曲作りは自分の引き出しをガラガラ出すイメージ
──今回はレコーディング期間が9ヶ月に及んだそうですが、練りに練っての作品という感じなのでしょうか?
TGMX aka SYUTA-LOW TAGAMI(vo/以下、TGMX):そうですね。ライヴと並行して毎日のように3人でスタジオに入って、実際に音を出して作る作業をしてから足掛け1年半くらいですかね。だいたい1ヶ月に1曲のペースで。それを9ヶ月掛けて録った感じです。
──では、20曲前後は曲を作られた感じで?
TGMX:今回のアルバムが11曲収録なんですけど、だいたい15〜16曲はあったと思います。
──その中から11曲を選び抜いた感じですか?
TGMX:いや、何となく16曲くらい並行して作ってたんですけど、それだと何か決まんないな、って。それである程度のところで11曲に決めて詰めていく作業でした。
──アルバム・タイトルの『BASIS』は“基礎”とかそんな意味だと思うんですけど、込められた意味は?
TGMX:4曲目の歌詞に「MUSIC IS A BASIS」っていうのがあって、そこから引っ掛かって付けた感じです。特に意味はないんですよ。聴き手の人には空想的な話だし、余りこっちで決め付けないほうがいいと思って。
──これが自分達の基本、スタンダードだぞって意味で『BASIS』なのかな、と思いましたが。
TGMX:いやいや、全然。もちろんそう思って頂けたら、それはそれで全然構いませんし。
──1stは完全に3人で作られたみたいですけど、今回はライヴのサポート・メンバーでもあるチャーベさん(松田岳二/CUBISMO GRAFFICO)と(古川)太一さん(riddim saunter)も加わって作られたのですか?
TGMX:そうですね。よりライヴに近いアレンジで録りたかったのと、いろんなカラーがあっていいかなと思って参加してもらいました。バンドの核となるのはこの3人なんですけど、サポートの2人にもいろいろ相談したりして録った感じですね。
──このアルバムの前にリリースした『Backyard Sessions #001』は、先行シングルというよりは一種の企画盤って感じなんですか?
TGMX:形的には先行っぽくなっちゃったんですけど、そっちはそっちで。シングルは遊びの感覚で、僕らの趣味的な感じで違う形を??提示していけたらな、って。アルバムとはまた違う発想で遊び心を…と思って作ったのがシングルで、まぁ、やりたいことをやった感じですね。
──アルバムには真ん中にインストの曲が入ってるんですけど、これはレコードでいうA面、B面の役割なのか、それとも真ん中のブレイクみたいな感じなのですか?
TGMX:実際、そんな感じに結果的にはなってますけど、そこで仕切り直しって意味でもなく…フロンティアとしては初のインストなんで、最初のほうでもなく最後のほうでもなく…っていう感じの曲順で考えました。
──完全に今回のアルバムの為に作った11曲なんですか? 1stの頃からあった曲もありますか?
TGMX:もうイロイロです。中にはSCAFULL KINGの頃からあった曲というかメロもあって、もう古いものから最新のものまでイロイロありますね。でも、基本的には全部書き下ろしです。部品としては、みんなが持ち寄るネタとかフレーズは前からあったかもしれないですけどね。
──じゃあ、それをスタジオに入って詰めていった感じで?
TGMX:それを詰めていくっていうか、スタジオで自分の持っている引き出しをガラガラって出すイメージですね。こんなのもあるし、あんなのもあるよって感じで。それでフレーズも発想が広がれば広げていって、広がらなければまた自分の引き出しに戻して、って感じで。
──普段から曲の作り方はそんな感じなんですか?
TGMX:それもイロイロですね。持ち込んでやる場合と、スタジオで何となくやってたら出来始める場合もあるし。
──まだライヴでは全部は披露されてない?
TGMX:全部はやってないですね。
──では逆に、ライヴで披露されてるほうが古い曲?
TGMX:いや、別にそういうわけでもなくて…どういう順番で録ったのかもあんまり覚えてないですね。何となくこれは古い、新しい、くらいは覚えてますけど。2曲目の「planet of contradiction」とかは早めに録った気がします。
福田“TDC”忠章(ds/以下、TDC):うん、それは最初に録った。
TGMX:最初だっけ? サビの部分とかは1stの頃からケンジのネタとしてあって、それにTDC君の持ってきたネタと僕の持ってきたネタを出しながらスタジオで合わせて調整していくっていう面白い作業でもあり、大変さもあり。
あえていうなら『Backyards Sessions』は実験、『BASIS』は完成形
──1stに比べて今作にはテーマみたいなものはありますか? 今回のアルバムはFRONTIER BACKYARDのよりポップな部分が出てきたと思うんですよ。全然聴いたこともない人も凄く取っ掛かりやすいというか、聴きやすい感じがしましたが。
TGMX:長く作業をやっていたぶん、要らないものとかが削られてますよね。時としては“ここは音が薄いから入れていきたい”ってなるんだけど、時間を掛けたぶんシェイプアップされてますね。あとはやっぱり、3人ともポップなものが凄く好きなんですよ。
TDC:ドラムに関しては、前作よりはクリアというか、よりシンプルにしたっていうのはあります。前作が結構細かいことをや??って、ライヴとかでも余り伝わんないなっていうのが判ったので。
──アルバムとシングルは同時に録ったんですか?
TGMX:まぁ、被ってはいましたね。9ヶ月録ってたんで。でも、シングルをやりたいなっていう発想も同時にあって…で、the band apartの荒井(岳史)君にやってもらったんです。その「Wish」って曲は僕の中でthe band apartのイメージだったんですよ。折角やるなら荒井君本人に唄ってもらおうと思ったら実現して、シングルのラインナップは「Wish」を中心に考えました。だからシングルはシングルで、アルバムの作業とは別に考えて録りましたね。割と打ち込みっぽかったりもするし。
──アルバムではその「Wish」をご自身で唄われてますけど、プレッシャーはありましたか?
TGMX:いやぁ、メチャメチャありましたね。荒井君は歌が巧いので、やっぱり自分で唄うよりも荒井君のほうがハマってるなぁって思っちゃうので。
──でもあれはあれで、2人の掛け合いがとてもいいと思いますよ。
TGMX:ありがとうございます。
──『Backyard Sessions』に関しては、“#001”って付いてるくらいだから今後も継続してやっていく感じですか?
TGMX:そうですね。また実験したいこととか遊びたいことがあったらやりたいです。
──ネタはまだまだたくさんありそうですよね。
TGMX:そうなんですよ。ネタとかはあるんですけど、実現できるかが判んなくて…。あと、それを自分達の全てと思って欲しくないなぁ、と。それはホントにごく趣味的な感じで…だからどうしても聴けとは言わないし、ただ違う面も見せていきたくなるんですよ、長くバンドをやってると。
──『Backyard Sessions』で試したことを次のアルバムに反映することもありますか?
TGMX:そうですね、それもあるでしょうし。そういった意味であえていうなら『Backyard Sessions』は“実験”、アルバムは“完成品”というカテゴリーになるんでしょうね。
──曲順とかは?
TGMX:ヴォーカルなんで僕なんですけど、ライヴの曲順とかも相談して決めてて、今回は何となくライヴっぽさを出せたらな、と。このままの曲順でやってもいいな、っていう感じで。最後の「turned back」をKENZIが「これがいい」って言ってて、そこをゴールとして流れを考えて。実はもともと1曲目は他の曲にしてたんですけど、そこをゴールとした場合を考えて変えたりとか。だから今回の11曲はどれも推し曲ですね。商業的には前半にいい曲を入れるみたいですけど(笑)、僕らの中ではデッカく見てトータルで1曲って感じで捉えてるんで。
──アルバムのジャケットが凄く印象的ですよね。
TGMX:デザイナーさんに音を聴いて頂いて、任せました。
──フロンティアの音のスケール感がよく出ていて、凄くいいなと思いましたが。
TGMX:ええ。メチャクチャ恰好いいですよね。
KENZI MASUBUCHI(g):1stがバンドの名前で作ってて凄い気に入って、次のを連想させたいなと思ってて。だから色調とかは似??てますよね。
TGMX:明るいような暗いような、激しいような静かなような……。
──どことなくフロンティアの音楽を象徴してますよね、壮大感とか。これといって固執している色でもないし、見方によって変わるというか。
TGMX:そうなんですよね、そのどっちでもないところがいいなぁって。
ライヴはデッカい飲み会です(笑)
──以前に比べてライヴの本数が増えましたけど、何か変化があったんですか?
TGMX:やってしまえば楽しいんですよ。ただ、やる前は緊張しているというか、ライヴが苦手なんですね。バンドやってる側としては曲作りが1番に来て、レコーディングが2番目で…ライヴは結構順序の下に来る感じなんです。でも、ライヴがいいバンドだと思わせる自信は意外とあるんですよ。それほど得意じゃないぶん、ヘンなライヴができるというか。先日のシェルター(4月23日)とかも……。
──ああ、観てました(笑)。[註:アンコールで突然ステージ上の電源が落ちて演奏できなくなるも、演奏可能な楽器と声だけで客席を盛り上げた]
TGMX:ああいった時の自分達は強いな、って(笑)。ああいうことになるとノッてくるっていうか。ちゃんとセットリストを組んでカチッとしたライヴも大切なんでしょうけど、そうじゃない時もないと。
──逆に余りカチッとせずに、途中で曲を変えたりとかもアリとか? メンバー1人を驚かせたりとか。
TGMX:そうですね。逆にそれができるくらいみんな巧いんですよ。例えば、急に閃きで“こうしたい”っていうのがあれば、何となくみんな汲み取ってくれるんです。そういうフレキシブルな感じがみんな凄く好きなんですね。DJでも、盛り上がってなかったらその場で曲を変えるじゃないですか? だからライヴでもごく当たり前のことじゃないですかね。
KENZI:俺は余りライヴって意識すると緊張するんで、“デッカい飲み会”って考えてますけどね(笑)。
──フロンティアのライヴは自由度が高いというか、同じレーベルメイトやお客さんをステージにガンガン上げたり、みんなでワイワイ騒いでる感じがありますよね。
TGMX:そうですね。そういうのが一番楽しいんじゃないかな、と。極論を言えば、お客さんの中に自分達より歌もギターもドラムも巧い人がいるんじゃないかと思ってますから(笑)。あと、僕は昔から歌で役割が変わってないけど、KENZIがライヴで緊張するのは、SCAFULL KINGの時よりもフロントマン的な要素が増えたからだと思うんですよ。魅せなきゃいけない! っていう。
KENZI:SCAFULL KINGの時は、フロントが凄いパンチのある人ばかりだったから(笑)。お客さんから「つまんねぇ!」とか言われたら、「じゃお前がやれよ!」って今は思うようにしてますね(笑)。
──自主企画の『NEO CLASSICAL』なんですけど、凄くいいタイトルだと思うんですよね。“古き良きもの、新しきを知る”みたいな感じで。毎回ゲスト・バンドを誘う基準というのは?
TGMX:単純に好きなバンドを呼んでるだけですよ。一緒に活動してみたいな、っていう。今は“コレ!”っていうデッカいシーンがないと思ってて、だったら自分達で小さいながらもそういうシーンを作ってみたいな、と。あと、良い意味でのライバル的なバンドも必要だし。だから、こっちがちょっと羨ましいと思ってるくらいのバンドとやるようにはしてますね。
──対バンす??ることによって、自分達に反映される部分もあるでしょうしね。
TGMX:それによって自分達とは何か? っていうのが判ることもあるし、真似できない部分もあったりで。まぁ、実際それほど深くは考えてないですけど、そんな感じで進めていきたいとは思ってます。
──まだこのアルバムの曲は全部は披露されてないみたいですけど、今度のレコ発ではやられるんですか?
TGMX:そうですね。どんどんやろうかな、と。今までも作ってる最中の新曲をライヴでちょくちょくやったりしてたんですよ。自分達にとってもフレッシュでいいんですよね。ドキドキもしますけど。
──お客さんの反応とか?
TGMX:それもありますけど、単純にやってるだけで楽しいんですよ。同じ曲ばかりをライヴでずっとやってると、やっぱりカンフル剤が欲しくなりますしね。
──逆に1stの曲をアレンジ変えてみたりとか?
TGMX:今後はそれもやっていきたいですね。あとはやっぱり、若いお客さんにも聴いて欲しいと思ってて。と同時に僕達よりも年齢が上の人達に認められたら凄く嬉しいですし。有り難いことに、“なんでフロンティアを聴くようになったの!?”っていう中学生のファンも今はいてくれたりするんです。彼らはもちろんSCAFULL KINGなんて知らないわけですよ。1stを出した頃はスキャフルと違ったことやろうって感じでやってたんで、若い人達にも是非聴いて欲しいと思いますね。
──若いお客さんは、レーベルナイトである『Niw! Collection』とかで知る機会もありますしね。
TGMX:僕らの近い存在で言うと、riddim saunterとかは僕達から見ても恰好いいバンドですし、ファッションとかライフスタイルからも“若者っぽいな”って思うんですけど、そういう繋がりは大切にしたいですね。まぁ、『Niw! Collection』は極端に言えば宴会みたいな感じなので(笑)、楽しければいいと思ってますね。
今後の展望〜『Backyard Sessions #002』に向けて
──MASTER LOWのバック・バンドでやられる時とフロンティアでは、やはり気持ちの面では違いますよね。
TGMX:そうですね。あれはあくまでLOW-IQ-01のプロジェクトだし、全然意味が違ってきますよね。僕なんか楽器も違いますしね。それはCUBISMO GRAFFICO FIVEに関しても同じですね。全くの別物ですよ。
──CUBISMO GRAFFICO FIVEもリリースが控えているみたいですし、そのツアーもあるでしょうし、TGMXさんは相当忙しくなるんじゃないですか?
TGMX:そうですねぇ。でも、MASTER LOWもCUBISMO GRAFFICO FIVEもやってて楽しいですし、また違った角度でバンドっていうものを見られるから、ためになると思いますね。
──KENZIさんとTDCさんは、MASTER LOW以外で何かに参加されたりとかは?
TDC:特にはないですけど、スタジオ・ワークとかちょっとしたりとか。誘われたらやりたいですね。誘って下さい(笑)。
KENZI:普段触れられないバンド…例えばジャズとか、そういうところのサポートとかはやってみたいと思うんですけどね。そういうところで修行したいな、って感じですね。ソロ・アルバムは機会があれば作りたいですけど、今はフロンティアのモードだからないですね。
──フロンティアはPVを結構作られてますよね?
TGMX:映像とかも好きなんですよ。
──PV限定のDVDを作ったりとかしたら、それも『Backyard Sessions』になりますよね。
TGMX:もちろん、いずれはやりたいですね。予算的にクリアになれば(笑)。
──リミックス・アルバムとかは考えてませんか?
TGMX:今のところはないですね。ひとつひとつしっかりやっていきたいんで。“こういうのをやりたいな”っていう初期衝動みたいなものはスキャフルの時に一通りやったつもりなので、フロンティアに関しては焦らずにちゃんと段階を踏んでやっていきたいんですよ。
KENZI:9曲目(「Flower of Shanidar」)のPVは人材を公募したんですよね。ライヴなんかをやってると、俺達よりもっと凄い奴がいるんじゃないかと思ってて、実際「一緒にやりたい」っていうメールとかも来たりして。
TGMX:対バンとかもそうですけど、やりたいって言うなら僕ら30代のオジサンだけどやりますよ、っていうスタンスは持ってますね。もちろん音は聴いたりしますけど。だから、いろんなことをみんなで作り上げていきたいんですよ。実現するかどうかはひとまず置いておいて。でも、極論を言えば僕達はステージ上からいなくなっちゃうので(笑)、プロデュースだけでいいのかな? と思ってますけどね。
──コピー・バンド募集なんていうのは?
TGMX:いやぁ、フロンティアはコピーできないですよ。これだけは自信ありますね。だって、自分達ですらできないんですから(笑)。毎回ライヴでも違いますからね。だから最終的にはステージ上に僕達がいないとか、SEが流れてきたら全然違う人達が登場するとか、そういうのもバカげてて面白いかな、って。常日頃そんなことばっかり考えています。
──フロンティアは常に前進してるって感じですね。
TGMX:知恵を働かせないと。スター性がないバンドなんで(笑)。
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