コミュニケーションのロックをやりたい
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未知の生物を見るような不思議な視線を平野に送るサンボ。その心根はいかに? |
平野:僕はサンボマスターのアルバムを聞いて、今日本の青年達が抱えてる不安とか焦燥感がジンジン来るんですよ。しかしそれがどこにいこうとしてるのかが見えない。見えてない焦燥感があれだけのサウンドエネルギーになっているんじゃないかっていう感覚はあるんですけど。
山口:僕が平野さんと決定的に違うところは、まず心ですよ。インナーミュージックがやりたい。僕は西洋的な考え、恩恵をいっぱい受けてるし、尊敬もしてるところいっぱいあるけど、やっぱりインナーなものから調和とか東洋的なことができないかなと。しかもロックンロールで。だって今回のアルバムのコンセプトもそうだけど、日本人って桜見てセンチメンタルな気分になったりするじゃないですか。それってすごく素敵なことだと思うし。僕の今の結論で言うならば、コミュニケーションのロックをやりたい。もっと言えば、平野さんたちの世代は僕らのことをコミュニケーションが取れないって言うけど、俺から言わせれば「あなた達こそなんか取れたの?」って言いたいの。ひとつひとつの問題っていうよりは、僕らが抱えてる時代の不安であるとかロックが歌うべきなんじゃないかと思うんですよ。
平野:日本でも約40年近くたってて、世界でも50年近くの歴史を経ているロックがここまで長生きして、今まで僕らはロックは楽しければそれで素敵じゃんって言ってたのが、これだけいろいろ世界が流動化していって、それぞれのミュージシャンの立ち位置がある中でロックが何を目指そうとしているのか。そこを見ていかないと、ロックの最先端にいるのは難しいと。
山口:平野さんはただロック聞けばいいじゃんって思っていたのですか?
平野:僕ら「政治季節の時代」の中で育ったから、そこをずっとひきづってきて「ロック=反体制」とか反逆とか反権力とか、どうしてもぬぐい去れない世代なんだよね。
山口:ところが近年はそれが言えない空気だったとか。
平野:そういう政治や社会問題の話をするのがダサイじゃんっていう歴史がずっとあったんですよ。ロックは聴けばいいと。しかし今やロックも話す時代に来た。学ぶことも必要。僕らが若い時代に聴いていたジャズのソニー・ロリンズやコルトレーンは黒人解放運動やブラックパンサーなんかを応援していた。僕はロリンズが好きだった。彼の音楽を通してロリンズとはどんな生活をしてるのか。どんな意識を持ってるのかっていうのは好きだったらどうしてもいろいろ彼の思想的側面とか知りたくなるじゃないですか。そこで始めて第三世界を知ったり。そういう世代だからジャズがフュージョンになってロックとジャズの融合だみたいなのはちょっと待てよって。いやだな…って。
山口:CTI派はおもしろくないわけだ。
平野:どうしても僕らの世代はフォービートなわけよ。で、日本のロックの流れの中でも結局はっぴいえんどや裕也さん系ロックがあって、日本語ロック論争とかがいろいろあったりしながらニューミュージックというところに行き着いてしまう。そうすると時代の風潮はかぐや姫とか(吉田)拓郎とかユーミンだとかがありもしない中流意識を歌詞の中でたたき込む訳よ。でも、その時代はまだ良かった。何故良かったというと高度成長の段階だからまだ未来があった。希望があった。ここでがんばって働けば将来は豊かな生活をする事が出来るといった…。
山口:やっぱりありもしない中流意識だったんですか?
平野:例えば今あなたが家賃6万円の生活をしているじゃないですか?
山口:よく知ってるな(笑)。
平野:当時、同じような生活の若者はせんべい布団で裸電球で寝てるわけですよ。そこで聴いてるニューミュージックで中流意識を見るわけじゃん。
山口:気持ちいいわけだ。目標が上に見えるから。
平野:それが今の時代まったくないわけでしょ。今の若者にとって右も左も真っ暗…。格差社会があって、心をどこにもっていいのかわかんない。
山口:いろんなロックがあるのを前提で言いますけど、人はひとりぼっちだっていう言葉は僕にとって全然現実的ではない。人がひとりぼっちだっていうのはみんな10年も前からわかってる。そこからどうするかっていうことがロックがやるべきことなんじゃないかって思ってるわけ。そういう心の問題を僕は歌いたいんですよね。心の問題を歌う世界の中にいろんな問題、恋愛でもいいですよ。もっと言ったらエロでもいいし。でも絶対俺達が無視しちゃいけない問題として戦争とかそういう問題が必ず避けて通っちゃいけないっていう認識ですね。
平野:戦争とか飢餓とか、現実に起こってることに対してることを避けられないってことで言えば、音楽は戦争とか暴力を止められるのかはずっとロックが問われてきた問題だと思う。
山口:それは今んとこ止めてないんだから止められないって言うしかないですよ。戦争やめろって言ったって何言ってるの? って話ですよね。だけどそこで歌うことによってその人の世界、数万数千万のひとつが変わるかもしれない。
平野:山口さん達のコミュニケーションっていうのはラブ&ピースって形で捉えていい?
山口:恐いですけどね。
平野:僕等の時代はベトナム戦争がひどい形であって、徴兵を拒否した自由を求めるヒッピーの人たちがラブ&ピースを叫ぶ、それが挫折して、ギター持ってみんな理想の地を求めて世界中に散らばってヒッピーになって最終的にはドラッグで沈没していった時代があったんだよ。で、僕らはそこで非暴力なラブ&ピースはもう駄目だなって。結局僕ら世代は失敗してるし。ただ、あなたが昨年の『Quick Japan』の対談で山下達郎さんに何で愛とか戦争の問題をやらないんですか? って聞いたら僕は1回挫折してるからとか、僕はアナーキストだからそう言うことはやらないと言われてるわけじゃん。それに対して山口さんは反論なかったの?
山口:あなたの平野史観はそうかもしれないけど、俺は達郎さんの歌で気持ちよくなってるし、それを否定するのはおかしな話。それに挫折したって言われて、俺はそうなんだって思っただけだから。平野さんからしたら何だ? って思うかもしれないけど、30の僕から見たらあの音楽史でいろいろやってきてらっしゃる人ですよ。
平野:僕は山口さんは彼をリスペクトしすぎだっていう気がしたんですよ。
山口:俺はまず達郎さんがすごく好きなわけ。だけどリスペクトしすぎで意見を言わなかったっていうのはないですね。何故そう感じたんですか?
平野:彼も含める俺達世代の問題としてね、いろんな事も含めてだけどこんだけヒドイ日本にしてしまったっていう罪の意識が彼には余りないのかなとは正直思ったよね。坂本龍一とかは、あれだけメジャーになってもコツコツやってるんだけど。その時の対談で山口さん辺りの若い世代があんたら世代は何なんだって言って欲しかったのよ。
山口:それは夢だよ、平野さん。俺から言わせてもらえば平野さんの夢は何十年前に解決しておいてくれよって思うわけ。だいたいなんでそんなこと俺に言うの? そんなに腹が立ったら自分で言いに行ったらいいじゃない。
平野:俺達の若き時代には社会を仕切っているジジイどもにこいつら早くステージから去れ! といつも思っていた。お前等がこんな社会を作った、責任とってさっさとやめなって。時代は俺達若者の手にあるんだってことを山口さんは言うべきだと思うんですよ。断罪すべきなんだよ。そうしないと社会もロックもよくなんない。
山口:そんなことないよ。だって、なんで平野さんのロフトの歴史を否定しなければならないの?
平野:社会全体の問題だから。戦争や平和、環境の問題とか日本のこれからの問題、僕らの前の世代は戦争を引き起こした世代、そして僕らの世代が今の世の中を作ってきて、僕ら世代が今や社会の中枢にいるわけじゃない。これはみんな腐りきった団塊の世代。それまでは命かけて新しい日本を作りたいっていろんなこと考えた連中、文化運動やらをやって来た連中がみんな全共闘の敗北や左翼の内ゲバリンチ殺人事件が起こって沈黙してしまった。それが80年代後半に完全に凍結された。それからずっと20年もの「もう、そんなこと語りたくもない」って沈黙の歴史が俺達にあって、それで俺ら世代は何をしたかというとエコノミックアニマルと世界中からバカにされれる位一生懸命働いて金を儲けて、公害垂れ流しながらみんな経済に走っちゃた。俺達が若い時分は…権力を持ったジジイどもを憎んでた。なんで俺達がこんな戦いをやるのか、お前等がヒドイからだろ。お前等がこんな世の中作ったんだろ。って言って俺達は学園から立ち上がった。お前等おやじどもには任せてはおけない。っていうのが40〜50代の人たちへの20代の俺たちの姿勢だった訳よ。俺はそれを山口さんとか20代の人たちがなんでやらないのかと。
山口:聞けば聞くほどそれは平野さんの夢なんだよ。俺はあなたの世代の奴隷じゃねーんだよ。
そんなの平野さんと同じやり方でやってどうするんだよ! 平野さんは失敗したんでしょ? だいたい、自己否定するよりもあなたがもう1回やったらいいじゃない! 俺達のロックを聞いてこうやって来てくれたわけでしょ? 何で自分でやろうと思わないのかなぁ?
ロックはストラグルしながらも社会にコミットしていかなきゃいけない
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時に平野の矛盾を鋭く突きながら世代の融合の可能性を探る。山口隆、やはりこの男ただ者ではない! |
平野:コミュニケーションってそれはいつも必要だと思うんだけれど、新しい価値観とかを生む土壌って反逆とか反抗的な精神から生まれるっていう部分てすごく多いと思うんだよね。あなたは50や60のオヤジを断罪でなくってコミュニケーションしようよと言う。でも、コミュニケーションが成り立つかどうかっていうのがすごく難しい問題になってきているでしょう。時に相手は強大な権力を持っている場合もある。
山口:そこであなたが言ってることはさ、今のロックンロールを代弁しているのと一緒なわけ。だったら切り捨てるのか断罪するのかって話なの。あなたが断罪しているのはあなたが聞かなかったロックンロールなんだよ。あなたが聞きたかった僕らのロックンロールはそういうロックンロールじゃないんですよ。
平野:僕等は今の若い子たちのロックンロールを断罪しようとは思ってない。むしろ今そしてこれまでのロックンロールはダメなんだよって言えるのが君たち若者の特権じゃん。
山口:若者の特権じゃなくて平野さんが言えてるんだから、平野さんの特権じゃん!だけど、今回のアルバムの歌詞で言わせていただければ、「奴らが何をしたっていうんだ」(『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』)。それはあなた方への歌ととってもいいだろうし。だけど平野さんの話聞いて思うのは世代闘争という局面だけでみていいのかなって思うわけ。おじいちゃん、おばあちゃんが貧乏しちゃってていいの?って普通思いません? 俺の歌詞で「池袋の通りじゃまた老婆達が『偉そうなやつは殺して』」(『ゲットバックサンボマスター』)って歌ってますけど、俺本気でみんな怒ってると思いますよ。平野さんが言ってる事って俺は実はそれを否定しようとも思ってなくて、ひとつの提案としてもっと言うべきだっていうのは心にとどめたいわけ。それも含めた上でやりたい。対立の構造だけで終わらせたくない。
平野:その問題とコミュニケーションっていうのは分けて考えるべきじゃなく、コミュニケーションしながら対立するっていうのはありだと思う。対立から新しい何かが生まれる。
山口:そこに暴力っていうのはやめたほうがいいと思うよ、戦争になっちゃうから。さっきの世代の断絶という意味で言ったら逆に聞きたいんですけど、ロック史自体が断絶の歴史なんですか? 海外から入って来て、ひとつの繋がりはないのかしら?
平野:ずっと繋がっているんだけど、ロックというものが市民権を得て売れるようになってきて、サブカルチャー(対抗文化)だったのがメインカルチャーになってきた。そうするとライブハウスもそうですけど、売れなきゃクソだという世界になってきたわけじゃないですか。それがビジネスを含めた上でのロックの歴史なんです。やっとこの数年来レコード会社なんて相手にしなくても自分達で自主レーベル作れるよってそういう時代になってきてそれが繋がってると言えば繋がってるし、そこで今ロックが何を必要とされていて何を成すべきかというところだと思うんですよね。
山口:今話してることで言ったら、僕はこう思う。61歳の平野さん、30歳の僕。ロックンロールを通してこれだけ熱く語る。これコミュニケーションですよ。それでいいじゃないか。ロックンロールっていうのはストラグルしながらも社会とか空気とかにコミットしてかなきゃいけないと思ってるの。それがロックンロールと考えて僕はやってるんです。
平野:でも、若い世代だったらコミュニケーションふざけんじゃねえと俺はこう生きるんだっていう断固とした主張が一方では必要かと…。
山口:それはそういうやつにインタビューしてくれなきゃ困っちゃうよ!!
平野:山口さんがどういう人か知らないから話したかったんだよ。本当にロックで勇気をもらったり、生きる希望をもらったり、自殺を思いとどまったり、社会の不正を憎んだり。戦争とかグローバルなものは変えられないかもしれないけども、そういうことは変えられる。そういうメッセージを出してるロックンローラーが今どれだけいるのかな。政治の歌だけをうたえとかそういう意味じゃないですよ。そこで山口さんと出会ったんですよ。
山口:僕も興味ありますよ。そりゃそうでしょ。この新作聞いたらそんなことしか歌ってないんだから。ただ、弱ってる世代に追い打ちかけるの? って感じ。平野さんが言うことはさ。
平野:問題はその中に、天下り官僚や権力持ってるあぐらをかいている奴がいるわけじゃないですか。そこを言ってるわけよ。
山口:それは戦ったほうがいいよ。それは後ろから斬ったっていい。(笑)
平野:俺達の20代の時はそうやって世の中のシステムを作ってる権力者を憎んでた。
山口:そりゃ、憎いですよ。
平野:あっ! 意見が合った(笑)。
山口:あっ! じゃないですよ! (笑)
平野:だから自分だけでも今若者から憎まれる存在になったと自覚したいのに、あなた方が怒ってこないから。
山口:忘れられてるんだって!(笑)。でも、平野さんなんでロックやらないの?
平野:やってもいいんだけど、生き方がロック、それでいいいんだよ。
山口・近藤・木内:それは、そうですね。
平野:君たちの持っているコミュニケーションっていうのは大抵「君の気持ちもわかるよ」から始まる訳だ。無駄な争いごとはしたくない。俺達世代はそんなこと考えなくって論争で決着つかなかったら最終的には殴合いまでして、家に帰って悔しくて泣いたり論争に負けて悔しくて本買ってきて勉強したり。それが今の君たちは争いごとしたくないから「君の気持ちもわかるよ」から出発して最後には中途半端に「まあいいか」で終わる世界がずっときてる。この20年ぐらい。
山口:だから俺達は始めたんだっての!! 勝手に俺達を決めつけんなよなぁ!! だけど確かに「君の気持ちもわかるよ」から始まってる。
平野:それが俺はわかんない。青春っていうものは半端なもんじゃいけない。
近藤:平野さんは本当にスグ決めつけますねぇ。
木内:それは何が悪いのかわからないですよ。
平野:ほとんどのいわゆる論争における帰結が予定調和になっちゃう。そんなところからはなんにも新しいものが生まれない。
木内:予定調和じゃなくて、話し合うことで自分の頑なな部分があるじゃないですか。それが必ず正しいならいいですけど、正かどうかはわからないですよね。絶対的な自信があって知識も裏付けもあってってところならそれでいいと思うけど。
平野:解らないから相手から知識を吸収する意味でも、不退転の論争するのが俺達には必要だったから。その点で君達とは前提が違う上で話してるんだ。
山口:世代論としてね。
平野:君たちはそうやって育ってきてるから、破壊的なすごいことが生まれない。
山口:それもひっくるめてコミュニケーションって言ってるのよ。だいたいそういう事はちゃんとアルバム聴いてから言ってよ!(笑)全然聴けてねぇのに何が破壊的だよ!全然説得力ないよ!!そうでなければ1曲目(『二人ぼっちの世界』)にこんなうるさい曲やらない。だけど、平野さんが言ってることも間違ってるとも思えないのよ(笑)。
平野:論争に負けたら悔しくて帰ってきて勉強するんだよ。勉強して次はあいつをうち負かすっていうテンション。そういうもんだ。それが次のステップに行ける。「まあいいか」とか「君の気持ちもわかるよ」じゃなくて、お前の言ってることは分かんねえよっていうのを通すことによって生まれるものはある。でも「君の気持ちもわかるよ」って多分分かってないのに分かるって言ってたって何も始まらないの。
山口・近藤・木内:だから全然説得力ないってば!! (笑)
分かってねぇから歌うんだって
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遂に始まった山口直々の歌詞講座。だが更に食らいつく平野。これこそコミュニケーション! |
山口:そこで俺が聞きたいのはこのアルバムがそんなに弱いこと歌ってるかって話ですよ。
平野:君たちは歌ってないよ。世代論の話。60のジジイと30の青春真っ只中の連中と話す機会がほとんどなくて、その世代論をね。で、あなたから真髄はコミュニケーションだなんて言われちゃうとなんか分かりきったようなこと言ってるなと。それって若い奴が言うことかよって。
山口:分かってねえから歌うんだって。ひとりぼっちだって、みんな分かってるでしょ。平野さんは一人で生きていけるの?
平野:そりゃ孤独な部分もあるけど他者の支えとか共同体とか全部あってこそ生きていけるんだよ。
山口:そこから言ってかなきゃじゃん。まずは僕と君の2人からやり直さなきゃいけないの。それは思うでしょ? その上で平野さんはどうしたいと思ってるんですか?
平野:どうしたいというよりも僕らの時代はもう終わったんだから。俺達はステージから去りたいのに。
木内:これだけエネルギーあるのに? そんなはずねえじゃん。
山口:去らないほうがいいですよ。そこからウソだ! (笑)
木内:大ウソだよ。
山口:平野さんの世代と僕等の世代って中学1年と中学3年が意外に仲いいのと一緒でわかりあえちゃうんだって。腹立たないもん。よく分かるなって思っちゃう。その下の45歳とかシラケ世代じゃないですか。80 年代意識というか。一概には言いたくないけど。一般論として。自分達ばっかいい思いしてね。その怒りはありますよ。俺等はそっちに腹立ちますよ。そういう人たちが今のシステムの原形を作っちゃってる。平野さんたちの時代アナログでしょ。俺等デジタルの弊害だもん。ネット社会とか国民がナンバリングされたりとか監視社会とか。平野さんメカに弱いでしょ?
平野:そんなことないよ。俺ちゃんとパソコンは使うしホームページ持ってるよ。
山口:ホームページ持ってるからメカに強いっていうところがもうすでに強くない証拠ですよ!!(笑)。
平野:でも、俺の世代みんな出来ない奴が多いんだから。
山口:だから対立にならないんだって。平野さんの世代じゃないようなもっと下の世代と世代対立はありますよ。
平野:まあそうかもしれない。だって俺なんか社長やったって、あんた方若い奴怖くないもん。君たちより勉強しているし。
近藤・木内:自慢かよ(笑)。
平野:でも昔大学闘争や若者の反乱があって当時の大人達や権力者が若者達を怖がった時代もあったもの。
山口:それは夢だよ。
平野:そういう時代が一瞬でもあったんだよ。
山口:一瞬だけか…。
平野:大学で教授をつるし上げてとかさ、会社では社長や経営陣をつるし上げたり…。それで組合作ったりして始めて待遇や給料が上がっていった。
山口:それはいいことなの?
平野:いいことですよ。だって、持たざる者が持てる者に対して闘えるってのは凄いことですよ。若者が唯一もてる特権かな。
山口:俺等は同じ世代とも闘ってるわけ。要は絶望的だから愛と平和を歌うんですよ。だから『絶望と欲望と男の子と女の子』っていう曲があるんですよ。自分に言ってるんだもん。「奴らの言う事が全て本当なら僕はこの世じゃ生きてはいかれねぇじゃねぇかよ」って。ここまで追いつめられてるんですよ!
平野:それ、イイゾ! なんでサンボがこんなに若い連中から受けてるんだろうって思ったけど、これはどこかに今の若い連中に通じるモノの鬱積した隙間を埋めているのかなっていう感じがあって、その隙間の中でメッセージを発信しているなっていうのがサンボじゃないかって。だってあなた達多分メインストリームじゃないだろ。この微妙な隙間の中でどれだけこのバンドがこの業界、ロック好きの少年少女を含めて音楽シーンを荒らせるか、そんな様々な世代を触発できるのかっていうのを見たいよね。
山口:だから愛と平和を恥ずかしいうちに歌ったんです。どんどん恥ずかしいことやってやるんです。人に笑われて、最高じゃねえかって感じ。
平野:いいな〜。そのエネルギーってどこから出て来るんだろうね。
山口:一人じゃ生きていけないから一個ぐらいはあいつとなんか分かったほうが生きる勇気になるっていうギリギリの気持ちかな。コミュニケーションって言ったら平野さんたちの世代はやっぱり凄いわけ。飛距離が八千里ぐらいいっちゃうわけ。俺等6センチぐらいなわけ、コミュニケーションって言ったとき。それぐらい切迫してるの。そういう世の中にしたのはあなたたちなんだけど、あなたたちを否定するつもりもないわけよ。
リキッドルームでやろうじゃねえか!
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日本のロック史を支え続けた平野の魂からの叫び、そこには何者も止められぬ迫力を持つ。 |
平野:まあ俺は今、若いやつからあまり攻められないから生きてて楽なんだもん。それはあんたらがだらしないからだよ。
山口:違うよ。平野さんが出てかないからだよ。ロフトのステージ立たないからだよ。
平野:立ってるよ、それなりに。
山口:それなりに…(笑)。やっぱそこだよ。それなりにじゃだめなんだ。月10本やりなさいよ。俺等とツアーまわりましょうよ。リキッドルームでやろうじゃねえか!って話ですよ。
木内:やりたいことあったら、ステージに立った方がいいですよ。
山口:あと楽しい方がいい。
平野:そりゃ、楽しくなきゃ戦えないし、そんなに深刻にやるもんじゃない。君達世代だって希望はあるんでしょ?
山口:最終的なところではね。
平野:四畳半の延長かね。あなたの発想はだいたいプロレスなんだよ。四畳半から延長させて。。。
山口:違うんだよ。あなた方の世代は決めつけから入るんだよ(笑)。
平野:そうじゃないと話が進まないじゃないかよ(笑)。互いに癒しあってどうするんだよ。多分山口さん達は今プロレスをやろうとしてるんだよ。プロレスやろうとしてて四畳半を炎上させてからちゃんとリングに飛び出していこうというそんな感覚で俺は見ている。
山口:それは90年代は絶望とか言っても大丈夫だったと思うけど、玄関の前にそれが来ちゃった時にそういうわけじゃいかねえだろって思うわけです。平野さんは丘の向こうに絶望があったわけ。俺等は玄関に来ちゃってるんだもん。デリヘルみたく。チェンジとも言えないよね(笑)。とりあえずここをなんとかしようぜっていうのが今回のアルバムですよね。
後ろ向きに生きたら死んじゃうんだもん
平野:そうか「玄関前まで来ちゃっている」って凄いね。その感性が。3作目で一歩一歩前に進んでる感触持っているんだろ?
山口:今回は頑張りましたよ。
平野:あなた達の立ち位置と言うか発するメッセージは後ろ向きで生きちゃいけないよみたいなところをずっと言ってるよね。あの怒濤のようなラブソングもそうだし。
山口:後ろ向きに生きたら死んじゃうんだもん。
平野:後ろ向きに生きた方が楽な時もあるじゃん。僕は35年ロフトをやってて、ロックにはずっと関わってきたけど、10年ほど世界を放浪してて日本に帰ってきて、日本のロックに絶望させられた事が幾度もあったんだ。最近だって悲しいことがあった。ARBの実質的な解散とか。もうこいつこそ世界を変えてくれるかもしれないっていうミュージシャンにはあまり出逢えない。そうすると僕にとって音楽っていうのは、これから前進して何かやろうとか、新しい社会を想像しようとかじゃなくて、昔の愛したレコード引っ張り出しておいしく酒が飲めれば…。
山口:それは不幸だ。
平野:そうなんだよ。アメリカだったら違うじゃない。なんで日本のジジイどもはライブハウスやロックを聴かなくなっちゃったのか。
山口:僕等のライブはけっこう上の人が来るんですよ。中野サンプラザでポリスを見た以来の衝撃だって言ってきた人がいたわけ。その人も上の世代で、君ら長いインストの曲ばっかりやってくださいって言うわけ。でも、俺はそういう世代の人が来てくれるのがうれしいの。じゃあロックに絶望したあなたが、今日来て何でここまでしゃべれるの?
平野:だから、あなた達が2回程俺の琴線に触れてるわけ。フジロックのホワイトステージでのイラク戦争の愚かさを語りかけたMCと達郎さんとのインタビューと。それであなた達と話してみたいと思った。若い奴らは俺達世代に対して納得しちゃいけないだろということを自分の口で言いたかった。だってこれからの時代は君達のものだから…。
山口:で、じゃあ平野さんこれからどうするんですか?
平野:俺達は静かにステージから去る運命にあるんだよ。あとはおいしい酒を飲みたいだけ。
山口:じゃあなんで言いに来るのよ。ステージから去った人が。こんなパワーあるんだからさ。
平野:だって俺は30も年が違う人と真摯に話すことなんてほとんどないんだから。
山口:ロックンロールがあるから、そういうことができるんですって。平野さんはロックンローラー以外の何者でもないですよ。10年放浪した人の顔見たら褒めるしかないもん。だから、僕等にはやれることをやるしかないのかな。自殺は年間4万人ですもん。インナーミュージックをやりたい理由はそこ。普通の戦争だってそれぐらいでしょ?これはどうですか?
平野:自殺か、社会が病んでるっていうことでしょうね。しかも中高年が多いんでしょ?
山口:だから若者だけっていうのもないわけ。そんな病んでる中高年に去れって言うの?
平野:だけど、そういう社会に無自覚なのは若者に多い。今回の総選挙だって、「貧富の差はあってもいい」なんて言う小泉さんに入れているのは底辺の若者が多いわけでしょ。
山口:でもあのあと後悔してるって人が多いんですよ。だから十把人柄にはしたくないわけです。闘ってる人もいる。断罪するべきじゃない人もいる。それも世代論でやるべきだと思います?
平野:僕は若い世代に期待するしかないじゃんって思っているけどどうもね〜。ロッカーもだけど若い世代に期待するしかないじゃん。それ以外未来は展望できない。当たり前だけど。
山口:なんで横の線でしか見ないのかな。
平野:ジジイはフットワークは悪い、頭は悪い、家族とか経済的なしがらみがあって、ホントダメなんですよ。今、自由に発言できて行動できるのは若い世代しかいないじゃん。俺達の世代に期待するのは無理。いろんなものを見た方がいい。漫画も芝居もね。お前こんな事も知らないのかって抑圧されるべきなんだと思う。知らないって言うことは犯罪的なんだからさ。
山口:そんな事はもうやってるんだから。
平野:今まで以上にあらゆることを見たり聴いたり経験したりする中で、豊富な知識や体験でもっと素晴らしい表現が膨らんでいく。これからのサンボマスターの楽曲がどう変わっていくかっていうのが現場主義に徹すれば違う新しい発想が出てくる気がする。
山口:…で、俺は平野さんと話しててひとつはあなた方の文化の中に山下洋輔トリオってのがいたでしょ?そういうのを否定したくないな。だいたい60年代の文化を平野さんは否定するわけですか?そこに矛盾を感じますけど。
平野:35年前『ダンシング古事記』でジャズの歴史変わったんだから。
山口:平野さんたちが生み出したジャズ喫茶の文化とかリスペクトしてるわけ。それを否定したくないですね。
まず生きろってこと
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埋められない世代のギャップも理解しつつ、何かをサンボに託そうとする平野の想いは伝わるのか? |
平野:でも俺からみてもあんたらは勇気あると思う。これまでの20数年の沈黙。それをどうサンボは打ち破ってくれるのかに興味あるよね。その上で聞きたいんだけどあなたの主張のキーワードって何?
山口:ハッキリ言えば「生きる」ってことだな。僕とあんたが生きるってことですよ。今しゃべったことが全部繋がって来るんだって。これ歌ってるのはミサイルバンバン飛んで人が死んでるから歌ってるの。生きるっていうことにおいて、別の時代だったら別のこと歌ってる。こうやってしゃべってて平野さんが死んだらやだもん、今。こんなおもしろいおじさん死んだらさ。もっと話聞きたいし。あなた方が生んだ文化っていうのは素晴らしいと僕は思うわけです。寺山修司さんとか、唐十郎、ジャズ喫茶、勿論ロフトもそう。あなた方が作った悪い文化もあるでしょう。でも、その中で生きなきゃいけないの。それを壊すのか残すのか。それをみんなで考えよう。僕らが甘いとこあるかもしれないけど。
平野:いいね。その発想。俺個人は破壊から新しいものが生まれるしかないと思ってるんだけどね。
山口:でも10年前に壊れたでしょ。だから今作ってるのよ。
平野:でもそれが作りきれてない。
山口:だからまず生きろってことなの。
平野:そうなると俺なんかどの面下げて生きるんだってことなんだよね。60代の俺は君たちにおどおどしながら教わるしかない。今の若い奴らって捨てたもんじゃないなって思わせて欲しい。。
山口:でも俺も60代になったら絶対言うね。今の話聞いてると。「否定しろよ」って(笑)。
平野:ただ、若い世代にサンボマスターのメッセージは確実に届いてるでしょ。ラブソングで雄叫びあげてるなんて久しぶりだよ。類型が見あたらないんだよ。ちょっとそのスタンスも時代背景も違うけどパンクの時代でもここまでエネルギーがあって前に出ていくっていうのはあまり経験がないんだよ。ロックをずっと見てきたけど。だからサンボはすごいな。革命的だよ。だから今のスタンスを崩さないでほしい。
山口:崩さないもなにもそれしか出来ませんもん。だから1曲目からうるさいんですけど、それやるしかないでしょ。人に任せた人生だから人に任せて僕らは行こうっていうのがそれまでのロックだったんだもん。俺やだもん。人任せなんてとんでもない話。
平野:やっぱりだけど、あんた達は今の権力にあぐらをかいて生き血をすすっている連中を憎まなきゃいけないんだって気がするんだな。
山口:とりあえず平野さん以外の人を憎みますから(笑)。それでいいでしょ。
近藤:ホントに憎めない人ですもん。
山口:でも、平野さんは俺等のライブに出て欲しいですね。一緒にリキッドルームのステージ立ちましょう!
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インタビュー終了後に訪れた戦い終えた戦士達の熱い団結(お疲れ様!) |
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