結成以来4年間の集大成的アルバム『GEFUHL』
──札幌から上京して約1年、もう東京の生活には慣れましたか?
高橋大望(g, vo):ええ、だいぶ慣れてきましたね。
──札幌と東京、どんなところに一番違いを感じますか?
菱谷昌弘(ds):規模が全然違いますよね、街のデカさとか。東京は札幌みたいな街がいくつもあるみたいな感じです。
──ライヴハウスのシステムとかも微妙に違います?
菱谷:そうですね。札幌のライヴハウスは結構ファジーなところがあって(笑)、リハ順とか別にないですからね。トップバッターのバンドがリハを一番最後にやるっていうのが決まってるくらいで。それに比べると東京のライヴハウスはキッチリしてますよね。入りやリハの時間もちゃんとしてるし。
──意を決して上京したのは、バンドとしての活動をより活発化させるためですよね?
佐藤弘坪(g):そうですね。東京に住めば、ライヴもいろんな場所へ行きやすい環境が整いますから。
高橋:最初は札幌にずっといたいと思ってましたけどね。
佐藤:活動の拠点をあくまで札幌に置くバンドが当時は周りにたくさんいたんですよ。sleepy.abとかThe Jerry、THE HOMESICKSとか。媒体もそういったバンドを応援するような下地があって。
──皆さんの場合は、地元に留まっているとそこから拡がりを持てないと感じたんですか?
佐藤:別に札幌でメチャメチャCDが売れたわけでもないし、ライヴの動員が凄かったわけでもないんです。札幌でやるべきことを成し遂げたつもりもないし、むしろ何かを達成するために東京まで出てきた感じですね。
菱谷:ただ、いざ東京へ出てみたところで実際にバンドがどこまでやれるのか、まるで実感が掴めなかったですね。最初は半信半疑って言うとヘンですけど、そんな気持ちでこっちに出てきたんです。でもやっぱり、東京へ出てきて大正解だったと今は思いますね。全国を廻るには好都合だし、陸続きなのは大きいですよ(笑)。
──なんせ年間100本以上ものライヴを敢行するバンドですからね。
菱谷:ええ。あと、札幌にも尊敬できるバンドはいましたけど、東京は心底凄いと思えるバンドがもっとたくさんいるし、生温い気持ちでやってたらすぐに弾かれちゃうな、っていう気負いがありますよね。そういう厳しい環境でバンドをやれることは凄くラッキーだと思ってます。
──そんなHIGH VOLTAGEの第1期集大成的作品『GEFUHL』〈ゲフュール〉が先だって発表されましたが、まず、このタイトルにはどんな意味があるんですか?
高橋:ドイツ語で、“FEELING”とかと同じ意味なんです。ファウストとかクラフトワークとか、ドイツの音楽が個人的に好きなんですよ。“FEELING”を感じてほしいと言うか、意味合いとしてはそんな感じなんです。英語で“FEELING”のままだと、ちょっとポップすぎるかな、と思って。
──1stミニ・アルバム『HIGH VOLTAGE』、2ndミニ・アルバム『此処にいる』収録曲すべてを現メンバーで録り直し、さらに未発表曲「影のない世界」まで収録した、まさにHIGH VOLTAGEの名刺代わりの1枚ですね。
高橋:そうですね。去年ベースが吉岡に替わって、今のこのメンバーで過去のナンバーを録ったらいい感じになるんじゃないかと思ったんですよ。それと、前のアルバムから年数も経ってたので、曲の細かいところを変えてる部分もあるし、それなら新たにレコーディングしたほうがいいと考えたんです。1枚目と2枚目は音が全然違ってたりもするので。
──ライヴを重ねることで、曲自体も徐々に進化を遂げているでしょうし。
菱谷:それは思いますね。常に上を目指していきたい気持ちがあるし、ライヴ経験を積み重ねて演奏力も上がっただろうし、バンドの一体感もより強まったと思います。レコーディングのやり方も少しずつ判ってきたりして、そういったものがこの『GEFUHL』でひとつの結果として残せたんじゃないか、と。
過去の楽曲を再録しての新たな発見
──収録された全13曲は一気に録った感じですか?
菱谷:『GEFUHL』は2週間で全部ですね。
佐藤:『GEFUHL』と、その次に出る『CORE』とまとめて一緒に録ったんですよ。
菱谷:2月の初めから3月の中旬まで、レコーディング期間は1ヶ月半くらいでした。
佐藤:そんなさなかにライヴもありつつ……(笑)。
菱谷:レコーディングとライヴの気持ちの切り替えはちょっと難しいところがありましたけど、そうも言ってられないので(笑)。
──その名の通り、高圧電流が全身を流れるような迸る激情サウンドがHIGH VOLTAGE最大の特徴だと思うんですが、メジャー・デビュー盤となる『CORE』のほうは、重くささくれ立った感じがだいぶ薄れていますよね。メロディの良さは一貫していますけど、『GEFUHL』に比べると少し角が取れた印象を受けます。
吉岡貴裕(b):『GEFUHL』はほぼ一発録りに近い感じだったんです。僕が加入する前のアルバムは、アレンジをよく練って凄く時間を掛けて作っていたんですけど、『GEFUHL』に関しては敢えて荒々しく録ることにしたんですよ。
高橋:そう、昔はアレンジに凄く神経を使いましたからね。
佐藤:練って壊して繋げて、また練って壊して繋げて…っていう、そんなことの繰り返しでしたから。
──己の衝動に従うと言うか、激情直下型サウンドを身上とするバンドだと思っていたので、アレンジに凄く時間を掛けるというのはちょっと意外ですね。
高橋:「曲は衝動に駆られてすぐにできるんでしょ?」とか「余り考えないでやってるんでしょ?」とかよく言われるんですけど、実際は全然そんなことないんですよ。
佐藤:確かに、ライヴでは余り考えないで闇雲に暴れてますけどね(笑)。今まさに曲作りの最中なんですけど、これがまたなかなかできないんですよねぇ(苦笑)。
──メイン・ソングライターは高橋さんですよね?
高橋:だいたいの骨組みだけですね。アレンジはみんなで考えながらやってます。歌詞は僕が書いていて、普段から気に入った言葉を携帯電話にメモしておいて、それを膨らませていく感じです。
──過去の楽曲を録り直してみて、当時は気が付かなかった新たな発見とかもありましたか?
高橋:ミス・タッチを発見してちょっと凹みましたね(笑)。あと、今の自分ならこういうアレンジはしないで違うことをやるな、とか思った部分はありました。今の俺ならこのBメロは取るなぁ、とか。でも、それはそれで結構面白いんですけどね。
佐藤:「青」とかはオリジナルと全然違うよね。半分くらいアレンジも変えたし。久し振りにオリジナルを聴いて“何だこれはッ!?”って我ながら思いましたから(笑)。一度演奏が終わったと思ったらまた始まるんですよ。無闇に長いんです。さすがにそこは全部取っちゃいましたね。
──録り直したことで、改めて吉岡さんの加入が今のバンドにいい作用をもたらしているのが判ったんじゃないですか?
菱谷:そうですね。最初は第三者の視点からHIGH VOLTAGEを見てきて、自分がどういう立場でベースを弾けばいいのかをずっと考えてくれてた気がしますね。
吉岡:元々は友達でしたけど、それを抜きにしてHIGH VOLTAGEのライヴは恰好良くて好きだったんです。当時は自分もギターを弾いてたんですけど、ライヴではよく弘坪君の真ん前で観てましたから。彼がステージで暴れて落としたメガネを拾ってあげたり(笑)。
佐藤:渡されるほうは恥ずかしいんですよね、あれ(笑)。
メンバーの音楽的ルーツ
──そもそも皆さんの音楽的ルーツというのは?
菱谷:eastern youthやNUMBER GIRLとか、好きなバンドが高橋と結構似てたんですよね。共通の友達から彼を紹介してもらって、俺はHIGH VOLTAGEに後から入ったんですけど。
佐藤:NUMBER GIRLとかそういう音楽を好きになる前は、thee michelle gun elephantとかもっとシンプルなロックンロールを俺はずっと聴いてましたね。そこから掘り下げて、THE PIRATESとかDR.FEELGOODなんかに影響を受けて。あと、チャック・ベリーとかも好きでした。その頃は別のバンドでヴォーカルをやってて、ギターは全然弾いてなかったんですけど、「HIGH VOLTAGEでギターをやってくれ」って頼まれて、ギターがほとんど弾けずに入ったんですよ(笑)。ツイン・ギターで面白い音楽をやるっていうのが最初は全然理解できなくて。その前に3ピースのバンドでちょっとギターは弾いていたんですけど。
吉岡:僕は元々blurとかoasisとかのいわゆるブリット・ポップが好きでした。それがカウンターアクションとかライヴハウスに通うようになって、eastern youthの“極東最前線”周りの音楽が好きになって。高橋君以外の2人とは、札幌学院大学でサークルが一緒だったんですよ。高橋君は酪農学園大学で、学校が隣りにあったんです。隣りと言っても、歩いて30分は掛かりましたけど(笑)。
高橋:僕以外の3人は同じサークルだったんです。最初は今と全然違うメンバーで僕がHIGH VOLTAGEを始めて、やってる音楽も全然違ったんですよ。AC/DCが好きだからHIGH VOLTAGEって名前にしたくらいで[註:『HIGH VOLTAGE』は1976年に発表されたAC/DCのデビュー・アルバム]。ああいうストレートなロックンロールをやりたかったんですよね。それが大学に入ってeastern youthやNUMBER GIRL、COWPERSなんかを知るようになって、“こういう音楽がやりてぇな”と思って音楽性が変わっていったんです。一度解散したんですけど、HIGH VOLTAGEって名前が恰好良かったからまた同じにしたんですよ。だから名前は同じだけど別バンドなんです。
──Hi-STANDARDの洗礼は受けました?
菱谷:高校生くらいの時がまさに直撃でしたね。中2〜3の頃にシングルの『KIDS ARE ALLRIGHT』とかが出て。北海道のローカル番組で『マル音デラックス』っていうのがあって、そこで流れたプロモには衝撃を受けましたね。高校の時はコピー・バンドもやったし。
高橋:僕はGARLIC BOYSとかのコピーをやってましたよ(笑)。
──それが今や、“エモーショナル・ロックの進化形バンド”と呼ばれるようにまでなり。
高橋:まぁ、普通にやってるだけなんですけどね。僕達はそういう呼称に余りこだわらないですから。
──敢えて言うところのエモーショナル系バンドの中でもHIGH VOLTAGEが突き抜けているのは、何より楽曲の親しみやすさだと思うんですよね。
高橋:そんなに小難しいことをやろうともしてないし、ホントに思い付いたことをただやるだけなので。バンドで重要視しているのはグルーヴですね。僕は昔のアメリカン・ロックがずっと好きで、アメリカン・ロックって地味なコード進行が続いた後にサビだけ異常に開けるじゃないですか? ああいう部分には影響を受けてると思いますね。
従来のイメージを覆す意欲作『CORE』
──メジャー・デビュー盤の『CORE』の収録曲は、歌詞を読むと東京に出てきてからの曲が多いのかなと思ったんですけど。
高橋:そうですね。どれもこっちに引っ越してから書いた曲です。
──『GEFUHL』と同じ時期にレコーディングしたのに、この肌触りの違いは何なんだろう? と思うんですよ。エンジニアの方が違うとか?
高橋:いや、どちらも同じ方です(北村哲也/studio TRI-TONE)。『CORE』のほうにはディレクターの方(菅 敬/BRIGHT LIGHT)が付いて頂きましたけど。本来の凝り性みたいなところが『CORE』には出てるんですよ。1曲1曲の色合いを明確に打ち出したかったんですよね。
──何と言うか、全体的に“溜め”を効かせた印象があるんです。1曲目の「Nostalgy」は最初から暴走するのではなく徐々に大団円を迎える感じだし、ちょっとブルース・ロックの匂いもする3曲目の「DUSK」はバンドにとって新機軸の曲だと思いますし。HIGH VOLTAGEが次のステップに突入したことを強く感じるアルバムですよね。
菱谷:そうですね。今までHIGH VOLTAGEを聴いてきてくれた人達がこの『CORE』を聴いたら、結構ビックリするんじゃないかと思うんですよね。僅か1ヶ月前に出た『GEFUHL』との余りの違いに(笑)。いい意味で「裏切られた!」と思ってくれたら嬉しいですよね。
──『CORE』制作において重きを置いた点というのは?
高橋:『CORE』では、随所随所に小技をいろいろ使ってるんですよ。アコギをマーシャルに突っ込んでフル転で弾いてみたり、シンセドラムを導入してみたり、隠し味が効かせてあると言うか。そういう実験的なことは以前からずっとやってみたかったんです。
吉岡:『CORE』の曲を作る前、去年の夏の終わりくらいに4人で話し合いをしたんですよ。自分達が好きで聴いてる音楽は他にももっといっぱいあるんだから、そういうのもHIGH VOLTAGEでやっていってもいいんじゃないか、って。そんな話をしてから「DUSK」みたいな曲が出来るようになったりして。
菱谷:「DUSK」に関しては、シャッフル・ビートを最初にやってるのに、なんであんなにキレイなギターの絡みが入ってくるんだろう? って俺は凄く面白いと思ったんですよね。練習中に遊びで俺がギターを持ったり、高橋がドラムを叩いたりとかして、そこから新しいアイディアが生まれてきたり。
高橋:そういうのをやると、自分では思い付かないギターのフレーズを菱谷君が弾いたり、逆に菱谷君が思い付かないようなドラムを僕が叩いたりして。
菱谷:「DUSK」のシャッフル・ビートはまさにそうやって生まれたんですよ。高橋が「ちょっとドラムを叩かせて」ってドカドカやってたらギターのキレイな旋律が入ってきて、どんどん出来ていった曲なんです。
──そんなエピソードも含めて、『CORE』は従来のHIGH VOLTAGEのイメージを覆す転機となる作品になるでしょうね。
佐藤:感情を振り絞るようにギターを掻き鳴らすとか、それだけじゃないところを見せたいんですよ。それを見せることによってHIGH VOLTAGEの音楽により拡がりを持たせたいし、その次はもっと拡がっていきたいですから。
──「DUSK」みたいな曲が出来れば、もっと徹底したディスコ・ビートの曲をやっても似合いそうですよね。
高橋:実は、今日もそんな感じの曲を作ってきたばかりなんですよね(笑)。あと、今はサイケデリックな音楽やプログレをハードコアと融合させてみたいと思っていて、いろいろと試行錯誤はしてますね。
──そういう作風の変化みたいなものは、皆さんにとってはごく自然で地続きなことなんですよね。
高橋:そうですね。『CORE』をきっかけに変わっていこうとかも特にないですし。ただ、結構自由奔放にやらせてもらったと言うか、今回は自分達の出したい音やアイディアをスタッフに相談しながら進めていきましたね。
ライヴでは何かしらを感じ取ってほしい
──7月11日には東京初の自主企画“HIGH VOLTAGE presents『CORE TIME』”がシェルターで行なわれますね。
高橋:札幌で自主企画をやったのは1回きりで、バンド名義の企画自体まだこれで2回目なんですよ。シェルターはメッチャ濃い一日にしたいですね。お客さんにはお腹いっぱいになって帰ってほしいです。
──“みよしの”(札幌にあるぎょうざとカレーの店)のジャンボぎょうざカレーを立て続けに3杯食べた感じで?(笑)「もういいよ!」くらいの。
佐藤:飽きられると困っちゃうんですけど(笑)。
菱谷:そういう濃いモノっていうのは「しばらくイイかな?」と思うんだけど、割と身体は覚えてるものですからね。
佐藤:そうだね。そんな中毒性の高いライヴをやっていきたいですね。
──ライヴを積み重ねることによって、自分達なりに掴めてきたものは漠然とありますか?
菱谷:(佐藤に)どうですか、ライヴ番長?
佐藤:ライヴを100本やった前と後では当たり前ですけど経験値も全然違うし、バンドに落ち着きが出てきた気がしますね。対応能力も付いてきたし。ライヴで「DUSK」をやる時は長くしたり短くしたりしてるんです。終わるところをドラムが決めるっていうセッション的なことをやってるんですよ。それには周りを見なきゃどうしようもないし、みんな自ずとそういうことができるようになってきたとは思いますね。ライヴでの課題はまだまだありますけど、ひとつひとつクリアしていきたいです。基本としてあるのは、“まず何より自分達が楽しむこと”ですね。
菱谷:俺もだいぶリラックスしてライヴに臨めるようになりましたね。こういう状況になる前は、凄い面子と対バンする時に普段じゃあり得ないくらい緊張してたから、いつもの50%も力が出せないライヴもあったんですよね。それがある時、どういう状況でどんなライヴをやってたとしても自分は自分でしかないと思えるようになってから、今度の作品にもライヴにもちゃんとした音を出せるようになった気がしてます。もちろん、まだまだこれからなんですけどね。
高橋:ライヴは、観てくれた人が何かしらを感じてくれたらそれでいいと思ってるんですよ。好きなら好きで素直に嬉しいし、嫌いなら嫌いでも構わないんです。何も残らなかったっていうのが一番厭ですね。
吉岡:HIGH VOLTAGEの真髄はライヴにあると思うし、とにかくライヴを観てくれないことには話になりませんから。
菱谷:そう、是非ライヴ会場に足を運んでもらって、生のHIGH VOLTAGEを体感してほしいですね。
高橋:2枚の音源を聴いてみてからライヴに来てもらってもいいし、見ず知らずでまずライヴを観てもらってもいいですし。とにかく何かを感じてもらえたらと思います。
佐藤:俺はちょくちょくシェルターのパブタイムにいるので、一緒に呑みましょう(笑)。
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