グッと来る、地に足の着いたロックンロール
──いや、素晴らしいアルバムっすね。
楠部真也(ds):マジで? どんなところが?
──まず、音がいい。
楠部:うん。
──めちゃくちゃ踊れるし…。あと、曲の色合いが増えましたよね。
楠部:それはよく言われますね、ライターさんとかに。
──そこは意識してたわけじゃないんですか?
楠部:それも必ず訊かれるんですけど、まぁ、“結果的に(そうなった)”ってことですね。いや、僕もそう思いますけどね。曲の幅が広がったなぁっていうのは。ただ、それは意図したことではなくて。曲を作ってる作業は昔から変わってないし。出来上がったのを並べてみたら、“いいもん録れたな”って感じです。
──でも、“新しいことをやろう”っていう気持ちはあったんじゃないですか?
楠部:いや、だって、何が新しいのかもちょっと判んないんで…。ヒップホップとかそういうこと?
──いやいや、そうじゃなくて(笑)。バンドとして、いろんなことを試してみようっていう…。
楠部:どうなんやろう…。判んない。
PATCH(vo, g):ないですね、それは。いつも通り、何も考えてないので(笑)。
楠部:持ってるもんしか出てこないですからね。音の録り方とか、そういうことに関しては、今までやったことがないこともやってますけどね。
──なるほど。でも、とりあえずめちゃくちゃハイペースでリリースが続いてますよね。これは予定通りなんですか?
ウエノコウジ(b):いや、前の『GLOW』を録った時に、その先にあるレコを録りたいなっていうことは言ってて。「今年は今年の気分として、今年中にもう1枚出して、ツアーも回りたい」って言ってたら、(6月に行われた)ツアーの翌々日から(スタジオに)入らないと間に合わないってことに気付いて(笑)。休んだらね、気分も変わっちゃうかもしれないから。まぁ、いい感じでやれたと思うよ。
──その時点で曲はあったんですか?
楠部:や、全部は出来てない。「BOOGIE SO MAD」とか「DOG NIGHT」はライヴでやってましたけどね。結構新しめの曲も多いですね。
──曲が揃ってない状態でレコーディングに突入…凄いっすね。
楠部:頑張っちゃいました(笑)。
ウエノ:でも、曲の断片とかはあったしね。ツアーに入る前には結構形にはなってたし。あとは『GLOW』の時と同じスタジオ(GO-GO KING RECORDERS STUDIO)、同じエンジニアさん(加納直喜氏)でやろうっていうのも決めてたし。
楠部:そこに関しては、全く不安はなかったですね。ま、どんな状況でも不安はないんですけど。“絶対にいいものが出来る”って思ってるので。ただ、安心感はありました。『GLOW』を一緒に作ったエンジニアさんだから、話も早いし、ニュアンスが伝わりやすいので。
──相性が合うんでしょうね。
楠部:うん、4人目のメンバーじゃないですけど、いろいろと意見を出してもらったり、ディスカッションできる人なので。俺らが持ってないようなアイデアを出してくれるから、存在は大きいですよね。マイクの立て方から、音の作り方まで、ホントに1から10までって感じで。何て言うか、“いいものを作りたい”っていう気持ちがストレートに伝わってくるんですよ、加納さんって。それは俺らにとっても嬉しいし、期待に応えたいっていう気持ちも出てくるし。ホント“俺もメンバーだ”ってくらいの勢いで。
──なるほど。PATCHさんはレコーディングに入る前、どんなことを考えてました?
PATCH:……うん、“恰好いいものを作ろう”っていうのはいつも思ってるんだけど。真也が言ったように、『GLOW』の時と同じスタジオだったから、どんな音になるかっていうのも大体想像できてたし。まぁ、あんま俺は考えないんだけどね。結構その場で“ガーン!”とやるって感じで。
──そのあたりは一貫してますねぇ。
PATCH:うん、俺の場合、アタマで考えても上手くいかないと思うので。ウエノさんとエンジニアさんのなかには音に対する明確なイメージがあったから、俺はそれに乗っかる感じ。まぁ、上手くいったんじゃないかな。良かったよ。
──「考えてない」って言いますけど、『GLOW』に比べて変わった部分も大きいと思うんですよ。ヴォーカルに関して言えば、まず、メロディが…。
PATCH:今回はあるよね、メロディが。今までなかったからね、メロディ。ははははは!
──(笑)
PATCH:まぁ、歌になってきたよね。それは思います。前は“ヴォーカルなんか楽器のひとつ”くらいにしか思ってなかったんだけど、最近はちょっと、“あ、唄ってるなぁ”って思うので。
──“唄ってるなぁ”って…(笑)。それって、最近の話なんですか?
PATCH:そうです。この話にオチはありません(笑)。まぁ、前回くらいから、結構気にするようになりましたね、自分の歌のことを。
──だってPATCHさん、ずっとヴォーカルやってたじゃないですか。
PATCH:まぁ、そうなんだけど。“そういうヴォーカルもいるの?”って感じで。
楠部:おもしろいでしょ、この人(笑)。
PATCH:もちろん、勢いだけっていうのもいいと思うんですけど。今年の気分としては、何て言うか、ちゃんと地に足が着いたロックンロールって言うかね、グッと来るものを作りたかったので。歌のほうまで気にしてみました(笑)。
レディキャロ空前のアコギ・ブーム到来
──歌だけじゃなくて、ギターもきっちり弾いてますよね。
PATCH:でしょ? ちゃんとやったって言うか、ノリだけだと全部同じになっちゃうので。「またチョーキングかよ!」って言われちゃったりね。チョーキングじゃないソロっていうのも結構、考えました。この話のオチとしては、せっかく考えてきても「適当に弾いたヤツのほうがいいよね」って言われちゃうことなんですけど(笑)。
ウエノ:(笑)それは曲によるよね。グッと来なかったら「もう1回!」って言うし。全部手癖の俺が言うことじゃないんだけど、手癖でハマる時と、そうじゃない時ってあるから。まぁ、それもその時の気分なんだけど。今回は結構いいと思うよ。いろんなソロがあるね。
──ありますね。しっかりフレーズを組み立てたソロも。
ウエノ:うん。でも、大変だと思うよ、11個もソロを考えなくちゃいけないんだから。勝手にダメ出しされたりしたら、しょげるのも当然だけど。俺は人ごとって言うか、「違う感じのヤツも聴いてみたいなぁ」って言ってるだけだから。でも、いいと思うよ、今回は。
PATCH:今回は重ねる作業もおもしろかったですね。レコーディングしてるなぁって感じがしました(笑)。
ウエノ:あと、(バッキングと)同じ音でソロをやっちゃうと、音が沈んじゃうじゃん? そのへんのことを考えて、「じゃあ、あのギターを使ってみようか?」とか。そういうことをやってるのは楽しいよ。エンジニアさんがいいギターやアンプをたくさん持ってたし。
──GGKRには凄いギターがたくさんある、って話はよく聞きますね。
ウエノ:そう、ニコニコしながら持ってくるんだよね。「こんなのもあるよ」って。
楠部:加納さんはギタリストだから。アンプもたくさん持ってるし。
PATCH:ちょっと自慢げな感じで。
ウエノ:(笑)おまえ、そんなこと言ったら、加納さんガッカリするよ。
PATCH:“(笑)”って書いておいて。でも、凄く考えてくれるから、いいっすよね。“ダメかな”と思っても、試してみないと判んないってこともあるじゃない? 今回は結構いろいろやりました。
──アコギも結構使ってますよね、「TIME」とか。
ウエノ:あったねぇ、アコギ・ブーム。
PATCH:最初、真也がアコギを買って。
楠部:俺がアコギ・ブームに火を付けました(笑)。「アコギ、買ったんですよ」ってスタジオに持って行ったら、その後、なぜか加納さんもアコギを買って持ってたから。
ウエノ:「真也のアコギ、結構いいな」なんて言ってたら、それが10本くらい買えるようなアコギが出てきて。それ、ホントにいい音で。
PATCH:で、悔しいから俺も家にあるアコギを持ってきて。そしたらディレクターまで自分のアコギを持ってきちゃって(笑)。
ウエノ:ウチのギタリストが持ってるアコギが一番ボロかったけどね。
PATCH:ルックスは一番いいけどね。“女だったら、いいスタイルだろうな”っていう。
ウエノ:PATCH、デブ専だからねぇ(笑)。
──そうなんすか?
PATCH:どっちかって言うと、ふっくらしたほうが…。
ウエノ:俺はストラトキャスターみたいにキュッて鳴ってるほうがいいけどね。PATCHはコントラバスみたいなのが好きじゃん。
──ははははは。ギターじゃないですね、それは。
楠部:いつのまにかウッドベースの話になってる。
ウエノ:(笑)でも、楽器って買うと楽しいし、かわいいじゃん? 俺はあんまり買わない人なんだけどね。1本で充分って言うか、自分の楽器が一番よく鳴るって思ってるから。こんなこと言っといて、次のツアーで違うの弾いてたらごめんね(笑)。
PATCH:あれだけ自分の楽器を愛してたウエノが…。
楠部:浮気した(笑)。
PATCH:蛍光イエローのベースを持っていた、とか。
──似合わないっすね、それは。えーと、アコギが入ってる「TIME」ですが…。
PATCH:はい(笑)。
──この曲、コード進行が新鮮でした。今までのRadio Carolineにはなかった感じで。
PATCH:そう?
ウエノ:最初はさぁ、PATCHと2人で車に乗ってて、「『CUM ON FEEL THE NOISE』みたいに、みんなで唄えるような曲を作ろうぜ!」って言ってて。
──QUIET RIOTですか。って言うか、全然「CUM ON FEEL THE NOISE」じゃないですよ。もっと小粋なロックンロールだと思うんですけど…。
ウエノ:うん、全然違うものになったね。途中で「SHAM 69の『COCKNEY KIDS ARE INNOCENT』みたいにやろうぜ」って言ったりもしてたけど、そうはならなかったし。その頃、“Oiブーム”があったんだよ。
──狙い通りにはならない、と。
ウエノ:PATCHがギター・ソロを持ってきて、それが凄く良くて。そうなるとOiじゃなくて、もっと聴かせる方向になってきて。でもさぁ、思うんだけど、曲を作るのって、そういうもんよ。
楠部:その場の雰囲気っていうのがあるから。時間が経てば、また変わってくるし。
PATCH:ライヴやったら、アレンジも変わってくるしね。
ウエノ:やってるうちに“あ、そっちのほうがいいな”って思って、どんどん変わっていく…。で、まぁ、最終形がこうなったって感じだね。
──生き物っぽいって言うか、制御不能と言うか。アルバムの後半は特にそんな感じですよね。レコードで言うとB面って言うか、そこが凄く恰好良くて。
ウエノ:どっからB面? それ、俺、結構考えたんだよ。
──うーん…。A面の最後が「BOOGIE SO MAD」っていうのがいいかな…。
ウエノ:あ、そう。俺はA面の最後が「TIME」で、B面が「BOOGIE〜」から始まるのがいいかなって思って。「BOOGIE〜」ってさ、俺らのコアな部分って言うか、凄いルーツだと思うんだよ。そういうのが1曲目に出てくるのがいいかなって……ダメ?
──ダメじゃないっす。でも、アナログにする時のことはいつも考えてるんですね。
ウエノ:曲順だけじゃなくて、“A面、B面”っていうのが刻まれてるから。みんな、レコードが好きだし。
楠部:ひっくり返す楽しさってありますよね。
ウエノ:あとさぁ、全部で46分くらいだったらいいなって思ったら、ホントにそうなったんだよね。これくらいだったら、1枚でギリギリいける。50分くらいだと2枚組にしたいからさ。10インチ2枚組でも、ありじゃん? でも、46分だったら、1枚でいいし。
楽器が持つ本来の生音をそのまま出そうとした
──そうっすね。B面、特に「HEAVY」がすげぇ恰好いいと思いました。
PATCH:ありがとうございます。「HEAVY」はいろいろとアレンジを考えましたね。真也のドラムじゃなくて、打ち込みを試したり……ウソですけど。
楠部:(苦笑)
──歌詞もいいっすよね、この曲。
PATCH:あ、そう。さっきの取材でも言われたなぁ。
──「世界が終わっても、こっちは好きにやるぜ」っていうイメージがあって。
PATCH:あ、そうですか。まぁ、ホントの話を聞くとおもしろくないと思うけどね。
楠部:誰からインスパイアを受けて、その歌詞を書いたかっていう…。
PATCH:あのね、駅にキチ○イのオジサンがいて、その人が「明日、地球が終わる!」って言ってたんですよ。で、“明日ホントに終わったらおもしれぇな”って思って……それくらいですね。
楠部:結構、ああいうオッサンとかって、“あー、もしかしたら、そうかもね”ってことを言ってたりしますよね。
──そうっすね。
PATCH:そのオジサンをさぁ、30分くらい見てたんですよ。あ、違う、20分くらいかな?
ウエノ:時間はどうでもいいよ(笑)。
PATCH:そうか(笑)。で、しばらく見てたら、同じ話が始まったから、“あ、これで一回りしたな”って思って。メロがマイナーっぽいから、そういう歌詞が合うんじゃないかな? って思ったんですよね。
楠部:思いっきり“後づけ”やん。
──今回、“こういう音にする”っていうイメージはウエノさんのなかにあったんですか?
ウエノ:うん、まぁ、“生”がいいなっていうのは思ってたけどね。あんまり機械とか使わないで、生で、楽器が持つ本来の音 ──しなやかさとか力強さとか ──っていうのが、潰されることなく、そのまま出ればいいなって。機械を使ったほうがプロっぽく聴こえるのかもしれないけど、俺らはそういうのがなくてもちゃんと楽器を鳴らせるなって思って、やってみたんだけど。まぁ、いい音はしてると思う。真っ裸だよ、もう。
PATCH:(股間に手をやって)ハッパ1枚くらいかな?
ウエノ:武田久美子くらいは付けてると思うけど(笑)。
──スタジオで鳴ってる音そのもの、ってことですよね。
ウエノ:うん、そういう音がいいなって思って。
楠部:難しいんですけどね、それって。
ウエノ:ヘタなところはヘタなりに出るし、逆に凄いところはもっと凄くなるから。実際、ヘタなところが浮き上がってたりもするし。今回に関しては、そういうのがいいかなって。まぁ、大変だったけどね。
──ヴォーカルなんて、特に大変そうですよね。
PATCH:大変と言うか、リアルな感じがして、おもしろいんじゃない? 俺の声が嫌いな人だったら、より一層嫌いになると思うし。
ウエノ:フンッ(笑)。でも、そういうことだと思うよ。俺のベーアンから鳴ってる音、真也が叩くドラムの音が嫌いだったら、これは相当嫌いだと思う。もうカンベンしてくれって(笑)。
楠部:聴いてると、俺らが演奏してるのが浮かんできてたらいいなって。すぐそこでやってる感じと言うか。それを表現するのって、意外と難しかったりするんですよ。ライヴを観てもらえば話が早いんですけどね。マイクで増幅してるとはいえ、目の前で演奏してるわけだから。それを自分の部屋で聴いた時に想像してもらえれば、凄くいいと思います。聴いてて身体がノッてくる、とか、つい口ずさみたくなるっていうのは、結局はそこから繋がってくるものだと思うから。
──なるほど。
楠部:『GLOW』もいいなって思ったけど、よりパワーアップした感じだと思いますね。ひとつひとつが際立ってて、なおかつ分離もしてなくて、かと言って単に録りっぱなしでもなくて……口で説明するのは難しいんだけど、それができてると思います。
──タイトルも“ALL-OUT”ですからね。これ、“全部出した”ってことですよね。
ウエノ:そうだね。そういう感じでいいんじゃないかな。思いっ切りやったし。
楠部:いつもそうなんですけどね。毎回、すべて出し切ってるので。そういう意味ではずっと“ALL-OUT”なんですけど、今回はこれをPATCHが持ってきたので。
PATCH:短くてカッコいいタイトルにしたかったんですよ。“ALL-OUT”って、“完全に”とか“思い切りよく”とか、“出し切る”っていう意味だったので、いいなって思って。
──オーディエンスの幅を広げそうなアルバムだな、とも思いました。
PATCH:そうね。そうなるといいんだけどね。
ウエノ:まぁ、今流行〈はやり〉の音ではないってことは、間違いないんだけど。でも何か、いいと思うんだけどね。何て言うか、判ってくれなくてもいいと思うんだわ、今日ここで話したことなんかは。でも、これを聴いてもらったら“いいな”って思えるはずだって俺は思ってるし。やっぱり、聴いてもらいたいよね。これを聴いてもらって、ライヴを観て、それでもダメならサヨウナラだけど(笑)。今年はそんな感じかな。来年はどう考えてるか判んないからね。
──判りました。それにしても、Radio Carolineのみなさんはずっと走りっぱなしですね。夏休みとか、なかったんじゃないですか?
PATCH:夏らしいこと、なんもせんかったねぇ。
ウエノ:川越にずっといたからね。【註:今回のレコーディング・スタジオは川越にある】
楠部:レコーディングをやってる時は“あ、今年は休みないな”って思うけど、休みがあってもやることないし。
ウエノ:この前少し時間があって、沖縄にDJやりに行ったんだけど、台風来ちゃって。今年は結局、俺に夏は来なかったね(笑)。
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