“同い年”“かわいい女子”が加入条件
──そもそも結成の成り立ちというのは?
田渕ひさ子(g, vo):NUMBER GIRLが終わってすぐくらいですね。頭の中で新しくバンドを作ろうと考えつつ。NUMBER GIRLの最後のライヴが2002年の11月で、年が明けて正月に実家へ帰ってる時に秀樹君に電話しました。「一緒にどうかなぁ?」って、引き腰ぎみに押しながら(笑)。
安岡秀樹(ds):解散ライヴの打ち上げの席で「バンドやろっかぁ?」って酔っ払いながら話してたよね。
田渕:そうそうそう。でもそれ、シェルターだったような気がする。「やるんだったらいつでもやりますよ!」って言ってくれて。
安岡:ひさ子ちゃんとは元々知り合いで、僕は福岡で憲ちゃん(中尾憲太郎)と一緒にSTINKBOMBっていうバンドをやっていたんですよ。
田渕:そのSTINKBOMBのライヴを私がよく観に行ってたんですよね。“ドラムの人、恰好いいなぁ”って思って観ていて、憲ちゃんに秀樹君を紹介されまして。そしたら…血の気の多いコワイ人でした(笑)。
──当初はどんなバンドにしていこうと?
田渕:女の人が2人と男の人が1人で、女の人2人がよく唄うっていう。あとは、同い年で作ろうと思いました。
──…それだけですか?(笑)
田渕:はい(笑)。
安岡:「同い年は絶対条件!」って言ってたからね(笑)。
田渕:自分で誰かを誘って、まぁ言ってみればリーダーみたいな感じでバンドをやるんだったら、同じ年がいいなぁって漠然と思ってました。年上も年下も気を遣いますから…(笑)。
──“こういう音楽をやろう”とかは?
田渕:(安岡に)なかったよねぇ? “こんな感じ”っていうのはなかったですね。自分のギターと秀樹君のドラム、それにベースが合わさったもの、っていう感じです。
──その後、2003年2月に小林さんが加入する、と。
小林 愛(g, vo):はい。
田渕:東京に出てきてから、共通の友達を通じて知り合ったんです。swarm's armも観たことがあったし。最初はベースをお願いしようと思ったんですけど、別にベースにこだわらずにギター2本の3人編成でもいいかなと思って。かわいい女子を入れたらモチベーションも上がるし…と思って、小林 愛さんを誘いました。
──かわいさが条件!?(笑)
田渕:はい(笑)。誰を誘おうかっていうのは凄い考えましたけど。いろんな人でいろいろシミュレーションしてみたり。
小林:私は普通にちゃこちゃんのファンでしたよ。NUMBER GIRLのライヴに行ったら必ず右側で観てました。
──ひさ子さんはまだ正式にブッチャーズへ加入する前の話だから、この先どうするかを模索されていた時期ですよね。
田渕:そうですね。まぁ普通に、当たり前にバンドをやろうと思ってましたね。
──結成から5ヶ月後には渋谷NESTで初ライヴ、それ以降3ピースの期間が結構あったんですね。
田渕:そうですね。1年くらいはずっと3人でやってました。
──江崎さんが加入されたのは去年ですね。
田渕:3人で練習に入ってて、「ベース入れてみようか?」って話が盛り上がって、それで…。
安岡:「家近くやし…」みたいなね(笑)。
──そんな理由で?(笑)
安岡:で、僕が家の近所で江崎君に電話して。
田渕:「あんた、ちょっと弾いてよ」みたいな(笑)。江崎君を誘った時のライヴは一応サポート扱いでした。
江崎典利(b):違うよ、スペシャル・ゲストだったんだよ。
田渕:ああ、そうだった(笑)。
江崎:でもスタジオに入ったら、練習代を払わされるし(笑)。
安岡:自分で「いいよ、いいよ」って言いよったやん(笑)。
──メンバー全員がそれぞれ掛け持ちでバンドをやっていると、時間を合わせるのが難儀ですよね。
田渕:そうですね。みんな忙しい中でスケジュールをすり合わせてやってますね。
──僕も何回かライヴを拝見しましたが、各人が片手間にtoddleをやっている感じは決してなくて、本気度がとても強いのが演奏を聴くと判りますよね。当たり前の話かもしれませんけど。
田渕:良かったです。そう言ってもらえると凄く嬉しいです。遊びでやってるバンドみたいに思われるのも悲しいですからね。
──今さらなんですけど、toddleというバンド名の由来は?
安岡:新人バンドだから“よちよち歩き”かな、と。
田渕:「バンド名どうしよう?」って話になって、「私、考えきら〜ん」って。
小林:それで私が考えることになって。新しくバンドを始めるのは凄く久々だったので、なんか新鮮な気持ちって言うか、そんな意味を込めて“よちよち歩き”に。
田渕:「“d”が2つ並んでてかわいいよね、これ」っていうふうなことを言ってたような気がする。
小林:あと、ワンワードで短くて、そんなに馴染みのない単語みたいなのが良かった。
江崎:“おせっかい”とか?
一同:(無視)
江崎:……まだ本当のメンバーになれてないな……(笑)。
プロデューサー吉村秀樹は“天井の高い人”
──アイゴン(曾田茂一)監修のライヴ・コンピ『FLOWERS OF ERROR 1』(2003年11月発表)やDVDマガジン『GALACTiKA 05』(2004年9月発表)への参加はありましたけど、結成してすぐに単独音源を作ろうとは思わなかったんですか?
田渕:そうですね。自然な流れで行きたかったんですよね。なんて言うのかな、システムにのっとったふうにバンドをやりたくなかったんです。自然に始めて、曲ができてきたから「アルバムを作ろうか?」っていう当たり前のことを凄くしたかったんですよ。
小林:私はそういうシステム的なバンドをやったことがないし、他のバンドもこういう調子でやってますけど…。
安岡:うーん、まぁなんやろねぇ。普通にいいもんを作ってライヴをやって、ごく当たり前の姿であればいいんじゃないかと。
──そして遂に、待ちに待った単独作がこのたび発表となるわけですが。
田渕:「そろそろ…そろそろ…」って言いつつ、今になったっていう感じですね(笑)。結成から3年弱で、ようやく。3年前は秀樹君がまだネクタイ締めてスタジオに来てましたから。
──収録曲はいずれもライヴではお馴染みのナンバーですね。
田渕:はい。1曲(「oyster」)だけライヴでやったことがないのがあるくらいで、あとは全部ライヴでやってます。
──メンバー全員がソングライターという感じですか?
小林:曲によりますね。ほとんどの曲はちゃこちゃんが「こんな感じ」って作ってきて、他に何曲かは私と江崎君も作る感じです。詞はすべて“リーダー”が手掛けてます。
田渕:ははは(照笑)。作詞はそうですね。全部自分で。
──ひさ子さんは、このアルバム制作期間がブッチャーズのリハとかと重なって大変だったんじゃないですか?
田渕:演奏は2日、歌は1日半で録りましたからね。ミックスは2日間…2日というよりは48時間って感じで(笑)。
──プロデューサーにブッチャーズの吉村(秀樹)さんを迎えたのもリーダーの判断ですか?
田渕:いや…いやっていうか(笑)、そういうカチッとしたオファーではなかったです。気がついたら吉村さんが毎日スタジオに来てました(笑)。
安岡:来てもらって本当に良かったですよ。自分の発想にもリミットがあって、スネアひとつでもそうなんですけど、「こうやればこうじゃん」っていうのが吉村さんはパンっと出てくるんです。凄く的確なんですよ。録り方も斬新なんですけど、それがちゃんと曲に合ってましたから。
田渕:ライヴもよく観に来てもらってたし、toddleというバンドがどういうものかを確実に理解してくれてはいると思うんですよね。それに、音楽的にも凄く信用の置けるブッチャーズのリーダーなので(笑)。音のことも凄いよく判る人で、私はリーダーでありながらよく判らなくて、大ざっぱなことしかあまりよく判らないんですよ。レコーディングの現場に一人はそういう客観的な人がいてほしいというところからもお願いしたというか。テイクを選ぶみたいなところで「こっちのほうがいいんじゃない?」って意見をどんどん言ってくれて、心強かったですよ。
小林:歌もちゃんとテイクを録ってる時に吉村さんは聴いてくれてて、こっちのほうが雰囲気はどうとか言ってくれたり。
田渕:うん。歌はガッチリちゃんとしてた。太平洋のような人ですね、こんな我々みたいなバンドのために…(笑)。天井の高い人ですよ。
江崎:開放感のある環境でやらせてくれたし、そこでバンドのいい部分を引っ張り出してくれたしね。天使みたいな人やねぇ(笑)。
安岡:マリア様みたいやねぇ(笑)。
──お酒の天使とかではないですよね?(笑)
田渕:ははは。エンジニアの植木(清志)さんはそれまでに何度も吉村さんとレコーディングをしたことがある方で、吉村さんの話す微妙なニュアンスまでちゃんと理解されてるっていうか。それも凄い大きかったですね。
──各パートのエッジがしっかりと立って確固たる存在感を放っているんですけど、真ん中に軸としてあるのはやはりひさ子さんの歌だと思うんですよ。ふわりとした浮遊感があって、瑞々しく透明感があって、聴いていてとにかく心地が好い。
田渕:やだなぁ、もう…なんて(笑)。まぁ要するにちょっとヘタクソってことですよ(笑)。
──いやいや。ここまで全面的に唄うのは初めてですよね?
田渕:そうですね。カラオケは好きなんですけど(笑)、バンドで唄うっていうのはまた違うものですね。バンドを始める時点で、自分で唄うのは“やるしかない!”って感じでしたね。
DのコードはGのように甘すぎず、Eのように重すぎない
──アルバム・タイトルは直訳すると“Dのコードを捧げる”となりますけど、これにはどんな意味が込められているんですか?
田渕:先に曲が出来て、曲名をどうしようって考えてる時にアルバムのタイトルにしようと思いついてですね、“コードのDを捧げる”って英語でどう言うのかなぁ? って小林さんに探してもらいました(笑)。自分の歌のキーがDっていうのもあるんですけど、私が例えばギターを部屋で手にしたり、リハーサルとかで最初に音を出す時に、Dのコードをチャラーンと鳴らすことが多いんですよ。だからEとかGじゃなくて、Dなのかもしれないです。自分が一番よく弾いてるコードで、一番好きなコードなのかもしれませんね。Gのように甘すぎず、Eのように重すぎず。
小林:私もDは好き。
安岡:僕も好き。
江崎:…じゃあ、俺も(笑)。
──ギターが2本ともなると、絡み具合とか結構考えますか?
田渕:うーん、この2人の間ではそんなに考えてないですねぇ。
小林:どっちかが曲を作ってくる時は2本のパートの絡みとかを考えて、リーダーが考えて「こう弾いて」って言う時はそれなりにそうなるんですけど、「ここは自由にやってみて」みたいな時はそんなに計算はしないよね?
田渕:うん。こっちがコード弾いてるから単音でいいんじゃない? みたいな(笑)、そのくらいのことしか考えてないかもしれないですね。音選びとかに関しては小林さんが主にフレーズを弾くんですけど…どうだろう、(小林に向かって小声で)考えてます?
小林:……うーん……。
安岡:こんなバンドです(笑)。
田渕:私は手癖みたいなのでフレーズとかも考えちゃうところがあるけど、小林さんはわりとドレミで考えたりするんですよ。だから私とは全然違った感じのフレーズを弾いてくれます。
──リーダーの頭の中にしっかりとした設計図があって、それを各人に伝えるわけでもなく…。
田渕:リーダーなんていっても立場の弱いもので(笑)。「こうして」って言っても「え〜」とか言われたり…。
安岡:なんで僕のほうを見るんだよ!(笑)
──安岡さんが実は影のリーダーだったりして。
田渕:あ、でもアレンジ・リーダーではあるかもしれないです。曲を仕上げる段階ではわりと安岡君が取り仕切ることが多いですし。
──2曲目の「a sight」はライヴ・ヴァージョンが『FLOWERS OF ERROR 1』に収められていましたけど、なんというか、個人的にレベッカとか'80年代に活躍した女性ヴォーカル・バンドの曲を連想したんですよ。
田渕:ああ、判ります。私の中のイメージでは3曲目の「hesitate to see」がレベッカなんですけど(笑)。「a sight」は一番最初にできた曲なんですよ。秀樹君をバンドに誘おうと思ってた時に、実家の四畳半でエレキ・ギターをチャカチャカチャカチャカ弾いてできた曲です。“あ、1曲できた〜”と思って電話しようって(笑)。この曲ができて、気分的にちょっとテンションが上がって“よし、今電話しよう!”と思ったんです。それまではいつお誘いをあげようかずっとモジモジしてましたから(笑)。
安岡:それで曲ができなかったら、今頃どうなってたんやろね?(笑)
──確かに「hesitate to see」はメランコリックで懐かしい感じのする曲ですね。
江崎:…それ、どんな曲やったっけ?
一同:ええ〜ッ!!
田渕:ダ〜ダ、ダダダ、ダ、ダ、ダ〜(と唄う)。
江崎:ああ、あれはいい曲(笑)。
曲を聴いて自分なりの物語を重ねてほしい
──5曲目の「world wide waddle」は、toddleの自主レーベル名でもありますよね。
安岡:もともとは自主企画のイヴェント名ですね。
──ワールドワイドなのによちよち歩きっていう…いかにもtoddleらしいタイトルですが(笑)。
田渕:私、歌詞は作るんですけど曲名ってあまり決められなくて。これも小林さんに命名してもらったんです。
──この「world wide waddle」、ギターの出だしがロス・ロボスの「La Bamba」、もしくはZIGGYの「GLORIA」を彷彿とさせるというか…(笑)。
田渕:ははは。江崎君は「グラム・ロックっぽい」って言ってましたけど。
江崎:うん。グラム魂が出てるでしょう?
安岡:ああ、頭の歌詞にある「踵鳴らし〜」って、ロンドン・ブーツ履くような長い踵なんやね(笑)。
小林:凄いイメージ変わるねぇ(笑)。
安岡:そりゃあ、よちよちしか歩けんわなぁ。ブーツじゃ走れんもんなぁ(笑)。
──ひさ子さんのグラム・ロック好きは有名ですよね。
田渕:有名ですか?(笑) 大好きですよ。ただ、この曲にグラム・ロックのDNAを宿したつもりはなかったですけど(笑)。
──バンドを始める絶対条件が“同い年であること”ってことであれば、自ずと聴いてきた音楽もみなさん似通っているんじゃないですか?
田渕:時代的には同じところを通ってはきてますよね。音楽の趣味はみんな全然違うと思いますけど(笑)。
──8曲目の「mur mur」はR.E.M.と関係ありますか?
田渕:その曲名は秀樹君が付けてくれました。“ぶつぶつ言う”っていう。
安岡:なんか歌詞が独り言っぽいじゃないですか? “なに言うてんねん、おまえ”っていうか(笑)。
──江崎さんが作った曲は?
江崎:7曲目の「scene of a girl」ですね。この曲に限らず、全曲を俺が引っ張ってると思ってますよ(笑)。いや、きっとそれぞれがそう思ってやってるはずです。じゃないと面白くないですから。頻繁に練習ができるわけでもないですし。
安岡:練習はライヴ前に2回くらいやる程度ですね。
田渕:新曲がライヴの前の日に出来上がったり。もとから少ない練習なんですけど、なかなか4人が揃わなかったり。
──各人、別個にバンドがありますもんね。
田渕:いや、「忘れてた」とか「寝てた」とか、そういう理由で(笑)。
安岡:……起きれんもん……(笑)。
──9曲目は唯一小林さんによるメイン・ヴォーカル曲ですが、この「oyster」っていうのは?
小林:“カキ”っていう意味もあるんですけど、ここでは“無口な人”のことを指しているんです。“貝みたいに静かな人”っていうニュアンスですね。
田渕:この曲はレコーディングの直前にできた曲で、ライヴでもやったことがないんです。歌を録る時にやっと全部の歌詞ができたような感じで、できてすぐに唄うのはちょっと恥ずかしいし、それにこの歌詞だけ自分の中ではあまりに直接的というか、トイレのドアを開けられた、みたいなところがあって(笑)。それで小林さんに唄ってもらうことになったんです。私も何度か挑戦したんですけど、他の曲に比べてちょっと半端な感じになってしまって。小林さんが唄ったら凄く良かったんですよ。
──アルバムのジャケットは、toddleのイメージによく合った鳥の刺繍をあしらったもので。
小林:レイアウトはちゃこちゃんと2人で考えながら鳥のイラストを起こして、その下絵をもとにちゃこちゃんが刺繍したものなんですよ。
──アルバムを1枚こしらえると、その後のライヴの向き合い方も自ずと変わってくるんじゃないですか?
安岡:まだ1回もやってないからねぇ…(笑)。
田渕:9月4日のイヴェントがレコーディング後初ですね。その後にレコ発があって、全国ツアーという名のグルメ・ツアーがあって(笑)。
江崎:とにかく楽しんでやりたいよね。お客さんにも楽しんでほしいです。
小林:ライヴが終わって美味しいビールが呑めるように、本番で失敗しないようにしないと。
──こうしてお話を伺っていると、これだけガツガツしていないバンドには久々に出会った気がしますよ(笑)。
安岡:いやぁ、これも作戦のうちですからね。裏ではガツガツしてますから(笑)。
小林:そう言って私のほうを見ないでよ(笑)。
──最後に読者へのメッセージをリーダーからお願いします。
田渕:このアルバムに収めた曲はそれぞれに物語があって、どれも未完成なんです。受け取ったその人の物語が重ねられて、そこで初めて作品は完成されると思ってるんです。だから曲を聴いて自分なりの物語を重ねてほしいですね。ライヴも是非来て下さい。
|