君のハートを撃ち抜きたい!
──今回『ルーフトップ』には初めての登場ですが、以前ロフトにライヴ出演された時、音が良かったっておっしゃってましたね。
傷彦(歌とエレキギター):うん、凄く良かった。さすがでしたね(笑)。もう30周年でしたっけ? 僕も東北でずっと活動していて、あのチェック柄の床が凄く憧れでしたね。写真で観ると凄く格好良くて。
──あぁ〜、ビデオとか観てもすぐロフトだって判りますもんね。さて今作はメジャー・ファースト・アルバムですが、先にリリースされたシングル・ムービー「太陽は知っている」「月影ロマンス」(共にアルバム収録曲)のストーリーについて聞かせて下さい。
傷彦:まず、なぜDVD付きにしたかというと、僕達のライヴの楽しさの部分を知ってほしくて、それを1曲の中に凝縮するためにはライヴ映像じゃなく、ストーリー仕立てのものをやってみたかったわけなんだよね。「太陽〜」のテーマは“愛のために闘う”。僕、傷彦が奪われた恋人を助けに行くストーリーで、最後は愛の力で敵、味方関係なくみんなで一緒に楽しもうぜっていうふうになっているね。
──ですね、映画のような映像で何度も観たくなりますね。「月影〜」はいかがですか?
傷彦:今度は西部劇。それまで“夕陽のガンマン”っていうツアーをやっていたのもあるし、「月影〜」って曲自体が“変身”をテーマにしていて、臆病な男の子が月の光の力を借りて、好きな子に告白しに夜の街を走っていくっていう曲なので。ストーリーとしては、一度は破れて村を追い出された僕、傷彦が、強くなって帰ってきて月の下で対決する。西部劇は単純にやってみたかったんだよね(笑)。
テッド(歌とエレキベース):傷彦が「やりたい」って言ったんだよね(笑)。
──結構、形とか格好から入った感じですか?
傷彦:う〜ん、何て言うのかな。「君のハートを撃ち抜きたい!」……そこかな。
──あははは! 進化した部分はどんなところでしょう?
傷彦:僕達なりの変化っていうものがあって、ある意味「太陽〜」より「月影〜」のほうが、ポップな曲として出した部分がある、ある意味ではだけど。あと、普通のミュージシャンだったら簡単にやることなんだろうけど、「月影〜」にはアコースティック・ギターが入っているんだよ、初めて。そこって結構大事なのかな、みたいな(笑)。曲のテーマにも合うしね。今回アコギはテッドが弾いてる。
テッド:アコギはね、ホント難しい。僕らずっとエレキでやってきたんだけども、あれだけ生で、指に感触を感じてそれが全部音になっちゃうんで。僕はベースなんですけどギターの気持ちが判ったっていうか、今後に向けてもいい方向に進んだなと思います。いろんな楽器やってみたいな。
傷彦:凄く些細なことなんだけど、自由度がだんだん増しているってことが一番大事。
──演技の面でも高度になってきてますしね。爆破シーンはどんなでした?(笑)
ヒザシ(歌とエレキギター):熱かったね、あれ(笑)。「何度も取り直すと痛いから一発で決めよう!」って、ホント一発撮りだったよね。
ヨースケ(ドラムス):「月影〜」のPVは、野外で真夜中の撮影だったんですよ。夜の冷え込みがハンパなくて。でも冷え込むと集中力が高まるから凄くいい撮影だったし、短時間で濃くていいものが撮れたんじゃないかなと思います。
本当に生きている僕達に触れてほしい
──それではアルバム『失神最前線』の話を。初音源化の曲も結構ありますが、みなさんにとっては温めてきた13曲って感じでしょうか?
傷彦:そうだね、結成してから4年の集大成っていう部分はあるね。『失神最前線』というタイトルはギリギリで僕が考えたものなんだけど、今思えば凄く示唆的で、このアルバムは“最前線への招待状”なんだと思ってる。僕達の居る現場の空気、つまりはライヴ会場、それが最前線。それを伝えたくて作ったアルバム。とにかくライヴ感、あと極力このメンバー4人だけで、このメンバーにしかできないロックンロールを作りたかった。ライヴで観たような臨場感が欲しくて、でも「これは入り口なんだよ」っていうことも含め、“招待状”だっていう感じかな。
テッド:個人的には「恋はガラスの万華鏡」が凄いです。この曲の凄いところは、声がもの凄く前にある感じがするんですよ。僕、男なのに傷彦の声の色気的なものが凄いなと思ったんですよね。僕も気持ち良く歌えたし。この曲は勢いがあるんですよ、それと凍りつくような冷たさが凄くよくできたなと。
──「砂浜ラブレター」に次ぐ テッド:さんの歌声披露ですね。ヨースケさんはいかがですか?
ヨースケ:俺は最近凄く表現する時に何が一番大事かを考えていて、その時その時の初期衝動的なものとか、嘘のない感じが凄く好きなんですよ。『失神最前線』というアルバムにはその時やりたいことが詰まってて、俺はパンクもロックも好きだし何でも好きなんだけど、キャプテンズの音楽が一番好きだAE蹶よってことが凄く入ってるものができたと思うんで。「これをやりたかった」っていうこととか、リアルなことを大事にしていきたいなと思います。
──その“嘘のない”って形を言葉にするならどんなものですかね?
ヨースケ:リアルとか、初期衝動とか、気持ち的にですね。みんなそうなんでしょうけど、「これは他の人にはできんぞ!」というものをキャプテンズは特にやってると思います。
──徹底した世界観を持ったエンターテインメントであって、ロックとしてもアートとしても楽しめますもんね。笑える部分もあったり。
傷彦:ここまでコンセプチュアルにやってきて、元々グループサウンズから出発しているから、アルバムについて考えた時、“僕らのありのまま、裸のロックンロールを見せるだけでいい”っていう結論だったんですよね。でもね、リアルタイムに生きている僕達は日々変化しているから、本当のリアルを感じられるものはライヴでしかなくて、そこにジレンマはあって……。でもCDの中にも僕らを詰め込んでいきたいから“招待状”っていうふうになるんだよね(笑)。だから本当に生きている僕達に触れてほしいな、とは常に思ってますね。
僕達は出発点からも目を逸らさずに、
日本人にしかできないロックを携えて世界に対峙している
──今回のアルバム・ジャケットのアイディアはどんなところから?
傷彦:これも“今、僕達が生きている証”っていうテーマがある。今まではそれこそコンセプトがあってカッチリ決めて、っていうのをずっとやってきて、今でもそれは信じているんだけれども、それはともすればファンタジーの世界の住人じゃないかと思われる危険性があるんだね。それは判ってはいるし、それでもやっぱりグループサウンズってああいうものだからってやってきたんだけど、僕達の中でも変化があって、「僕達はグループサウンズをやっているけど、今生きているロック・バンドだ」っていうことをもっと外側でも表現したいってずっと思ってた。もっと直接的に、パッと見で判ることが大事だと思ったんですね。だからこういうジャケットになった。ロックンロールの出発点が西洋のものだっていうことがありますよね。もちろん僕達はブリティッシュ・ロックを中心に凄く大きな影響を受けていて、その出発点を表したかったっていうのがあって。モッズ・スタイル、パンク・スタイル、グラム、ニュー・ロマンティックみたいなもの、イギリスで生まれた代表的なジャンルを配置してみて、もちろんそれだけじゃないんだけど、そういうものを経て僕達は日本人にしかできないロックに到達してるんだよっていう。西洋のロックが日本的ななまりを経てグループサウンズになったように、僕達は今現在、出発点からも目を逸らさずに、日本人にしかできないロックを携えて世界に対峙しているんだよ。結果、僕が意図していたよりも、もの凄くグループサウンズっぽいジャケットになったなと思ってます。
──パンチのあるジャケに仕上がりましたもんね。レコーディングのほうはいかがでした?
ヒザシ:ギターは悩むよ〜。鍵盤がないぶんギターにかかってくるので、だいぶ構成を練りますね、苦労します……。
──GSでもロックでも、参考にしたり影響を受けたアーティストはいますか?
ヒザシ:影響を受けたというか、好きなのはディープ・パープルのリッチー・ブラックモアとか、あとザ・モップスの星勝さんのギターは洋楽に匹敵するくらい格好いいなと。意識はしてないけど、あの辺のエッセンスは出ているかな。
テッド:僕は(ザ・ゴールデン・カップスの)ルイズルイス加部さん、もの凄く好きです。あの人も僕と一緒でギター出身のベーシストで、もう“全部に勝ってやる”くらいの押しの強いリフと音、あれは結構影響を受けましたね、ホント大好きで。僕の中で常にベースのあり方があって、耳で捕らえる部分って凄い大事なんですけど、ベースにしかできない身体で捉えるものがあると思ってて、そのお陰で人が踊れるっていうのが凄く大事だと思ってるんで、そこには気を遣ってます。
ヨースケ:好きなアーティストはいますけど、俺は自分のドラム、自分から出てきたものを信じたいっていうのがありますね。
傷彦:グループサウンズのヴォーカリストは非常に魅力的な人が多い。マチャアキ(堺正章)、ショーケン(萩原健一)、ジュリー(沢田研二)っていうグループサウンズの中でも最も有名なこの3人、素晴らしく思うし影響を受けている。ザ・ダイナマイツの瀬川洋さんの声も素晴らしいですね。洋楽ももちろん聴くからジョン・レノンみたいに歌ってみたいとか、デヴィッド・ボウイみたいに歌ってみたいとかいう欲求もあるけど、やっぱりグループサウンズっていうのは日本語に合ってる歌い方だと思うね。自分の声の幅もあるしね。
──ヴォーカルはもうスタイルが確立されてますよね。今回、ゲスト・プレイヤーなどは?
傷彦:「恋のゼロハン」だけですね、中シゲヲさんのギター・AE蹶ソロ。
ヒザシ:音を一発出した時のトーンがね、もう「うん、納得」。本当に素晴らしかった。今聴き返しても、金属的な「弦叩いてるぜ」っていう、僕が感動した音がそのまま詰まってるんで是非みんなに聴いてほしいです。でも中さんを尊敬してるけど悔しいって思う部分もあるからね、負けないようにやるぞ〜中さ〜ん! 色々得るものがありました。
──得たものを自分にどう生かせそうですか?
ヒザシ:う〜ん、まずは猫背かな(笑)。スタイルから。
僕達こそが王道なんだよ
──オフィシャル・ホームページのほうに、激動の去年1年で少し見失ってた部分というか、心がすり減って愛さえ疑うことがあったという内容のことを書かれていましたが……。
傷彦:僕達はずっと変わらない姿勢でいる決心をしてやってきたんだけど、単純にスケジュールがハードになり、その中で生活も変わるから見失うものがあったんだと思う、今思えば。その時は気づかなくても、どうしたって消費されちゃうんだね。愛をずっと歌ってたつもりでも、本当の愛が何なのか、……今も判んないんだけどさ、(去年12月の)仙台ワンマンではそのヒントを凄くもらった感じがした。最近凄くそれに気づいたんだ。音を録っている時はまだ今よりかはファンタジーでいたかったのかもしれない。でも、いいアルバムができたし、もちろんこれを否定するわけじゃないからさ。ここから発展していきたいと思っているしね。
──その言葉を聞いて安心できました。正直生身の人間だってことを忘れそうになる部分があったんで、今後の動向にはさらに期待しちゃいます。GSだけに幅広い年代の人に判りやすいベーシックなメロディがあるわけですが、そこに現代版の装飾をしてる感じもあるんですかね。
傷彦:僕達はただ、最新型のグループサウンズでありたい。もっと言ってしまえば、この世にいる日本のバンドは、全てがグループサウンズだと僕は思っている。
──根っこの部分は。
傷彦:そうそう、スタートはそこだから。その中で僕達だけが堂々と「グループサウンズだ」って言えているのは凄く大事だと思うんだよね。「最新型のグループサウンズだ」って言ってるのに恥じない曲を作ってライヴでやっていくだけだね。
──どんなところが60年代のGSとの一番の違いだと言えますか?
傷彦:もちろんサウンドは違う。でも愛を歌う、ラブソングだけを歌うっていう精神的な部分は一緒だよね。グループサウンズっていうものは、当時流行ってた時は凄くミーハーなものだったと思うんだよね。つまりそれが最新型のロックだったと思う。それを僕達はやりたいだけ。今の時点の僕達の曲にはその違いはまだ見えないかもしれない。サウンドにもっともっと僕達の思想が表れた時に、その違いがはっきり見えるものだと思ってる。今はまだ偉大なグループサウンズの先人が作った道を、僕達が「最後のグループサウンズです」って言って歩いてるように見えると思うんだけど、そうじゃない、たぶん“切り開く”ってことはもっと違うことだと思ってるから、そこまで到達した時にはもう凄いことになる。
──例えば今ならではの言葉や昔なかった言葉も、今は歌詞に使えたりしますよね。
傷彦:普遍的なテーマはそこにあるからね、そういうものを持ってきたりすることもあると思う。ただそこにもリアルは必要なんだよ。根底にあるものは一緒でも、そこにまつわる現代風俗みたいなものがどうしても違うから、そこを無視して歌ったらそれはただのファンタジー。ファンタジーが必要な時もあるだろうから、そういう曲も作ってはいくだろうけど、僕はたぶんそこだけには行かないかな。
──もうちょっと地に足がついた感じなんですかね。形、フォーマットとしてのGSはやっぱりこだわりではあるんですよね?
傷彦:その精神性ですね。グループサウンズは日本で最初に生まれたロックンロールだと思ってるんですよ。ザ・スパイダースが「フリフリ」っていう曲でデビューするまでは、職業作曲家と歌い手は完全に分離していた。それを一つにした瞬間っていうものが、日本のロックが生まれた瞬間だと思ってるんです。そういう原始のロックを僕達は受け継いでいるんだよ、そしてもう1点大事なのは“愛を叫ぶロック”だっていうこと。この世で一番大事なもの、愛を。だからその2点において、もの凄く日本ロックの王道だと思っていて。僕達はよく色モノだとか不思議なことやってるねって言われるけど、そうじゃなくて、僕達こそが王道なんだよってことが言いたい。形も思想が表れるものだから大事なんですけどね。
今後もっと必要なロックを取り出せる
──GSという形を借りながらも、凄く今日性の高いロック・アルバムで、いわゆる王道なものに仕上がっているのが面白いでよね。
傷彦:そのギャップさえも面白いってことなんでしょうけどね。僕もグループサウンズっていうのは、懐メロであり歌謡曲だとばかり思ってた。でもある時「フリフリ」とザ・ダイAE蹶ナマイツの「トンネル天国」を聴いた瞬間に、「これは世界にも誇れるロックンロールだ! どうして誰もここに目を向けないんだろう!?」と思って始めたバンドだったんで。
──最初は外見の印象から入られてしまうのかなと思ったんですけど、現場に出てみるとお客さんだったり対バンだったり、その反応はすんなり“いいものはいい”って縛りなく素直に判ってくれてると思いますよ、やっぱり音は王道だし。
傷彦:だとしたら凄く嬉しいよ。どうしてもグループサウンズのイメージ自体が非常にマニアックであったりアンダーグラウンドなものであったりして、本当のリアルタイム、60年代以外は凄く下に潜ってたシーンだと思うんですね。一瞬“ネオGS”っていうのはあったけど、それでもアングラだったと思うし、それは今もそうだし。でもそれが王道であった、日本で一番ポップだった瞬間があるジャンルなんだよっていうのは、みんなまだ気づいてなくて、そこを僕達はやるべきだと思っていて。何かの瞬間に僕達が一番ポップになる。その手始めとしてこのアルバムは凄くいいんじゃないかな。
──で、さらに今現在のみなさんは、また先に進んでいるわけで……。
傷彦:今作っている曲はもっと広がるものだっていう確信があって。アルバムは集大成と言っているから、まだ閉じている中でのロックなんだよ。それでも凄く自信があるし、それは絶対やるべきもので、今の日本に必要なロックではあるとは思っているけど、僕らは今後もっと必要なロックを取り出せる。それを信じてほしいっていう提示でもあるね。
その時々の愛を真剣に考えて向き合っていくことが必要
──それでは最後に今年のビジョン、抱負などをお聞かせ下さい。
ヨースケ:今年が始まった瞬間に思ったんですけど、毎年毎年1月1日って気合いが入って「今年はこうしよう」って思ったりするんですけど、今年はあえて考えなかったんですよ。自分が生きてるふうにしかならないし、そこに向けて頑張ることはできるけど、人生に重く何かがのしかかってくるのは嫌だったんで、目標はあるはあるんですけど、今年の始まりにあえてそれを打ち出すことをやめて、ナチュラルに生活がしたいなと。そう思う中でも僕達はロック・バンドですから、格好いいライヴがやりたいっていうところに尽きますね。
ヒザシ:僕は今年は資格を取りたい。と、思って今チャレンジしてるのが“パズル検定”! 真っ白いジグソーパズル。宇宙飛行士の訓練にも用いられるくらい集中力と忍耐力が要るものだから、自分のギター・プレイにもそれを取り入れたいなと。集中力と忍耐力と発想力。真っ白なパズルに何を見るか、これですよ、今年は!!
テッド:GSを色々聴いてきて、グループサウンズの面白いところとして歌謡曲みたいな部分であったり、と言いつつもザ・ゴールデン・カップスみたいに日本で初めてのR&Bをやっていたり、何でもできるんだなと思っていて、キャプテンズもそういうふうになれると思ってて。ベースの面もそうだし、バンドの面でも唯一無二のバンドにしたいと思っていて、今はそれがライヴなのかなと感じてます。人が目の前にいる中でどれだけ成長できるかですね。
──GSと謳うことで、一見他からみたら縛りがあるように感じるかもしれないけど、実は自由で何でもアリっていうことなのかもしれないですね。
テッド:うん、そうだと思いますよ、ザ・モップスとかもそうだしね。
──では最後、傷彦さん麗しく締めて下さい。
傷彦:今年のテーマは“愛”です。去年とはもちろん意味合いが違っていて、その時々の愛を真剣に考えて向き合っていくことが必要だなと思ってます。だからもっと愛し愛されるバンドになりたい、今年は。そう思ってます。
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