孤立してでも独自の音楽と姿勢を貫く
──AURORA始動にあたって、それぞれのバンドで活動していた各メンバーに招集をかけたのはヒデオさんですか?
ヒデオ(b):俺と言うより、ハヤトと俺の2人ですね。
キムラハヤト(vo, g):他人が書いた曲を好きになることは余りないんですけど、ヒデオの書く楽曲が俺はずっと好きで。彼と一緒にバンドをやりたいと前から思っていて、「新しいバンドを始めよう」って言い出すタイミングが偶然にも合ったんですよ。これまでも一緒にバンドをやってきたんですけど、俺は俺らしく、彼は彼らしく素でいられる居場所を作りたかった。より人間らしくいられて、尚かつ音楽も心おきなくできる場所と言うか。それにはタクマの存在も不可欠だったんです。
ヒデオ:もし自分が唄えたら、もし自分がドラムを叩けるなら、この2人のスタイルは近いなと思ってましたから。
ハヤト:タクマとは俺がまだ十代の頃に1〜2年一緒にバンドを組んでいて、その頃から彼はちょっと異質なドラマーだったんです。バンドのいちドラマーっていうよりは、同じ志を持ったソウルメイトとして付き合っていたから、いずれまた必ず一緒にバンドをやろうとずっと考えてました。
ヤマダタクマ(ds):音楽以外のことでも、いいと思えるものが結構一緒なことが多いんですよね。
──“UKサウンドとどこかメロウなメロディを融合した新感覚のロック”を模索するところからデモ・レコーディングを始めたということですが、具体的にはどういった音像を標榜しようと?
ヒデオ:洋楽のニュアンスっていうのも純度100%ではなく、日本で生まれ育った以上は日々の生活のなかで自然と入ってくるものが内包されている。自分達の好きな洋邦の音楽がバックグラウンドにはあるけど、何よりハヤトが唄えばそれだけで新しくやりたいことが形になると思ってました。絶対的なフロントマンの存在があれば何をやってもいいかな、と。
ハヤト:俺もタクマも、根底でヒデオを信じているんですよ。彼の書く曲や趣味志向、感じるものすべてを。だから曲作りも完成が凄く早くて、バンドを始めてすぐに1〜2曲出来た。「ライヴやろうか?」っていう前にデビューも決まって。
ヒデオ:それまで一回のライヴもナシに。何せ、結成したのは今年の春ですからね(笑)。
──初ライヴは8月15日の新宿LOFTで、このインタビューが掲載される頃にはライヴの本数もまだ6回程度ですもんね。
ヒデオ:だから“作られたバンド”とか、ちょっと怪しい匂いを感じ取る人もいるかもしれないけど、本人達は至って普通なんですよ。2曲(「Sally」「シルクシーベッド」)入りのデモCD-Rとレコーディング風景を収めたDVD-Rをいろんな人に送ったら、今のレコード会社のスタッフの目に留まって、そこからあれよあれよと話が進んで。レコード会社とギヴ&テイクの対等な関係が前提にある上で、制御されることなく自分達のやりたいことができるなら一緒にやっていきましょう、という感じで今に至るという 。
──今回発表となるデビュー・アルバム『flag of the kingdom』は、結成から僅か半年とはとても思えない完成度の高さを誇っていますね。
ハヤト:順並びって言うとおかしいけど、今回収録した10曲は単純に出来ていった順なんですよ。曲を選んで収めるってこともしなかったし、出し惜しみするわけでもなく、単純に「(曲が)出来たから(そのまま)出そうよ」って言うか。事前に打ち合わせとかも特にないし、ジャケットや撮影したPVも最初からヴィジョンがちゃんと見えてるから全くブレがないんですよね。
ヒデオ:この3人が持っているロックのイメージって言うと、ギラついていて、生々しくて、ダサいところの一歩前だけど抜群に恰好いいみたいなところがあって、それを割とあるがままに出した感じですね。ナチュラルだけど緻密に計算しているところもあるし、仮に俺達を“作られたバンド”みたいに捉える人がいるならば、こっちからすると“どうぞ”なんですよ。それも3人の計算の内ですから。
ハヤト:何て言うか、“どうしようもない”って胸を掻きむしられるような気持ちになるバンドが最近少ないと思うんですよ。あと、ライヴをやるにも対バンを仲の良い面子だけで固めたり、それで楽しいのかな? と思う。互いのバンドが音楽的に純粋にリスペクトし合っているならともかく、俺はそういう馴れ合いの景色なかでずっと異を唱えてきたから、このAURORAだけは一切の妥協をしたくないんです。
ヒデオ:やっぱり、やっている音楽とその姿勢がすべてですよね。俺達は音楽の部分では絶対にお世辞を言えないですから、友達としては付き合えるけど、その音楽がダメだったら音楽の部分では付き合えないですよね。今ハヤトが言ったことはAURORAの総意でもあって、孤立してでもいいから、自分達の音楽、姿勢を貫いていきたいと思ってますね。
──そうした頑強な妥協のなさは、アルバムの硬質な音にも如実に表れていますよね。
ハヤト:そう言ってもらえると嬉しいです。バンドの初期衝動みたいなものは詰め込めたし、その在り方は間違ってないと言うか。多少荒削りでも全然構わないと思っていて、荒削りならその荒削りさをそのまま見せていけばいいし、そのほうが伝わるし。まず人ありきなんですよね。普段からギラギラしているこの3人がいて(笑)AURORAの音が在るわけだから、そういった等身大の自分達が出せるアルバムになればとは思ってましたね。
妥協を許さぬオリジナリティの確立
──先行シングル「Sally」のような性急でストレートなナンバーがAURORAサウンドの大きな特徴のひとつだと思うんですが、往時のNEW ORDERを彷彿とさせる4曲目の「GYPSY DISCO」みたいな踊れるタイプの曲も今後増えていくと、バンドのレンジが広がって益々面白くなりそうですね。
ハヤト:もう、まさにその気ですね(笑)。今度のアルバムには勢いのある曲達が並んでますけど、今出来ているのは、ちゃんとAURORAのレールに乗ってはいるけどそれとは逸した世界観を持つ曲が多いんです。
ヒデオ:先月LOFTでやった2度目のライヴではもうすでに新曲をやりましたからね。3ピースだからライヴでも同じように表現できる音源にしなきゃ、とは全く考えてなくて、今回のアルバムも3ピースでできる曲が実はほとんどないんですよ(笑)。でも、それでいいって言うか、アルバムの1枚目でAURORAの手の内を全部を見せようと思ったんです。「Sally」みたいなタイプの曲が一番親しみやすいのかもしれないけど、「GYPSY DISCO」や「Rock Flag」のような曲も間違いなく自分達のなかの一部分としてあるものだし、あるものは仕方ない。ロック、ロックって言っても、俺達はJ-POPと呼ばれる日本の歌謡曲ももちろん好きですし、そういう部分も含めて余すところなくすべてを出してしまおう、と。
ハヤト:その感覚がやっぱり信じられるんですよ。このバンドには割と自己中心的な人間が集まっていて、舵取りはヒデオが握って居るんですけど、AURORAとしてやりたいことや方向性はちゃんと彼が判って導いてくれる。「Sally」が聴きやすい云々っていうのは俺達じゃない人達が決めればいいことであって、バンドとしてはアルバムに収めたどの曲に対しても偏りなく愛情があります。
──ヒデオさんの舵取りと3人の共通したバンドの青写真があれば、レコーディングも滞りなく進行していった感じですか?
ヒデオ:そうですね。バンドはメンバーの個性やエゴがぶつかり合ってこそいいものが生まれるとかよく言いますけど、そうなるといつか必ずバンドは終わってしまいますよね。確かにバンドにはそういった刹那的な魅力もありますけど、AURORAには一人一人の個性がちゃんとありつつも、自分のエゴを他人のエゴに乗せることができるんですよ。「自分はこういうことをやりたい」っていう意見があったとしたら、自分のエゴと合体させて、「じゃあ俺がそれ貰っちゃうよ」って積み重ねることができる。それが3人分重なってひとつになっているんです。ハヤトとタクマは俺と同じようにそういう考え方ができたから、AURORAとして一緒にバンドができると思ったんですよね。
ハヤト:それはやっぱり、ヒデオがバンドの軸にいるからだと思いますね。先のことはまだ見えないけれど、ヒデオと一緒にやれば絶対その先に面白いことが待っていることは判ってるから、“その話、乗った!”っていう。信用できる未来がそこに在るからね。自分が詞を書く時にも、ヒデオの書く曲に引っ張られて自分でも予想の付かない言葉が溢れるように出てくるし、手応えが充分にあるんですよ。
ヒデオ:次のアルバムからは100%ハヤトの詞になると思うし、100%俺の曲になって、より徹底化していくと思います。それは事前に話し合わなくても判ってるんです。他のバンドが何年もかけて何枚もアルバムを出し続けた末の到達点みたいなものを、AURORAではまず最初のアルバムで全部出してしまった。これからは外面的にはより“作られたモノ”っぽくなると思うんですよ。ナチュラルになっていくのではなくて、もっと派手でバカみたいな感じになるかもしれない(笑)。
──AURORAサウンドを形容する時に、“UKロックを分母に置いたメロウなグルーヴと切ないヴォイスが特徴的なロック”とかいろんな言い方ができると思うんですけど、アルバムの最後を飾る「Silent Movie」にそれを表すぴったりの歌詞がありましたね。「それは優しくて/なぜか切なくて/それでいて/どこか儚くて」という。
ハヤト:そうかもしれないですね。その曲の歌詞をスタジオで最後に書いてたのかな。サビの部分は凄く簡単な歌詞だけど、そういう簡素な言い方が必要だったんですよ。
ヒデオ:「Silent Movie」に関しては、メロディも詞であり、詞もメロディなんです。俺のアレンジを入れて、タクマは感情の爆発を入れて、ハヤトは唄いきって…アルバムの最後に相応しい曲ですね。
ハヤト:確かに自分が書き上げた曲だけど、俺はヒデオの曲だとも思ってるんです。
ヒデオ:そういうのが成り立つんですよね。俺が書いた詞も、ハヤトの詞だと思ってるから。タクマのドラムも俺が叩いてると思ってるし、そういう感覚はタクマも同じだと思う。
ヤマダ:(深く頷く)
ハヤト:自分が生み出した曲を(2人に)捧げることができるって言うか。PVも撮った「メランコリア」という曲はヒデオが詞もメロディも書いてるんですけど、詞を読んでまさしく自分のリアルな言葉だと思ったし、自分のメロディそのものだと思った。この曲がスタジオに持ってこられた時には、嬉しくて思わずバカ騒ぎしましたね。
ヒデオ:まぁ、ライヴでもバカ騒ぎする祭りソングなんですけどね(笑)。俺がこの曲を持っていった時も、「いい曲でしょ?」「いいねェ!」で終わりですよ。
ハヤト:そうそう。小1時間もかからずにアレンジもすべて終わっちゃうし、メンバー間のミーティングもほとんどなくレコーディングは進めたよね。
ヒデオ:最近は、リハが終わったらみんなでマリオカートをやるのに忙しいからね(笑)。
──これから始まるツアーで得た成果が、次の音源にフィードバックされることもあるでしょうね。
ヤマダ:そうですね。自分達が成すべきことは判ってると言うか、やりたいようにやるだけって言うか。これからいろんな経験を積んでいくだろうし、凄く楽しみですよ。やってやろうじゃないかと思ってます。
ハヤト:うん。ハコの大小に関係なく、それとワンマンだろうが何だろうが、より逸していきたいし、AURORA的スタンダード…妥協を許さないオリジナリティを外側に向けて早く確立したいです。
ヒデオ:仮にメランコリックな部分が10あったとしても、そのなかで1でも2でもいいからAURORAという音楽を通じて幸福な瞬間を感じ取れたらと思いますね。あとは…マリオカートでハヤトに勝つのが目標だな(笑)。
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