『RESPECTABLE ROOSTERS→Z a-GOGO』PRODUCER
スマイリー原島
ルースターズの音楽がいつまでも“記録”よりも“記憶”に残るものであってほしい
アクシデンツのヴォーカルとして'84年にメジャー・デビューし、現在は下北沢を中心に数々の自主イヴェントを手掛けているスマイリー原島は、ここ数年のルースターズ・プロジェクトを一手に取り仕切るブレインの一人であり、ルースターズを語る上で決して欠かすことのできないキー・パーソンである。『RESPECTABLE ROOSTERS 〜a tribute to the roosters〜』に続き、企画立案・コーディネイト・プロデュースまでを全面的に担った彼に『RESPECTABLE ROOSTERS→Z a-GOGO』の制作秘話、ルースターズの音楽が持つ多面性などについて存分に語り倒してもらった。(interview:椎名宗之)
曲自体の持つポテンシャル、多様性を改めて痛感した
トリビュート・アルバム第2弾の話はもう随分と前からあったんですけど、最初の『RESPECTABLE ROOSTERS 〜a tribute to the roosters〜』を出した時点でルースターズのBOXを作りたいと漠然と考えていて、そこから彼らの未発表テイクを発掘するという長い旅に出たわけです。厳密に言うと'98年くらいからかな。まぁ、みんなで“GO FUCK”ツアーに出たと言うか(笑)。その旅がまたねぇ…終着駅に全然辿り着かないんですよ(笑)。その発掘作業が結局は去年の春先まで時間が掛かって、CD 27枚+DVD 5枚+ボーナスDVD 1枚という前代未聞のパーフェクトBOX『“VIRUS SECURITY”SUB OVER SENTENCE.』として晴れて発表することができたんです。権利関係やら何やらと細かい糸を解きほどく作業は確かに半端じゃなく大変でしたけど、今思えば非常にやり甲斐があって充実していましたね。
そんな長い旅が終わったと思ったら、今度はルースターズ以降の主要メンバー達によるアフター・ワークスをデジタル・リマスタリングしてリイシューする“THE ROOSTERS→Z of After Math”というプロジェクトが始まった。その間には去年のフジロックでのオリジナル・メンバーによる再結成/ラスト・ライヴがあって、それをあの石井聰亙監督が3時間半にも及ぶロック・ドキュメントとして映像化した『RE・BIRTH II』のリリースも先だってあり…。そんなこんなで今回の『RESPECTABLE ROOSTERS→Z a-GOGO』は発表に漕ぎ着くまでかなり時間が掛かってしまったんですけど、ルースターズの音楽をちゃんとした形で後世に伝えていくというプロジェクトの流れとしては、優先する順序をいろいろ考えての結果なんですよ。結局、『RESPECTABLE ROOSTERS→Z a-GOGO』の話が本格的に始動したのは去年の春頃でした。
制作にあたっては紆余曲折ありましたよ。当初は他にもたくさんオファーをしていたアーティストがいたんだけど、タイミングがなかなか合わなかったりしてね。『RESPECTABLE ROOSTERS 〜a tribute to the roosters〜』を出した6年前は、ルースターズのヴァリューとしてはまだ“ミュージシャンズ・ミュージシャン”と言うか、“知る人ぞ知る”みたいな部分が強かったと思うんですよ。それがここ数年の再評価の波でルースターズのヴァリューが違う位置にまで高まった。トリビュート・アルバムをもう1枚作るのなら、もっと違ったニュアンス…いろんな側面からルースターズが与えているものがあるんだという部分を表したいと思ったんです。前作はオリジナル・メンバー4人時代の初期ナンバー、言うなれば割と直球なものが多かったけど、今回のは比較的中期のナンバーも多くて、チェンジ・アップしたものが結構入ってますね。タイトルの“a-GOGO”っていうのは、言うまでもなく彼らのセカンド・アルバムからの引用です。単純に『RESPECTABLE ROOSTERS II』だと二番煎じな気がしたし、もし自分がこのアルバムに参加する立場なら、「“a-GOGO”に入ってる」って言えたほうが嬉しいなと思って。
参加してくれたアーティストの選曲は、意外にも重なることはなかったですね。各人が抱くルースターズに対する思い入れがそれぞれにあって、前回もそうだったけど案外ぶつからないものなんですよ。「この曲はきっと他の人がやるだろうな」とか、みんないろいろと考えてくるだろうしね。HEATWAVEの「IN DEEP GRIEF」のように、山口(洋)に是非やってほしいって俺のほうからリクエストしたケースも中にはありますけどね。HEATWAVEとdipは2曲ずつ参加しているんですけど、彼らには自分達の中でどうしても止められない衝動があって2曲録ってきてくれたんです。聴いてみたら選曲も演奏も抜群に良かったので、俺の判断で2曲収録という形を取らせて頂きました。
聴き所は全部そうだけど、1枚のアルバムの中で参加した顔触れがこれだけヴァラエティに富んでいるということは、ルースターズの曲自体が本来持っているポテンシャルと言うか多様性の凄まじさを改めて痛感しますね。ルースターズの影響力が如何に広範囲にまでわたっているかがよく判りますよ。音楽の分野ばかりじゃなく、服飾やデザイン、ラジオのパーソナリティ、役者…と、本当にいろんな世界の人達がルースターズをリスペクトとシンパシーを持ってくれている。
いざカヴァーするとなると、愛情が深いだけに難しい部分もたくさんあるでしょうね。壊せるところと壊せないところがあるだろうから。前回の例で言うと、ルースターズのカヴァーをやることによって自分達の中で変えていくものを作っていくという点ではPEALOUTが顕著でしたよね。「C.M.C.」を唄うことでバンドとして初めて日本語詞にチャレンジして、それが日本語詞に対する考え方が解きほぐれたきっかけになったわけですから。
音楽が“ベンチャー”ではなく“アドベンチャー”だった時代
こうしたトリビュート・アルバムをプロデュース&プランニングして改めて思うのは、日本のロック史においてルースターズみたいに高い評価を普遍的に受け続けているバンドは他にいないということ。彼らの先輩にあたるサンハウス、もしくははっぴいえんど、村八分みたいにリスペクトを受けるバンドは他にもいるけれど、そうしたバンドともまた違う。そこには時代性もあるんですけどね。'79年結成〜'80年デビューって言うと、日本の音楽シーンが大きく変化していく節目の時期に生まれたバンドということだし、前の世代の先人達と後進達との間をつなぐ橋渡し的なポジションも担っていた。アルバムごとに変化を恐れず常に前進していったのも特筆すべき点で、セールス的に一番売れたのはファーストかと思えばそうじゃなくて、実は『φ (PHY)』だっていうのも面白いですよね。いわゆる大ヒット曲みたいなものがあったわけではないかもしれないけど、ニッチな部分もあったからこそみんなの一番深いところに届いていったという解釈もできますね。決してマジョリティじゃなかったことが逆に良かったと言うか。音楽は売れることも重要な要素のひとつではあるけれど、決してそれだけじゃないですから。
“音楽はベンチャーではない、アドベンチャーであれ”というのが俺の持論なんですけど、今と違ってそうした精神がルースターズが駆け抜けた時代にはまだ残っていた。そんな時代背景があったからこそ、彼らがより純度の高い音楽を極めていくことができたんじゃないかと思います。今は今で完全にシステムが出来上がっているから、純度の部分とセールスの部分とをきっちり分けて考えることができますけどね。あの当時は作品作りの純度とセールスを一緒くたに考えることを良しとしない風潮もあったし、そんなことを考えるようじゃ自分達が不純になっていくような不条理もあっただろうし。
ルースターズは、それまで日本のロックにあったある種の暑苦しさみたいなものを一切拒絶したバンドでした。彼らの出身地である北九州市という土壌から生まれるクールさ、スタイリッシュさもあったと思います。俺がよく言う喩えですけど、福岡(博多)がリヴァプールだとしたら、北九州市はグラスゴーとかマンチェスターみたいな工業地帯なんですよ。博多はやっぱり商業都市だから、そこでの他者との関わり方とも違うんです。要するに、クールで職人気質、ストイックすぎるくらいもの凄くストイック。誤解を恐れずに言えば、受け容れることよりも突き放すことを美徳とするようなところがある。きっとルースターズのそんな部分にみんな憧れたんじゃないかと思いますね。'80年代の半ば以降、いわゆるバンド・ブームやホコ天ブームなんかがあってバンドと観客の距離感がグッと近くなったけれど、ルースターズは観客から凄く遠い存在だった。もう絶対に触れてはいけない聖域に居るような雰囲気…それをカリスマ性とかオーラと呼ぶのかもしれないけど、そんな佇まいでした。それと、“After Math”シリーズに携わった時に思ったのは、大江も、花田も、井上も、池畑も、下山も、みんな各自でリーダー・バンドを作っていますけど、そんなバンド、他にいないですよね。それを「近所の仲間で作った」って言うんだから凄い。“どんな近所だよ!?”って思いますよ(笑)。
『RESPECTABLE ROOSTERS→Z INSANE』の可能性?(笑) 今回も時間的な都合とかで参加実現できなかったアーティストもまだまだたくさんいるので、そういうのは理想を言えばキリがないんですけどね。同一アーティストに捧げるリスペクト・アルバムが2枚も生まれるなんて、それ自体が異例なことですよ。トリビュート・アルバムを作ってそこで終わり、という意識では決してないことは確かです。ルースターズに限らず、リスペクトのループが続いていくことが音楽の歴史の中では非常に重要なことですから。勝手にしやがれのファンがこのアルバムを通してルースターズを知って好きになってくれたり、グループ魂を好きな人がこれをきっかけにHEATWAVEを聴いてくれればこんなに嬉しいことはないし、そうやって縦軸と横軸が交差することがこうしたオムニバス・アルバムの大きな意義のひとつですよね。
この『RESPECTABLE ROOSTERS→Z a-GOGO』が完成して、自分がずっと構想していた一連のルースターズ・プロジェクトは一段落という感があって、あとは各メンバーが今後続けていく活動にできる限り携わっていけたらと思ってます。メンバーは今もそれぞれ現役で最前線に立って新しいことを模索しているし、これからも楽しみですよ。彼らのソロ・ワークスとルースターズの音楽とが相乗効果でより多くの人達に受け継がれたらいいなと思うし、これだけ膨大な音楽の情報量がある中で、ルースターズの音楽がいつまでも“記録”よりも“記憶”に残るものであってほしいですね。
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