とんでもない物が出来ちゃいましたよ
──今回、何でライブアルバムを出そうと思ったんですか。
イノマー:本当は去年のうちに一枚オリジナルアルバムを出す予定で、もうレーベルも発売日も決まってたんですけど、去年はプライベートが色々と大変でそれどころじゃなくって、曲が全くできなかったんですよ。同じ頃にロフトレコードからも「オリジナルアルバムが出るんだったら、その前か後にライブアルバムを出しましょうよ」って言われてて、じゃあつながるからいいかなって思ってたんだけど、結局ライブアルバムだけになっちゃったという。だから特にライブ盤を出したかったって訳ではないんですよね。
──大体、オナマシのライブを録ったらどうなるのかって想像つきますからね。
イノマー:オレも周りもわかってますからね、ロクな事にはならないっていうのは。案の定、とんでもない物が出来ちゃいましたよ。
──他のメンバーはこの日のライブがCDになるっていうのは知ってたんですか。
イノマー:ガンガンはそういうの気にするタイプなんで言っておいたんですけど、オノチンは言うとイヤだって言いそうだったから内密に事を進めましたね。レコーディングするっていうのも当日「一応今日は録音するから」くらいに曖昧に伝えたんですよ。だから多分、オノチンはライブレコーディングした事すら覚えてないだろうし、CDが出ることすらわかってないんじゃないかっていう。しかも、初回特典としてオノチンのモノマネと滑らない話がCDとして付いてくるんですけど、その特典CDについてもオノチンにまだ話してないし(笑)。ビックリするんじゃないかな、コレ出たら。
──何にせよ、おしっこ風船投げたり、ローションかけ合ったり……あんまりライブアルバムになる事を想定してないライブでしたよね。
イノマー:音だけですからね、何が起こってるのかさっぱりわからないという。
──ライブ中に大量のキャベツが出て来たのとか全然意味わからなかったですよ。
イノマー:オレも最後まで意味わからなかったですね。仕方ないからずっとベースでキャベツ潰してましたからね。保険みたいなモンで、何かあった時にキャベツとかネギとかあったら便利かなって思ってたんですけど。
──あるのはいいんですけど、量があり過ぎなんですよ。
イノマー:20玉とかありましたからね、もったいないですよねー。ステージ上、青臭〜い青果市場の匂いがしましたもんね。まあ、野菜とか撒いとけばパンクかなっていうのはあるじゃないですか、そういう世代ですからね。
──あそこまでやらせてくれるライブハウスもなかなかないですよね。
イノマー:ラママのスタッフは、ウチのライブの前にはまずブルーシート敷いて、警報機をカバーして……わかってるよなーって、ホント良くできた嫁さんみたいなモンですよ。
──終わったらキャベツ拾って(笑)。
イノマー:後片付けは大変だと思いますけどね。でもウチもその辺は気を遣ってて、前は小麦粉を使ってたんですけど、小麦粉とローションが混ざると取るのが大変らしいんでパン粉に変えましたから(笑)。値段も若干安めだったんで。ウチはライブやるだけでローション10本とか、ティッシュだってボックスティッシュを10個、それにパン粉だキャベツだって結構経費がかかるんですよね(笑)。ビニールシートも、ローション入れる用のバケツも自前ですからね。バケツは「オナマシ」って書いて常にラママに置いといてもらってるんですよ。ライブ前はそこにローション入れて、ラママの控え室のシャワーでローション作って(笑)。
──ああ、お湯がないと出来ないですからね。
イノマー:冷たくなっちゃうと寒いんで、温度の調節も難しいんですよ。オノチンが結構温度にうるさいんで。ライブ終わった後に「今日の冷たかったよ」って。
──ローションのダメ出しが(笑)
オナマシ学園
──発売日もよりにもよって2月14日ですけど……。女の子からバレンタインにこのアルバムをプレゼントされたら理解に苦しみますよね。
イノマー:でもいいんじゃないですかね、好きな男の子にオナマシのCDをプレゼント(笑)。……意味深ですけどね。でも、せっかく発売日を2月14日に設定したのにレコ発でチョコをプレゼントするとかも特にないし、何の企画もないんですよね。ただバレンタインに発売ってだけで。昔は発売日とかも色々考えて決めてたんだけど、もうどーでもよくなっちゃいましたね。夢も希望もないですよ。
──でも、とりあえずイベントは大事にしますよね、クリスマスとかバレンタインとか。
イノマー:さみしいじゃないですか、何もないと。こんなヒドイ毎日を送ってて、クリスマスにまで家でオナニーして酒飲んで普段と変わんなかったら、たまんないじゃないですか。だったらせめて自分のイベントとかやって用事入れておいた方が言い訳になるんで。
──あ、自分のためにやってるんですね。
イノマー:無理矢理周りのみんなを付き合わせてね。なんか、ライブやる事よりもお客さんを見てる方が面白いんですよね、色んな変なヤツらが来てるから。そいつらを見に行ってるっていう感覚も強いのかな。
──オナマシのお客さんって、どうしたいのか良くわからない人が多いですよね。モテモテ系のバンドだったら、「目立ってメンバーにお持ち帰りされたい!」みたいなのがあるのかもしれないですけど、オナマシのお客さんって、強烈にステージに向かってアピールはしてくるんだけど、「で、どうされたいんだ?」っていう。
イノマー:不安ですよ、彼らの未来が(笑)。コスプレしてる人もいるし、オレより先に脱いでる人もいるし……まあ、ああいう人たちが集まれる場所って必要だと思うから。普段からそんなにライブに行くような人たちではないような気がするし。……だから、特殊な塾みたいなもんですね。オナマシ学園ですよ。
──普通のライブみたいにワイワイお客さん同士がコミュニケーション取ってるっていう感じでもないですしね。
イノマー:一人でライブに来て、一人で観て、帰りに山手線の中で一人で『シガテラ』読んでそうな人たちばっかりですよ。ボクもそうだったんですけど、昔は一人でライブ行って一人で帰るって言うのが基本でしたからね。別にそこで知り合いが出来るなんて事もないし、ましてやバンドの打ち上げに出るなんてあり得なかったし。ある意味健全ですよね。
──ストイックですよね。ホント、音楽だけ聴きに来てるっていう。
イノマー:しかも音楽を聴きに来てるっていうか、オナマシなんて音楽ですらないですからね。よく言えばストイックだけど、悪く言えばワガママで自由ですよね。
──オナマシのライブで知り合って付き合うとかあるんですかね。
イノマー:どうですかね〜。もしかしたらそれがきっかけで結婚まで行くカップルもいるかもしれないですからね。でも結婚式で「新郎と新婦の出会いは……」とかいう話になったら、オナニーマシーンのティッシュタイムですからね(笑)。ヘタにデリヘルとかテレクラで出会ったって言うのより恥ずかしいですよ。……でも、そういうのもあるといいな。
──でもオナマシを観に来ている女の子はいいですよ。自分が高校生だった頃なんて、腕振り上げて「オナニーオナニー」言う女の子がこの世に存在するなんて思ってもみなかったですからね。
イノマー:逆にボクがひきますからね。でもそういう子たちはかわいくってしょうがないですよ。
──今回のライブアルバムにそういう声が入っちゃってて、後で後悔しないといいですけどね。
イノマー:しかもライブに来てた人の名前をジャケットに入れちゃってるんで、もっと後悔しますよね、きっと。
ウチはステージ上が一番立場が低い
イノマー:でもまあ、ライブ盤はライブ盤でいいですよね。だから普通のアルバムも、新曲が10曲くらい出来たら変にスタジオに入って録るよりも、ライブで録って出しちゃった方が楽なんじゃないかと思いましたけどね。演奏グダグダだろうけど。オナマシも六年目とかになるのに、オノチンは未だに「ドーテー島」のイントロ弾けないんですよ(笑)。今回のライブ盤を聴いてたら案の定イントロが抜けてましたから。
──オノチンさんは曲が始まってからコードを探り探り弾いてる時ありますからね。
イノマー:オノチンはコード知らないですからね。だってライブの前に、オノチンのセットリストには曲名の横に「曲の始まりがEで……」とか書いて渡してますからね、それでも弾けてないから(笑)。でも、なんか海賊版っぽくていいんじゃないですかね。まともなライブ盤というよりは、テープで売ってるヤツみたいな。前にも、オノチンが自分のギターソロの間にチューニング始めちゃった時があって、アレ面白かったなぁ〜(笑)。アレも入れたかったな。初めて見ましたよ、ソロの間にチューニングするギタリストなんて。
──律儀なのか律儀じゃないのかわからないですよね。
イノマー:そんな音程気にしてる場合じゃねーだろって。でも、横にオノチンがいると見てるだけで楽しいですからね、ボクは。世界で一番好きなギタリストだし、彼と一緒にやれるっていうのは幸せですよ。そうじゃなかったら一緒にやってないですよ、あんなめんどくさい人。『恋のABC』を出した時、The ピーズのハルさんに「イノマー、いいギター見つけたね」って言ってもらって嬉しかったんだけど、ホントその通りだと思いますね。オノチンがもしいなくなったら、代わりのギターをどうするって言われても、頭がおかしい外人とかしか想像出来ないですからね。
──ギターがすごい弾けて、チンポを出せるっていう。
イノマー:「チンポ出せる外人募集」みたいな。
──外人が脱いだらちょっとひきますけどね。
イノマー:デカイからね。
──でもそういう意味ではドラムもそうですよね、チンポを出してても怒らないドラムって貴重ですよ。
イノマー:そうですね、ガンガンもいないと。やっぱドラムだけは上手くないとどうしようもないですからね。これでドラムもメチャクチャだったら収拾つかないですから。悪ふざけは三人中二人でいいのかなって。一人は申し訳ないけどプレイに徹してもらって。
──イノマーさんとオノチンさんが前であんだけやってる中、ガンガンさんが黙々と叩いてる姿はすごい面白いですよ。
イノマー:途中、ドラムの個人練習みたいになってますもんね。申し訳ないなとは思うんですけど、オノチンの着替えの時間が長いんで……。
──脱いでるだけじゃないですか(笑)
イノマー:でもガンガン、ストリートロックファイルの「好きなドラマー三位」に入ってましたからね。オノチンはギターの四位とか五位に入ってて、ボクはベースにもボーカルにも入ってないんですよ! アレ、むかついたなー。なのに「フラれてばっかりいそう」とかは一位だし。まあ、それでいいんですけどね、ボクの立ち位置的には。
──ライブでの客席とのコール&レスポンスとかでも完全になめられてますからね。
イノマー:ウチはステージ上が一番立場が低いですからね、……平均年齢41とかなのに。これでさらに10年経って、50歳とかになっても全く同じ事やってたらすごいですよね。
──それはストーンズよりもすごいですよ! ある意味。
イノマー:大概バンドって30、40とかになると自分のルーツミュージックに帰依して、ブルースに走ったりとかレゲエに走ったりとかしてくじゃないですか。ウチは頼る物がなんにもないですからね。
──だからルーツのオナニーに走っちゃうわけですね。
イノマー:そうそう。これで60とかになってボケちゃったらもっと大変ですよ。……不安ですね、老後は。年金も払ってないし。「アリコ」とか入った方がいいのかなぁ。
──その辺は気にしてるんですね。まだ香酢とかも飲んでるんですか。
イノマー:やずやの香酢と、亜鉛と、ウコンと、アトピーの薬も飲んでるし……調子悪い時はキャベジンとかも飲んでますからね。
──ある意味ドラッグ漬けですよね。
イノマー:「オナニー、ドラッグ&ロックンロール」っていうオナニーマシーンのライフスタイルを提唱していきますよ。でも、やずやの香酢って一粒がデカイんですよ、飲みにくいんでもうちょっと小さくしてもらいたいんですけどね。その辺はオナニーマシーンのスローガンとして訴えたい所ですね。
──そんな事を訴えてるバンドなんていないですよ。まあ、今後も健康に気を遣いつつ……。
イノマー:それしかないですよね、これからは。とにかく生き延びるっていう。十代の子とかはシド・ヴィシャスに憧れて、「オレは22才までに死ぬんだ」とか言ったり、死へのちょっとした憧れとか持ってたりするけど、もうここまで来たら、どんだけ長生きするかっていう事しかないですからね。
──もうシド・ヴィシャスの倍くらいの年齢ですからね。
イノマー:だから食べ物とかにも気を遣って行かないといけないのかなって、バランスのいい食生活を考えてますよ。
もっと酷いバンドにしよう
──イノマーさんは、最近では「イノマー万博」っていう企画もやってますが、これは「無名の新人バンドを発掘してやろう」みたいな気持ちがあるんですか。
イノマー:「発掘してやろう」みたいないやらしい気持ちよりも、若い友達と知り合いたいっていう感じですね。面白い人はいっぱいいるから。2月11日にラママでこのライブ盤のレコ発ライブをやるんだけど、その日もAPRICOTと、でぶコーネリアスっていう今大好きな若いバンドに友情出演っていう形で出てもらうんですよ。だからオレの出会いの場というか、ハッテン場みたいなもんですよ。最近は男と付き合ってる方が楽でいいですから。もう恋愛とか愛とか恋とかどうでもいいっていう感覚になりましたね、それだったらもうホモになろうと(笑)。男同士でバカ話してる方が楽しいですからね。
──しかし最近、付き合う相手がどんどん低年齢化してますよね
イノマー:普通にライブ行ったりすると、高校生に「よー、イノマー」とか言われてますからね(笑)。
──小学生と遊ぶ中学生みたいなもんですよね。
イノマー:同年代に相手にされないから(笑)。……イヤだな、それ。でも、確かに同い年とかに友達いないな……オノチンくらいだもんな。同窓会とかも誘われないし、……もう40だもんな。ヤバいな、初恋の同級生とかももうババァですもんね。
──もう熟女ビデオの年代ですからね。同級生の男も「レオン」とか読んでるんじゃないですか。
イノマー:ああ、チョイ悪オヤジ。まあ、オレもチョイ悪ですけどね。肝臓とか相当悪くなってますからね。ガンガンも腰悪いし、オノチンも内蔵とか結構キてるから、チョイ悪バンドですよ。
──このアルバムもチョイ悪なアルバムです<慍しね。
イノマー:……しかしこのアルバム、誰が何のためにいつ聴くのかわからないですよね。彼女が来た時にかける訳にもいかないし、車の中で流すような音楽でもないし、家族と一緒に聴くでもないし……。ホントに一人でベッドの中でヘッドホンしてこっそり聴くとかしかないですよね。しかもよしゃあいいのに変に長いですからね。
──ジャケットも全裸の男たちですからね。
イノマー:ボクのヘアーも出てますね、ちょっと。
──もうそれ、部屋に置いておくのすらキツイですよ。
イノマー:今までは実はボクも大人として、「これは作品であると同時に商品だ」っていう気持ちもあったんで、ジャケットは必ずイラストにして買いやすいように……とか色々考えてたんですけど、もうどーでも良くなりましたね。ハードルを思いっ切り上げて、それで精鋭たちが残ってくれればいいかなと。もうマスに訴える気はさらさらないですね。
──CD屋のレジとかカワイイ女の子がいたりするじゃないですか。そこにコレを持って行くのはセクハラですよ。
イノマー:でも、それぐらいの十字架を背負った上で、買って聴いて欲しいですよね。やっぱり恥ずかしい物を買うっていう行為をやっていかないと。これからもどんどん買いづらくして行こうかなと思いますね。100万枚とか売れるバンドはそういう事を気にするべきだと思うけど、そうじゃないバンドは、無茶苦茶な事やった方がいいですよ。もう、もっと酷いバンドにしようと思ってますからね。これから体力も落ちてくるし、見た目も老いていって、……歳をとるって事は、知識とか色んなことは増えていくのかも知れないけど、生物としては落ち目ですからね。もう、カッコイイ事だとかオシャレな事だとかスマートな物を求めちゃダメだと思うんですよ。逆に病気とか借金とか色々抱えながらバンドを無理矢理やって行った方が面白いんじゃないですかね。そっちの方が濃い物を出せる気がするし。腹に人工肛門つけて歌うっていうのもいいじゃないですか。「バンド=音楽をやる」っていう理念で考えていったら、絶対何年かやってたら煮詰まっちゃうから。ただ中年が三人集まって単なる悪のりをやってるって考えれば長続きするんじゃないですかね。もう素人の一発芸みたいなもんだから。まあ、ロフトレコードには悪いけど、まだまだ付き合ってもらいますよ(笑)。ルーフトップをご覧の皆さんも、このアルバムを買うのは恥ずかしいかも知れないけど、人間時々は「自分に辱めを与える」っていうプレイも必要だと思います。是非、アマゾン.comとかで買わないでCD屋のレジに持って行って下さい!
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