表面上の明るさの下に潜むトゲ
──シングル「EPOCH」とアルバム『A THORN IN MY TONGUE』が同時発売されましたが、非常にヴァラエティに富んだ楽曲が揃いましたね。
MAYUMI(vo, ba):結成当初からライヴでやっていた古い曲も2、3曲入れたんですけどね。シングルの「EPOCH」は、POTSHOTのCHUCKY(トロンボーン)とMITCHY(トランペット)にゲスト参加してもらって、今までのDAMNDOGとは違った新しい側面を打ち出せたと思ってます。
MAKOTO TAKAHASHI(ds):MAYUMIが「ホーン・セクションを曲のなかに取り入れたい」って言うので、こっちから連絡してみようと思ってたんだけど、NICOTINEのライヴの打ち上げでCHUCKYにバッタリ会ったんだよね。そこで「レコーディングに参加してくれない?」って訊いたら「イイっすよ!」って快く引き受けてくれて。
MAYUMI:前からホーン・セクションには凄く興味があったんですよ。DAMNDOGは3ピースで音が限られているから、+αの要素をサウンドに取り入れたいといつも考えていたんですけど、キーボードとか弦楽器っていう感じでもないし、それならホーンが入ると一番しっくりくるんじゃないかと思って。
MAKOTO:うん、結果的には巧くできたよね。最初はこの3ピースだけで録ったから、感じが掴めないところも正直あったんだよ。ホーン・アレンジに関して俺達は全くの素人だから、CHUCKYとMITCHYにお任せするしかなかったんだけど、仕上がりを聴いたらもうバッチリだった。ただ、後からホーンを入れるにも、リズムをまずちゃんとしておかないとCHUCKYとMITCHYが困るだろうから、そこは意識してきちんと録っておこうと思った。
──昨年末にリリースしたミニ・アルバム『NO WONDER!』は、3ピースという最小限の形態で最大限のロックを打ち鳴らすという、ある意味で初期DAMNDOGの集大成的な作品だったと思うんです。それが今回、「EPOCH」という曲に顕著ですけど、曲の多彩さ、バンドとしての一体感が増した感がありますね。
MAKOTO:うん。せっかく新しい音源を出すなら、今までとは違う一面を出したほうが有難味は増すじゃない?(笑) 今回のシングルとアルバムを聴いてから『NO WONDER!』やそれ以前の音源を聴いてもらえたら嬉しいしね
──「EPOCH」は“新時代”という意味ですが、新章に突入したDAMNDOGに相応しいタイトルですね。
MAYUMI:“これからいいことが始まる”とか、そういうポジティヴな意味合いを付けてタイトルにしました。
──アルバム・タイトルの『A THORN IN MY TONGUE』というのは?
MAYUMI:直訳すると“舌に刺さったトゲ”。“見た目が明るかったりすることだけじゃないよ、本当はトゲもあるんだよ”って言うか。
──一見口当たりがいいポップ・ソングに聴こえるかもしれないけど、甘く見るなよ! みたいな感じですか?
MAYUMI:そうそう、その通り!
──ローリング・ストーンズが『VOODOO LOUNGE』('94年発表)を出した時に、シンボル・マークのベロにトゲを無数に生やしていましたけど、あんなイメージですか?
MAYUMI:そう、私もそれを後で友達から聞いて、自分と考えてることが同じだと思って。私はあんなにたくさんトゲがあるんじゃなくて、1個くらいでいいやと思ってたんですけど。要するに物事には二面性があるってことですかね。表面だけで物事の判断をしてほしくないって言うか。
──その話を聞いて僕が思うのは、DAMNDOGを“高橋まことのバンド”という先入観で聴こうとしないのは勿体ないということですね。BOφWYやDe+LAXといったMAKOTOさんの輝かしいキャリアを色眼鏡で見てしまうと、今の若いリスナーにも充分アピールできる瑞々しいDAMNDOGの音楽が伝わりにくい側面もありますからね。
MAKOTO:うん。そういう先入観をなるべく排除したいって言うか、俺がDAMNDOGを率いて自ら結成したわけじゃないし、あくまでこのバンドはMAYUMIとLEEがきちんと脚光を浴びて、俺が底辺を支えるっていう構図だからね。
──今回、バンドとして新機軸を打ち出せるようになったキーポイントはLEEさんにあるのかなと思うんです。去年からライヴを観ていて、LEEさんがグイグイとバンドを引っ張るようになったのが大きいんじゃないかと。
LEE(g, vo):確かに、自信は着々と付いてますね(笑)。このレコーディングを終えて、またひとつ自信に繋がりましたし。
MAKOTO:去年から今年にかけてツアーを精力的に回って、ライヴの場数も相当踏んだからバンド感は自ずと増したし、何よりもやりやすくなったよね。ライヴを重ねるごとにLEEも歌やギター・ソロで思い切り暴れるようになって、経験値もかなり上がったと思う。やっぱりMAYUMIとLEEというフロントの2人が大人しいとバンドがこぢんまりとしちゃうし、2人が前へ出るようになれば俺も釣られてテンションが上がるからね。
LEE:今まではお2人に気兼ねしてしまう部分がどうしてもあったんですけど、今は“俺に任せて下さい!”って言うか…(笑)。
──お! 頼もしいですね(笑)。
LEE:今回のレコーディングでようやく自分のギターに感情を入れることができるようになったと言うか、頭のなかで描いているものを形にできるようになった気がしてますね。
3ピースである以上、ごまかしは効かない
──DAMNDOGと言えば、結成以来英語詞のナンバーが主体でしたけど、今度のアルバムで初の日本語詞に挑戦している面も新機軸ですよね。
MAYUMI:そうですね。これまで別に日本語詞を避けてきたわけじゃないんですけど、私はオリジナル・パンクに強く影響を受けたから英語で唄うのがごく自然だし、そのほうが曲も自然に作れる感覚があるんですよね。
LEE:俺は、日本語でも恰好良く唄いたいって気持ちが今回凄くあったんです。日本語のほうが言いたいことが伝わりやすいですし。
──アルバムに収められたLEEさん作の「NOTICE」「ROOT OUT」は日本語詞で、MAYUMIさんが作曲したナンバーは従来通り全編英語詞…と思いきや、「LIKE A KNIFE」1曲だけ、それもワン・センテンスだけ“Saigo no saigoniwa knife ni naru”という歌詞がありましたね(笑)。
MAYUMI:ローマ字表記でこっそり一行だけ入れてみました(笑)。スタッフからも日本語詞を勧められたんですけど、今回はうまくまとまらなくて、最後にひねり出したのがその一行だったんです。
LEE:MAYUMIさんがその一行を唄うと、その部分だけちょっと声のトーンが変わるんですよ(笑)。
MAYUMI:確かに(笑)。まるで昔のアニメ・ソングみたいな発声法になっちゃう(笑)。
──基本的にヴォーカルを取るメンバーがその曲の作曲者ですよね?
MAYUMI:そうですね。レコーディングの時も、作曲したメンバーがイニシアチヴを取って進めていく感じです。
──MAKOTOさんが今回のレコーディングで特に気を留めた点というのは?
MAKOTO:俺自身のプレイはそんなにひねくり回した感じはないんだけど、曲自体は結構ひねくってあるよね。MAYUMIの作る曲…例えば「LIKE A KNIFE」や「NOT A DOLL」とかになると、ロックンロールやパンクの本流からはちょっと外れた妙なリズム感があるんだよ。そういうタイプの曲は意識してプレイに臨んだし、面白い仕上がりになってると思う。LEEの作ってくる曲は、ハード・ロックを意識した力強いタイプのものがイメージとして多いよね。マイナー調なんだけど、力強い印象がある。2人の個性がいい意味でばらけて、バランス良く収められてると思うね。
──DAMNDOGはカッチリと曲の構成を固めてからスタジオに入るのが通例ですか?
MAKOTO:他のバンドと同じ、ごくごく普通だよ。曲を作ってきた本人が「こういう方向にしたい」ってみんなに伝えて、コードを合わせつつ、「リズムはこんな感じ?」なんて話しながら進めていく感じかな。「この部分はストレートすぎるからリフで色を付けてみようか?」とか、そうやって粗方のアレンジは決めておいてからスタジオに入る。スタジオのなかで「やっぱりこの部分は短くしよう」とかゴチャゴチャやってると無駄に時間が掛かるだけだし、レコーディングの時は事前にガッチリ決めたことをストレスなく効率的に進めるのが一番だからね。ギターの音質やソロのフレーズなんかは、スタジオに入ってみないと判らない部分もあるけど。
──ギタリストとして今回LEEさんが重きを置いたところは?
LEE:曲によってギターの音色やギターそのものを変えたりしてるんですけど、あまり小綺麗にまとまらないように、あえて粗っぽさを出したかった。今回に限らず、ザラッとした感じを出したいといつも心懸けてますね。やっぱり、DAMNDOGではギターが暴れないと自分の存在意義がなくなるので(笑)。
──MAYUMIさんのベース・ラインも『NO WONDER!』に比べてより前面に出るようになって、DAMNDOGサウンドのボトムを支える存在感が増しましたね。
MAYUMI:ありがとうございます。たっぷり練習しましたから(笑)。それと、ツアーを回った成果が出てると自分でも思います。今回は曲のヴァリエーションが豊富だったので、その曲なりの輪郭とかカラーをちゃんと出せればいいなと思っていて。そこで一番大事になってくるのはやっぱりギターとヴォーカルなので、ギターに関しては100%LEEに委ねて…私はヴォーカル録りに苦労しましたけど(苦笑)。できるだけストレートなサウンドで行きたいと思っているので、基本的に何テイクも録らないようにしているんですよ。そのなかで自分が納得のいくヴォーカルを録るのが難しいですね。
──ヘンな小細工なしで真っ直ぐに、シンプルで骨太なサウンドがDAMNDOGの醍醐味だから、ファースト・テイクが一番出来が良かったりすることが多いような気がしますが。
MAKOTO:そうだね。何度も録り直すと、曲に対する初期衝動みたいなものが薄れてきちゃうんだよね。仮にどれだけギターの音を重ねたりしても、3ピースのバンドである以上はごまかしが効かないんだよ。だからこそ3人がそれぞれ力強いプレイをしなければ話にならない。特にドラムっていうのは被せることがほとんどないから出音一発勝負だし、バンド・サウンドはやっぱりリズムが要だから。例えばキーボードで音を目一杯入れて分厚く仕上げるよりも、音はスカスカなんだけどちゃんと太い音がそこで鳴っていると言うか、DAMNDOGが目指しているのはそういうタフなサウンドだしね。
──後から何かを付け足していくよりも、極限までシンプルに削ぎ落とすことのほうが難しいですからね。
MAKOTO:うん。引き算することが一番難しいよね。それなりの技量と経験が必要だし、余りに稚拙だとヨレヨレになっちゃうわけだから。ライヴの時はレコーディング以上にごまかしが効かないわけだし、もっともっと練習が必要だよね。ただ、『NO WONDER!』を録っていた去年の今頃に比べれば最近のライヴは明らかに良くなっているし、手応えは感じてるよ。
MAYUMI:『NO WONDER!』を録っていた10ヶ月くらい前とは全然違いますよね。レコーディングの時もペース配分っていうのを凄く考えるようになりましたから。自分自身の体調とかいろんなものを含めたところで、レコーディングにベストな状態で臨むペース配分っていうのかな。今回は最後の最後でペース配分を考えすぎた余りにズッコケちゃったところもあるんですけど(苦笑)、いい勉強になりましたね。
絶えず進化し続ける“ATOMIC DRUM”
──この間、土屋(浩/BEATSORECORDS主宰、元BOφWYマネージャー)さんとご一緒させて頂いているラジオ番組『MUSIC.JP presents BEATSOLOFT!』(NACK5にて毎週土曜日21:00〜22:00オンエア)で、オープニングにBOφWYの「ハイウェイに乗る前に」を、エンディングにDAMNDOGの「EPOCH」をかけたんですよ。それぞれの曲が世に生み落とされた開き、実に20年。そこで驚いたのは、20年経ってもなおMAKOTOさんの“アトミック・ドラム”(BOφWY時代に氷室京介が命名した高橋まことのドラム・スタイルの呼称)が確実に進化を遂げていたことなんです。僕が言うのもおこがましいんですけど、凄く抜けが良い、太くていい音になっているんですよね。
MAKOTO:どうなんだろうね?(笑) 20年間同じことをやり続けるのって、大変っちゃ大変じゃない? そう考えると、よくぞ20年もドラムを叩き続けてるなぁって自分でも思うけどね。でも、自分ではそれほど変化してきたのを意識してないんだよ。変わったのは周囲の環境だけって言うか、俺自身はそんな大それたことをやってきたと常日頃から考えているわけでもないし…。
──「50歳を過ぎてようやく理想通りの音を出せるようになったんだ」と以前仰ってましたよね。余計な力を入れず、ムキにならず、ヘンに縮こまらずに叩くから、凄く抜けのいい音になるという。
MAKOTO:そうだね。そういう意識はあるよ。ムキになって叩いているわけではないけれど、ちゃんとしっかりした音を出して、いいビートを刻めるようになった。本当はムキになったほうが恰好いい時もあるんだろうけど、俺としては平然としていながら恰好いいことをやるほうが好きなんだろうな。若い頃は何でもかんでもガムシャラに行くものだけど、今の俺はそことは違うベクトルの力強さを押し出していきたいと思ってるんだよね。
LEE:MAKOTOさんのドラムは…レコーディングの時に改めて感じたんですけど、本気を出されるとスッゲェなと思いますよね(笑)。凄く威圧感があるんですよ。今度のアルバムで言うと「NEVER KNOW」っていう曲のスネアの音が俺は凄い好きで。
MAKOTO:「NEVER KNOW」は、もうちょっとムキにならないと難しかったかもしれないな(笑)。ハーフ・テンポからいきなりスラッシュになるから、倍テンでも意識して叩かないとスラッシュでヨレたり、他のパートが走っちゃうんだよ。リハーサルの時は“まぁ、こんなものかな?”なんて楽勝に構えてたんだけど、いざ本番になったらアタフタしたよね(苦笑)。
──「EPOCH」や「HEIKI」に導入した管楽器に続いて、今後取り入れてみたい楽器はありますか?
MAYUMI:漠然と考えてるのは、チェロみたいな弦楽器をいつか入れてみたいですね。
MAKOTO:ヨー・ヨー・マ? …違うか(笑)。
MAYUMI:違う、違う(笑)。
LEE:俺は、DAMNDOGでディスコ・ミュージックに挑戦してみたいですね。
MAYUMI:エエッ!? ベースが難しくなるんじゃない?(笑)
LEE:そうですね、逆にギターのフレーズは余り要らなくなるのかも(笑)。
──MAKOTOさんは上京前のハコバン時代にディスコ・サウンドも経験されていましたよね?
MAKOTO:まぁ、打ち込み系のドラムを生で叩くっていうのもできないことではないけどね。ただ、このバンドでやるべきなのか、やらざるべきなのかは俺には判らないな(笑)。
MAYUMI:ディスコ・サウンドをやる時は、もちろんLEEが唄うんでしょ?
LEE:エッ………。
MAYUMI:(笑)まぁ、どうなるかは判りませんけど、今回のレコーディングでバンドとしての自由度は格段に増したから、この3ペースの軸がしっかりした上でいろんなことにトライしてみたいですよね。3人とも普段聴く音楽はバラバラだし、私なんて、本当はビルボードのアメリカン・トップ40で育った人間ですから。
MAKOTO:曲を作るのはあくまでMAYUMIとLEEだから、そこにバンドとしてのアイデンティティと言うか“こんなふうにしたい!”っていう想いがあれば、どんなタイプの音楽をやろうがブレはないよね。俺はそんな2人を後方からガッチリと支えるし。MAYUMIとLEEにはライヴでひたすら暴れてもらうのが一番なんだよ。
MAYUMI:最近、お客さんやスタッフから「ライヴでLEEが顔でも勝負してる」って言われるんですよ(笑)。
LEE:実は弱い人間なんで、虚勢を張らないと(笑)。
──ツアーも既に始まっていますが、とにかく最近のDAMNDOGのライヴに一切ハズレなしというのを、先日シェルターで行われたJIGHEADのレコ発で観た時に確信しましたね。今のDAMNDOGは、オムニバス・ライヴの僅か30分でも見逃せない。
LEE:そうですね。今のDAMNDOGは、お客さんの期待をいい意味で裏切れるんじゃないかとも思うし。
MAKOTO:うん。今はバンドの調子が凄くいいからね。最初はMAYUMIの趣味の延長で始まったバンドだったけど、あれよあれよと巧い具合に転がっていったよね。これからもっともっと面白くなっていくと思うよ。
──先ほど、『A THORN IN MY TONGUE』というタイトルには“一見口当たりのいいものにもトゲがある”という二律背反的な意味が込められているとの話がありましたが、各メンバーの二律背反的な部分をお互いに言うと?
MAKOTO:MAYUMIは一見図太く見えて、実は芯が細い。それを押し隠してステージでは突き進んで行っちゃう。LEEはその反対だな。「実は弱い人間なんで…」なんて言っておきながら、結構肝が太くて物事に動じない(笑)
LEE:MAYUMIさんは優しそうに見えるんですけど…奥底ではコワイんだろうなぁって言うか(笑)。MAKOTOさんは元BOφWYという名前があって気取ってる人かと思いきや、全くその逆で。負けず嫌いだったり、寂しがり屋だったり…愛すべき人なんじゃないかと思いますね(笑)。
MAYUMI:私から見たLEEは、見た目は好青年、中身も意外に好青年(笑)。
LEE:その通りです!(笑)
MAYUMI:ホントは遊びたいんだけど遊べない、みたいなタイプだよね。この人(MAKOTO)は…一杯喋るから一杯考えているようだけど、実は余り物事を深く考えていない(笑)。
MAKOTO:…まぁ、子供の頃は「口から先に生まれてきた」って言われてたからな(苦笑)。何はともあれ、とにかくライヴに足を運んでほしいよね。前からDAMNDOGを応援してくれてる人も、今度のシングルとアルバムを聴いて新しくファンになってくれた人も、存分に楽しませますから。思いっきりやるので、楽しんでいってほしいな。
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