ボサノヴァ・テイストは偶然の産物
──2000年の結成以降、杉山さんが正式に加入する頃までは、ブラジリアン・テイストやソウルフルな要素もある現在の音楽性よりももう少しメロコア色が強かったですよね。
木庭真治(vo, b):そうですね。もっと重いリフが入ってたりとかして。最初は単純に、GREEN DAYみたいなメロコアをやりたいと思ってました。それをもうちょっと日本人っぽくしたような感じのものを。
──それが今のような方向性に変化していく転機は何かあったんですか?
木庭:デモの段階で、クリーントーンでカッティングを入れた曲があったんですけど、それが後々ボサノヴァだっていうことに気づいたんですよ。たまたま変わったコードの押さえ方をしていただけなんです。その後にthe band apartとかが出てきてからボサノヴァというジャンルを知るようになって、そこから徐々に3コードの歪みだけのギターに飽きてきたっていうのが正直なところですね。自分達の志向するメロディが、3コードだけでは表現しきれなくなってきたんです。ただ、未だにサンバなんだかボサノヴァの早いのなんだかを今いちよく判ってないですね、ギターとベースは特に。インチキで片づけちゃってると言うか(笑)。
──いや、インチキでこれだけ聴き心地の好いサウンドを作れるのなら、諸手を挙げてインチキ万歳! と叫びたいですけどね(笑)。
木庭:でも、今もボサノヴァとかを掘り下げて聴いているわけではないんですよ。良いメロディを追求していこうとしたら自然とこうなったんです。ただそれとは逆に、モータウンのトリビュート・アルバム(『ROCK MOTOWN』)に参加した時は、「THIS OLD HEART OF MINE (IS WEAK FOR YOU)」(オリジナルはISLEY BROTHERS)を初めからレゲエっぽくカヴァーしたかったんですよ。そうしたら、どういうわけかあり得ないくらいにダサくなってしまって(笑)。個人的には、一時期PANTERAとかメロなんてさっぱりない音楽も好きでしたし、そういうルーツが今やってるバンドの音楽とは余り繋がってませんね。モータウンは兄貴が好きだったんで自然と聴いてましたし。
杉山尊宣(ds):僕はメロだけで言えば、童謡とかが好きですし(笑)。
渡辺順一(g, cho):僕なんて最初はBUCK-TICKとかヴィジュアル系から入りましたから(笑)。
──初のフル・アルバム『GREEDY』は、基本的に去年の7月に発表したデビュー・ミニ・アルバムの世界をさらに押し広げた感じですよね。
木庭:そうですね。最初からファースト・ミニ・アルバムに曲を増やした感じにしようと思ってました。曲作りも練りに練ったというわけでもなく、半年かけて作っても2ヶ月かけて作っても、自分達の場合は余り大差ないと思ってるんです。ファースト・ミニから今回のアルバムまで、カヴァーも含めて持ち曲が全部で18曲くらいあるんですけど、曲の成り立ちはそれぞれ違いますね。自分が前々から温めてたメロがあって、それにナベさんが恰好いいイントロを持ってきてコードを合わせたりするケースもありますし、その場で自分がメロの断片を繋いでいったりもするし。
──コンガやトライアングル、シェイカー等のオーガニックな響きを奏でる楽器をアクセントとして使うのも、creamstockならではですよね。
木庭:そういった楽器を使いたいと考えるポイントも、3人ともツボは意外と一緒なんですよね。今回はそういうライヴで表現できない音に関しては、ライヴと音源はあくまで別モノだと割り切って考えたんですよ。でも3人がやってる楽器に関しては、例えばギターの重ねなんかはほぼやってないんです。同じフレーズを右と左で弾いてる歪みとかはありますけど、ライヴで2人いないとどうしても再現できないようなギターの音にはしなかったんですよね。ライヴでそういうペラペラな薄さを出したくなかったと言うか。
渡辺:確かに、実際にライヴではどう演奏するかを念頭に置いてレコーディングに臨みましたね。
杉山:ドラムに関してはライヴで再現できないことは全然やってないんで、自分のできる範囲で精一杯やっただけですね。
──とにかく何度聴いても飽きのこないアルバムですよね。バンド最大の持ち味である傑出したメロディの良さは言うまでもなく、アレンジの巧みさと1曲1曲の尺度と全体の構成力も功を奏していると思うのですが。
木庭:曲をより短くするのが今の課題なんです。今までの経験で言えば曲を長くしたほうが簡単で、幾らでも長くできるんですけど、1曲を短くシンプルにまとめて、その上で自分達が納得したものを作ろうとするのは本当に難しい。3分半を過ぎると自分達で作った曲でも長く感じますからね。今までは2マンのライヴに誘われても「持ち曲が少ないから」ってすぐに断られてたんですよ。それが去年初めて2マンをやって、持ち時間は1時間。その時は9曲演奏して、残り半分以上はずっと喋りで持たせましたね(笑)。
“いいメロでいい曲”であればそれで充分
──さだまさしのコンサートじゃないんですから(笑)。でも、このアルバムに収録されたTHE BEE GEESの「how deep is your love」みたいに、ライヴでもカヴァーをもう少し織り交ぜればちゃんと成立しそうですけどね。
木庭:後付けになるんですけど、バンドでカヴァーした「THIS OLD HEART〜」も「how deep is〜」も、どちらもラヴ・ソングなんですよね。自分ではラヴ・ソングは書けないんでバランスがいいのと、パンク調に速くカヴァーしてもメロが死ぬだけかなと思うんです。だから今回の「how deep is〜」もどうやるか結構悩んだんですよね。
──如何にも通好みなこのカヴァーを選曲したのは?
杉山:僕なんです。THE BEE GEESの…というよりは、モデルのSHIHOが選曲した個人的に大好きなオムニバス(『SOOTHING MY SOUL 』)があって、その中で原田知世がこの曲をカヴァーしてたんですよ。[註:原田知世による70年代の洋楽カヴァー集『Summer breeze』が出典]
木庭:その原田知世ヴァージョンが実はメチャクチャいいんですよ。歌もバッチリだし、演奏はギター1本、アレンジは完全にボサノヴァで。カヴァーをアルバムの中で1曲やろうというのは最初から決めていたんですけど、ライヴで盛り上がるような誰でも知ってる曲をやろうとは頭にまるっきりなくて。モータウンのカヴァー曲でさえ、ライヴで1回もやったことがないんです。「あの曲を聴きに来たのに…」ってお客さんに言われることも多いんですけどね。
──他にカヴァー曲の候補はあったんですか?
木庭:エリック・クラプトンの「CHANGE THE WORLD」は、僕的には凄くやりたかったんですけどね。普段からパンクにこだわって、姿勢的にも常にそうありたいと自分では思ってるんですけど、実際にやっている曲は結構そっちに行ってる感じはありますよね。やっぱり、メロを追求していくとパンクという範疇には収まりきらなくなるんですよ。精神性としてのパンクは凄く重要だと思ってるんですけどね。そうじゃないともっとテクニックに走ったり、メロ以外の演奏を“聴かせよう”とか思ったりするんじゃないかなと。そういうのは端から意識してないんで。“いいメロでいい曲”であればそれで充分だと思ってますし。
──4曲目の「stands here」はイントロを聴いた瞬間に“いいメロでいい曲”だと確信できるし、どの曲にもそういう良い意味での判りやすさがありますよね。
木庭:ええ。今回は敢えて判りやすくしようと心懸けましたね。以前なら雰囲気だけを匂わせるタイトルの曲も多かったし、今回も3曲くらいはそういうのがあるんですけど、後は結構ストレートに曲名を付けましたね。もっとガッチガチのメッセージ性とかが自分達の中にあれば違うんでしょうけど、押しつけがましく感じられるのがイヤなんですよ。日本語で唄わないのも同じ理由で、ちょっと自分としては窮屈に感じてしまうんです。タイトルの“GREEDY”(貪欲な、食い意地が張る)という言葉も、そこに込めた意味合いとかは全然ないんです。“僕達は欲張りでガツガツしてます、このアルバムでガンガン行きますよ!”的なことは一切ないですね(笑)。
──ジャケットだけを見ると、凄く欲張りっぽいですけどね(笑)。豪快に牛を喰らってるのは、ライヴでもお馴染みの「milk tea」が収録されているからですか?
木庭:あ、それウマイ! 今度からそう言います(笑)。ジャケのコンセプトも余り深く考えなかったんですよ。タイトルが“GREEDY”で、こういうジャケで…っていうのは、後からうまく繋がった感じなんです。そういう直感とかその時の気分にすべてを委ねることが僕達は凄く多いんですよね。煮詰まるとまず曲が出来ないですから。そういう時は大体ボツになりますね。今回の収録曲も、スタジオで僕が考えたメロを「こうしよう、ああしよう」ってその場でどんどん繋げていくのが多くて…だから、この2人は曲が出来上がるまではメロを余りよく判ってないんですよ。コードとか構成で曲を覚えてますから。
杉山:“こういうコード進行だったら、絶対にいいメロが出てくるだろうな…”っていうのは、もう阿吽の呼吸で判りますね。
──兎にも角にもライヴを体感したくなる作品なので、年明けのツアーが楽しみですね。
木庭:それまでにこの音源をじっくりと聴き込んでもらって。ライヴでは聴こえない鍵盤の音とかが耳で鳴ってくれたりすると嬉しいですね。きっと、何度も聴き込んでもらえれば鳴ると思うんですよ。そうじゃないとアウトロとか全然面白くないんで(笑)。ライヴでは何かしらを“感じて”ほしいですね。メッチャメチャに暴れても?らっても踊ってもらっても一向に構わないですから。逆に乗らなくても全然構わないですし、そこは各々の楽しみ方で。僕達はやっぱりライヴ・バンドだという自負がありますし、レコ発のツアーもできる限りの場所を回りたいと思ってますので、是非楽しみにしていて下さい。
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