東京には魅力的な街がたくさんあるが、中でも個性的で人気がある街の一つが「シモキタ」の愛称で親しまれる下北沢だ。昔ながらの庶民的な商店街に洋服屋や雑貨屋、CDショップや飲み屋などがびっしりと並び、ライブハウスや劇場などの文化的施設も数多く点在するシモキタは、街全体がまるで遊園地のようで、一日中歩いても時間が足りない程だ。
今、その下北沢で大規模な道路工事の計画が進められている。現在の北口商店街をまっ二つに分断するように敷設しようとしているこの道路は「補助54号線」と言われていて、環七クラスの幅(なんと26メートル!)を持つ大きな道路だ。また小田急線が地下化されることに伴い、この54号線から駅前に繋ぐ「区画街路10号線」という道路も同時に敷設されるという。
この大規模な道路建設計画が実現されると、下北沢の街並みは今ののんびりした風景から一変してしまうことが予想できる。大きな道路と駅前ロータリーができることによって車やバスが街中に溢れ、道幅が広がることで高いビルがいくつも立ち並ぶことになるだろう。
下北沢の街をこの大きな危機から守ろうという動きが、現在、下北沢のあちこちで起こっている。もっとも早く立ち上がったのは、街の住民やシモキタを愛する人達から成る「Save the 下北沢」だ。彼らのホームページには次のように説明がある。
“「Save the 下北沢」は下北沢を愛し、街をより良くしていこうという意思のもとに集まった有志の集団です。参加者には地域住民からかつて下北沢で青春を過ごした下北沢愛好家まで、また男女・年齢なども幅広いメンバーで構成されています。近年計画決定された「都市計画道路54号線」を含む下北沢の都市計画が現状の街の良さを著しく損ねてしまうことに危機感を感じ、「下北沢の良さを守り、育てよう!」を合い言葉に2003年11月に旗揚げされました。
「Save the 下北沢」のメンバーは、休日毎に下北沢の街でチラシを配布したり、署名を集めたりといった地道な活動を続け、それまであまり知られていなかったこの道路計画のことが徐々に人々に知れ渡っていくようになる。特にこの街で商売を営む店の反応は大きく、それまで行政側からほとんど説明を受けていなかった商業者達は、世田谷区に対してこの計画の見直しを要求することになった。
下北沢の実に504軒(!!)の店舗の署名を集めた「54号線の見直しを求める下北沢商業者協議会」は、再開発見直しを求める要望書を世田谷区長に提出するアクションを起こした。それがさる1月18日に行われた記者会見と世田谷区役所へのパレードだ。
下北沢シェルターを会場に、商業者協議会代表で、老舗バー「Lady Jane」オーナーの大木雄高氏が記者会見を行い、その後は、世田谷区役所まで計画見直しを訴えるパレードを実施。平日の昼間にも関わらず店舗経営者や支援者が100名以上駆けつけた。
しかし、前々から予告していたにも関わらず、この日、世田谷区長は多忙のため不在。「5分でいいから会ってほしい。いつなら会ってくれるのか?」という質問に対し、区側は「確約できない」というあまりにも冷たい対応に終わった。
「Save the 下北沢」の賛同者であるピアニストのフジ子・ヘミングさんは、この問題に対してこんなメッセージを発している。
「もちろん私には防災から考えた云ひ分はよくわかりません。でも日本人はあまりにも無残で容赦なく、東京のあちこちにまだ残っていた日本独特の魅力ある町々をすでに壊しています。下北沢を銀座や渋谷、新宿のようにして“これで世界におとらない一流の町になった”などと云って喜ぶオヂさん達がたくさんいることを想像しただけで、ゲロがでます。」
今後、下北沢の街がどうなっていくかは、あなたの意志も大きく関係しているはずだと思うのだ。(文責:加藤梅造)
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