強引にバンドの勢いやうねりを作ろうとした
──昨年リリースした『RainbowL+1』は結成当初からのナンバーで構成されていましたが、『I.D.[Illustrators' Decoration]』は全曲ほぼ書き下ろしに近い感じで、作品作りの向き合い方が自ずと変わったと思うんですが。
MORO(g, cho):そうですね。『RainbowL+1』の時は、正直バンドのなかでルーティン化が進んでたんです。新鮮さに欠けてきて、ライヴでも“またこの曲をやるのかぁ…”みたいな感じで。それで一本一本のライヴが滲んできちゃったんですよ。新曲も溜まってきたんですけど、なかなかレコーディングして形にする時間もなくて。それで、2004年に入ってから3ヶ月でこのアルバムに収めた曲をダーッと作って、強引にバンドの勢いやうねりを作りたいと思ったんです。このアルバムに入ってる曲を生み出したことによってバンドの方向性や“らしさ”みたいなものが見えてきたし、“結局はこういう曲がやりたいんだな”というのが明確になった。今までルーティンだったものを自分達の力だけでギュッと引き戻すことができるようにもなったんです。
──新曲作りがバンドにとって転機だったわけですね。
MORO:はい。気持ちの切り替えと言うか、“また生まれ変われたな”っていう実感がありましたから。
──ファースト・シングル「MONOchrome」に引き続き、プロデューサーの佐久間正英さんが今のURCHIN FARMサウンドのキー・パーソンだと思うんですが、具体的にはどんなアドバイスを受けましたか?
MORO:一番大きかったのは、「ガチガチに巧くやるというよりは、今みんなで音を出してることを大事にする…それを念頭にレコーディングしていこうよ」と言われたことですね。サウンド的には、自分達が想像してる音でなかなか発見できなかった音を発見してもらえたと言うか。出したかった音がだんだん判るようになってきました。
SOTA(vo, g):うん。自分達では掴みきれてない部分を客観的に、的確にアドバイスしてくれましたね。
SITTY(b, cho):佐久間さんも僕と同じベーシストなのでプレッシャーはありましたけど、いいところで僕のフレーズをジャッジしてくれたし、いい意味で整理整頓してくれた感じです。今まで以上に多くの人達に聴いてもらえるようなアルバムに仕上げることができたので、凄く満足してますよ。
TETSUYA(ds, cho):スタジオでずっと演奏を続けてると、レコーディングの合格ラインが判らなくなってくるんですよ。それを佐久間さんがピンポイントで判断してくれましたね。OKが出たら、それをもとに考えながらもう一回やってみようっていう感じの進め方で。技術的な部分もアドバイスはあったんですけど、それよりは佐久間さんの現場での和やかな雰囲気作りに救われたところは大きいですね。
──佐久間さんから手厳しい助言とかはありましたか?(笑)
SITTY:シビアなところはシビアに、譲れないところは絶対に譲らない(笑)。
MORO:物腰の柔らかい方なんですけど、スラッとトラウマになるようなことを言われるんですよ(笑)。スタジオで言われた時には気づかないけど、夜になってベッドの中でその言葉を思い出して泣く、みたいな(笑)。
──『RainbowL+1』に比べて各パート成長の跡がしっかりと窺えるんですが、特にSOTA君のヴォーカルに艶っぽさと説得力が増したと思うんです。アルバム収録曲で言えば「9 o'clock」や「Shooting Star」なんかが特に。
SOTA:ありがとうございます。「9 o'clock」は12曲ある中で最初のほうに録った曲で、「Shooting Star」はレコーディングもこなれてきた最後のほうに録ったんです。その2曲を聴き比べると、自分ではまるで別人のように感じますね。
MORO:歌入れは特に苦労しましたね。これだけたくさんの曲をまとめて録るのも初めての経験だったし、自分達だけではなく、佐久間さんに加わって頂くことによってOKラインのハードルも高くなりましたから。相当な気合いと体調管理、メロディの細かい分析…そういうのをきちんと固めないと難しいんだって初めて思い知らされました。
──『I.D.[Illustrators' Decoration]』というタイトルの意味するところは?
MORO:“絵描き達の装飾”という意味で、“Illustrators' Decoration”という言葉のなかに“irodori”というアルファベット7文字が隠されているんですよ。キーワードは“彩り”なんです。“絵描き”っていうのは僕達メンバーだけではなく、聴いてくれるリスナーみんなのことでもあって、自分の人生を彩る、装飾する…そういう行為がテーマと言うか。例えば僕達の場合は人生を彩るためにバンドをやっている。音楽を続けるという行為自体がその人の個性であったり、それこそが“I.D.”、つまり生きる上での存在証明なんだ、っていうことなんですよ。
──リスナーの立場としては、URCHIN FARMの音楽を聴くことによって人生に彩りを与えられますよね。
MORO:そうなってほしいですね。ライヴを観てパワーを受け取ってもらいたいです。
──先行シングルの「MONOchrome」もモノクロな日常をカラフルに変えていこうという歌詞でしたし、『RainbowL+1』から一貫して自分達の音楽を色に喩えていますよね。
MORO:そうですね。僕達の音楽は基本的に“雑色”から始まったので、どんな要素でも貪欲に採り入れたいんですよ。好きな音楽はメンバーそれぞれあるけど、どんな音楽であれ、いい要素は素直に認めて採り入れたいと思ってます。カラフルと言うよりはメニー・カラーズって言うか、いっぱいカラーがあるんだよっていうところから入って7色のレインボーに行き着いた感じなんです。
──そんな“カラーがいっぱいある”引き出しの多さは、バンドにとって大きな強みだと思いますけど。
MORO:それは大学のサークル(立教大学「作詞作曲部OPUS」)の影響が大きいと思うんです。いろんなジャンルの音楽をやってる人達がたくさんいて、そこで分け隔てなく“雑色”な音楽を聴いてきましたからね。
お客さんとのコミュニケーションこそが自分達の“I.D.”
──「ARKANOID」「C」「Knight」など、繊細に作り込んだタッチの意欲作はこれまでに見られなかったもので、より一層ヴァラエティに富んだ作風になりましたね。
MORO:はい。ただ、「こうしようぜ!」とかは余り考えずに、割と自然にそうなった感じなんですよ。「ARKANOID」なんかは、ネタの段階では“アーチンっぽいな”と自分では思って持ってきたもので、初めからアレンジに凝ろうとしたと言うよりは自ずと凝ってしまったんです。
SOTA:「ARKANOID」っていうのはブロック崩しみたいなゲームの名前なんです。ある程度の経験を重ねてくると、みんな「ARKANOID」みたいに動いてるようで横移動してるだけのことが多いんじゃないか? とふと考えて。前を進もうとすればゲームオーヴァーになる確率は確かに多くなるけど、横這い状態のままでいるくらいならリスクを伴ってでも前を向いて進んでいこうよ、っていう想いを歌詞に込めたかったんです。TETSUYAの携帯電話に入ってるゲームからインスピレーションを得ました。
──「C」というのは意味深なタイトルですけど(笑)、ギターのコードのことを指しているんですよね。“C”のコードからすべてが始まる、という。
SOTA:そうなんです。僕が初めてギターを弾いたコードが“C”だったんですよ。この曲では、僕は“C”しか弾いていないんです。初めてコードを覚えた自分でも唄える曲なんです。物事を始めてすぐにでもこれだけできることがあるんだよ、っていうことを言いたかったんです。何か物事を始めた時に抱いた熱い気持ちさえちゃんと持ち続けていれば、困難な場面でも何とかなるんじゃないかと思うんですよね。
──「Me Need More Need」の仮タイトルはズバリ「ミニモニ」でしたよね(笑)。
MORO:あのミニモニ。から派生した曲ですね。…いや、派生していないですけど(笑)。この曲はSHITTYが歌詞を書いたんですけど、「ミニモニ」からよくもあんな素晴らしい造語を作ったなと(笑)。
SHITTY:これはもうミニモニ。に対するリスペクトしかないかなと思って(笑)。僕は以前にも「Idaho」という曲を作詞したことがあって、今度のアルバムでもこの「Me Need More Need」と「Knight」の2曲を作詞したんですが、TETSUYAは全く初めての経験だったよね。
TETSUYA:もう全く初めてのことで。SOTAにも「こういうのを伝えたいんだけど…」って相談しながら「BACK BORN」の詞を何とか書き上げました。テーマは…背徳の堕天使と言うか(笑)。SOTAが余り書かないような歌詞に仕上がったと思います。
SHITTY:「BACK BORN」は地元魂とかが凄く出てる曲で、言わばアーチン流“町興しソング”ですね(笑)。
──ブックレットも非常に凝っていて、URCHIN FARMのジャケット=山田ノブオさんによる鮮やかなイラストというのも定着化してきた感がありますね。
MORO:有り難いですね。“彩り”をテーマにしたアルバムに相応しい、素晴らしいイラストだと思います。中ジャケにちょっと大きな視点で捉えた“世界”を表した同じイラストが3点あって、モノクロが1点、カラーの配色違いが2点あるんです。モノクロで見たものとカラフルで見たものだと鮮やかさが違うし、彩りのあったほうが同じイラストでも見え方がまるで違うと思うんです。そういうことを表現したかったんですよ。
──差し込む陽の光によって海の色が変わって見えるように、個々人の受け取り方によって音楽の解釈も変わりますよね。それは音楽に限らず、絵画でも映画でもカルチャーの世界全般的に言えることだと思うんですが。
MORO:解釈は必ずしもひとつではないってことですよね。ポップで明るい曲でも人によっては切ない曲として受け止めることもあるだろうし、その逆もあると思います。僕達の歌詞は捉え方の幅広さ、奥行きはあると思ってますし、聴いてくれる人が感じるままに受け止めてもらえればそれでいいと思います。おそらく、歌詞の解釈についてはこのメンバー間でも微妙な誤差があるだろうし。
──じゃあ、メロディの美しさが際立つ「9 o'clock」が“月9”ドラマの主題歌を想定して作ったとか、余り言わないほうがいいですね (笑)。
MORO:それはアリですよ、間違いないことなんで(笑)。だって最初の仮歌のタイトルは「Monday 9」だったんですから(笑)。「Shooting Star」も、スキーのCMソングみたいな曲調を狙って作ったところがあったりなかったり(笑)。そう考えると、結構僕達ってギリギリですよね。'90年代のJ-POPテイスト満載で(笑)。
──ああ、ミリオンセラーが連発されていた頃の音楽バブル期J-POPのテイストが、それこそ“BACK BORN”としてURCHIN FARMにはありますよね。そういう“お里”を臆面もなく出せるのは強みですよ。
MORO:実際、その時期の音楽が身体に染み付いてるし、ダサいとか古いとかギリギリだとか全く思わないんですよね。いいものはいいんだから、何も隠す必要はないと思ってます。
──これだけの充実作が完成したら、新宿ロフトでの“BEATSONIGHT Vol.5”を皮切りに始まるツアーも期待して良さそうですね。
MORO:今度のツアーは間違いないです! この間回ったシングルのレコ発ツアーで、個々人がメンタル面での整え方を習得してかなりの手応えを感じましたから。今度のツアー・タイトルは“S.O.I.D. TOUR”と言って、“Show Our I.D.”つまり“僕達のI.D.を見せに行く”ツアーってことなんです。今の僕達にとっての“I.D.”とは決して巧い演奏を聴かせることではなく、あくまでお客さんとのコミュニケーションを取ることなんですよ。それがお客さんにとっても、僕達にとっても、最終的に鮮やかな“彩り”になってくれたらいいなと思ってます。
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