“歌を聴かせたい”気持ちだけは変わらない
──今年に入ってバンドにとって一番の転機は、ドラムに増子めぐみさんが正式加入したことですね。
遠藤慎平(vo, g):増子のドラムには女性特有の柔らかい感じがあったんです。彼女が入ってバンド内の一つ一つの繋ぎが柔らかく感じて、これは新しいものを作れるんじゃないかと思ったんですよ。メンバーもみんな彼女のプレイを気に入ったし。
──バンドはリズムが要だから、固定しないとどうしても不安定になりますよね。
土屋 豊(b):やっぱりそこがずっとストレスでしたね。これまでサポートでやって下さってた方はいろんな人がいて面白かったけど、同じリズム隊として絞り込んでいきたい部分もあって、それには巧い・ヘタは関係なく、正式メンバーとしてコミュニケーションをとってやっていくしかなかったですから。
──この『月とピエロと青い星』から始まるシングル3部作のコンセプトというのは?
遠藤:そういうのは特にないですけど、C-999の中では唯一音楽をやっていく上で共通項としてあるのが“自分達が本当にいいと思えるものだけを出そう”っていうことで、それは今回も一貫してますね。
──C-999としての音源は3枚目ですけど、増子さんの加入によって変わったなという確かな手応えはありますか?
土屋:そうですね。ライヴでお客さんから感じ取るパワーも今まで3人でやってきた時とは明らかに違うし、このシングルでも、意識してないけどそれに沿って変わってきてると思いますね。ドラムに合わせてと言うか、それによって出来上がった曲は以前とは微妙に形が違っていたりするし。
──今度のシングル収録曲は従来のポップさもギターのエッジの立ち具合もグッと増した仕上がりですが、エンジニアが変わったりとか、レコーディングの環境も変わったんですか?
土屋:録音状況もエンジニアの方も、前とは変わりましたね。あとは何より、僕達のサウンドに対する考え方もまた新しく変わってきているから、それらが合わさって今回の形になった感じです。変わっていないのは“歌を聴かせたい”という気持ちですね。
──レコーディングの取り組み方とかで具体的に変わった部分は?
土屋:取り組み方はそれほど変わってないですけど、僕はドラムとのリズムの作り方が前よりキッチリできるので面白い部分も増えましたね。
遠藤:歌的な面で言うと、以前は音の厚みを重視しているところがあったけど、曲自体が求めてる歌い方って言うか、もっといろんな表現方法があるんじゃないかと意識して考えるようにはなりましたね。ひとつしか表現方法がないよりも、たくさんあってそれをいろんな形でできるほうが、聴いてるほうもやってるほうも飽きないだろうし(笑)。今はいろんなものを取り入れてやってみたいという、気持ち的な部分で大きく変わったと思います。
──1曲目の「月とピエロと青い星」は、なかなか思い通りに行かない人生のメタファーとして歌詞の中にティエリという名の冴えないピエロが登場しますが、こうしたお伽噺の形を借りた物語は誰しもが共感しやすいですよね。
遠藤:そうですね。思い通りにいかないもどかしさというのは自分もそうだし、きっとみんなもそうだろうなって思いながら書いた歌詞です。自分がピエロに思える時もあれば、青い月の時だってあるし、音楽でも何でもそうなんですが、その時々の心境によって受け止め方が違ったりするんだと思う。いろいろとつまづくことはあるけれど、何だかんだ言ってもみんな笑いたいし、成長して行きたい。不幸があるから幸せを感じるし、幸せがあるから不幸を感じる。どちらかが欠けてもダメだし、そういうことを繰り返しながら、ひとつひとつ学んで前へ進んでいくんじゃないかと思いますね。
土屋:サウンド的にはノリに気を付けて…あとはあまり深く考えませんでした。カラッと爽快に駆け抜けていく感じは出したいと思いましたけど。
遠藤:R&Bのリズムの使い方の面白さに着眼していて、それがきっかけで出来たメロディだからちょっと突拍子もないところはありますけどね(笑)。あまりドロッとせず、リズムの持つ爽快さを活かしたいと思ったから、歌録りは今までよりもちょっと苦戦したかな。
──2曲目の「アウトライダー」は、世の男性諸氏なら心当たりのある男の普遍的なテーマを描いた曲ですね。
遠藤:男のつまらなさと言うか、くだらないプライドと言うか(笑)。詞は結構ストレートな感じで書いたつもりではあるんですけど、それに合わせてサウンドもあまり飾らずに、豪快さを出しました。
──「強い人ねと言われた時に/ぎこちない想いが ぐっと込み上げた」という歌詞に象徴されてますけど、全然強くないのに、わざと恰好をつけて痩せ我慢するのが男の本来の姿かなと思うんですけど(笑)。
土屋:確かに男って恰好つける生き物だと思いますけど、凄いキレイごとを言うと、恰好つけて過去を振り返れるようなことをしたいですね。悪いことをして振り返れないようにはなりたくない。でも実際には消したい過去がたくさんあったり、女性に対しても強気ではいたいけれど、その実体はこの歌みたいに操られてる感が強いような気がしますね(笑)。
──この曲のタイトルの由来は?
遠藤:“アウトライダー”っていうのはカウボーイという意味があって、息を切らせて走って、向こうからやって来る獲物を追い捕まえるその姿にちょっと掛けてみたんですけど。
──だけど、“後天性後悔でどうしようもない男”じゃ、獲物も一生捕まりそうにないですよね(笑)。
遠藤:イメージとしてはそんな感じですね(笑)。
何事にも存分に楽しみ、常に遊び心を持つ
──今回のシングルに収められた3曲とも、タイトルが謎解きみたいですよね。その最たるものが3曲目の「820454400 〜君に見つけたもの〜」ですが、この“820454400”っていうのは?
遠藤:メンバーの誰もこの正確な数字を言えないんですよ(笑)。
土屋:まず覚えようとしないからね(笑)。
遠藤:この数字は、うるう年までちゃんと計算した26年間分の秒数なんです。
──ああ、そうなんですか。
土屋:これで計算が間違ってたら笑えるよね?(笑)
──しかも、もう直せませんからね(笑)。
遠藤:これは僕の凄く身近にいた友達のために書いた歌なんです。その友達が26歳で結婚することになって、彼がそれまで生きてきた秒数があってこそ今があるという意味を込めて、秒数を曲のタイトルにしました。唯一の心残りは、結婚式にこの曲が間に合わなくて目の前で唄ってあげられなかったことですね。
──今月発表の『月とピエロと青い星』から、11月、来年の1月とシングルが立て続けにリリースされますが、この3部作には何か関連性みたいなものはあるんですか?
遠藤:中身的な関連性っていうのは、実際のところ意識はしてないです。
土屋:その時その時に生み出したいい曲を常に聴かせたいので。もしも2枚目を出したところで世界が滅びたらどうする、慎平?
遠藤:それは困るなぁ…(笑)。
土屋:だろ? だったら1枚目も全力で、2枚目も全力がいいだろう?(笑)
遠藤:いいこと言ったねぇ(笑)。まぁ、自分達の中でも「これは生かし曲、これはボツ曲」とか、そんな意識で曲を作っていないし、基本的には全曲シングルで行けるくらいの意気込みで臨んでますからね。
──じゃあ、ストック曲はあまりないほうですか?
遠藤:いや、結構ありますよ。
土屋:例えば、前回はこういう曲だったから今度はこんな色に変えてみよう、とか。今はどれもシングル候補と呼べそうな高い水準の曲が多い上にどれも思い入れがあるし、選曲には悩みますけどね。
──巷で言うところの“ギター・ロック”という呼称で語られることも多いと思うんですけど、ご本人達としてはどうですか?
遠藤:意味がよく判りませんね(笑)。「ギター・ロックって何だよ?」って逆にこっちが訊きたくなりますよ。CDショップの棚の区分けで“ロック”とか“ポップ”とかコーナーがあるじゃないですか? 判りやすくするためには仕方がないと思いますけど、何がロックで何がポップかは人それぞれの基準でも違うだろうし、僕達はあまりそういう形式にこだわって曲を作ることがないんですよ。結局、ロックっていうものは生き様の問題だと思うし。そういう形式ばった狭い括りが音楽をつまらなくしていると思うんですよ。
──木を見て森を見ず、物事を矮小化すると真実から遠くなりますからね。
遠藤:自分達の中では、普通であることがまずイヤなんです。何かの枠の中に押し込められるのもイヤですね。例えばPVだからこう撮らなきゃとか、ギター・ロックだからこうしなきゃとかっていうのがイヤで、自分達なりの方法でやっていけば何でも面白くできると思ってます。バンドの中でのキーワードとしては、“何事にも存分に楽しんで、常に遊び心を持て”っていう感じですね。
──このシングルの値段をわざわざ税込み999円にしたのもC-999一流の遊び心ですよね(笑)。
土屋:そうですね。ライヴで物販の時にお釣りが大変ですけど(笑)。
──その遊び心っていうのはライヴでも同様ですか?
遠藤:そうですね。全くの自分達流ですけどね。言いたいことがあるだけなら別に音楽をやらなくても、噺家でも作家でも何でもいいと思うんですよ。でも僕達は音楽という選択肢を選んでこうしてやっているわけだから、言いたいことも確かに大事だけれど、音としてメロディに聴かせることがそれ以上に大事だと思うので、その辺は自分達流に考えてやっていますね。
──これだけ数多くのバンドがいて多種多様の音楽が溢れているんだから、他人と違うことをやるのが本筋ですよね?
土屋:要するに目立ちたいですから。誰かと違うことをやれば目立つだろうし、あえて違うことをやらなくても目立つんだったら、それはそれでいいし。常に他のバンドと比べて際立った存在でいたいですね。
──前から訊きたかったのですが、昨年改名したバンド名“C-999”にはどんな意味が込められているんですか?
遠藤:Cは元素記号で炭素っていう意味で、999っていうのが俗語で99.9%って意味があって、限りなく何かに近いっていう時に用いる数字なんですよ。C(炭素)が100%だとダイヤモンドなんですけど、自分達はダイヤモンドに近い存在なんだっていう驕った気持ちとかではなく、0.1%でも足りなければダイヤモンドでも何でもない、単なる石ころなんだってことです。そんな石ころにすぎない僕達が、どこまで自分達の力だけでバンドとして前を向いて行けるかという意味合いが込められているんですよ。
──炭素は99.9%でも、C-999はロックの純度100%じゃないですか。
遠藤:(笑)自分達としてはロックやポップとかの境界線を考えずに、ただ純粋な気持ちで楽しんで、音として伝えたいことを伝えていきますから、聴き手の皆さんもつまらない先入観を持たずに、ただ純粋にサウンドと言葉に耳を傾けてくれたら嬉しいですね。
土屋:そうだね。『月とピエロと青い星』には自然と身体が踊り出すような曲が揃っているので、自分の素直な気持ちで聴いてもらえたらと思います。
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