を唄うという自分の目指すべきヴィジョンもはっきりしてきたし。
リスナーをグチャグチャにしながら耳を肥えさせるバンドになりたい
──そう考えると、1stミニ・アルバムの『RainbowL』(後に『RainbowL+1』として再リリース)から3年、急激なスピードでバンドが進化しているのを感じますね。
MORO:僕達としては、スピード感みたいなものは余り感じてないんですよね。かなり自由にやっているし、やらせてもらえる状況をレーベルに作ってもらってもいるし。とにかく、この『オレマニア』が自分達にとって相当大きなきっかけではあるんですよ、何もかもに対して。
──後々、URCHIN FARMの軌跡を振り返った時に大きな分岐点となる作品でしょうね。
MORO:そうですね。ライヴも変わったし、音作りも曲作りも変わったし…。
──ヴィジュアル的にも変わったし、今度のMOROさんの個人ショットはちょっとジャパメタなテイストもあり(笑)。
MORO:ははは。自分ではあの写真、結構気に入ってるんですけどね(笑)。
──URCHIN FARMは今後も、大衆性と前衛性のせめぎ合いギリギリのところで極上のメロディを紡ぎ出す姿勢に変わりはありませんか?
MORO:その大前提は踏まえつつ、これからはもっと切り口を鋭くしていこうかな、と思ってるんですよ。今までは間口を狭めることなく幅広くやってきて、『オレマニア』で最強に幅広いレンジ感を出すことができたし、「いろんなことができるんだぜ!」っていうのは聴いた人なら判ってくれると思うんです。でも、そこをもっと直球勝負で、レンジをギュッと狭めて「Sympathy」や「ベイリービーズ」みたいな曲やバラード、SOTAがやってる弾き語りスタイルの曲まで含めて、本気で聴く人の心を突き刺すような感じの曲を作りたいんです。
──でもそれは、『I.D.[Illustrators' Decoration]』発表の時点ですでに完成型を見たんじゃないですか?
MORO:いや、それも僕達の中ではある程度の迷いがあるんですよ。バラードはバラードでも、自分達が持たれているイメージの延長線上にあるバラードだった、っていうか。『オレマニア』でここまでレンジの広い部分を出し切れたからこそ、「自分達のバラードってまだまだこんなもんじゃないだろ!?」っていう意識が凄く強くなって、感覚的に全然変わってきちゃったんですよ。ライヴで「On SHOWTIME」みたいな曲をやった後に極上のバラードをやったとしても、そこに何かしらの共通点を見出せるようなバンドになりたいんです。いわゆる普通のバラードを今の僕達がやったとしても、他の曲とは恐らく噛み合わないんですよ。だからこそ、僕達なりのバラードを奏でることで整合性を持たせたいんです。
──そういう話を聞くと、悪い意味ではなく懐が深いバンドゆえの苦悶みたいなものを感じますが。
MORO:でも、だからこそ自分達なりのバラードを作ろうと思うし、メロディに対しては絶対的な自信があるから、どうとでもできると思ってるんですよ。
──URCHIN FARMの場合、ビートルズの“ホワイト・アルバム”みたいにありとあらゆるタイプの楽曲をこれでもか! とばかりに詰め込んだ、オモチャ箱をひっくり返したような2枚組大作を出せたらいいのかもしれないですね。
MORO:そうですねぇ。ビートルズみたいになりたいんですよ、ホントに。リスナーをグチャグチャにして、でもちゃんとリスナーの耳を肥えさせるバンド、っていうか。訳判んないことやってるんだけど、よくよく聴いてみたら「良くねェ?」っていう。そんなバンドになりたいですね。
It's SHOWTIME!! ──music clip special review──
『On SHOWTIME』ミュージック・クリップ誌上レビュー
バンドの新章を的確に捉え、鮮やかに映像化した異色傑作!
表テーマは“真剣にバカをやる”、裏テーマは“人力”
──『オレマニア』の収録曲の中からPVを作るなら、やはり「On SHOWTIME」以外には考えられないですよね。
MORO:そうですね。もう絶対にこれしかないだろう、と。
──廃墟のようなこの撮影場所は?
SOTA:芝浦工業大学の取り壊しが決まってたビルです。撮影当日の朝には電気が止まると宣告されまして(笑)。
MORO:撮影してる間にも「ぼちぼち電気止まるよ!」って工事のオジサンが入ってきたりして。実際、電気が止まったんですよ(笑)。だから真っ暗闇の中で自家発電して、その場を何とか凌いだんです。
──URCHIN FARMのPVはどれも遊び心に溢れていてユニークな作品が多いですが、本作は群を抜いて見応えのある作品に仕上がってますね。
SHITTY:いつも以上に凝りに凝りまくってますよねぇ。自信作ですね。
MORO:最近はCGの技術が発達して、映像テクニックとしては何でもできるじゃないですか? だから今回のテーマとしては“敢えて人力でどこまでできるか?”だったんですよ。カメラがスライドしてSOTAの後ろに見える部屋が次々と様変わりしていくシーンも、僕達はわざわざ隣の部屋に駆け込んで静止のポーズを取ったりしてますから(笑)。そういうところで現場のテンションがガンガン上がってきて、「やっぱり人間の力だろう! CGになんか負けねぇぞ!」なんて盛り上がってましたね(笑)。
──随所に登場する、闇雲に踊り狂う謎の美女の正体は?
MORO:ダンサーの方で、社長(BEATSORECORDS主宰/土屋 浩)の推薦なんです。
──恐らく本編とは一切関係がないと思われる、男女のまぐわいを連想させる不適切なシーンまでありますが(笑)。
MORO:そうですね。“金持ちの娯楽”があのシーンの主題で、ポイントは“ただエロい”っていう(笑)。別に女性には何もしてもらってないんだけど、目隠しをして妄想に耽るっていう……よく判らないですけど(笑)。まぁ、あのシーンだけは現場のアガり散らしっぷりがハンパなかったですね(笑)。
SOTA:関係のない人までウロウロしてたよね。現場の笑顔が絶えない感じで(笑)。
MORO:僕達も、心なしか3割増しでオトコマエな顔をしてスタンバイしたり(笑)。
──もう一人、謎の美女と共に踊り続ける髭面の男性が登場しますね。
SOTA:彼はゴディヴァ谷中と言いまして、MAZRI(音楽映像の企画制作会社)のプロデューサーなんです。
MORO:「この役にはキミしかいない!」と彼を口説き落としまして。
──ゴディヴァ谷中氏のどこにそこまで惹かれたんですか?(笑)
MORO:目ですよ、目! どことなくあの目が爬虫類っぽくて、アブナイ感じがするじゃないですか?(笑) 「On SHOWTIME」の曲自体が持つ粘着質みたいな部分が谷中さんのイメージとドンピシャだと思ったんで。
──ダンサーと相反するかのように、皆さんのプレイは直立不動で無機質な印象を与えますね。
MORO:ワイワイ暴れてるだけでも違うかな、と。歌詞の中でロボットやマネキンみたいになるなって言ってるんですけど、そう言ってる奴らがロボットやマネキンみたいになってるという、よく判らない感じにしたかったんです(笑)。
──ミイラ獲りがミイラになってしまう感じ?
MORO:そうそう。裏テーマが“人力”で、表テーマが“真剣にバカをやる”なんですよ。無意味だけど、本気でエロいこともやってるし(笑)。明らかに過去3作のPVとは違うし、等身大の僕達をよく捉えた仕上がりになってるので、たくさんの人に見てほしいですね。
◆「On SHOWTIME」のミュージック・クリップは、7月12日よりURCHIN FARMのオフィシャル・サイトで視聴できます!!
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