俺らは一体、何を訴えたいのか?
──今までのアルバムとは明らかに温度が違いますよね。
松田晋二(ds):うん、そうですね。はい。
──アルバムの制作に入ったのは、いつ頃なんですか?
松田:えーと…。
山田将司(vo):(前作『ヘッドフォンチルドレン』の)ツアー前だな。
松田:去年の1月の頭には合宿に入ってたんですよ。要は『ヘッドフォンチルドレン』の最後の3曲がでかかったんですよね。「ヘッドフォンチルドレン」「キズナソング」「奇跡」の勢いのままで合宿に入ったんです。まぁ、だから、このアルバムが出来て当たり前なんですよね、ある意味。かなりいいモードでした、曲作りのテンションとしては。
──少しでも早く次のアルバムに行きたかった?
松田:レコーディングの時から苦戦してたんですよ、『ヘッドフォンチルドレン』の時は。それをどうにか完成させたわけだけど、最後の3曲を搾り出した時は“光が見えた!”っていう感覚があったんですよね。だからこそ、“このままの勢いで行こうぜ!”っていう気持ちにもなったと思うし。
──また見えなくなっちゃうかもしれないですからねぇ。
松田:ははははは!
菅波栄純(g):いや、でも、そういうもんですからね、実際。
松田:そうだな。あの時“とりあえずツアーに行ってから(アルバムのことは)考えようか”ってことになってたら、また変わってきただろうし。
岡峰光舟(b):いつもはツアーが終わってからですからね、アルバムの制作に入るのは。
──そうですよね。ちょっと確認しておきたいんですけど、『ヘッドフォンチルドレン』における“苦戦”っていうのは、具体的にはどんなことだったんですか?
松田:まぁ、多分、“どういうアルバムを作るのか?”ってことでしょうね。曲はいくらでも出来てたし、1曲1曲はいいんだけど、アルバム全体で何をやるのかってところがなかなか見えてこなくて。ライヴをやってる時の衝動でガーンとやる、っていうのも大事なんだけど、それだけではないんですよね、俺らは。それが判りましたね、『ヘッドフォンチルドレン』を作ってる時に。
菅波:うん、前のアルバムのレコーディングは、バンドの本質っていうか、“俺らは一体、何を訴えたいのか?”ってことを見つめるいい機会だったと思いますね。俺らはそれまで、“何を唄いたいのか?”ってことに迷いがあったと思うんですよ。“自然に出てくるものがあるんだから、きっと何かあるんだろう”ってくらいで。あと、何が起きるか判らないっていう良さもあると思ったし。当然、最初はライヴをやってる場面が浮かぶような感じでガーンとやってたわけなんだけど、つい最近まで“俺らが唄うべきことは何だ?”っていうのが抜け落ちてた。
松田:抜けてたな。
──なるほど。
菅波:で、いろいろと考える中で、根本的にはやっぱり──ダークなこともいっぱい唄ってきたけど──誰かと繋がって、コミュニケーションを取りたいってことなんじゃないかな? って。そのことが判ってきたのが、『ヘッドフォンチルドレン』の最後の3曲だったんですよ。音楽的に煮詰まった時期を越えて、乗り切れたことに対する自信もあったし。あと、やっぱりツアーですよね。特に前回のツアーでは、目の前の人と繋がってるっていう感覚が凄くあったから、今まで以上に。バックホーンのライヴの感想が変わってきたんですよ。「心がいっぱい動いて、元気が出た。楽しかった」っていう感想が凄く増えて。
──ライヴの感想が変わってくるって、凄いですよね。バンドの意識の変化としか言いようがないと思うけど。
松田:まぁ、今までのライヴは気まずかったから。
──ははははは! 気まずいって、どういうことですか(笑)。
松田:いや、ホントにそうなんですよ。ガーッて凄い勢いでやった直後に「こんばんは、バックホーンです」って訛ったMCやって(笑)。なんていうのかなぁ、『イキルサイノウ』までの俺らっていうのは、まずは自分達の音楽、自分達の世界観を作り上げるっていうところに集中してたんですよ。だから、ライヴにも“余白”がなかったんですよね。
岡峰:ステージと客席が全く別モノというか。
松田:そうそう。ライヴって本来、肉体と肉体がぶつかる場所であるはずなんだけど。それが気まずさに繋がってたんじゃないですか? 何か凄いものを見たんだけど、どうも気まずいっていう(笑)。
ウソくさくないところでの共感や共鳴
──でも、“余白がない”っていう言い方は判る気がしますね。バンドが余りにも凄い集中力で演奏しているから、オーディエンスとしてはどう参加していいか判らないっていう。
松田:よく言ってることなんですけど、鉄柵みたいなバンド、鉄柵みたいなライヴだったと思いますね。扉を開けるのは結構大変、みたいな。そういうものに憧れてたんですよね。そういう音楽、そういうバンドこそが美しいし、素晴らしいっていう考えでやってたので。その一方では、“これって、ちゃんと伝わってるのかな?”っていう不安、寂しさもあったんですけどね。
──で、少しずつ変わってきた。
松田:“檻みたいなライヴ”っていう感じを守ることは簡単だったし、“バックホーンはそれだけでいい”って言うこともできたんだけど、でも、ある時から“それってホントに音楽なのか? ”みたいなことも考え始めて。なんていうか、バンドをやる意味、なんで楽器をやってるのかっていうことを考えると、ある一定の人だけではなくて、音楽に興味がない人とか、音楽を必要としてない人の心にも染み込んでいくようなものをやりたいなって。
──うん。
菅波:ツアー中にもいろいろ話してたんですよ。“俺らは次のアルバムでどこに向かうのか?”とか“どういうやり方でやるのか?”って。そこで見えてきたのは、さっきも言ったけど、バンドっていうのはコミュニケーションしてナンボなんだなってことで。単純に自分達が生きてる実感を得られる場所でもあるんだけど、それだけではないんだなって。そこから『太陽の中の生活』っていうテーマが出てくるんですけどね。
山田:最終的に“このアルバムを聴いてくれた人にどういう気持ちになってほしいのか?”ってことですよね。
菅波:うん、この前のツアーの中で“ウソくさくないところで、共感や共鳴ができるんじゃないか”ってことも実感したし。
松田:それは今回、敢えて目指したところではありますね。扉はあるんだけど、木の扉くらいで。ちょっと開けやすくなった(笑)。
──そうですね。今回のアルバムにも「さぁ、みんな、こっちにおいで」って感じはないけど(笑)、聴き手の側に重心が移ってる手応えがあって。栄純さんの言う通り、それを“ウソくさくなく”できてるところが凄いな、と。
菅波:そうっすね。孤独だっていうリアルから、ひとりじゃねぇっていうリアルに変わったというか……かなり時間は掛かってますけどね。バックホーンはとにかく時間が掛かるんですよ、何をやっても。1stアルバムから「さぁ、行こう!」って言ってられる人もいると思うけど、俺らは口が裂けても言えなかったから。“そんなのウソだー!”って(笑)。
──今回は1曲目の「カオスダイバー」からいきなり、「混沌の海へ飛び込め」って唄ってますからね。
松田:初めてですよね、そういうことが言えるようになったのは。そういう意味では、ホントに始まりっぽいアルバムだなって思う。本当の意味で音楽を伝えていく作業が出来るようになったんじゃないですか? やっと、ですけど。
──5枚目のアルバムにして、ようやく(笑)。
松田:恥ずかしいですよね。自分らのもがいてる姿をこれでもかと見せてきたかと思うと…。
菅波:しょうがない、そういうバンドだから。でも、いつも“これは絶対に正しい!”と思ってやってるんだけどな。
松田:そう、その時は判んねぇんだよな。でも結局、もがくしかなかったっていうか。
菅波:それが誰かの居場所になってる、ってこともあっただろうし。
──バックホーンがもがいてる姿をさらして、それを見たオーディエンスが“ここが自分の居場所だ”って思う。そこでコミュニケーションが成立してたんでしょうね。
菅波:うん、そうかもしれない。
山田:だから『太陽の中の生活』は、居場所だけじゃなくて、背中を押しながら「一緒に行こうぜ」っていうアルバムだと思う。いくら居場所があったって、ずっとそこに居てもしょうがないし。そっからどうやって進んでいくのか、どうやって生きてくのか……姿勢としては、そういう感じですよね。
──なるほど。今回のアルバムにはニューヨークでレコーディングされた楽曲も入ってますが、これはどういう経緯で実現したんですか?
松田:まぁ、新しい刺激っていうか、どこでもいいから違う場所でやってみようかってことですよね。別にニューヨークじゃなくても良かったんだけど。
菅波:どっか違う場所でやってみようか、くらいの。
松田:スタッフから「じゃあ、ニューヨークに行ってみよう」って話があったから。「ニューヨークに行きたいか?」「オーッ!」ていう(笑)。
奏でる瞬間こそが音楽なんだ
──割とゆるい感じで(笑)。で、どうでした? 初のニューヨーク・レコーディングは。
菅波:確実に違うのは、言葉ですよね。
松田:曖昧さが伝わらないんですよ。
菅波:音楽って曖昧なことばかりなのに、そこを言葉で説明できないっていうのは大変ですよね。でも、そこで浮き彫りになってくるものもあったりして。
──と、言うと?
菅波:簡単に言うと、“俺らの音は果たして、音として強いのか?”ってこと。“歌詞を読めば判るだろう”とか“あとで言葉で説明すればいい”っていうのが通用しないから、全部音に込めなくちゃいけない。そういう意識は日本に帰ってきてからも残ってますね。奏でる瞬間こそが音楽だっていう…。そういう努力はすべきだと思います。
岡峰:あっちでレコーディングした後、スペインと台湾でライヴをやったんですよ。日本語も判んないし、バックホーンがどんなバンドかってことも判らないところでライヴをやるっていう体験も、かなり大きいですね。言葉が判らなくても、ちゃんとリアクションは返ってくるんですよ。ハンパなことをやってるとお喋りが始まっちゃうし(笑)、いい演奏をすればウワーッて盛り上がるし。
山田:言葉が伝わらないのは判ってるけど、でも、何かを伝えたいし、エネルギーの交換をしたいから。(ニューヨークで録った)「ブラックホールバースデイ」をライヴで最初にやったのがスペインだったんですけど、明らかに反応が良かったですね。
松田:向こうでレコーディングしたことによって、日本の良さっていうのも明確になりましたね。曖昧なことに価値を見出す、っていうか、“YESかNOか”だけじゃない良さっていうのもあるじゃないですか? それは日本の美しさでもあるんだなって。それって外国の人にはなかなか判らないんですよね。
菅波:まぁ、感じるヤツは感じるだろうけどな。俺が感じたのは、向こうの人ってビートに対して敏感で、肉体的に音楽を理解してるってことですね。それって、俺らは忘れがちだと思うんですよ。バンドをやってる人は判ると思うけど、普通に暮らしてる中で、音楽の“ノリ”っていうことを理解するのって難しいじゃないですか? それは凄く勉強になりましたね。
──メンバー全員が歌詞を書いてる、っていうのも初めてですよね?
松田:うん、そうですね。
菅波:これからずっと、そういうふうにしたいですけどね。バンドだし。4人でひとつのバンドだから。
山田:共通認識があるんだったら、誰が書いてもいいかなって。全員が書くことによって、(歌詞の)幅も広がるだろうし。
──「浮世の波」は岡峰さんの歌詞。どうでした、作詞は?
菅波:大変だった?
岡峰:どうですか? って訊かれたら……難しいですよね、やっぱり。一生懸命、考えながら書きました。
菅波:でも、「浮世の波」っていう言葉は、フトした瞬間に出てきたらしいですよ。光舟の部屋のベランダには椅子が置けるようなスペースがあるんだけど、そこに居る時に思いついたらしくて。
岡峰:夜風に当たろうと思ってベランダに出たら、たくさん明かりが見えたんですよ。世間の浮き沈みとか、自分のバイオリズムとかいろいろあるけど、そんなことに関係なく、風は吹いてて…。そんなことを考えたら、“浮世の波”っていう言葉が自然と出てきて。
──「ゆりかご」は山田さんの歌詞ですが、どんなシチュエーションで書いてたんですか?
山田:メロディと一緒に出てきた感じですね。やっぱり難しいですけどね、歌詞は。なんていうか、ポロっと出てきた言葉は信用できないってところがあるんですよ。そこまで自分を信じてないっていうか、ちゃんと考えてない時に書いた言葉を歌詞にしていいの? っていう気持ちがあるので。まぁ、これからもっともっといっぱい書いて、いろいろと身につけていければいいなって思いますけどね。
──「ゆりかご」は、凄くアルバム全体のテーマに沿ってますよね。なんだかんだ言って、自分の人生を生きるしかないんだよな、っていう。
山田:そうですね。もちろん、自分に自信が持てない時もありますけど…。さっき“鉄柵みたいなバンド”って話が出てたけど、自分自身にも言えることだと思うんですよ、それって。自分を守ろうとしてガチガチのプロテクターをつけていても何も始まらないし、自分もでかくなれないし。それを捨てて、やっと何かが始まっていくんだろうなって思いますね。
菅波:そう、自分で自分の中を探しても、意外と何も見つからないんだよね。それよりも、周りにいる人のほうが自分の良さを判ってることもあるし。プロテクターを外すのは、自分のためにもいいことだと思うよ。
“バックホーン君”の成長を見ている感じ
──栄純さんの「初めての呼吸で」もいいっすね。これはアルバムにとっても、凄く大きい曲だと思いました。
松田:うん、そうですね。淡々としてるんだけど、じわじわとした熱があって、最後にグワーっと広がりつつ、また淡々とした感じに戻るっていう…。
山田:曲が持ってる空気感が、まさに“生活”って感じなんですよね。
菅波:36度5分だよな。
──平熱、ですね。
菅波:そうそう。でも、平熱でも“熱”であることには変わりないわけで。
松田:そういう曲って、今までやってなかったんですよ。“あ、こういう感じでも、ちゃんと(バックホーンの)世界が表現できるんだ”っていうことが判ったのは、でかいですね。
──『太陽の中の生活』っていうタイトルにも、ダイレクトに繋がってきますよね。
松田:そうですね。このアルバムを聴くことで、その人の生活がちょっとでもイキイキとすればいいなっていう願いもあるし…。ただ、タイトルだけで誤解してほしくないっていう気持ちはあるんですけどね。知り合いのバンドとかにこのタイトルを話すと「フォークっぽい感じなの?」って言われたりするんですけど、内容は全然違いますからね。音自体はかなりガーンときてるので。
──うん、テンションは高いですよね。曲によってはギターが歪んでなかったりするんだけど、緊張感は今まで以上にあって。
菅波:そうっすね。
松田:微妙な色彩を描いてる、って感じかもしれないですね。今回のエンジニアの人も、さりげなく、細かい雰囲気を出すのが得意だったから。激しさの中にも色気があったり、曖昧さがあったり。
──それはバックホーンの音楽が洗練に向かっている、ということでもあるんでしょうか?
菅波:うーん……“生活”っていうテーマ自体は泥臭いものですけどね。ただ、シンプルにはなってると思います。洗練っていうよりは、核に向かって進んでる感じかな。
松田:良い・悪いは判んないけど、明確なアルバムだよね。
──そうですね。ところでメンバーのみなさんの“生活”は楽しくなってますか?
菅波:(笑)相変わらずっちゃあ、相変わらずですけどね。でも、なんていうか、自分をなるべくいい感じにしておく努力はやってますよ。“運動しとけ”とか、“メシもいっぱい食え”とか、“よく寝ろ”とか。
──“歯を磨けよ”とか?
菅波:そうそう。“たまには風呂にも入れよ、みんな、くせぇと思うだろ”とか(笑)。
──(笑)でも、意外と大事っすよね、そういうことって。
菅波:そうですよね。これからもずっとバンドを続けていくっていう気持ちはあるから、立ち止まることはできねぇんだけど、ちゃんとすることころはちゃんとしないと。音楽の中ではどんだけ弾けてもいいし、どんだけハチャメチャになってもいいと思うんだけど。で、その音楽がみんなの助けになるとしたら……やってて良かったです、って思えますよね。そんなふうに思えたら、幸せじゃないですか。
──僕もそう思います。それにしても今回のアルバムは、ファンの反応が楽しみじゃないですか?
松田:いろいろあると思いますよ。今回はバックホーンのイメージを全然考えてなくて、“今、俺らがやるべきこと”を考えて作ったアルバムなので、それが新しいスタンダードになったら、ホントに嬉しいですよね。
──個人的には今回のアルバムを聴いて、バンド自体に人格がある、そんな印象を受けました。
松田:そうっすね。これもよく言ってるんですけど、“バックホーン君”ですから。バックホーン君が叫びまくって、世界と対峙しながら、ここまでやってきたっていう…。もちろん俺達がやってるバンドなんだけど、バックホーン君っていうひとりの人間の成長を見てる感じはありますよね。“今回はこういう形で出てきたか、次はどうなるんだ?”っていう。
菅波:生々しいよな。そういうバンドだからな、俺らは。
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