自分のいいところを自分で消そうとしていた(矢野)
──お2人は以前から知り合いだったんですか?
AxSxE:知り合いって言うか、楽屋で会っていたって言うかね。彼がまだCHOKOをやっていて、僕がBOATをやっていた頃にイヴェントで一緒になったんだよね。あれは確か…'98年頃かな。
矢野:僕はBOATのファンだったから、凄く緊張して。初対面の時は、コワイお兄さんだなぁと思いましたよ(笑)。
AxSxE:後から記憶を辿っていったら、ストレートの黒髪のかわいい男の子がいたなぁって思い出して(笑)。
──→SCHOOL←として初のアルバム『感情的format』は最初からAxSxEさんにプロデュースをお願いしようと?
矢野:いやいや、僕から連絡を取る術はなかったですから、スタッフの薦めでお願いしました。AxSxEさんも有り難いことに快諾してくれて。実は、AxSxEさんが今NATSUMENをやってるのを僕はずっと知らなかったんですけど、聴いてみたら案の定ツボにハマりましたね。
AxSxE:最初に矢野君のデモを聴かせてもらったのは、矢野君のスタッフに呼ばれて行った六本木ヒルズのオフィスだったんですよ(笑)。曲によってイメージが違ったりしたけど、真っ白な…何て言うか、透明感があるなぁと思いました。六本木ヒルズの窓ガラスみたいなファースト・インプレッションを受けましたね(笑)。
──実際に作業をご一緒して如何でした?
矢野:楽しかったですよ。ひたすら酒を呑んでるイメージがあったんで。
AxSxE:さすがに呑みながらは作業してないけどね(笑)。
──今回の『感情的format』は、これまでデモのカセットテープが3本あった上で、改めて→SCHOOL←を仕切り直す意味合いもありますよね。お色直し盤といった趣もあり。
矢野:前に出したテープは一作ごとにその都度好きなように作っていたから、音に統一性がないんですよ。だからこのアルバムではまずそれをちゃんと一本芯のあるものにしたかったんです。漠然とした言い方になりますけど、嘘のない感じにしたいと思っていて。音的にはソリッド感があるものを出せたらいいなと考えてました。
AxSxE:音を統一すると言うよりは、矢野君という人間性を芯に置くって言うのかな。それが打ち込みだろうと生音だろうと、そこに矢野晶裕という人間が軸にあればブレないと俺は思ったんですよ。
──このアルバムには、どことなくNATSUMENにも通じる夏っぽい季節感があると思ったんです。ギラギラした真夏というよりは、梅雨が明けてこれからが夏本番を迎えるくらいの時期の、キラキラした夏っぽさと言うか。
矢野:単純にそういう夏っぽさが出ているのは、僕がBOATを好きだったこともあると思いますよ。
AxSxE:逆に俺はそういうのが自分では判らないんですよね(笑)。あと、俺もそうだったんですけど、一人で多重録音するデモってカチッと作り込んでくるじゃないですか? だけど、矢野君がプリプロでギターを弾いてるのを聴いたら、それまでに聴いてたデモの感じとは全然違ったんです。ゆらめいて拡散してる感じって言うか、ああ、ホントはこうなんだなぁ…って思いましたよ。
矢野:それこそ、僕も自分ではよく判らないですよ(笑)。
AxSxE:アルバムのタイトルが示している通り、矢野君の感情が全面に出るように心懸けましたね。ギターをきっちり弾けば弾くほどクォリティは上がっていくけど、初めに抱いた瞬間的な感情は薄れていく。矢野君の完成されたデモは凄くいいものもあったんだけど、それとは違った、“人間・矢野”が音をえぐる瞬間的なものを音像として欲しいと思った。
──となると、テイク自体は幾つも録らないで、限りなくファースト・テイクに近い形のほうが、いわゆる初期衝動的なものは生まれやすいですよね。
矢野:最近の僕は確かに宅録重視になっていたし、レコーディング自体がほとんど一発録りに近い形でパッパッパッと早いスピードで進んでいくのはどうなんだろうと思っていたところが正直あったんです。でも、こうして出来てみて思うのは、一発でドーンと行く感じは忘れちゃいけないなということですね。
AxSxE:俺も昔は、自分が頭の中で描いたイメージを余すところなく具現化したかったし、それを人が介在した途端に違うものになってしまうジレンマもあったから、家で一人デモ作りに没頭していたこともあったんです。だから矢野君の気持ちは凄くよく判るんですよ。以前、アイゴン(會田茂一)にBOATをプロデュースしてもらった時もファースト・テイク主義で、エラく驚きましたから。ファースト・テイクには何かがあるっていうのを理解したのはもっと後になってからですよね。
矢野:化学反応みたいなものも、そこにあるとは思うんですよ。でもそういうものが、自分はソロになったからもうできないだろうって勝手に考えていたんですね。それがAxSxEさんがいてくれたことによって実現できたんじゃないかと思いますね。
──→SCHOOL←は矢野さんのソロ・ユニットなんだけど、この『感情的format』にはバンド・サウンドのダイナミズムが驚くほど脈打ってますよね。CHOKOの時にバンドに限界を感じて活動休止したはずが、こうしてまた紛うことなきバンド・サウンドに揺り戻ってきたところが面白いですよね。
矢野:うん。だからこのレコーディングを通じて、自分のいいところを自分自身が消そうとしていたのがよく判ったんですよ。
AxSxE:己を知ることは大事ですからね。それが判らないとさらにその先へは進めないからね。
──AxSxEさんとしては逆に、→SCHOOL←のレコーディングを通じて数年前にアイゴンがプロデュースしていた立場がよく理解できるようになったのでは?
AxSxE:うん、それはきっとあるでしょうね。自分がプロデュースをやるようになって初めて、“ああ、あの時アイゴンはこう思っていたんだろうな…”って判る瞬間があったと思いますよ。
矢野:最初、AxSxEさんってもっと理屈っぽい人だと僕は思ってたんですよ。ところが意外とラフって言うか、凄く人間味があって。
AxSxE:理詰めで何かを説明するよりも、「ああ、今のグッときた!」とか、もっと直感的な言葉で伝えようとしましたね。矢野君が何をやりたいかというのをまずはちゃんと汲み取って、それを最優先するプロデュースのやり方を取りました。自分の考えは置いといて、あくまで本人優先で行きたかったですからね。ただ、進行は凄くタイトで、意識が朦朧として記憶が飛んでるところもありますよ(笑)。
矢野:あまりに徹夜が続いたから、アルバム・タイトルを『RISING SUN』にしようかと思ったくらいで(笑)。
他の誰かに似てると思われたら“負け”(AxSxE)
──矢野さんがこのアルバムの中で特にこだわり抜いた曲ってありますか?
矢野:僕が一番こだわりがあったのは、「HITO-YONDE-SCHOOL」の“人呼んで→SCHOOL←と申します”っていうフレーズをどう録るかでした(笑)。「あの部分はナシでしょ?」ってスタッフから言われたんですけど、僕はそこだけはどうしても譲れなかったんですよ。
──個人的に「僕らの存在」がアルバムの柱となっている曲じゃないかと思ったんですが。
矢野:ああ。一番バーンとダイナミックに歌が乗った曲ですね。
AxSxE:矢野君の歌を中心に置くっていうのは大前提でしたからね。音数が多くても歌の邪魔になってしまうし。
矢野:そこを巧くAxSxEさんに整理してもらいましたよね。僕は隙間が怖いって言うか、ギターの壁を作ってもっと音を被せようとしてしまうんです。AxSxEさんがそこに「もっと人間性を出そうよ」という発想を提示してくれたんですね。音が少ないからといって音源自体が細くなったわけじゃないんだっていうのを、これからはもっと研究していきたいと思ってます。
AxSxE:例えば「ワンダーステップ」だと、デモだと矢野君はギターをきっちり弾いている。それがスタジオで演奏すると結構ギュイーンと荒々しくて、全然違うんですよね(笑)。だったら矢野君の本来のそういう持ち味を引っ張り出そうと思ったんですよ。デモテープのはやっぱり座って弾いてるギターでしたからね。でもスタジオでベーシックを弾いてるのはそういうギターじゃなかった。
──仁王立ちしてる感じですよね。
AxSxE:うん。そういうのは矢野君と実際に会ってみて判ったんですよ。矢野君がスタジオで弾いてたようなギターは、自分にはとても弾けないですからね。ここ10年くらい自分のギターは全く変わっていないけど、自分のことをギタリストとは思ってこなかったですよ。矢野君のギター・プレイ、俺は好きですよ。
矢野:そこまでのものじゃないですよ(笑)。そういう自分のプレイは客観視できないんですよね。この辺でギターが鳴ってて、この辺にベースのロウが入って、ストリングスがあって…みたいに、周りのことで頭が一杯になっちゃうんです。僕は「tonight」の最初のリフ…AxSxEさんが弾いたアコギがループしているだけなんですけど、あれは凄く好きなんですよね。
AxSxE:その場で考えて弾いたやつね(笑)。ギタリストを10人集めたら、全員が全員違うプレイをすると思いますけどね。いい意味でも悪い意味でもね。でも、誰それみたいなギターを弾きたいとかそういうのは、そのギターを聴けば一発で判りますよ。俺はそう思われたら“負け”だと思ってます。周りが何と言おうが、俺のギターはこれでええやんと思ってますから。他の誰かに似てたって仕方がないし、俺のギターは俺しか弾けない。だから矢野君にもそうあってほしいんですよ。
矢野:そうですね。こうして一枚出来上がって思うのは、自分の良い部分を消しかけていたのをどう対処していくか、そこに自分のやりたい方向性とがいい形でミックスされるようになればいいけど、それを誰かが観た時に自分と違うものになっていたら怖いなというのがあって…。そこをもっと模索していきたいですね。
AxSxE:でも出発点はそれでいいと思うよ。それでいいんだよ。
矢野:あと、このアルバムが出来て以降、ライヴでもとにかく歌を大事にするようになりましたね。それまではわりと冷めた唄い方と言うか、決して流していたわけじゃないんですけど、大事にするっていうニュアンスではなかった。単純に表現ができればそれでいいんじゃないかってところで収まっちゃっていて、もっと人間味っていう部分で大事にしなくちゃいけないことに気づかされましたね。そこは大きく変わりました。
──これでようやく、本当の意味で→SCHOOL←がスタートラインに立てた感じですね。
矢野:いやぁ、始まりも終わりも何が何だか判りませんけどね(笑)。
AxSxE:俺はもっと判らないよ(笑)。
──矢野さんに対する素朴な質問なんですが、単純にバンド・アンサンブルの妙が恋しくなってきませんか?
矢野:うーん。もし僕が次にバンドをやるんだったら、お互いに一切のエゴなしでやりたいですね(笑)。個々にちゃんとスタイルがあった上で成り立つようなバンドがいい。でも今はこうしてソロで自由に活動できているのが純粋に楽しいですから。→SCHOOL←とは別にバンドを組むことは今後可能性としてあるかもしれないですけど。
──では最後に、お互いにメッセージを交換して締めましょうか。
AxSxE:キラめいてる君を、君はまだ知らないかもしれないけど…これからもっとキラめくぜ(笑)。今現在のキラめきは、後々になって“俺、こうだったんだぁ…”とか気づく時がきっと来ると思う。これからいろんなベクトルへと散っていって、今以上にもっともっとキラめくことができると思うよ。それをやって下さい(笑)。
矢野:はい(笑)。そのキラめいている感っていうのは、まだ自分ではよく判ってないですね。バンド感みたいなところと宅録っぽい感じは両立させて、音楽的に進化していきたい。やっぱり好きで音楽をやっているのでずっと続けていきたいですね。
AxSxE:その頃までに、矢野君がお酒を呑めるようになっていればいいね。それが俺から唯一のリクエストかな(笑)。
矢野:……頑張ります(笑)。
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